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「…」



 それから何度も巻き戻り彼等も次第に慣れて来て毎度同じに思えても少しずつ変化もしていた。

 巻き戻るたびにネメシアは少しずつ病弱に、オーロラは少しずつ健康になっていた。

 しかし今までの記憶があるためにオーロラは多少は体が良くなっていてもたまに倒れていたのでまた病に倒れるのではと考えた両親は過保護になっていた両親から甘やかされていた。

 一方のネメシアも弱くなっていたが医師からは毎回主にストレスによる虚弱体質と診断されていて人よりも少し疲れやすい程度だったので少し倒れても家族からは冷遇されてる様子で彼女に付いていた今までの記憶のない使用人は毎回その様子を見ながら悔しそうにしながら世話をしていた。


(次第に体に魔力が溢れてる…?これをなんとかしないと…)


 ネメシアは自分の状態を把握すると魔力制御を始めて安定させるように努めた。

 ここで役に立ったのは今までずっと繰り返されてきた記憶だった。

 彼女の最後は自分の全ての魔力の痕跡を消していて彼女以外の人達は前の記憶が不明瞭な部分が多いが彼女はしっかりと覚えていたので制御するのは問題なかったが体が付いていけなかった。


(どうしよう…このまま増え続けると確実に…なんとか今回で終わらないかなぁ…巻き戻りって原因がある筈なんだけどなぁ…原因がわからないから…どうしよう…)


 彼女はこの先の自分の身体の限界などを予想してその時を静かに待つことにしたが体調不良だけはどうにもならなかった。

 今回も一人で出掛けてみたがやはりその日の夜に熱が上がり念の為に薬局で購入した解熱剤を飲んで休むと今回は特に腹痛等はなかったので安心しながら前回を振り返り、恐らく日が経ちすぎて薬が腐っていた可能性に気付いたので出来るだけ医師や魔法薬師の話を聞いて有効期限等を把握することにしていた。

 その甲斐もあり朝にはちゃんと熱も下がり体も問題なく動いて安堵した。


(やはり用法と用量は大切なのね)


 彼女は実体験で学ぶと薬に興味を持つようになり自分が飲む薬について学ぶようになった。

 それから何度か外出してみたが外出のたびに熱を出すので頻繁に出掛けるのは無理だと悟り、仕方なく外出は必要最低限にして出掛ける時は目的を一箇所に絞る等の工夫をして時間も出来るだけ短時間にした。

 しかし社交は別で、とにかく出なければならないので倒れそうな時に備えて密かに解熱剤を常備することにした。

 そして婚約者が決まる頃は体の弱いネメシアは選ばれないと高を括っていると何故か選ばれてしまい困惑しかなかった。


(え?何?何故私なの?彼方は健康な人がいいのよね?それなら姉のオーロラお姉様でもいいでしょ?何故疲れやすい私なの?)


 流石に意味がわからず困惑した。

 この頃の二人はオーロラよりもネメシアの方が疲れやすかったのだ。

 しかし他人からするとこの時に二人には明確な差が出ていた事に彼女自身が気付いてなかった。


(きっと何かの間違いよ…間違いならお手紙を出さないと…)


 彼女は丁寧に言葉を綴りベルトリーノ侯爵に訂正を求めた。

 しかし返って来たのは『間違いではない』というものだった。


(これは…どういうことなの?)


 尋ねて更に謎が深まっていた。

 そして顔合わせの当日。

 ネメシアは戸惑いながら解熱剤を持って両親と一緒に向かったがこの時に困った事が起こり余計に行きたくなくなった。



「お父様、お母様、私も行きたいわ」



 姉のオーロラが馬車に乗り込んで来たのだ。


(あぁ、お姉様はこんなにお元気になられたのね…それなら私は不要な存在ではないかしら)


 心の中でこんな事を思っていると両親は困った顔で姉の暴挙を許した。

 そしてベルトリーノ侯爵夫妻とディアンドロも交えて話すことになった。

 この時ディアンドロは姉のオーロラが元気そうにしていて自分の目の前に現れた事に困惑していた。


(ネメシア…大丈夫なのか?俺がもう少し両親に強く言えたら…)


 オーロラに戸惑いながらも今にも儚く散りそうな様子のネメシアを心配した。



「あら、今日はネメシアさんのみを呼んだ筈だけど?」



 ベルトリーノ侯爵夫人のエルシアレネー・ベルトリーノが怪訝な表情で話すとヴァイゼルフ伯爵夫妻は動揺を見せた。

 そんな二人を見て次にオーロラを見ると大人しくしていて呆れたネメシアは少し目を伏せて静かに深呼吸をするとベルトリーノ侯爵夫妻を見据えて口を開いた。



「エルシアレネー侯爵夫人様ごきげんよう。本日はご招待頂き有難う御座います。大変申し上げにくい事ですが私も納得が出来ず出来れば明確にして頂きたく不躾ながらお姉様もお連れ致しました」



 具合が悪い筈の状態でも凛とした姿に侯爵夫妻は好ましく思えた。



「ネメシアさんは何か話があるのね?」


「はい。先日もお手紙させて頂きましたけれどやはり納得は出来ません。

 私はすぐに体調を崩しやすく社交も最低限でしか出来ません。しかし姉のオーロラは私より健康的ですので彼女の方が跡継ぎ等の面でも問題ないと思われますが何故このような事になったのかと、彼は私よりはお姉様の方が好みかと存じますので後から変更をなさるよりは今変更なさった方が宜しいのではないでしょうか」


「そうねぇ、確かに貴女の話は一理あるわね。でもね?貴女なら最低限の社交でも通用する方と多くの社交でも通用しない方がいるのはわかるわよね?」


「…」



 そこで何故自分なのかを理解して思わず少し目を逸らした。



「流石ね。これだけでも理解があるなら私はやはり貴女が好ましく思えるわ」


「え?ネメシアどういうことかしら?」



 ここで尋ねるのはあまり宜しくないのだが甘やかされてきてそれを理解しないオーロラは戸惑いながらエルシアレネーが少し眉を寄せているのに気付かず、ネメシアに説明を求めるとそれに気づいたのはヴァイゼルフ夫妻だった。



「オーロラ、話の途中で邪魔はしてはいけないから後からにしなさい」


「そんな…」


「いいから」



 父サリオスに諭されてオーロラは納得がいかず腹立たしそうにした。



「おわかりでしょう?これでは我が家が大変な事になるもの」


「…ではマナーの徹底をさせれば問題はないでしょう。お姉様、今の話はお姉様のマナーが全く使い物にならない事を指摘されました。

 このように招待されてないのに格上の家に勝手に乗り込み更に話し合いに横から割り込んだ上に先程からずっと試されていたのにも気付かず失態ばかり…これでは家に入れるわけにはいかないと仰られてるのですけどそれすら気付かれないご様子は宜しくありませんわ。

 彼と一緒にいたいならまずはその稚拙なマナーと学のなさそうな態度、更に教育を一から徹底して学べとのお話です」


「そんな…私は体が…」


「あら、そうなの?貴女よりも体が弱そうなネメシアさんはこの様に完璧なマナーをなさるのに他家に勝手に乗り込んで来る程に健康そうに見える貴女がそれでは話にもならないわねぇ」



 ほほほと優雅に笑いオーロラの訴えを一蹴すると冷たい視線を向けていた。

 オーロラは確かに体の調子が良く多少の無理も問題はなかったが両親が過保護なので何も思うことはなかった。

 しかしそれは家の中での話だった。

 外に出ると彼女はもっと努力しなければならない事に気付いてなかった。



「ヴァイゼルフ伯爵もこのような事を許すとはね…我が家を下に見てるのかな?」



 ディアンドロの父ニコルスキー・ベルトリーノは少し眉を寄せるとサリオスは慌てた。



「い、いえ。申し訳ありません。家で待機させるよう話したのですが…」


「しかし強く話せば問題はない事だが一体どうすればこのような事になるのかね?使用人に押えるようにさせられなかったのかね。

 やりようは幾らでもあるのに別の意味でそれが出来なかったのかね?」



 それは遠回しに使用人を雇えない程に困窮してるのかと言われたようなものだった。



「申し訳ありません。今後は二度と無いように致します」


「もう二度と来させないでほしいものだね」



 それはこんなに無礼を働く娘はいらないと明確にしたようなものでネメシアは内心では両親にも呆れていた。



「ネメシアさん、これで私達の意思が理解出来たかしら。社交は貴女の体を第一に考えて最低限でいいの。貴女になら任せられると思ってるわ」



 流石にここまで自分を買って貰えると断る事も出来ないので頷くしかなかった。

 先程までは我こそはと話していたオーロラも侯爵夫妻に睨まれて大人しくなっていた。



「では一つだけ宜しいそうでしょうか」


「ええ」


「姉のオーロラのマナーが私よりも出来たら二人の事を認めて下さい」


「それなら問題ないわね」


「そうだね。出来れば認めよう」


「お父様、お母様、しっかりと聞きましたね?これから甘やかす事を辞めて私以上に厳しくしてくださいね」


「え?」


「お姉様もこの場に付いて来たと言うことはそれなりの覚悟があっての話のはず。

 このように虚弱体質の私よりも元気なお姉様は私以上に出来なければ話になりませんので逃げずに頑張って下さいね」



 予想外の結末にオーロラの口許が引き攣っていた。

 ディアンドロは体調が悪くてもこれだけ立ち回れる彼女なら確かに両親も欲しがる気がして納得した。

 この顔合わせで約一年は保留としてオーロラを鍛える事が決まった。

 これは巻き戻りの中で初めての事だったがネメシアは次も巻き込まれてこんな事になるなら徹底して姉を躾ける事にさせた。

 それからオーロラは自分の行動を後悔した。

 毎日勉強漬けとなりストレスで少し体調が悪くなったりするとすぐに休む癖が付いてるので時間が幾らあっても足りなかった。

 両親は更にオーロラに付きっきりになったのでネメシアは一人で過ごしながら少し外に出たりして解熱薬を買ったりしていた。



「お嬢様…お薬は医師の処方薬の方が…」


「いいのよ。辛くなった時にあると落ち着くから念の為よ」



 使用人が心配するとネメシアは困ったように眉尻を下げて微笑むと彼女は何も言えなくなりネメシアの好きにさせる事にした。

 ネメシア個人としては医師を呼ぶ時間よりも早く薬を飲みたかったのだがそれを口にすると医師を信用してない事になるので言葉を飲み込んでいた。

 そして一年が過ぎた。

 再びベルトリーノ侯爵家へと足を運びオーロラの見極めが始まったが開始五分で侯爵夫妻は眉を寄せた。



「オーロラさん?やはり貴女は我が家に相応しく無いようね」


「そんな…」


「貴女は一年前とほぼ変わってないわよ。これは全くやる気がない証拠よね?」


「…」



 オーロラは何か言いたそうだったが口を開閉するだけで何も言葉に出来ずにいた。



「まぁそんな口を開け閉めして…はしたないですわねぇ…」


「…」



 エルシアレネーは冷たい視線を向けていた。


(…折角のチャンスなのに…)


 ものに出来なかった姉を見てネメシアは気付かれない程度に静かに嘆息した。



「ネメシアさんもこれで理解出来たかしら?」


「はい。謹んでお受け致します」



 ここまでされたら断れず諦めるしかなくディアンドロの婚約者として過ごす事になったが彼女は体調を理由に彼との交際を断り最低限の社交のみをして過ごした。

 オーロラは結果が出ても現実を見ずに未だに自分は昔と変わらず体が弱いのだと思い腹立たしそうにした。

 そして結婚するとまたネメシアは消えた。

 これは彼女の最後の抵抗だった。

 またもや激しい衝撃波で部屋は閉ざされていたが彼女は無念の思いを彼等に向けると自分の存在していた物も一緒に消えていた。

 ディアンドロはまた彼女が激しく苦しむ姿を見てしばらく眠れなくなっていたが葬儀を済ませて暫くするとまたオーロラと結婚することとなった。



ここまで読んで下さって有難うございます。

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