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 ネメシアの意識が戻るとまた懐かしい自分の部屋だった。


(また戻って…でももう…)


 彼女は既に起き上がる体力すらなくなっていてベッドで横になりながら静かにその時を待つのみでそれが何回か続いていた。



「お嬢様、少し窓を開けましょうね。今日は良いお天気ですよ」



 レベックは静かにネメシアに話し掛けながら窓を開けると爽やかな風が入ってきた。



「お嬢様、洗濯物を出して来ますね」



 彼女は洗濯物を持ち部屋を出てヘルベンは扉の外で見張りをしていて寝室には横になるネメシアのみだった。



「君を苦しめる全てから解放出来るとしたら…君はどうしたい?」



 ネメシアは重い瞼を開けると綺麗な羽の小鳥が現れた。



「あなたは誰?」



 これは巻き戻りの中で初めてみる光景で彼女は不思議そうにしながら小声で尋ねてみた。



「私の事は君が一番わかってるんじゃないかな?感じた事をそのまま話してみて」


「純粋な魔力を感じる…精霊に近いのかな…」


「正解。君をずっと見ていたけど彼等は私が出るまで全く反省しなかったね。だから君には選択させてあげる」



 それが初めに問われた内容だと察すると彼女は少し考えたが彼女の中にある答えは相変わらず揺らぐ事はなかった。



「もう全てから解放されてこの想いも含めて消えてしまいたい。生きるのが辛くて…もう息してるのも何だか億劫なの。でも体は生きるために呼吸も食事も求めるから自分でとどめを刺すしかないと思う」


「君は姉のオーロラが憎くないの?」



 それはなんだか試すような話し方だったが今のネメシアは気にせずに口を開いた。



「初めの頃なら憎いって思ったけど次第にその言葉すら生温く感じてた。でもいつまでも続くこの巻き戻りが辛くなっていくとそれはわからなくなっていて今では憎さを通り過ぎて虚しさしかないし彼等を他人だと思うと何も思わなくなったからもう気にならないかな。

 だからもう彼等が求めても赤の他人くらいにしか思われなさそうな私をあげたくないし、心や形見すら渡したくない。彼等が都合よく私を悼むのは都合の良い話にも思えるから彼等への想いを寄せる物はケジメとして全て排除したいかな」


「でも君は家具は置いてたよね?服や宝飾品や私物は全て消してたのに…」


「本当はこの部屋ごと全てを無くしたいけどここは私だけが使っていた部屋ではないから消さないだけなんだよ。

 でも私が使ったシーツやこの部屋の私の存在そのものとも呼べるような魔力は全てが消えたでしょ?あれは最大の譲歩かなぁ…私はこの先も何度でもアレをやるつもりだよ。だって彼等にとっても不要な存在だろうし遺品整理とかで迷惑掛けたくないから何も残したくないし、お姉様が元気なら不要な私を産んで欲しくなかったかも…見たくない程ならなんだかここにいるのも申し訳ないんだよね…」



 話すのも怠くて少し息が上がっていたが言いたいことを口に出来る機会は無いのでこの際だと思い全てを吐露する事にした。



「そっか…そうなんだね。君の意思が確認出来て良かった。今の君にそこまで言わせたオーロラは罪を償う資格を有したから君が苦しんだ分だけ彼女にも味わって貰う事にしようね。

 実はこの会話は今この屋敷に来ている彼と君の家族の頭の中で聞こえているんだ」


「え?嘘でしょ?とても面倒なんだけど…」



 突然タイミング良くドンドンと寝室の扉を叩く音がした。

 そして扉を開けようとしているのかドアノブが乱暴にガチャガチャと鳴っていた。



「開けなさい!一体何をするつもりだ!まだ早まるな!」


「え?何故声が…」


「私が声を通してる」



 この寝室は隣にある彼女の勉強部屋となっている部屋からしか入れなくても扉は一応それなりの厚さはあるので扉越しで話す場合は少し籠もったように聞こえる筈なのだが今の彼女には父サリオスの声がまるですぐそばで話すようにはっきりと聞こえていて戸惑うと精霊はなんでもなさそうにしていた。



「…そうなんだ…?」


「開けた方がいいかい?」



 初めの頃なら『開けて』と口にしただろうと思いながら彼女は困った顔をした。



「…開けなくていい。私は彼等にとっては見たくない程にいらない存在だと思うから…顔も見せない方が良いと思う」


「わかった」



 彼女のやるせない表情を見て精霊は頷いた。



「すまなかった。頼むからもう一度やり直させてほしい」



 サリオスの無神経な一言は彼女の何かに触れると彼女はとても悲しそうな表情になり震える唇を動かした。



「そう…あなた達はそんなに私を何度も殺して楽しいんだね…そっか…それ程までにあなた達は私を苦しめて最後まで楽しむ悪魔の様な人達だったのか…」


「そうじゃない!とにかく話し合おう!」


「…その言葉をもっと早くに聞きたかった…」


「君は話をしたい?」



 精霊の言葉に彼女はゆっくりと目を伏せて少し深呼吸をすると目を開いた後に精霊を見つめて少し困った顔をしながら口を開いた。



「本当に今更だよね。一体何を話すのかな…私は何度も彼等に心を殺されたから全く興味がないしもう話す事はないよ」


「頼むからそんな事を言わないでくれ!毎回相手を出来なくて悪かったと思ってるんだ」



 サリオスのその声は必死そうだったが彼女の疲れきった心には届かなかった。

 それどころか更に虚しくさせるだけだった。



「それは一体何に対して悪いと思ってるんだろう…もっと早くに話して欲しかったし私の心の叫びを聞いて欲しかった。ただそれだけなのに…それすらも叶わなかった。

 もう疲れた…あなた達が今話したいのは自分達が罪悪感を感じたくないからじゃないの?ご都合主義のあなた達だものね。自分達がどれだけ私を傷付けて無視したのかすら理解してないだろうから扉を開けた途端に何をするかわかったものではないよね。

 だから私から話す事はありません。あなた達にとって不要な私はもうじき消えますのでどうぞ安心してお引き取り下さいね」



 ずっと目を逸らし続けたサリオスが何かを話すたびにそれが今更すぎて彼女には響かず更に落とすだけでそれ以上のものはなかったのだが、彼はそれを全く理解出来てなかった。



「更に気持ちが切れたね」


「確かにそうね、もうこの世界に未練はないみたいです。今度こそ出来れば二度と彼等の前には現れたくないかな。

 こんなに酷い仕打ちを楽しむ程に憎まれていたなら私はこの世界に嫌われてると思うし彼等も私がいないほうが清々するだろうって事はよくわかった。

 私は本当に元からこの家族にとって不要な存在なんだって確信が持てて良かったです」



 良かったと穏やかに話してはいるが、声だけしか届けて無いのでその目に希望の光すら映す事がなかったのを両親は知るよしもなかった。



「ネム!俺だ!ディアンドロだ!」


「…ディアンドロ様…」



 彼もネメシアの話を聞いてオーロラが止めるのを振り切って慌てて駆け付けていた。



「そうだよ。ネム…頼むから俺から離れないで…俺はずっと君が好きなんだ…でも何故か気付けばオーロラ嬢の方ばかりに行くから以前のあの時は君がそばにいてくれてとても幸せだったんだ」


「…あの時は親切にして下さって有難うございました。私もあの時だけは幸せな思い出になりました。

 でも魔力制御の指輪は辛かったのでお互いの為にこれで終わりにしましょうね」


「指輪は申し訳なかった。君を手放したくなくてやってしまった事は謝る。だから幸せな記憶を過去にするな!また一緒になろう」


「申し訳ありません…私の体は限界で動く事すらままならず無理そうですのでお姉様が嫌なら他の方と幸せになって下さいね」


「…駄目だ…もう君を一人で逝かせたくない」


「ディアンドロ、君は唯一自分と戦ってたね。私はずっと見てたよ。もう巻き戻さないためにも彼女の強い意志が必要だから彼女に無理強いはさせないでほしい」


「君はネムが精霊と話してた者か…私も連れて行ってはくれないか?」


「それは無理だ。彼女の幸せを願うなら彼女の意志を尊重してほしい」


「ディアンドロ様、私は貴方の思いで十分満たされました。幸せを有難う御座います」


「…ネメシア…わかった」



 とても穏やかで優しい声にディアンドロもこれ以上は何も言えなかった。



「ネメシア、迷いはないの?」


「はい。全て晴れました」


「わかった。君が迷いなく望むなら私の力でこの歪んだ世界を全て正常にしてあげよう」


「有り難う。これでやっと解放されるのかな…もう…つか…れ…た…」



 最後にこの言葉を残すと限界に来ていたのか目を閉じてそのまま鼓動が弱くなった。



「もうこれで終わりだよ。ゆっくりおやすみ」



 精霊は彼女の弱っていく心臓の音を扉の外の当事者達と姉のオーロラに聞かせて扉を閉ざしたまま最後を迎えた事を報せた。

 生々しい心臓の音が少しずつゆっくりと弱くなり止まるとまた彼女の私物は全て燃えて光の粒となっていたが今度は彼女の使っていた机や椅子、ベッドまでもが全て消えて思い入れの無い本等は隅に重なっていた。

 こうして彼女の使用していた部屋の中は個人的な物が本当の意味で全て何もなくなった。

 これが全ての合図となった。



ここまで読んで下さった皆様有り難うございます。

やっと終わりが見えそうですが、もう少しだけお付き合いくださると有り難いです。


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