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「お姉様、今は大丈夫ですか?」


「ええ、大丈夫よ。今日はどうしたの?」


「今日はお姉様と一緒に本を読みたくて…まだ読めないところがあるから教えてください」


「ええ、いいわよ」


「やたっ」



 ベッドで起きて本を読んでいた少し年の離れた姉にまだ幼い妹は子供の読む絵本を持ち出して来ていて差し出すと姉も妹が来てくれた事を喜びながら微笑み頷いて一緒に読むことにした。

 妹は嬉しそうに姉のベッドに入り本を広げて姉に読んで貰った。

 この家には病がちな姉と元気な妹がいた。

 名は姉はオーロラ・ヴァイゼルフ。妹はネメシア・ヴァイゼルフ。二人はヴァイゼルフ伯爵家の姉妹である。

 病がちな姉はベッドの住人で起きていても常にベッドの上だったので彼女の世界は全てがそこで完結しているようなものだった。

 妹はそんな姉に無理をさせない程度の遊びとして自室からよく絵本を持って行き一緒に読む事をしていた。



「ネメシア様、あまりオーロラ様に無理をさせないようにしてください」


「わかったわ…お姉様…また来てもいい?」


「ええ、待ってるわね」


「うん。お姉様大好き」


「私もネメシアが大好きよ」



 暫くしてネメシアを探し回っていた使用人が入って来て仲良く本を読む二人に和んだが病弱な姉のオーロラにあまり無理はさせられないので仕方無く窘めるとネメシアは寂しそうにしながらオーロラから離れて部屋に戻った。

 使用人に促されながらネメシアがトボトボと去った後のオーロラは少し息を整えると横になった。

 それから成長して次第にネメシアは勉強が忙しくなるとオーロラの元へも行けなくなり少しずつ疎遠になっていった。



「ネメシアに婚約の話がある」



 ネメシアの淑女教育もほぼ終わる頃に父サリオス・ヴァイゼルフから婚約の話が上がり突然の事で戸惑った。



「え?お姉様は?」


「あの子は体が弱いから…」


「そんな…」


「彼方もオーロラではなくお前にとの話だからしっかりと彼を支えなさい」


「…わかりました」



 サリオスの話を聞くと相手は格上の家柄で断れる相手ではなかったので諦めるしかなかった。

 そして初顔合わせの日。

 彼の家に招かれてネメシア達は彼女の気が進まないまま向かう事になった。



「初めまして。ベルトリーノ侯爵家のディアンドロです。宜しくね」


「初めまして。ヴァイゼルフ伯爵家のネメシアです。宜しくお願いします」



 彼は緊張して固くなっていたネメシアに対して優しく微笑んでいた。

 ネメシアはなかなか上手く話せず彼の話を聞くだけだったが彼が優しくリードしてくれて初めは上手く行っていたと思われた。

 しかし時が過ぎゆく中でボタンの掛け違いの様に何かが歪み始めた。

 それは彼がネメシアの家に遊びに来るようになった頃。

 体調の良かった姉のオーロラが庭に出て散歩をしていて二人は出会う事になった。



「ネメシア嬢、彼方は?」


「紹介しますわ。此方はオーロラお姉様です」



 彼が姉に視線を向けたのでネメシアは彼と姉の側に向かうとオーロラを紹介した。

 オーロラは少し頬を染めて自己紹介をしてディアンドロも優しく微笑み自己紹介をした。



「…」



 初めの頃のネメシアは大好きな二人が仲良くしてくれると嬉しいので何も思わなかった。

 しかし、時が過ぎると次第に虚しくなった。

 この婚約が決まった頃からネメシアは一度終わった筈の淑女教育等の様々な勉強を再度する事となり今度は厳しく強いられていて次第に部屋から出られなくなったがそれでも彼との未来のためにと時間を合わせたりして寄り添う努力していた。

 そんな時に彼は偶には体が弱い姉のお見舞いに行こうと気遣うように申し出たので姉の部屋に向かいネメシアは婚約者も一緒に両親も交えてお茶をする時も何も言わずに受け入れた。

 それからディアンドロはネメシアの家によく来るようになったが病気がちな姉ばかりを見舞うようになりネメシアは自分の婚約者と姉からのお茶にも呼ばれなくなると自然な流れで彼女の知らない間に婚約者は姉との心の繋がりを深くしていた。



「お姉様、彼は私の婚約者なのですが」


「ごめんなさい」


「オーロラは体が弱いんだから少しは分かってやりなさい」


「そうよ。オーロラは貴女と違ってあまり外にも出られないから彼が気を遣ってくれてるの。

 貴女はなかなか会いに来ないのに文句ばかりではしたないわね」


「…そんな…わかりました…」



 この頃の彼女に確かにあまり時間がなかったが調整しようと思えば出来た。

 しかし婚約者からは自分に先触れが無いのでどうしようもなかったのだ。

 それなのに姉と婚約者が妙に近い距離でいる所を見てしまい嫉妬すると両親には「それは駄目だ」と冷たく諭されるだけだった。

 この場では味方はおらず不利なので彼女は泣きたくなるのを我慢して部屋を後にするしかなかった。



「ネメシア嬢、君は本当に体の弱い姉君に私に近付くなと話したの?彼女は家から出られないのだから此方が気に掛けて当り前だよね。

 それなのに君は酷いな。病弱なのだからもう少し優しくしてあげてもいいんじゃない?」


「…わかりました」



 この瞬間彼女の中で何かが崩れた気がした。

 理解してくれそうな婚約者からも優しくしなさいと諭されると彼女は無性に虚しくなり何も言い返す事はしなくなっていた。

 そしてオーロラとディアンドロの二人は更に深く心を通わせるようになった。



「ネメシア様、手が止まっておりますわ」


「しっかりなさいませ」


「…」



 ネメシアは何も手に付かなくなったが教養を無理強いされて心は疲弊して悲鳴を上げた。


(もう辛い…もっと空が見えないかしら…)


 そう思い窓を開けて身を乗り出す様に眺める日々が多くなった。



「お、お嬢様!早まってはなりません!」



 この日も窓に見を乗り出すように外をぼんやりと見ていると偶々来た使用人が慌てた様子で駆け寄り彼女を引き止めた。



「ネメシア!何をしてるんだ!辞めなさい」


「…」



 使用人から彼女の事を聞いた両親が彼女の部屋を訪ねるとノックしても返事がないので慌てて入るとやはり身を乗り出していて今にも落ちそうな彼女を見て慌てて引き戻すと後日に部屋に鉄格子を填めていた。


(逃げられない…空が見えない…自由がほしい…何故お姉様ばかりが…)


 自由を奪われた彼女は全てを失った気がして更に精神が病んでいった


(もう、この世の中に私はいらない。ただの道具でしかないよね…)


 全てを諦めた彼女は暫く落ち着いた様子を見せると周りはまた姉を優遇した。

 彼女はそれを理解して次第に心を閉ざし自分の世界に浸るようになると必要最低限でしか人に会わず話をしなくなった。



ここまで読んで頂いて有難うございます。

初めて連載物を書いてみながら、試行錯誤しておりますが温かく見守って頂けると幸いです。

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