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8.ハーメルンの笛吹き

〈登場人物紹介〉

【ダークサイド】

命水海みことみずうみ

ダークサイドで親に虐げられていたが、双子の兄であるカイを殺し反ヒーロー組織のプレイグへと加入した。秀良高校一年生。

十牙黒とおがくろ

親をヒーローに殺されプレイグを設立した。ダークサイドでパワーは「満月狼」。秀良高校一年生。

氷室青葉ひむろあおば

プレイグのメンバーで天才的な頭脳を持つ。パワーは「封印」。秀良高校一年生。

柊刹那ひいらぎせつな

プレイグのメンバーで時間停止能力「時間殺し」の使い手。両親は大犯罪を犯し亡くなっている。秀良高校一年生。

麻布莉黒あざぶりぐろ

黒の幼馴染で小柄な少年。人懐っこい。プレイグのメンバーで秀良高校一年生。

悪夕定芽あゆうさだめ

プレイグの武闘派で、機械音声にホッケーマスクの謎多い人物。

毒島裏紅ぶすじまうらべに

プレイグのメンバーで苦労人な大家族の長女。毒島月夜の姉で「毒」のパワーを持つ18歳。

水無瀬一縷みなせあんる

プレイグのメンバーで裏紅の彼氏。少年院経験がある。「波」のパワーを持つ秀良高校三年生。

本田知花ほんだちか

プレイグの頭脳で本業は社畜エンジニア。二児の母でもある25歳。

輪命リンメイ

人形を操り戦う「踊レ人形劇」のパワーを持つ12歳。元は命華共和国から攫われてきた子供。

嬲蛇なぶりだカルラ

第一級犯罪人であり巨大反ヒーロー組織カルネージのトップ。プレイグと協力関係を結ぶ。

名愛結衣なあいゆい

秀良高校一年に潜入していたが正体は秀良高校三年生でカルラの妹である嬲蛇空破なぶりだそわ。現在失踪中。

【ヒーローサイド】

吹雪澪ふぶきみお

海の幼馴染で秀良高校一年生。「氷」のパワーを持つ。

津田つだほのか

演劇部で海の兄、カイに想いを寄せていた。何者かによって殺害される。秀良高校一年生。

天美六花あまみりっか

プレイグへ対抗するためイグニスを創設した張本人。口癖は「ダークサイドは皆殺し」で、ヒーロー連盟会長の娘。秀良高校一年生。

毒島月夜ぶすじまつきよ

黒の幼馴染だったが突然黒のもとを去ってしまう。現在イグニスに所属する秀良高校一年生。

諸羽もろはねつるぎ

友人の津田の殺害に疑いを持ち、イグニスに入って真相を探る。秀良高校一年生。

大音和音おおとかずね

イグニスの平和主義者だったが海によって殺される。秀良高校一年生。

北谷縋理きたやついり

イグニスに所属する秀良高校一年生。女子力が高く可愛いクラスの一軍。母親が外国人。

飯島暁いいじまあき

秀良高校二年生の生徒会長。

走間そうまアザミ

秀良高校一年生として入学してきたが、20年前の秀良高校名簿に載っている。かなりの手練れでありイグニスに所属する謎多き人物。

第八話 ハーメルンの笛吹き


…大音さんが亡くなってから5日がたった。

イグニスのメンバーは別にお咎めはなかったみたいだけど、やっぱり教室の雰囲気はどんよりしてた。

何があったんだろう…。

「海…。」

私、吹雪澪は、心配で授業に身が入らなかった。



事件があったのはその日の昼休み。

「こんにちは、吹雪さん」

「どうしたの、天美さん?」

天美さん、いつもに増して目が血走っている気がする、ちゃんと寝られてるのかな…?

天美さんは威圧的なほほえみを浮かべて私に手を差し出す。

「…あなたも、イグニスに入らない?」


「え。」

突然の誘いに耳を疑った。

私と海の関係を知っての勧誘ならたちが悪いな。

とりあえず…相手の出方を探るか。

「わたし?私がイグニスに?どうして?」

天美さんを曇りなき眼で見つめる私。

天美さんは私の目から視線を離そうとしない。

「えっと、今イグニスは規模拡大をしようと思っててね、それでクラスの人達を勧誘してるんだ」

「そうなんだ!…イグニスに入ったら、具体的にどんなことをやるの?

…私、あんまり戦いとか怖いこととかするのはちょっと…。」

「そうね、さすがにヒーローパワーが戦闘向きじゃない人もいるし、みんながそういうことをするわけじゃないわね…だから、

吹雪さんにはプレイグの情報を追う仕事をしてもらおうかな」


「…そっか。」

やっぱりそう来たか。

私に内通者をしろってことね。

「プレイグを追う仕事…そんなの私できないよ。

悪いけどこの話はナシかなぁ、」


天美さんと目が合った。

彼女の眼は、漆黒に染まっていて、

美しいと思えるほどに、理想に溺れていた。

「そう、残念だわ」

天美さんが私に近づいて、耳のそばでささやいた。


「大音さんは、命水君に殺されたのよ」


「は…?」

頭が真っ白になる。

海が人を殺した?

じゃあ津田さんの時の事件は海が?

いや、あれは確かにカイだった。

私があの双子を間違えるわけがない。

ありえない、ありえない、ありえない!!

「そんなことない!嘘だ!()が人殺しなんて…!!」


天美さんは目を見開いて、怪訝な顔をした。

(ウミ)…?まぁいいわ。」

人差し指のとんがったオレンジの爪を唇に押し当てて、怪しげに笑う。


「静かにしてもらえないと困るから、ちょっと乱暴しないといけないみたいね」


天美さんはガベルを振るった。


私の足から真っ赤な液が、心臓の鼓動に重なってどくどくと流れ出る。

…そのあとの記憶はない。



「海、夕飯できたぞ。」

黒の声が聞こえる。普段の黒からは想像できないくらい優しい声だ。

「…ごめん、今食べる気になれなくて」

「そうか」

大音が死んでから五日がたった。

俺は今、殺人という罪の重さに押しつぶされている。

なんとかご飯を食べようとしたが、ほとんど吐いてしまう。


「貴方は津田さんも殺したの?」

違う。違う、違う。

血だまりの中で俺を嗤う大音の顔がはっきりと浮かんでくる。

忘れよう。もう自分の罪なんて忘れてしまおう。


電気を消した部屋の中で何かが反射した光が目に入る。

「なんだろう…。光るものなんてあったっけ…。」

ふらふらする足取りでテーブルの上に置かれた光るものを手に取る。

「あ…。」

津田のUSBだ。

「久しぶりに…見てみるか…。」

この3か月間、色々ありすぎたな。

カイを殺したあの日から、ずっと俺は「罪」という恐怖におびえて過ごしてきた。

「データファイルを…開いて…」


そこには新しい書き込みがあった。

「命水カイ君へ

都立秀良学園1年A組の諸羽つるぎです」


「は…?」

どうして諸羽が俺に連絡を?…いや問題はそこじゃない。

何故このデータのことを知っている?

落ち着け。落ち着け、俺。ひとまず続きを読もう。


「ほのかからこのUSBについて聞きました

 私はこのデータを見て、そしてあなたが一連の事件の犯人ではないと考えました

 もしよければ、協力してこの事件の真犯人を負うことはできないでしょうか」


なるほど、USBについて津田からきいたのか。

いやまてよ。

今のところ俺が持っている情報ではUSBと諸羽の関わりは皆無。

そして関わりができたとしても、津田の殺害後だから諸羽が津田からUSBについての情報を聞き出すのは不可能だ。

「じゃあどうして諸羽はUSBについて知っている?」

…諸羽を信じて良いのだろうか。


いや、この状況を逆手にとろう。

俺はこの前、燃えたはずの家に戻った時、カイの体を持った奴を見た。

アイツは何者かに銃で撃たれてしまったが、カイの魂をもつ奴の体はどこかで生きているはずだ。

諸羽に探してもらうか。聞きたいこともあるし、奴が何者なのかわかれば真相が見えてくるかも…。

いや、だめだ。いくら疑わしいと言え、そんな危ないことをさせるわけにはいかない。

現にアイツは銃で撃たれている。俺の命だって危ない状況だった。いや、もしかしたら狙われていたのは下手に突っ込んだ俺のほうだったかもしれないくらいだ。


諸羽には手を引くように伝えよう。

でも、もしかしたら…。

震える手でマウスをギュッと握り、俺は送信ボタンを押した。



「あ、誰かから連絡だ…」

部屋のPCが通知を知らせる光を放つ。

部屋には私、諸羽つるぎが一人。

和音ちゃんがカイ君に殺された。

カイ君は故意で殺したのか、それとも不慮の事故だったのか、私にはわからない。

ただ確かなことは、彼は私から見ても、正真正銘の殺人犯になったということだ。

「んん…。」

おぼつかない足取りで机へ向かい、PCを乱雑に開く。

「えーと、どれだ…」

カチカチとアプリを操作したった今送られたメールを探す。

「え」

メールの送信者名を見て私は息を呑んだ。


ミコトミズ カイ


私がこの前勝手にUSBの情報から位置情報とPCを特定して連絡をしたことは覚えてる。

まあ、そのせいでプレイグの拠点が見つかって、()()()()になったんだけど。

でも今のタイミング、私から彼の評価が最低になっている今に連絡をしてくるのか。

あやしいし、何より今は彼の言葉を聞き入れられる自信がない。

「なんでよ…。」

大きなため息をこぼして私はPCの前に座り込む。

覚悟は決めた。

カチッと言う音ともに液晶パネルが切り替わる。

そこにはこう書いてあった。


「諸羽つるぎ様へ

プレイグの命水海です。

あなたから頂いた連絡のメールを読みました。

あなたが僕のことを人殺しだと思っていることは分かっています。

僕としても今あなたと協力することは難しいです。」


まあ、そうなるよな。

この状況で仲良く協力してー、なんてわけにはいかない。

…あれ、まだ続きがある。


「プレイグに入ってからしばらくしたころ、僕は事件の真相の調査のため自分の家を訪れたことがあります。

その時に僕は怪しい男と出会いました。

そこで僕は、殺したはずの男の体に、別の魂が入っているという光景を目にしました。」


…殺したはずの男、か。

なるほどね、話が見えてきた。

まず、カイ君は家族の誰かを殺している可能性が高い。

自分の家と事件の真相がかかわっている、両親は放火によって死んだ、とUSBのデータにあったから殺したのは男となると被害者は兄か弟。

そして、「別の魂」。

これはヒーローパワー、いや。大がかりな感じだしダークパワーかな。

ヒーローパワーに比べてダークパワーは先代からのヒーローへの強い恨みが無意識に受け継がれていることが多いから、必然的にダークパワーのほうが凶悪性が高くなったり、威力が強くなったりすると授業で習った。

そしてカイ君が被害者を殺した、いや、実際には死にはしなかったから魂の入れ替わりが起きているのかな。そのあと例の魂を入れ替えた男かその仲間がカイ君として家に火を放って両親を殺す。

カイ君が例の男の存在をでっち上げていないなら、カイ君もしくは被害者がそいつに目をつけられてるのか。


一緒に送られてきている新しいデータにも目を通す。

「カイ君は私に例の男について調べるよう情報を誘導しているのかなぁ…。」

ここまで知ってしまったら、調べたいというのが人の性というもの。

でも、もしカイ君が例の男の仲間だったら?

例の男が危険な人物だったら?

可能性はいくらでもある。しかもこの情報の絞り方からは例の男がヤバそうな感じで、カイ君の手には負えないと判断したのかな。

「どう見ても罠っぽい。けど…。」



人間の行動力というのは恐ろしい。


気がついたときには私は件の家の前に立っていた。

「はぁ…結局来てしまった…。」

表札に書かれた文字はもう命水ではない。

「えーと、地図にかかれてるのはここだね。

…でも、」

カイ君の情報を信じるのなら、この家は相馬さんという人が所有していたはず。

でも表札には岡田と書かれている。

「こんなにすぐ持ち家を手放すことってある?」

それか、名字が変わったとか。

でも、カイ君の話では相馬さんは子供のいない夫婦だった。

「いや、両親と住みはじめたってことも有り得るな」

にしては家の間取りが狭いような気もするけど。

「やっぱり、確固たる証拠を掴むには、中に入るしか…」

でももし悪い奴らのアジトだった場合私の命はない。

…反ヒーロー組織なんて秀良生だと知られた瞬間死ぬし。

「どうすれば…あっ!」


ピンポーン。

玄関のチャイムを勢い良く鳴らす。

「はぁい」

中からバタバタと音がする。

大丈夫だ。

(命水さんに用があって来たけど家がここだった気がするが見つからないって言えば家族構成がわかるものくらいは玄関先で見えてくる)

ドキドキする胸を必死に抑え、深呼吸をする。

鍵をガチャリと回す音が扉の向こうから聞こえた。

そして出てきたのは、

「ッ…!?」

「え……。」

背が中学生くらいに縮んでいるが、確かに見たことのある顔。

その顔は、走間アザミそのものだった。



「気が付いたかしら、吹雪さん」

周りを見渡すと、見覚えがある光景。

体育館裏の倉庫。

飯島先輩は嗤う。

「天美さん、ダークサイドは?」

天美さんの眼に一瞬迷いが見えた気がした。

「私は…」

天美さんはハッと我に返ったような顔をしてこちらを見る。

「吹雪…さん?どうして…ここに、あなたが…。ッ縛られてる…!?」

天美さんが私の拘束を解こうとこちらに近寄る。

「天美さん…後ろ!!!」

そう叫んだ時には、もう遅かった。

飯島先輩はポケットから刃物のようなものを出し、ニコッと笑う。

「六花さん、貴方催眠が切れかかってるわ。」

手の中に握られたナイフが煌めく。

次の瞬間、天美さんのシャツの右袖は紅く染まった。

「ちょっとおとなしくしててね」

飯島先輩は天美さんの髪の毛を掴んで顔を近づける。

抵抗をしない天美さんの眼をこじ開けて、先輩は。

銀のナイフを思い切り突き立てた。

「ああぁあああああぁぁ!!!!」

天美さんの悲鳴が校舎裏に響き渡る。

恐怖を宿したその眼には、黒い闇の波動のような文様が浮き出て、また沈んでいく。

心理錯乱(サイコクレイジー)

天美さんの体は闇に飲まれていった。

「天美さん、ダークサイドは?」

天美さんは感情のない顔で即答した。

「皆殺し」

飯島先輩はアハハッと甲高い声を上げてと笑った。

「良かったわ、催眠がうまくかかって。」

「イグニスのやったことは、天美さんの意思じゃなくて洗脳…?」

「私のヒーローパワー、心理錯乱なら行動原理となる『目的』を心に植え付けることができる。ただ、思いのままに操ったり、一人に複数の目的を植え付けることはできないけどね。」

そういって飯島先輩ははーっと息を吐く。

「天美六花、彼女は催眠にかかりやすい良い子ね。」

先輩は恐怖すら感じるような笑みを浮かべながらこちらを振り向く。


「次は貴方の番じゃなくって?」



「これからプレイグの定例会議を始めます。」

ティラノのカフェテーブルにノートPCを置いて、知花さんが重々しく口を開く。

部屋の中には、どんよりとした空気が立ち込めていた。

海はカウンターの端のほうで、震える手で水の入ったガラスのコップを握っていた。

「…今回ノ議題ハ、今回ノ事件ニ関スル情報ノ整理ト、コレカラノ計画ノ話ダッタナ。」

定芽さんはあいかわらず無機質な声で話す。

私が彼に初めてあったのは1年前、定芽さんが秀良を卒業してグラオザームに引っ越してきた時だったはず。定芽さんはヒーローサイドの家の出身で、名前を捨ててこっちに来たって言ってたっけ。

だから、私、定芽さんのことをよく知らないんだよね。

絶対に仮面を取らないし、いっつも機械音声でしゃべるからね…。

いつか素顔を見てみたいなぁ、って今会議中だ。集中集中。

「セツナ、ドウシタ。ボーットシテ上ノ空ダゾ。」

「あっ、大丈夫、大丈夫!気にしないで!」

「ジャア、本題ニ戻ルゾ。黒、話シテオキタイ事ガアッタンダッタナ。」

「ああ。イグニスの奴らについてなんだが、

『ゲルニカ』を使っているとみて間違いないだろう。」

「!?」

ゲルニカって、違法薬物じゃん。

確か、青葉によると新種の麻薬で、昔に使われてたやつよりドーピング?効果が強いとか何とか。で、副作用も強いと。

とにかく人体に危険なものらしい。

「澪、だいじょぶかな…」

私のつぶやきが聞こえたのか、海の眼が見開くのが見えた。

なんかあったのかな、汗をかいているような気がする。

「それで、ゲルニカの入手経路は割れてるのか?」

「奏霊会っていう反ヒーロー組織でした。」

知花さんがPCを素早く動かして奏霊会の概要をスクリーンに映し出す。

奏霊会はそこそこの大きさの反ヒーロー組織、どっちかというと反ヒーロー的活動よりかはやくざみたいな活動のほうがメインっぽい感じだった。

「この奏霊会って組織さ、バックに大物とか、政府とかがいるって話聞いたことがある。」

黙っていた裏紅姉が口を開いた。

「そうね、結構大がかりな犯罪をやっているけど、あまり報道や逮捕がされないっていう話があって、しかもあまり規模が大きいわけではないからそこまでのことをするのは現実的に無理っていう考えもある。」

「モシカスルト、奏霊会ハ隠レ蓑で、モット危険ナ何カガ潜ンデイルノカモシレナイナ。」

「そうだね。引き続き奏霊会とイグニスの関連に注意を払うようにしないと。」

リグが話をまとめる。

「奏霊会…奏霊…奏。

まさか×××なわけないよな。」

青葉が何かを呟いたような気がしたが私にはよく聞き取れなかった。


と、突然知花さんのPCが鳴って、私たちの意識は一気にそちらへ向いた。

「やあ、プレイグの諸君、こんにちは。」

「…嬲陀さん!!」

通話の相手は嬲陀カルラ、カルネージのボス。

一気に場の緊張感が高まる。

「今後の計画について話し合いたいからといって、そちらの司令官に通話をつなげてもらったんだ。」

今後の計画、あまり具体的には決まってなかったはずだけど、もう確定したのかな?

「まず、諸君の今年度のゴールとしては、今年の1月に秀良高校に総攻撃を仕掛けると。

で、僕たちの計画を見てもらうと…。」

知花さんは無言でフォルダを共有する。

「8月は一旦戦いをやめて、来るべき決戦に備えよう。そこからはカルネージが国の要所にテロ攻撃を仕掛ける。

そこで、再来月の9月にユートピアワールドの遊園地エリアを爆破をするんだけど、手伝ってもらえる?」

そう言って嬲陀さんは青葉に向けて指を指した。

「氷室青葉君、君のダークパワーである封印(インサイド・ワールド)は爆薬や人を隠して移動する事ができる。監視の目を欺いて危険物を持ち運ぶことは造作もないだろう。そして、」

息を吐いて嬲陀さんは、今度は私の方を指差す。

「時間操作の能力、君の時間殺し(タイムターン)ほど犯罪に流用すれば強力な力はないよ、柊刹那君。」


時間殺し(タイムターン)は時間を止める「砂時計ノ眠リ」、時間を早める「オ茶会ノ白ウサギ」、逆に時間を遅くする「踊ル黒ウサギ」、そしてすべてを元に戻す「時計台ノ目覚メ」の4つの効果がある能力。


父の形見の懐中時計に目を落とす。


時間殺しは時羽(ときば)家相伝の術式で、私の父、時羽一刻(ときばいっこく)も使用していたパワー。かつては時羽家がその力の強さゆえに栄華を極め、英雄八家なんて呼ばれた時代もあったらしいけど、ディストピア戦争で負けてからダークサイドとして落ちぶれた生活を送ってきたらしい。

…処刑台の上で首を切り落とされた父にはその他に3つの技があったらしく、私が父から受け継いだ家に代々伝わる懐中時計には7ノ文字盤まである。


「…そうですね。

私の父もこの力を犯罪へと使い、そして処刑されました。危険性はわかっています。」

嬲陀カルラは目を少し見開いた後、静かに頷いた。

「あぁ、君の父親は僕と同じ第一級犯罪人として指名手配されていた時羽一刻氏か。もうあの事件から11年が経つ、あれは凄惨な殺人事件だったね。」

そう。

127人時間殺人は、父が能力で時間の(はざま)の世界に一般市民127人を送り失踪させてそのまま時間の間を閉めることによって鏖殺した凄惨な事件。私の母、柊佳那子(かなこ)は殺人の手引をし、127人を父の元へ差し出した罪で11年前から刑務所に入っていたが、その後獄中で不審死を遂げた。


でも、あんなに優しかった父と母が人殺しをするなんて思えない。

私をひとりおいて、遠いところへ行くなんて。


そんなことを思いながら私はぬるくなった水を一口飲んだ。


「さてと、本題へ戻ろう。

このユートピアワールド爆破は重要な国の資金源を爆破するという目的が一番だが、もう一つ目的がある。


…ユートピアワールドにいる、四英傑の一人」

嬲陀さんの目が怪しげに光った気がした。

夢川遊楽(ゆめかわゆうら)を殺すんだ。」


第九話に続く。

第一級犯罪人

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