3.堕天
〈登場人物紹介〉
【ダークサイド】
・命水海
ダークサイドで親に虐げられていたが、双子の兄であるカイを殺し反ヒーロー組織のプレイグへと加入した。秀良高校一年生。
・十牙黒
親をヒーローに殺されプレイグを設立した。ダークサイドでパワーは「満月狼」。秀良高校一年生。
・麻布莉黒
黒の幼馴染で小柄な少年。人懐っこい。プレイグのメンバーで秀良高校一年生。
【ヒーローサイド】
・吹雪澪
海の幼馴染で秀良高校一年生。「氷」のパワーを持つ。
・津田ほのか
演劇部で海の兄、カイに想いを寄せていた。
・天美六花
ヒーロー連盟会長の娘。秀良高校一年生。
第三話 堕天
「津田さんが昨夜、誰かに殺されたらしい」
「は?」
顔から血の気の引いていくような感覚がした。
カイを殺した時に感じたものと同じ感覚。
あざが何故かチクチクと痛む。
「え…津田って、」
「お前も仲良くしてただろ、カイ。津田ほのかさん」
「…その情報、確かなのか?」
声が思わず震える。
「さっき、お前が起きる前に麻布が来て、俺が起きてたから部屋に入れたんだ。そしたら麻布が…他の部屋のやつらに言っちゃだめって言って教えてくれた。」
「…お前、昨夜津田ほのかと接触しなかったか?」
ベッドの上から声がして上を向く。
二段ベッドの上の段ではベッドの中に隠れつつ、黒が小さい何かの機械をとパソコンをいじっていた。
「黒、寝てると思ったけど起きてたのか…っていうかなんで俺と津田が接触したと知ってるんだ!?」
黒が降りて来てテーブルにパソコンを置く。
ここだとみんながいて話せない、と黒が耳打ちした。
「部屋から強制退場になる前に現状を整理しておきたいんだが…。ちょっとお前らは一回リグの部屋に行ってくれないか?」
浜谷と田中は半ば強制的に隣の部屋へ行って、代わりに莉黒と、氷室青葉が来た。
氷室青葉は、同じ1−Bのミステリー研究会所属で、耳の下まで伸ばした勿忘草色の髪と瑠璃色の目が特徴の男。たしか入学初期にやったテストで全教科満点で一位を取った天才だとでかで噂になっていたので隣のクラスについて何も知らない俺も名前くらいは聞いたことがあった。
入学ボッチで不良の黒が隣のクラスの奴と仲が良いとは思わなかったが、どこに接点があったのか。
「単刀直入に言う。僕達前科持ちのダークサイド、もっと言えばダークサイド全体は事件が起こると退学処分などを受けることがある。しかも殺人事件となってくると何が起こるかわからない。
先生が生徒を起こしに来るのは早くても朝6時。それまでに、僕達で出来得る限りの情報を手にしておきたいんだ。」
そこまで話し終えて氷室はため息をつく。莉黒が人数分のコーヒーを入れてきてくれた。
黒が言っていた「ばれたら退学」とはこういうことだったのか。
「…それで、俺が津田と接触したことをなぜ知っているんだ?」
「俺が言ったんだ。それに、青葉が防犯カメラの映像をハッキングしたけど、カイと別れたあとにも、ほのかちゃんが生きてることがわかってるから」
莉黒が申し訳無さそうに言った。
そうか、なら俺が犯人と疑われるリスクは減ったな。
そう思って安心してると、黒が頭を掻きむしった。
「こんな事件を起こす奴らがいると、確実に犯人が検挙されない限り一斉にダークサイドが追放されちまうんだよ。せっかく内部から情報を得て確実に計画を遂行させようと思ったのに…。」
「そう焦るなよ、黒。内部からじゃなくたって、僕がハッキングすれば情報はある程度手に入る。そう焦らずに、今は状況を悪くさせないのを優先させよう。」
俺が状況を飲み込めずにいると、莉黒が横から説明してきた。
「俺と青葉とうちのクラスのセツナは同じ中学で、プレイグのメンバーなんだよ。」
セツナ…柊刹那のことか。桜色の髪を青いリボンで後ろにまとめた1-Aの女子。吹奏楽部の所属で一見おとなしそうだが意外と活発なタイプに見えるという印象があったが、彼女もプレイグのメンバーだったのか。
なるほど。状況はだいぶ飲み込めた。
情報が一通りで揃ったらしく、黒はメールを何処かへ送ってパソコンを閉じた。莉黒と氷室も怪しまれないよう自室に戻っていった。
もうすぐ6時。もう教師がやってくる頃だろう。
二人きりになっていたので、俺はずっと気になっていたことを黒に聞いてみることにした。
「あ、あのさ、お前らの言う計画っていうのはどういうことを目的としてるんだ?」
「ああ、プレイグの計画のことか?俺等は基本的に…。」
「全員外に並べ!!」
突然の怒鳴り声で黒の声はさえぎられてしまった。
朝っぱらから起こされて、あちこちから教師へのぐちや噂話などがヒソヒソと聞こえてくる。事情を知らない生徒はさぞ不快だろう、かわいそうに。
ただ、自分が容疑者候補になっている身としては、そんなこと言っている場合ではない。
黒の助言通り、とりあえずはおとなしくしておくことにした。
昨日の夜何をしていたかなどの質問がされ、一通り事情聴取は終わり、1年全員が講堂に集められ学年集会となった。
先生はだいぶ内容を伏せた話し方をしていて、「学校内で事件が起こったので危険だから外出は控えるように」との旨だけ伝えてひとまず休み時間となった。
そんなとき、ニコっと笑って思わせぶりに天美が口を開いた。
「ねぇ皆、何が起こったか知ってる?」
周囲が一斉にざわめきだす。
笑う天美の目は、黄色く光っていた。
「やめて」という諸羽の声を無視して続ける。
「このクラスの津田さんが昨夜、誰かに殺された」
講堂内がざわざわとする。諸羽の顔がどんどん引きつるのが見て取れる。
「そして、犯人はこの学校の中にいる」
そういって天美は声を上げて「くすっ」と笑った。
袖を一人ずつまくっていって、アザから前科がある奴をあぶりだす。
前科があるのは、A、B組含めて計6人。
麻布莉黒、十牙黒、柊刹那、氷室青葉、命水カイ、そして名愛結衣だった。
名愛は柊と同じ吹奏楽部所属の女子で、1−B所属。ふわっとした萌黄色の髪を下ろした柘榴色の瞳。比較的教室の隅でおとなしそうにしているやつだったから、殺しなんてたいそうなものはできないと思っていた。が、人は見かけによらない。
案の定名愛はガタガタと震えだした。対するほか4人は微塵も動じていないのか、少なくとも顔には全く出ていない。
そんな俺らを無視して天美は続ける。
「先生、見てください。こんなにたくさん、ダークサイドの犯罪者たちが紛れ込んでいる。
彼らにこの伝統ある、高尚なこの学校、秀良で学ぶ資格などありますか?」
先生が口を開く前に天美は早口で続けた。
「ないでしょう。ということで、彼らへの退学処分、もしくは学校追放を要求します」
B組の担任の先生は若い女の先生で、しばらくうつむいて、なにかいいたげな顔をしていたが、俺たちの担任がやってきて、事情を聞いてやがてうなずいた。どうやら先生たちも天美には、親の力もあるのか、あまり強くは出られないらしい。
すると、諸羽が怒鳴った。
「やめてよ、彼等が何をしたの?無実の人間を罰して、ほのかはそんなこと望んでないよ!」
天美は淡々と告げる。
「証拠ならある。」
そういって先生に耳打ちをした。
先生は渋々うなずき職員室へと向かう。
数分後、先生はタブレット端末を持って現れた。
天美はそれを受け取って操作し、ある動画を見せる。
それは昨夜のある場所の防犯カメラの映像だった。
見覚えのある顔。影に照らされた花壇。そびえ立つ噴水。枯れてしまったリンドウの花。
画面の中にいる津田は笑みを浮かべていた。
その時、津田に近づく影が一つ。
…違う。
俺はとっさにそう思った。
どこか見覚えのある顔。ふわふわとした垂れ目。空色の瞳。
違う、違う、違う…!!!
カイはもう死んだんだ。
あいつはもう、俺のもとには現れないはずなのに。
汗が吹き出てくる。呼吸が段々と苦しくなって、また痣がズキズキと痛む。
耐えきれなくなって、とっさに映像から目を背けた。
その様子を見て天美はニヤリと笑い、また映像に視線を移す。
次に画面を見た時、カイはナイフを振り上げていた。
ー映像はそこで終わりだった。
天美は続けた。
「ほら、死亡推定時刻の11時に命水君はナイフを振り上げてる。これ以上もっともらしい証拠ってないでしょう?」
天美は俺をにらみつける。
その時、澪が声を上げた。
「これ、は…カイ、ぁ、…じゃ、ない。
双子の弟の海だよ…。だって、ほら。目が垂れ目でカイ、とは、全然…違う。」
天美はキョトンとした顔で言った。
「あら、私は先生から命水君の弟さんは亡くなっているという話を伺っているけれど?」
「え…?」
澪はショックを顔に浮かばせている。
そして俺の方に駆け寄ってきてシャツを掴んだ。
「海、どういうこと…?」
俺が澪の方に向き直って説明しようとしたとき、天美は俺と澪を引き離して強制的に話を終わらせる。
「もうこれ以上言い逃れようのないのは分かっているでしょう?諦めたほうがいいわ。」
俺が息をのむと、黒が耳打ちをする。
「…俺らはここにを去る。ここまで注目されてしまうとやりづらいからな。外部から計画を進行させることにする。予定よりだいぶ早いけどな。
…お前も一緒に来れば、俺達がお前の身を守ることはできる。少なくともここよりは安全だ。決断できるのは今だけだ。お前はどうしたい?」
俺はダークサイドで犯罪者だとばれてしまった以上、どっちみちカイのことがバレたらどうなるかはわからないし、ここに残ることはできない。
なにより、ヒーローパワーもダークパワーも持っていない俺には、ここにいてもできることはない。ここにいる資格なんてないと俺は思った。
ただ、心配なのは澪だ。
澪のほうを見て、目をそらすように天美のほうを見る。
澪に近づいて、「俺は大丈夫、まずは自分の身を守って」と耳打ちした後、天美に向き直る。
「ああ、良いよ。お前らがそこまで言うなら出ていってやっても良い」
天美はふふっと笑って俺を見た。
俺の推測だが、こいつはダークサイドを人だと思っていない。
ヒロイズムに毒された悪役にはもうこりごりだ。
舌がしびれる。いまにも倒れそうな足を振り上げて一歩ずつ扉へ向かう。
澪を置いて、そのまま教室を出ていってしまった。
でも、案外これでよかったとも思っている。
もともと俺に秀良にいる資格なんてなかったんだから。
これでいいんだ。
結局、俺らは学校追放の処分になった。
退学は復学ができないが、学校追放なら先生たちが学校に戻るのを許可してくれる場合もあるらしい。
「学校追放〜!退学じゃなくて良かったって言うべきかな?」
莉黒はのんきに笑う。
「カイ、お前って行くあてあるのか?」
黒が心配して聞いてくる。
実際、俺の家は燃えてなくなっているから、帰る場所など無い。これからどうするべきか迷っていると不意に氷室が言った。
「行くあてないならグラオザーム来いよ。」
「グラオザーム・ゲフェングニス!?ってか俺入れるのか?」
氷室が横でにやりと微笑んだ。
「まあお前の腕にある、そのアザがパスポートみたいなもんだよ。まあ顔パスとかで痣がないやつをいれることもできなくはないけど。」
ダークサイドには生まれつき紫の痣が利き腕にありファンデーションやコンシーラーなどを使っても痣は消えないので、現在消す技術は見つかっていない。というより、政府が痣を消す技術の研究を禁じているからなので、グラオザームなどでしか研究が行われていないがまともな大学や研究機関などはグラオザームにはないので研究は進まないらしい。
腕の痣がパスポートということは、すなわちダークサイド以外は基本的にグラオザームに入れないということだ。
ここ、大日本英雄主義国は、2206年、今からちょうど200年前に世界を2つに分かつ大戦、ディストピア大戦が起こり人口の半数と富、文明を失った。ディストピア大戦で勝利した軍は自らのことをヒーローサイドと名のり、敗者たちをダークサイドと呼んだ。これによって、現在まで続くサイド間の差別が生まれてしまった。この国では当時のヒーローサイドのトップ、旭日正義が荒廃した首都、東京を役割ごとに8エリアに分割し、敗戦してだいぶ数の減ってしまったダークサイドを2エリアに追いやって政治を始めた。
今俺たちはエリア間を唯一行き来できるピーストレインに乗って、秀良があるジャスティスシティからプレイグ本拠地まで向かっている。
都立秀良学校や政府の重要機関がある国の中心都がジャスティスシティ。ここにはヒーローや政府の人間、そして秀良生徒だけが入れる厳重な都となっている
クレッシェンド・ヴィシャスというヒーローサイドの入ることができる比較的治安の良いダークサイドの町には、一部観光できるスポットもあり、ヒーローサイドが町おこしに躍起になっているそうだが、実際の住民たちからの視線は冷たいものらしい。
俺らが今向かっているのはグラオザーム・ゲフェングニス。二つ目のダークサイドの居住区で、治安がひどく悪事が蔓延っているというのが一般常識。危険度は政府が他の区との間にハザードフェンスを設置していたり、政府の許可のないヒーローサイドの立入を禁じているほどのもので、だから俺も今は正直気が気でない。
他には、私立学校や塾の集まるスコラスティカ、民間人の居住区であるフラワーシティとハピネスシティ、国民の暮らしを豊かにする役割を担うハートフルセンターシティ、遊園地やショッピングモールが詰まった行楽施設のユートピアワールドが存在する。
「そ、そういえば、刹那ちゃんたちはプレイグっていう反ヒーロー組織をやってるんだよね。
私さ、カルネージっていう反ヒーロー組織のトップと友達でさ。」
『カルネージ!?』
みんなの目の色がとたんに変わる。
「カルネージって、政府が危険組織指定している国で一番でっかい反ヒーロー組織!?」
氷室がPCをカタカタと操作する。
「この前のプレイグ定例会議で、カルネージと協力できれば僕達の計画がもっと強固になるって話したよな?
名愛からカルネージにコンタクトを取ってもらえれば、もしかしたら…。」
すると名愛は案外あっさりと手にオッケーマークを作った。
「いいよ?それに、この前のプレイグの事件見て、蛇兄も『構成員も少ないし歴史も浅いが、実力は確か。反ヒーロー組織の一角を担う組織になるだろう。』って」
「実力が認められてる…!!やったね!いっぱい悪いことやってきたかいがあったよ!」
有頂天になる莉黒をよそに黒が疑問を口にする。
「ヘビ二っていうのは、お前の友達のカルネージのトップの事か?」
「うん。聞いたことない?嬲陀カルラ」
それなら俺も聞いたことがある。
第一級国家反逆人、嬲陀カルラ。確か24歳にして1000人ものヒーローをその手で殺してきた凶悪人だと聞く。
「そうか。じゃあ俺らの第一の目標は、嬲陀に接触することだな!」
莉黒が高らかに言った。
名愛はしばらくしてクレッシェンド・ヴィシャスの駅で降りて行った。
近々俺らもお邪魔することになるだろう。
どれくらいの時間が過ぎたのか、夕方頃やっと電車はグラオザーム・ゲフェングニスに到着した。
おどおどしていたが、黒たちがついていたからか、ほとんど顔パスで内部に入ることができた。
そこには、まさにアンダーグラウンドな雰囲気があたり一帯に広がっていた。
壁にとんだ血しぶき、店の横にあるスプレーの落書き。
俺がきょろきょろとあたりを見渡していると、チンピラ二人が通りの奥からこちらに向かって歩いてきた。
「オイオイオイオイ、こいつ新顔?」
「ヒーローサイドのお坊ちゃんはおうちに帰りまちょーねぇ!」
背の高いチンピラがこぶしを繰り出してきて思わず目をつむってしまった。
まずい、やられる…。
その時、両親に暴力を振るわれた時のことを思い出した。
正面切って相手を見てればこぶしの軌道からよけられる。
震える目を見開き間合いの外に入り、しゃがんで目を閉じる。
こぶしが空を切る音と、バキバキという音がしてようやく目を開ける。
見ると、黒がチンピラの腕をありえない方向にねじっている。
チンピラは黒を見て顔を真っ青にしていて、ここまでくるといささか気の毒になってくる。
「あ…十牙の兄さんでしたか。スンマセン…勝手なことして…。」
「悪いが、今急いでいるんだ。」
どすの利いた声で脅して黒は淡々とその場を離れた。
「黒は中学のころ、スコラスティカの中学に通ってたんだけど、ここでやんちゃしまくっててさ。ここら辺の通りいるチンピラはだいたい絞められてて黒の舎弟さんなんだよ。」
柊と莉黒は相変わらずのんきにしている。これもこいつらにとっては当たり前の光景なのだろうか。
不意に黒はおしゃれなカフェの前で立ち止まり、看板を指さした。
「ここ、俺の家。」
驚く俺の手を引いてすたすたと中に入っていく。
すると、長身の女性がカウンターから現れた。ロングで淡いグレーの髪色。クールな雰囲気とは対象的に燃えるような真っ赤な瞳。美人で、黒が女だったらまさにこんな感じだろう。
「黒ー、この子が例の?」
黒が無言でうなずく。
女性は「へぇ」とつぶやいて俺の顔をまじまじと見たあと、言った。
「ここはプレイグの本拠地、カフェ・ティラノだよ。
私はここの店主で黒の姉の十牙亜月。」
そういって彼女は一息ついて、手を差し出してきた。
握手を交わし、亜月さんは不敵な笑みを浮かべた。
「プレイグへようこそ。」
すると、亜月さんの背後からひょっこりと小さな女の子が現れた。
「あなた、トーガの友達?」
亜麻色のロングヘアに黄色い目をした女の子はただならぬオーラを纏っている。戸惑いつつも頷くと、舐めるような目でこちらを見てきた。
「そう、それならいいけど…」
そういってその子は黒の方へ走っていき、ズボンにしがみつく。黒が慌てて女の子をたしなめた。
「ほら、トア。そういう態度を取らない。あと、ズボンにしがみつくのはやめろ。」
「そうだね、ちゃんと自己紹介しないと、トーガのおよめさんとして。
あたしは九重 永愛。11才。トーガはあたしのだから。よろしくね。」
最近の子供はみんな感じなのだろうか…。凄く我が強い。
黒が横で苦い顔をしているのは、見て見ぬふりをしておいた。
俺の行くあてがないことを亜月さんが聞いて、カフェの地下にある今は使われていない従業員部屋を俺の部屋として提供してくれた。亜月さんによると永愛ちゃんと黒は別の部屋だが、寝るときは一緒らしい。あいつがロリコンなのかは今は置いておいて、久々の休息としよう。
用意してもらったベッドに寝転がる。ふかふかしていてあたたかい。
カイを殺した時から今まで、思えばまだ2か月しかたっていない。
一年くらいたったように感じたのは、色々ありすぎたのかもしれない。
張り詰めていた糸が緩んだのか、ふと目から伝う涙をぬぐって、リュックサックからパソコンを引っ張り出す。
USBメモリがまだくっついたままになっていた。
「あれが最後の会話になるなんてな…。これも今は津田の形見なのか。」
もしかしたらと思って、USBメモリをもう一度差し込みなおしてみる。
すると、ブラウザが開いて文字が流れる。
「命水 海様へ
この映像が流れているということは、私はこの世にいないということでしょう。
この情報はもし私が命を落とした時にだけ、あなたがUSBで閲覧できるようになっています。
貴方の家族が亡くなった事件、犯人は単独犯ではないと私は睨んでいます。
きっと学生の手には負えないような大きな組織です。
私は貴方を止めたいと思っていますが、ここ数日私自身も付け狙われているように感じます。
そこでこのUSBに私のこれまでの調査資料を入れています。
私の調査をもとにあなたが調査を進めていくことは私は止めません。止めることができません。
でも、どうか自分の命を無駄にするような行為はしないでください。
復讐に身を焦がそうとはしないで。これが私からの遺言です。
吹雪さんを泣かせたらだめですよ?
津田ほのか」
メッセージはそこで終わりだった。
涙で曇る視界をこすって画面を見つめる。
…何故か、目を逸らしてはいけない気がした。
パソコンにはファイルが送付されていて、開くとメッセージ通り、今までの調査資料が事細かに記されていた。
調査資料を念入りに保存してから俺は眠りについた。
次の朝、眠りから覚めた俺は亜月さんと朝食の準備をしていた。
野菜を軽快なリズムで刻む亜月さん、それを眺めて笑う黒のおばあさん。
黒の祖母、紅代さんは83歳だが、いまだに元気で、黒と亜月、そして永愛ちゃんを育てている。黒と亜月の両親は黒が9歳の時に亡くなってしまったらしい。永愛ちゃんについては黒に一目ぼれをして家出をしてきたらしい。
「ちょーっと複雑だけど、みんな仲良く暮らしてるんだから、幸せだよ」
亜月さんはそう語っていたが、黒はどうやら違うようだ。
「黒は目の前で両親がヒーローサイドに殺されてるのを見ちゃって。だからヒーローへの報復の目的で創立したのがプレイグなんだよ。だから黒はヒーローサイドに対して強い憎悪を抱いてるんだ」
亜月さんが悲しそうな眼をしたので、俺はそれについてはもう何も聞かないことにした。
黒と永愛ちゃんも起きてきて、みんなで朝食を食べる。
秀良の時も思ったが、誰かと朝食をとるという行為を今までしたことがなかったので、すごく暖かく感じる。
そんな俺たちの平和なもぐもぐタイムは突然にして破られた。
「どー------ん!!」
2メートル級の大男がドアを蹴破って中に入ってきた。
周りを見ると、黒の顔が引きつっている。
紅代さんが杖をとって大男の前へ出ていく。
「あんたは…ブラフマー隊の隊長さんかい。うちに何の用かね?」
大男はその体に似つかわしくないような笑顔を浮かべて言った。
「おお、アンタが紅代さんか!これはどうも。」
でかい体をおりまげてぺこっとお辞儀をし、紅代さんに一通の封筒を渡す。
「黒にあてたお手紙だね。わざわざありがとう。」
そっと俺は黒に聞く。
「なぁ、あの人誰?そんなにビビるほどやばい奴なの?」
大男はその会話を聞いていたようで「うんうん」とうなずき、俺と黒に近づいてきて、黒はとっさに身を引いた。黒は朝食を吐き出しそうな勢いで顔を青ざめている。
「申し遅れたな、青い少年!すまないすまない。
俺はカルネージの三幹部の一人、間宮 笑武!!
ボスからのお達しで、お前らプレイグと協定を結ぶために手紙を渡しに来たんだ!!」
第四話に続く。




