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11.こわがりころしやおそろしや

〈登場人物紹介〉

【ダークサイド】

命水海みことみずうみ

ダークサイドで親に虐げられていたが、双子の兄であるカイを殺し反ヒーロー組織のプレイグへと加入した。秀良高校一年生。

十牙黒とおがくろ

親をヒーローに殺されプレイグを設立した。ダークサイドでパワーは「満月狼」。秀良高校一年生。

氷室青葉ひむろあおば

プレイグのメンバーで天才的な頭脳を持つ。パワーは「封印」。秀良高校一年生。

【ヒーローサイド】

吹雪澪ふぶきみお

海の幼馴染で秀良高校一年生。飯島に洗脳されていたがティラノで保護される。「氷」のパワーを持つ。

津田つだほのか

演劇部で海の兄、カイに想いを寄せていた。何者かによって殺害される。秀良高校一年生。

天美六花あまみりっか

プレイグへ対抗するためイグニスを創設した張本人。秀良高校一年生。

毒島月夜ぶすじまつきよ

黒の幼馴染だったが突然黒のもとを去ってしまう。現在イグニスに所属する秀良高校一年生。

北谷縋理きたやついり

イグニスに所属する秀良高校一年生。女子力が高く可愛いクラスの一軍。母親が外国人。

飯島暁いいじまあき

秀良高校二年生の生徒会長。「洗脳」のパワーをを使いイグニスを実質的に支配する。

第十一話 こわがりころしやおそろしや


「飯島を倒すことが俺等の勝利の鍵になるんだ!」

自分の発見が嬉しくて、思わず大きくガッツポーズをしたその時。

「…飯島がどうしたんだ?」

「!?」

黒と永愛ちゃんが2階から起きてきた。

澪が無事だったこともあり舞い上がっているのをよりによってこの2人に見られてしまった。はずかし。

永愛ちゃんは不思議そうにずいっと前に出て澪をジロジロと見る。

「あなたは海くんの彼女さんなの?」

なんてことを聞きやがる、この女子小学生。

「永愛ちゃん、そういうこと聞くのは…。」

「うん、私、海の彼女だよ。」

「ゑ…え?」

澪、今なんて言った?

混乱する俺を置いて永愛ちゃんは澪の言葉を聞いて安心したようにニッコリ笑った。

「ならよかった、仲良くしましょ!

あたしは九重永愛、黒の未来のおくさん。」

「永愛ちゃん、よろしくね!」

澪も何事もなかったかのようににっこりと笑っているし、何が何だかもうわからない。

「…女子って、恐ろしいよな。」

黒がそっと俺の肩に手を置いて遠い目をしていたのは、はっきりと覚えている。


「…なるほど、吹雪は飯島に洗脳されてここまで来たと。」

「このまま学園に戻るのは危険だねぇ…どうしようかな。」

紅代さんと黒が話を聞いて考え込む。

「じゃあ、ここに住んでく?海君もいるし。…ただ、部屋が足りないから、二人で一部屋になっちゃうけど、大丈夫?」

「大丈夫ですよ。」

亜月さんと澪がどんどん話を進めていくのでついていけない。

…え、俺と澪一緒の部屋なの?

確かに他の人と相部屋よりかは澪にとってはいいのかも…いやいや、澪の隣なんて緊張しすぎて一生寝付けない!!澪なんでオッケーしたんだ!?っていうかいつ彼女になった!?

…理解が追いつかない。


その日の夜。

「あのー、澪、さん…。」

「見てみてー、海。着替えなかったから亜月さんに服貸してもらったんだー。」

「澪、あ、あのさ…。」

「荷物全部学校において来ちゃったからな…どうしよう。」

「…澪!」

やばい、顔真っ赤だ。落ち着け、落ち着け。

「…ほんとに相部屋でよかったの?」

だめだ。次の言葉が出てこない。緊張して喉がきゅってなって、頭がうまく回らない。

「…昔はさ、一緒のベッドで二人で寝たよね。

…覚えてない?」

そう言って澪はしばらく目を伏せ、その後ニッコリと笑って俺の手を力強く掴んだ。

「…だから大丈夫だって!えい!」

そういって澪は俺の手を思い切り引っ張ってベッドへダイブした。

「うわぁっ…」


あつい。

体温が直に伝わってきて、心臓の音がどくどく響く。

部屋の電気も消してないのに、澪は俺の胸に顔を埋めたまま動こうとしない。

この状態で寝るのは本当に鬼畜すぎる。

「…みお、」

「…なぁに?」

「…寝るなら電気消さない?」

「勝手に消えちゃうし、いいでしょ」

たしかにテクノロジーの発達した現代では全自動の技術が搭載されているが、結局昔の名残なのか人は未だにボタンで電気を消したがるし歩きたがる。機械に全て頼るのは体の悪い老人か物好きくらいだろうし、そもそも昨今の技術は医療か、地球環境の改善、特にディストピア大戦で負った地球へのダメージをなくし文明を持続させていくことに注ぎ込まれている。

…って何考えてるんだ、現実逃避も甚だしい。


目と鼻の先にある熱を帯びた柔らかい物体が、その細い腕を俺の体へと回してぎゅっと抱きしめて離さない。

「…澪、他の人にこんなことやったりしてないよね?」

澪はふふっと笑って、やさしく目をつむった。

「そんなわけないでしょ。」


表情を悟られないように顔をそらして肩の力を抜く。

あつい。じれったいくらいにあつい。

「まったく、なんなんだよ...。」


結局、疲れていたのか、俺は案外あっさり眠りに落ちてしまった。



「おはようございます…」

眠い目を擦って起床し、着替えてリビングへと出向く。毎朝6時に起きて、こうして空いた時間に家事やティラノの手伝いをする、それがここに泊めてもらっている分の代金みたいなものだ。

「そんなに必死にしなくても…別に代金なんて良いんだけど、助かるし海くん手際いいから、ついつい色々お願いしちゃうの。無理しなくていいんだよ。」

「いえ、こちらは泊めてもらっている身なので。俺にできることなら何でも言ってください。」

「それは助かるわ、ありがとう。

…永愛、朝ごはんお願いできる?」

「はーい、お姉ちゃん!

…うみ君、ここは先輩のわたしに任せておきなさい!」

永愛ちゃんはそう言って朝食の目玉焼きを焼いて、ベーコンと玉ねぎ、チーズを載せてパンに挟む。

曰く、永愛ちゃんはもともとヒーローサイドだったが黒に一目惚れし、色々あって家出して今は十牙家に居候の身らしい。

小学生とは思えないほどテキパキ仕事をこなすのでできれば教わることがいっぱいだ。

しばらくして澪もリビングへやってきて、慌てて「手伝います!!」と亜月さんの元へかけていった。


黒と紅代さんも降りてきて朝食を食べつつこれからどうするかについて話し合う。

「昨日も言ったけど、やっぱり秀良に戻るのは危険だから、このままうちにいてもらって良いんじゃないかな。」と亜月さんが提案する。

澪が申し訳無さそうに「ありがたいんですけど、でも私には帰る家があるので…。」と断った。

「そうだよな、俺と違って澪には帰る場所が…。

ってまてよ。澪の家は俺の家の近所で、俺の家は諸羽たちに占拠されていた。ってことは…。」

黒がはっとした顔で言った。

「吹雪、お前の両親は今どうしてる?」

澪の顔がさぁっと青ざめる。

スマホを震える手で握って連絡アプリに文字を打つが、暫く待っても既読はつかない。

「お母さん、いつもこの時間には家にいて連絡すぐにつくはずなのに…。」

澪は今にも泣きそうな顔だ。

「でも、この前莉黒があんな目にあったばかりだ。危険すぎる。俺が行ってこよう。」

黒が焦る俺らを落ち着いて静止する。

「俺の家を通らずに澪の家まで裏道路から行けば鉢合わせしないかな…。でも、澪はもし存在がバレるとまずいし…。」

お世話になってきた。自分の本当の家族みたいな人達だ。今すぐに行きたい。でも行ったところで俺はまた足手まといに…。

「海、行こう。吹雪は危険だからここに残れ。俺らに任せろ。」

黒がそれだけ言って席を立った。

「ちょ、ちょっとまって。」

慌てて俺も席を立つ。そして澪の方を振り向いて肩に手を置き、「大丈夫だよ」と笑いかけ、黒の後を追った。

なんとか笑えただろうか。



大きな道を抜けて細くなった裏通りへと入っていく。

呼吸がどんどん荒くなる。嫌な妄想が頭をよぎっていく。

…「吹雪」の表札が床に落ちて割れている。

俺と黒は顔を見合わせ頷き、裏口から澪に借りた鍵で入る。

台所を抜け、リビングへ走る。

(らい)(つゆ)!!」

澪の8歳の弟の蕾、12歳の妹の露がリビングに倒れていた。

『海おにいちゃん!!』

「よかった、意識はあるんだな…。大丈夫、俺が来たからもう大丈夫だよ...!」

良かった。怪我はしているが擦り傷程度だろう。

「にいちゃん、にいちゃん、あのね、知らない人が家に来て、パパとママが…。」

「…パパとママ、どうしたんだ?」

蕾が目を涙をためてとぎれとぎれにに話す。澪の両親が危険なのかもしれない。早く助けないと…。

(きり)兄と一緒に2階にいると思う。でも、危ないからお兄ちゃん行かないで。」

露がおもいっきり腕をつかんで離さない。この家に来るのも3年ぶりだから、この子がここまで成長しているとは思わなかったが、なんだか永愛ちゃんを思い出してしまう。最近の小学生ってみんなこうなのか…?

「…海、ここで待っていろ。その子の言う通り、この先は危ない。俺が行ってくる。

…しばらくしたら一縷さんが来る。一緒に逃げるんだ。」

ずっと黙っていた黒が口を開いた。

「…分かった。上には澪の両親と弟が一人いるはずだ。…気を付けて」

行きたい気持ちもあるが、今までのように足手まといにはなりたくはない。

黒はそのまま二階への階段を駆け上がっていった。

「あの人だあれ?にいちゃんの友だち?」

「うん、まあ、そんな感じかな。」

「良かったね、海おにいちゃん。お友達、できたんだ」

「…うん。」

…友達、か。

悪くないな。



2階へと上がると、北谷縋理が吹雪の両親にナイフを突きつけていた。

「…何をしている。」

「…十牙君、吹雪澪はどこにいるんですカ。」

「…吹雪澪、何のことだ。」

足に力を入れる。間合いの距離は15メートルほど。ここならナイフを刺す前に北谷を止められる。

「嘘をついてマスネ、心臓の動きでわかっちゃいマス。」

ナイフを振り上げた手を一気に加速で飛び跳ねナイフを払う。ナイフは北谷の手を離れ床を滑った。

「悪いが、動かれると困る。毒獣の牙(トゥワイス・ファング)

足を麻痺させる。この技は使い勝手が良い。

「…吹雪さんのご両親ですよね。今のうちに逃げてください。下には海とお子さんもいるので。」

「…ええと、ありがとうございます。あなたは…。」

吹雪の父がおそるおそる聞く。

「吹雪の…クラスメートです。」

「ありがとう。でも、奥にまだ息子がいるの。」

吹雪の母が言う。母は父よりも落ち着いていて強そうだ。

「息子さんは?」

「…奥に、もう一人いる。」

「!?」

奥の部屋から出てきたのは、毒島月夜。

銃弾が飛んでくる。何とかかばいつつ交わしたが、いよいよ危ない。

「…とにかく、逃げてください。息子さんは僕に任せて。」

「分かったわ。ありがとう。」

吹雪の両親を階段から急いで下の階に逃がし、ツキを見つめた。

力は俺より無いが、初速が強い。向こうがもし洗脳されているのなら、躊躇がないので気を抜いたら死ぬ。

洗脳されていれば、こんな状況なのに心の何処かで俺はそう願っている。

またしてもツキは口を開こうとはしない。

「ツキ」

お前のことをツキと呼ぶのは俺だけだから。

洗脳されているのなら、目を覚ましてくれ。

俯いていたツキが不意に顔をあげ目を見開く。

そこにできた一瞬の隙。

急いで奥の部屋へと滑り込む。中には吹雪の弟と思しき中学生くらいの少年が座り込んでいた。

「もう大丈夫だ、下に君の家族もいる。急いで逃げろ。」

ツキが振り下ろしたナイフを腕で受け止め少年に呼びかける。

「わ、わかりました!!」

少年はそのまま階段へかけていき、そして…。

パーン。

焦点の合わないツキが片方の手で拳銃を握っている。

腕を撃たれた少年が苦痛に顔を歪めた。

本格的にまずい。誰かを守りながら戦うのは難しいし、何よりこいつに人殺しなんてさせるわけにはいかない。

…それをわかっていてここにこいつを置いたのか。

「テメッ…、殺すなっつったのはそっちだろうが…。」

今まで無表情だったツキの顔はニッコリと歪な笑みを浮かべている。

同じだ。またあのときと同じだ。

また…、また…!!

「人殺しにするわけにはいかねぇ…!!」

頭痛がする。またあの日のことを思い出すだけで気持ちが悪い。荒い呼吸を必死に抑えながら何とか思考を巡らせる。

ツキがまた少年に銃を向けたのでとっさに少年をかばう。

パーン。

「うぐっ…。」

足をやられてしまった。少年は無傷だったが銃声のショックで意識を失っている。どうにかして逃さないと、彼が人質になってしまう。

「黒、一縷さんも到着した!こっちは大丈夫だ、そのまま上に投げてくれ!俺が受け止める!」

海がそう言って構える。

「ありがとう、頼む!!」

そう言って少年を思い切り蹴飛ばした。

空中に放り出された少年をなんとかキャッチした海が抱きかかえて走っていく。

よし、あとは大丈夫だ。

血が溢れ出してくる。震える足でなんとか立ち上がる。

ここでこいつ等を足止めするだけ。

バタッ。

「ツキ?」

ツキは突然、苦しそうに顔を歪めて倒れた。

唇がかすかに動くのが分かる。

「…。」

何て言っているのか、俺には届かない。

「ツキ…」

近寄ろうとして、見覚えのある顔を前に踏みとどまった。

「飯島暁…!!」

そこには、全ての元凶とも言える人物が立っていた。


「あら、こんにちは。十牙君、ごめんねぇ、毒島君(おにんぎょうさん)、洗脳が解けかけちゃったみたいで。」

飯島はツキの首にするりと腕を回し、何か針のようなものを()()()

「お前、何して…!!」

どく、どく、と銀の液体がツキの首から流れていく。

刺した針がツキの体から抜け、ツキの眼の色が一瞬怪しく銀色に光り、紫色へと戻った。

2対1、勝てるかわからない。強い毒を使っているが、北谷の足への毒もいつまでもつかわからない。

「あなたもお人形になってみない?」

にこりと笑い飯島は大量の針を投げる。

当たったら確定で洗脳ルートだ。

王の(ハウリング)()吠え(カルテッド)

満月狼の精神干渉型の能力、というより生物本来の本能に狼として訴えかけて相手の感覚を麻痺させ隙を作る能力。便利だが味方のいるところでは不便なのであまり使うことはないが。

ツキが拳銃を再び握り直そうとしたところに王の遠吠えを放ち、そのまま手から滑り降りた拳銃を奪い取った。

パァン、と一発。飯島暁の腕に命中した。

飯島がよろめき、そしてふふっと笑った。

「…なぜ心臓を狙わなかったの?

あなた、反ヒーロー組織のくせして殺しが嫌いなんでしょう。」

どくん、と鼓動がなった。

殺しが、嫌い?

今まで殺した人の数は10数人。決して少なくはないはず。

でも、今飯島を殺せばすべて終わる。

さっきの北谷だって、殺しておけば不安の種は1つ消えたはずだ。

なぜ心臓を狙わなかった?

やはり俺は躊躇しているのか?

「よそ見してるから死ぬのよ?」

飯島がナイフを握り近接戦に切り替える。後ろへ逃げようとするが飯島が足を絡ませ、逃がそうとしない。

とっさに拳銃を使い数発打つ。

飯島の片腕が千切れ吹き飛んだ。

「また躊躇したでしょう。」

そう言って残っている方の腕でナイフを振りかざす。

慌てて構え直した拳銃はカチカチと音を立てるだけで役に立たない。

「せめて洗脳だけは…!」

ドガッ。

その瞬間、飯島が勢いよく横に吹っ飛ぶ。

何が起こった?

そう思って飯島がいた方を見ると、ツキが立っていた。

「どうして、洗脳はかけたはずなのに!!」

感情を表に出してこなかった飯島が、焦りからか顔に怒りを見せている。

「…体が、勝手に、どうして…?」

ツキが困惑した表情で自分の手を見つめる。

「私の能力は感情を完全に殺し意思を空っぽにしたうえで目的を植え付けて支配するから、仲間である私に反応しないはずなのに…どうして!?」

ツキが動き出す。本人の意志に反しての動きなのか戸惑いが隠せていないし動きがぎこちない。

「まさか洗脳をかけすぎたから…?でも()からの指示はもっとかけろって言ってるし…しっかりしなきゃ、じゃないと()()()()…!!」

飯島が焦って半狂乱のまま俺を刺しにくる。

ドガッ。

今度ははっきりと見えた。ツキが思い切り飯島を蹴り飛ばした。

「ああもう、使えない人形ね!!」

「ツキ…!!」

先にツキを殺そうと目標を切り替える飯島。とっさに助けに行こうとすると、ツキは今度は俺に向かって蹴りを入れた。

足の傷のせいかよろめいてそのまま階段から落ちる。

「くっ…」

何とか受け身を取り、階段上を見上げるとツキは口をパクパクと動かした。

「に・げ・ろ」

ツキは洗脳されているのか、それともされたふりをして俺を助けてくれたのか。

わからない。

ツキの気持ちが読めないことが、恐ろしい。

とにかく今は撤退しないと自分も死んでしまう。

「ありがとう、…死ぬなよツキ!」

そう言って何とか戦場と化した民家を離れた。


殺しが嫌い、か。



「黒、大丈夫か!?」

帰ってきた黒は、足から血を流してフラフラとしていた。

「肩貸すから、ほら、捕まって!」

「…悪い。ありがとう、海」

中に運び込み、応急処置を施しておく。

「貫通してるから弾丸は残ってないし、骨にかすってないからちゃんと治せばなんとかなるか…でも、ユートピアワールドの襲撃までに治るかは…。」

「…一週間経てば治る。満月狼の能力で、治癒が早い。」

黒はあまり元気がなさそうだ。何があったのかだろうか。

「じゃあ大丈夫そうだな、でも無理はするなよ。」

黒はうつ向いたまま暫く黙っていたが、やがて口を開いた。

「…海、人を殺すのは好きか?」

「…好きだとでも思ったか?」

「それもそうだな。悪い。」

カイを殺したことに関しての後悔はない。

あのままずっと牢獄の中で生きていくことに比べたら、まだ本物の牢獄のほうがまだマシかもしれない。

それに、今のこの生活は、平穏はないけどすごく安心する気がする。

…いや、そう思うということは俺の感覚はもう麻痺しているのかもしれない。

俺は大音を殺したんだ。

それは決して許されることじゃない。



…9月某日。

世間一般では敬老の日と言われる今日だが、この計画がもし成功すれば歴史の教科書に乗るような事件になるだろう。

祝日の今日だから、ユートピアワールドにはたくさんの一般市民がいる。

…その中で爆破をするんだから、カルネージは、否、僕達は残酷だな。


眼鏡を拭いて、上着を羽織り直す。

よし、行こう。


そう言って、僕、氷室青葉は遊園地の門をくぐった。


第十二話に続く。

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