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第51話 二学期の朝

 俺こと成海紅太は、朝が得意な方じゃない。

 幼馴染である犬巻夏樹と夜遅くまでゲームをした日には、皆勤賞を獲り逃すことは確定したようなものだし、そうでなくとも朝食の席につくのはギリギリの時間であることが多く、朝食を慌ただしく胃に押し込むのが日課のようなものだった。


「…………おはよ」


 しかし、今日の俺は……というより夏休み以降の俺は違う。

 今日はちゃんと登校予定時刻の一時間前には、一家団欒朝の食卓への合流を果たしている(それでも家族で一番遅いことに変わりないが)。


「おはようございます、兄さん」


 と、朝の挨拶を返してきたのは辻川琴水。

 俺の母親の再婚相手がつれてきた一つ下の娘、この春から俺の義理の妹になった少女だ。

 一学期の頃にあった兄妹喧嘩の一件で俺たちの家族としての仲は深まり、今では……ちょっとは兄妹らしくできていると思う。


「…………」


「なんですか?」


 琴水はこんがりときつね色に焼けた香ばしいトーストを頬張っていたが、俺の目はごまかせない。


「いや、そのトースト……何枚目だ?」


「五枚目です」


「五枚目か……」


 三枚目ぐらいだと思ってた俺の認識はかなり甘かったようだ。

 というか五枚ってそれもう一袋じゃねぇかよ。


「今日は二学期ですからね。控えめに済ませました」


「ああ、そう……控えめか」


 本っ当によく食べるな。一学期の頃はこうじゃなかったんだけど、琴水なりに遠慮していたということなのだろうか。この義妹がかなりの健啖家であることを知った時は驚いたもんだ。


「おはよう紅太くん」


「おはよう紅太」


「おはよう。父さん、母さん」


 既に食卓についていた父さんと母さんに挨拶をかえしながら、琴水が用意してくれたであろう朝食にありつく。今日はトーストにサラダ、それに加えてバナナやイチゴの入ったヨーグルトまで用意されてあった。


「二学期が始まればいつもの寝坊助に戻るかと思ってたけど、そんなことなくて母さん安心したわ」


「んー……まあ、頑張ろうと思ってさ」


 トーストを頬張りながら朝のニュース番組をぼんやりと眺める。

 そのタイミングでちょうど天気予報のコーナーに入り、今日一日が快晴であることを告げていた。


「頑張る、ねぇ……毎年皆勤賞を獲り逃し続けてるアンタが珍しい」


「ははは。僕はちょっと分かる気がするけどなぁ」


「あらどうして? 明弘さん」


「好きな人にかっこつけたくなるもんなんだよ、男の子っていうのは」


「……………………………………」


 トーストで口がふさがっていることを盾に、父さんの的を射た回答に対してノーコメントを貫く。だが母さんの方は「そういうことね」とでも言わんばかりの眼差しを送ってきた。


「そうよねぇ。あーんなにも美人で綺麗でカワイイ彼女がいたら、かっこつけたくもなるわよねぇ」


「……………………………………」


 そうだよ生活を改善しているのは少しでも彼女に……加瀬宮小白に相応しい彼氏で在ろうとしてるからだよ、と言い返すことはできなかった。まだ俺の口は、先ほど慌てて押し込んだトーストで塞がっていたからだ。


「そういえば二学期に入ったので、近いうちに体育祭がありますよね」


 トーストを心持ちゆっくり咀嚼していると、琴水が助け船を出してくれた。


「父さんと母さんは来れそうですか?」


「うん。僕はその日に有休をもらうよ」


「あたしもその時期は余裕があるから大丈夫そうよ。その日は私がはりきってお弁当、作っちゃうからね」


「わぁっ。楽しみにしてます。ね、兄さん」


「ん。ああ、そうだな」


 琴水のおかげでなんとか話題が逸れてくれた。

 母さん、小白のことが大好きだからな。話始めるとしつこくなるから本当に助かった。


「悪い。助かった」


「お気になさらず」


 父さんと母さんに聞こえないように、琴水に小声でお礼を伝える。

 一学期の頃は考えられなかったやり取りだな。


「普段から参考にさせてもらってますから」


「参考?」


「特に旅行のお話は、それはもう参考書が厚く…………いえ。なんでもありません」


 琴水、最近は友達と何かやってるらしいことは分かるんだけど、何をやってるかは分からないんだよな。何か知ってるらしい小白に訊いてみても口が重いし。……あと、なんでだろうな。訊かない方がいい気がしているんだよなぁ……。


「体育祭かぁ。懐かしいなぁ」


「父さんは…………どんな競技に出てたんだ?」


 俺が新しい父親のことを『父さん』と呼べるようになったのは、つい最近のことだ。

 多少の照れくささもあって、こうして会話をするにもぎこちない感じが滲み出てしまう。だけどそんな俺のぎこちなさを咎めることもなく、父さんはにこりと笑う。


「僕は運動がてんでダメだったから、借り物競争に出てたよ。ほら、アレって足が遅くても逆転できるチャンスがあるだろう?」


「ああ、確かに。足が速くてもお題の物を見つけられなきゃゴールできないし……あ。そういえばうちの学校の体育祭にも借り物競争があったな」


「楽しかったし、オススメだよ……って、紅太くんは運動が苦手ってわけでもなかったか」


「そうなんですか? 兄さん」


「ん? まあ……苦手ってわけじゃないな。自分で言うのもなんだけど運動神経は良い方だと思うし、今でも休みの日にはたまに身体を動かしに行ったりするし。中学の頃は色んなスポーツに手を出してた時もあったし」


 中学の頃は荒れてた時期もあれば、クソ親父に対するやり場のない気持ちを発散するために色々と模索していた時期もあった。懐かしい。むしろ高校生活が平穏なぐらいだ。


「二人はどんな競技に参加するとか、もう決まってるの?」


「いや、まだだな。……といっても、去年と同じなら二学期始まってすぐに決めるだろうけど」


「わたしは特に希望はないので、なりゆきに任せます」


「俺もそうなるかな。体育祭に特別やる気があるわけでもないし」


「そうなんですか? わたしはてっきり、加瀬宮先輩と男女混合リレーに出るものだと思ってました」


「逆になんでそう思ったんだよ」


「男女で参加できる数少ない競技ですし」


 言われてみればその通りだ。…………まあ、悪くない、のか?


「ははは。それじゃあ、紅太くんの競技はリレーで決定かな」


「そうねぇ。加瀬宮さんとチーム組んじゃったりして」


「勝手に決めるなよ……小白の方の気持ちだってあるだろ」


 うちの家族は小白が大好きだからな。またしつこくなる前に退散しよう。


「ごちそうさま」


 とりあえず自分の食器は片付ける。時間的にはまだ少し早いけど……まあたまにはいいか。


「それじゃあ――――いってきます」


 なんたって今日から、二学期だからな。




お待たせしました!

「二学期編」あらため「体育祭編」スタートです!


ちょっと遅めの更新ペースになるかと思いますが、がんばります……!

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