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第96話 腐った魔人

 ギィン、ギィン——


「どうだ? 痺れるだろう!」

「ぐっ、ぐっ!」


 髭面のオヤジが振り回す、雷が流れる金色の剣と、鞘から抜いた黒色の剣で打ち合う。

 打ち合うたびに、ビリビリと手に痛みが走る。

 何で、俺がオヤジの武装集団に襲われないといけない。


「駄目だ。麻痺は効かねえ! 凍結武器に切り替えた方が良いぞ!」

「分かった! 顔面にブチ込んで終わらせるぞ!」

「おお!」


 チームワーク抜群のオヤジ達の武器は剣と銃の二つしかない。

 どちらも炎、氷、雷の魔法属性が備わっている武器だ。

 ここまでの高威力の武器は見た事ないが、販売できない取り扱い注意の危険物だからだろう。


「そりゃ、そりゃ、そりゃ! どうした、小僧! ジジイの三人ぐらい面倒見ろよ!」

「ぐっ、ぬっ……!」


 ジジイ三剣士の剣撃を、何とか剣と盾で凌いでいるけど、この状況はマズイ。

 進化はしたが、退化もしている。剣で切られた部分が熱くて痛い。痛覚が戻ったようだ。


「そいやぁー! ガッハハハ! だらしねえ奴だな! ジジイ二人で精一杯じゃねえか!」

「ぐっ……!」


 俺が襲われている理由は、おそらく俺の顔の包帯を剥ぎ取った、あの三流役者ジジイの所為だ。

 俺の顔を押さえつけて座り込んで、お医者さんごっこの下手な小芝居を始めていた。

 最初から死ぬつもりはないし、命を救うつもりなら、こうやって殺そうとするな。


「チッ、あっちも駄目か……」


 助けを求めて、リエラの方をチラッと見てみたが、あっちも一対八で奮闘している。

 観客席に上がって、回避優先で逃げ回っている。


 俺も観客席に上がって、こっちの八人を押しつけてもいいが、一時的に逃走できても意味がない。

 やるなら、確実に全員が逃げられる方法だ。


 もちろん、そんな便利な方法があるわけない。

 だが、今回はそんな便利な方法がある……『人質作戦』だ。


 問題があるとしたら、誰を選ぶかになる。

 老い先短いジジイ達、魔法使いの四人組、俺を裏切った元仲間達。

 俺が理性的な人間じゃないなら、迷わずに階段にチラチラ見える銀髪を引き摺り出す。

 だけど、それは元仲間に守られているから難しい。だとしたら……


「ジジイだな」


 使う人質は決定した。三流役者ジジイが一番偉そうだから、コイツを捕まえる。

 俺の名前を言おうとしてたし、人質にして、口封じして、非売品の武器も貰えるからちょうどいい。


 そうと決まったら、まずは情報収集だ。

 攻撃を避けた瞬間に、左手に持っていた黒い丸盾を真上に向けた。

 そして、持ち手をしっかり握ると、丸盾を真上に発射した。


 ドン——


「飛びやがった⁉︎」

「馬鹿野郎、花火じゃないんだ! 見てないで撃ち落とせ!」

 

 上空に打ち上げられる俺に向かって、オヤジ達が赤、青、黄色の閃光を撃ちまくる。

 もう遅い。当たるわけないだろうと言いたいが、俺は油断しない俺だ。

 階段口の前で、弓矢を俺に構えている金髪の男を見つけた。


「やっぱりか。お前が美味しいところを狙うのは知ってんだよ」


 射てるものなら射ってみろと言いたいが、確実に射ってくる。

 速さと貫通力と必中を合わせ持つ矢は脅威だ。

 剣で防ぐのも、壁で防ぐのも難しそうだから、避けるしかないだろう。

 必ず当たる矢が存在しない事を教えてやる。


「よし!」


 ロビンの弓から一本の矢が放たれた瞬間、さらに上空に向かって、左手の丸盾を飛ばした。

 俺の身体が急上昇していく。いくら速くても、真っ直ぐ飛ぶ矢では当たらない……


「何だと……?」

 

 はずだったのだが、矢が俺に向かって曲がってきた。確実に矢が俺を追いかけている。


「この変態め」


 剣を握り締めた右拳の先に、黒い岩壁を作り出すと、向かってくる光の矢に発射した。

 岩壁と矢が衝突すると、壁を突き抜けた矢が現れた。贅沢な矢だ。一枚じゃ足りないようだ。

 追加で発射してやると、三枚目で矢は脱落した。


「何だよ、あの矢は? 何で二百五十メートル以上も届く」


 とりあえず、壁三枚目で防げるから安心できるが、射程距離が異常に長すぎる。

 明らかに力じゃなくて、アビリティを使っている。


「アイツら本当に俺の邪魔ばかりするな」


 ガン! と闘技場を囲む鳥カゴの天井にぶつかった。

 ここまでは攻撃が届かないようだ。オヤジ達もロビンも攻撃してこない。

 だが、のんびりしている時間はない。俺の分の攻撃までリエラに向かってしまう。

 進化後の変化を急いで調べながら、身体を五メートルの巨大ゴーレムに変えていく。


【名前:腐った魔人 年齢:20歳 性別:男 種族:魔人 身長:178センチ 体重:62キロ】

【進化素材:虹色魔玉七個】

【移動可能階層:1~45階】


 相変わらず悪意を感じる名前だが、今はアビリティを調べるのが先だ。


『圧縮LV4』『魔法耐性LV2』『盾術LV6』『体術LV6』『自然治癒力LV5』『眷属使役LV3』『運LV3』『聖耐性LV3』——


「ヤバイな。全然増えてない」


 全体的なLVが上がっているのに、新しいアビリティは『圧縮』『魔法耐性』の二つだけだ。

 魔法耐性の効果は分かるが、おそらく圧縮は茶色の岩と黒色の岩の違いだ。

 試してみたが、魔力を弱く込めると茶色、強く込めると黒色になった。


 黒色にすると強度が上がるようだが、その分、大量の魔力が必要になる。

 普通の魔法使いなら乱用すると、すぐにバテバテに疲れ果ててしまうだろう。


「まあ、俺には関係ない話だ」


 準備が出来たので、『ブラックゴーレムLV5』と一緒に地上への落下を開始した。


 ♢

 

 ドォン‼︎ と巨大な岩壁でオヤジ達の銃撃から身を守りながら、地上に降りた。

 そして、着地すると周囲に向かって、久し振りにジェノサイドトラップを発動させた。


「地面に魔力反応!」


 ドガガガッッ——


「危ねえな!」

「……チッ、素早いジジイどもだ」


 ジジイの掛け声で全員が空中にジャンプした。

 直径十五メートルの範囲に咲いた黒岩の棘が避けられた。

 だけど、空中にジャンプしただけじゃ無意味だ。

 棘の先端を真上に向けると、全弾発射した。


「やべぇ! 死ぬぞ、これ!」


 大丈夫だ。安心して当たれ。

 今回はちょっとだけ先端を丸くした気がするから、突き刺さっても大丈夫なはずだ。

 尖っているのは目の錯覚で、お前達が老眼だからだ。


 ガギィン‼︎


「なに?」


 ジジイの串刺しが八人分できると思ったのに、発射された鋭い棘が、ジジイを守る透明な膜に弾かれた。


「おお、死ぬかと思ったぜ! 何だ、こりゃー!」

「ジジイの仕業じゃないのか……」


 地面に着地したジジイ達が、身体を包む光る膜に驚いている。

 俺の目には、神の結界のようなもので身体を包まれ、守られているように見える。

 問題があるとしたら、俺の攻撃が効かない事だけだが、人質は無傷で捕まえるものだ。

 逆に好都合だと言ってもいいだろう。


「よし、閉じ込め作戦と行こうか」


 ピンチをチャンスに変えるのが一流だが、俺は超一流だ。この程度はピンチにもならない。

 ジジイ二人を捕まえて、口だけ出して、全身を岩で包み込む。

 人質の口の部分を塞げばどうなるか、馬鹿な大人じゃないなら分かるはずだ。


「迂闊に近づくのは危険だな。全員遠距離攻撃に切り替えるぞ」

「ハハッ! 確かに的がデカくなったから、当てがいがあるな! 全員で蜂の巣にしてやろうぜ!」


 流石に歴戦のジジイ達は、馬鹿アレンのように突っ込んでこない。

 接近戦を挑んできたら、ゴーレムの身体から突き出した棘で、全身を串刺しに出来たのに残念だ。

 まあ、ジジイの身体を守っている光る膜があるから、それも難しいかもしれない。

 

「ジジイがやる気を出しても無駄なんだよ……と言いたいが、長期戦はマズいな。リエラを先に助けるか」


 あの銃の攻撃は黒岩の盾で防げた。俺の身体にダメージを与えるのは無理だ。

 それなのに、わざわざジジイ達が時間稼ぎをする意味は一つしかない。

 俺の足止めだ。その間にリエラが倒される。


 ならば、人質作戦を変更して、リエラを救出して逃げるのが得策だろう。

 柔軟な思考を持つ俺だからこそ、見つけられた絶妙な一手だ。

 だが、俺が動き出す前に、階段口にいた四人組が動いた。


「相性が悪いようですね。交代しましょう。それは魔法耐性が高いようです」

「……確かにその通りだ。おい、お前達。ここは若いのに任せるぞ!」

「仕方ねえ、代わってやるか。ガッハハハ! 相手するなら、若い姉ちゃんの方が良いからな!」

「なっ⁉︎」


 空気を読んで交代するつもりだろうけど、俺の空気は全然読めていない。

 ジジイ達の四人が階段に行って、残り四人がリエラの方に向かった。

 

「アイツらぁー‼︎ どこまで俺の邪魔をすれば気が済むんだぁー‼︎」


 ここまで俺を何度も怒らせる相手は初めてだ。

 ゴーレムの右手から剣を突き出して、大剣に変えると、左手に黒い丸盾を作り出した。

 三十階と同じ結果になると信じているなら、それが妄想だとお前達の命を代償に教えてやる。

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