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第93話 最強の大剣

 ドス、ドスと地面を鳴らして、大斧を持った牛男が左右から迫ってきた。


「グモォー‼︎」

「これはヤバイ!」


 焦りながらも冷静な判断力で、上空に緊急避難した。

 一体倒したら、あとは楽勝とはいかないようだ。

 二体のミノタウロスに挟み討ちにされそうになった。


「小さい方が有利なのか?」


 上空に逃げれば安全だが、たくさん倒さないと進化できない。

 観覧席の下の舞台では、リエラがミノタウロス三体と交戦中だ。

 キメラの時と同じように敵の懐に潜り込んで、素早い動きで攻撃を回避して翻弄している。


 ミノタウロスの方は同士討ちにならないように、斧を振り回せずに足蹴りしている。

 だけど、そこを狙われている。蹴り上げた足が剣で切断されていく。


「タァッ!」

「グモォーッッ‼︎」


 片足を失ったミノタウロス達が、次々に地面に倒されていく。

 でも、トドメを刺すつもりはないらしい。

 放置して、他のミノタウロスに向かっている。


「……なるほど。そういう事か」


 何か狙いがあると思って考えてみたら、単純な事だった。

 闘技場にいるミノタウロスの数は、数えてみたら全部で二十五体だ。

 一体倒すと、一体現れる仕組みらしい。


 つまり、二十四体を動けないようにしてから、最後の一体を倒して、新しく現れる一体を倒し続ける。

 すると、宝箱を持っている強いミノタウロスと一対二で戦えるというわけだ。


「あの女、意外と賢いな。俺も手伝ってやるか」


 だとしたら、俺も手足を切り落とすのに協力した方がいい。

 だけど、このままでは無理だ。ゴーレムになった利点は大きさだった。

 小さな相手を圧倒的な力で押し潰す為だった。

 俺よりも大きな相手に、このサイズで戦っても意味はない。


 それにただ大きくなるだけでは、ミノタウロスは倒せない。

 だが、今は状況が違う。今は最強の剣を手に入れている。

 地魔法LV7になったから、今のサイズよりも大きくなっても、思い通りに動かせる。

 最強になる準備は出来ているという事だ。


「動かせる限界まで大きくしてみるか」


 安全な上空での、ゴーレムの改良作業が始まった。

 そんな事してないで、ミノタウロスを倒せと言われそうだが、倒すのは作業が完了した後だ。

 太い手足や胴体を細くした方が動きやすいとは思うが、防御力が落ちてしまう。

 今のドッシリした体型のままで行くとしよう。


 ブーン、ブーン……


「この辺が限界みたいだな。よし、やってみるか」


 右手に持った大剣を振り回して、動きに違和感を感じない大きさを確かめつつ、微調整を繰り返す。

 その結果、やっと納得のいく大きさが決まった。


 まあ、期待したような十メートルとかの大きさじゃないが、文句は言えない。

 最初にゴーレムを作った時には、すでに地魔法LV6だった。

 たったLV1上がった程度で、馬鹿みたいな大きさにはならない。


「待たせたな。これが新しいゴーレムだ」

「グ、グモォ……」


 ドガァン‼︎ 上空から観覧席に勢いよく着地して、段状の座席を破壊した。

 見下ろしているミノタウロス二体が、少し動揺しているようだ。


 今の大剣は五メートルはある。剣の長さはゴーレムの身長とほぼ同じだ。

 武器屋の職人の話だと、身長×0.43÷30.3とかで出した、謎の答え『7尺4寸5分』が剣の長さの適正らしい。

 ざっと、計算したら、長さは二百八十センチになる。


 悪いが俺は、職人の言う事なんか聞くつもりはない。

 戦いは安全な鍛治屋じゃなくて、ルール無用の戦場で起きている。

 くだらないルールを守っていたら生き残れない。


「まずは力比べと行こうか?」


 グググッと八メートル程の離れた間合いから大剣を振り上げた。

 身体が大きくなって、気も大きくなった。今なら力比べも負けそうな気がしない。

 一気に前に身体を撃ち出し間合いを詰めると、牛頭に剣を振り落とした。


「ラァッ!」

「グモォ……‼︎」


 牛男は大斧の柄を水平に構えて頭上に持ち上げ、大剣を受け止めようとした。

 だが、大斧の柄に大剣が激突して押し下げ、牛男の頭から首までを刃で切り裂いた。


「フッ。行けそうだな」

「グモォー!」


 剣を引き抜くと、向かってきたミノタウロスの大斧と打ち合わせた。

 ガンと激しく打つかり合ったが、押し負けなかった。

 それどころか、数回の打ち合いで牛男の体勢を崩して、左肩から胸の真ん中まで大剣で切り裂いた。


 ザァン——


「グモォーッッ‼︎」

「こりゃー、駄目だな。強くなり過ぎてしまった」


 どうやら圧倒的な力を手に入れてしまったようだ。

 姉貴のお古の剣だと切れもしないだろうが、この剣なら余裕で行ける。

 リエラのせこい作戦はどうでもいいから、手当たり次第に牛男を倒してやろう。


 ♢


 七十二匹目……


「セィッ!」

「グモォーッ‼︎」


 ドスッ! 胸を突き刺された牛男が叫び声を上げる。

 肉体的な疲労は感じないが、流石に面倒くさくなってきた。

 まあ、俺の進化の為にやっている事だから、途中でやめるわけにはいかない。


「残りは二個だけか……」


 二人で百三十体は倒したと思うけど、赤い宝箱と青い宝箱が一個ずつ残っている。

 宝箱を持っていた強いミノタウロスは、身長が一メートル程大きいだけだった。

 悪いけど、その程度じゃ俺の敵にはなれない。


「コラ! サボってないで倒しなさい!」

「くっ、俺も休みたい」


 気分転換に落ちているミノタウロスの素材や赤い魔石を回収しては、メルがいる階段に集めていく。

 中からリエラの怒鳴り声が飛んできた。リエラは二十体ぐらい倒したら、休憩を繰り返している。

 俺はまだ一度もサボってない。


「はぁ……魔法の乱れ撃ちでパパッと倒したい」


 今は無理だが、進化すれば、その可能性もあるかもしれない。

 今は頑張るしかないだろう。一、二、三、四体と倒し続ける。


 リエラの話し通りなら、宝箱が出る確率は二十体に一個だ。

 絶対に信用できない情報だが、実際に倒すと宝箱は出ている。

 あと少し頑張れば出てくれるだろう。

 

「チッ、青かよ」


 現れたデカイミノタウロスを倒したら、青い宝箱が出てきた。

 欲しい色とは違うけど、貴重なアビリティかもしれない。

 ゴーレムの左足に移動して、宝箱を開けて、水色の靴を回収した。


「『水上歩行靴』だと? ゴミめ!」


 期待して調べた結果、使えないゴミだと判明した。

 水の上を歩けるだけの靴を、乱暴に鞄の中に詰め込んだ。

 こんな靴は今も今後も必要じゃない。漁師にでも売ってやる。


「また一から数え直しだな」


 一、二、三……と休憩をやめたリエラと、また倒し始めた。残り二十体なら楽勝だ。

 しばらく、小さなミノタウロスを倒し続けていると、やっとデカイミノタウロスが現れた。


「これで最後だ! 覚悟しろ!」


 二十七体目だけど、まあいいだろう。

 空中を飛んで接近すると、武器同士を激しく打つけ合って、上半身を切り倒させてもらった。


「グモォーッッ‼︎」


 ザァン! 牛男が血飛沫を上げて、背中から観客席に倒れた。

 数秒待つと身体が壊れていき、赤い宝箱と赤い魔石が現れた。


「やっと集まった! 階段の中で進化だぜ!」


 赤い宝箱を開けて、黒く輝く丸い玉を回収した。

 あとは階段の中に入って吸収すれば、十五分ぐらいで進化完了だ。

 何分かかるか分からない進化を、闘技場の中でやる馬鹿はいない。

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