表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/172

第71話 間話:ジャンヌ

「ほら、飲め飲め!」

「グガァ、グガァ!」

「よし、どんどん飲ませるぞ!」


 ピラミッドがある二十階に到着すると、階段口の側でイジメが行なわれていた。

 長方形の岩の塊から頭だけ出した男が、小瓶の水を飲まされている。

 見ないフリをしてもいいけど、ちょっと気になったので、二人組の冒険者に話しかけた。


「何をやっているの?」

「んっ? ああ、このゾンビに聖水を飲ませているんだよ」

「そうそう元人間らしいから、たくさん飲ませれば治るだろうと思ってな」


 なるほど。この男はゾンビらしい。顔色が悪いのは水責めが原因ではなかったようだ。

 聖水を持ってないから、イジメの協力はできないけど、調べる事は出来る。

 二人の後ろから、ゾンビをよく見て調べてみた。


【名前:ジェイ 年齢:18歳 性別:男 身長:174センチ 体重:58キロ 状態異常:ゾンビ化重度】


 地下十階で会った男が言っていた通りのようだ。

 多分、カナンと一緒にいた冒険者で間違いない。


 でも、聖水を三十本以上もガブ飲みさせられて、『聖耐性LV1』のアビリティを習得している。

 これ以上は何本飲ませても効果はないけど、赤色魔石で作った聖水を飲めば人間に戻れると思う。


「ゾンビじゃなくて、ジェイという人間みたいよ」

「んっ? 姉ちゃん、分かるのか?」

「いいえ、ただの女の勘よ。それよりもこのゾンビを預けた人はどこにいるの?」


 正体を教えると面倒なので、女の勘で誤魔化しておいた。

 二人は「女の勘かよ」と笑ってから、知らないと答えた。


 知らないなら、ピラミッドの中にいる冒険者達に聞くしかない。

 下に下りながら、出会った冒険者達に話を聞いていく。だけど、答えは同じだった。

 でも、ピラミッドの底まで行くと、負傷して動けない冒険者達を見つけた。


「うぐっ、仮面の男なら知っている。太陽石を渡せと言ってきて、いきなりブン殴ってきた」

「頭のイカれた野朗だから、女のあんたは近寄らない方がいいぜ。何されるか分からねぇ」

「そうですか……」


 目撃者というか、被害者を見つけてしまった。十一時間ぐらい前に襲われたそうだ。

 太陽石だけを狙う強盗は珍しいけど、被害者は冒険者カードも盗まれたらしい。

 ゾンビ化した人間を岩に閉じ込めたりと、どうも愉快犯の匂いがしてきた。

 被害者達の情報を頼りに下の階に向かった。


 ♢


 二十階と二十一階の階段内には、たくさんの負傷者が倒れていた。

 その数は合わせて百四十人を超えていた。

 どんな凄腕凶悪犯かと思ったら、二十二階の大広間でロープで拘束されていた。


「だから、俺達は違うって言ってるだろう!」

「そうだ! 俺達はいきなり襲われただけだ!」

「嘘を吐くな! 残りの仲間を教えろ!」


 二十人程の冒険者に囲まれた容疑者二人は、犯行を強く否定している。

 二人の顔には殴られた痕がハッキリ見える。キツめの訊問を受けているみたいだ。

 十時間以上も暴行する方もヤバイけど、これだけやられても否定する方もヤバイ。


「あの二人が犯人なんですか?」

「んっ? ああ、間違いない。盗まれた物を身につけていた」

「へぇー、そうですか……」


 取り囲んでいた人に話を聞くと、盗まれた物を持っていたから間違いないそうだ。

 それだと落ちていた物を拾っただけでも、犯人になってしまう。

 何とも無理矢理な感じだけど、真犯人が捕まらない限り、無実を証明するのは難しい。


「だから、俺達を襲った奴が犯人なんだよ! そいつを探せよ!」

「そうだ! 俺達を犯人にしたいなら、顔に包帯を巻いた男を連れて来いよ!」

「包帯?」


 だけど、容疑者二人には真犯人の心当たりがあるようだ。

 包帯男を出せと言われて、囲んでいる冒険者達がかなり焦っている。


「くっ! おい、包帯の男は本当に見つからないのか?」

「それが階段を下りたのか、包帯を取ったのか分からないだよ。この中にいるかもしれない」

「服が水浸しだったんだ! この中にいたら見逃すはずがない! 下に逃げられたんだよ」

「どうすんだよ? めちゃくちゃ殴ったぜ。今更、間違いでしたとは言えねぇからな」


 なるほど。容疑者二人は無実の可能性が高そうだ。

 それは取り囲んでいる冒険者達がよく分かっていると思う。

 二人は真犯人に襲われて、罪をなすりつけられたとしか思えない。


 だとしたら、その包帯男を探さないと何も分からない。

 ここにいる人達は誰も探したくないみたいだから、私が下に探しに行ってあげよう。


 ♢

 

「包帯男? ああ、そういえば、高額で命結晶を買いたいという怪我した男がいたな」


 下の階に下りると、包帯男の目撃情報は意外とたくさんあった。

 お金と交換に命結晶を買取っているらしい。

 しかも、相場の買取り価格よりも高い値段でだ。


 やっぱり仮面男も包帯男も行動に謎が多い。

 お金を持っているのなら、町の換金所で普通に購入すればいい。

 それが出来ないなら、ギルドの犯罪者リストに載っている冒険者の可能性が高い。

 犯罪を犯した冒険者は賞金首として、名前や顔写真、アビリティが公開される。

 顔を執拗に隠していた理由が賞金首なら納得できる。


 とにかく、顔を隠している冒険者が容疑者なのは間違いない。

 包帯男の目撃情報を頼りに、どんどん下の階に下りていった。


 地下二十八階……


「ああ、顔に血まみれの包帯を巻いた男なら見たよ。左腕を大怪我したのか土で固めていたな」

「あんたの仲間か? 一応止めたんだけど、『痛くないから大丈夫だ』って言って下りていったぜ。五時間ぐらい前だったかな?」

「ありがとうございます。追いかけてみます」


 二十八階の階段に座っている冒険者に話を聞くと、左腕を怪我している事が分かった。

 二十七階の階段では左腕は怪我してなかったから、二十七階で冒険者かトレントにやられたようだ。


 だけど、トレントに負傷させられたのなら、今までの強さから考えて少し不自然な気がする。

 冒険者にやられたと見た方が正解だと思う。ここに来て、また襲い始めたようだ。


「それにしても……どんだけ体力あるのよ?」


 仮面男が二十階に現れてから、二十六時間は経過している。流石に探すのが面倒くさいなってきた。

 私が十六時間も探しているのに、全然追いつけない。不眠不休で行動しているようだ。

 それだけのやる気があるなら、真面目に冒険者をやればいいのに。


「あぁー、疲れた。そろそろ追い抜きたい」


 文句を言いつつも、下の階を目指して頑張っている自分を褒めてあげたい。

 階段での目撃情報が無くなった時が犯人を追い抜いた時だ。

 あとは階段でゆっくり休憩しながら、犯人が来るのを待つだけでいい。


 ♢


「本当ですか!」

「ああ、仮面や包帯を顔に着けた男は通ってないと思う。他の冒険者にも聞いて確かめてみればいい」


 三十階の階段で初めて包帯男の目撃情報がなかった。二十九階で追い抜いたみたいだ。

 念の為に他の冒険者にも聞いてみたけど、誰も見てないという答えだった。

 これでやっと休憩する事が出来る。


「はぁー、これでやっと休めるよぉー」

「何か知らんが良かったな」

「はい。あっ、あのぉ、図々しいお願いなんですけど……」

「んっ?」


 包帯男との戦闘や帰り道の事を考えると、流石に寝ないと駄目だ。

 四人組の四十代の小父様冒険者達に可愛いくお願いしてみた。


「ああ、そのぐらいならいいぜ! でも、二時間で勘弁してくれよ」

「すみませーん。じゃあ、二時間だけお願いしまーす!」


 やっぱり私が可愛い女の子だから断られなかった。

 紳士の小父様達が心良く引き受けてくれた。

 これで安心して眠る事が出来る。


 五時間後……


「むにゅ……へへっ……んっ……ハッ! おじさん達がいない⁉︎」


 目を覚ますと、自分でも寝過ぎた自覚はあった。でも、人を信じる心は大切だと思う。

 身体にかけてあった毛布を退けると、急いで時計を見た。もう五時間も経過していた。

 

「毛布の優しさとかいいから、起こしてよぉー」


 口元のヨダレを手の甲で拭き取ると、急いで階段を下りていく。

 でも、途中で階段を下りるのをやめた。階段に負傷した人達がたくさん倒れている。

 その中にはおじさん達四人もいた。駆け寄って声をかけた。


「おじさん、どうしたんですか!」

「うぐっ、姉ちゃんか……起こしに行けなくて悪かったな。強いゴーレムが暴れているって聞いて、他の冒険者の応援に行ったんだ。そしたらこのザマだ。まったく情けねぇ」


 かなりボロボロだけど、おじさん達は笑う余裕はあるようだ。

 でも、これだけの冒険者を負傷させるレッドゴーレムがいるとは思えない。

 赤い宝箱から七個の石を集めた進化種かもしれない。


「それでそのゴーレムは倒せたんですか?」

「いや、この通りボロボロにやられたよ。でも、安心しな。ゴーレムはBランクパーティに倒されたからよ」

「それは良かったですね」


 どうやら、私の出番はないようだ。でも、こんな偶然があるだろうか。

 もしかすると、仮面男が石を七個集めているのは、人為的に進化種を作る為なんじゃ……


「あぁー、そういえば、ゴーレムの身体から仮面を着けた男が出てきたとか言っていたな」

「えっ? えぇー、その男はどうなったんですか⁉︎」


 私が真剣に仮面男の恐ろしい目的を考えていたら、おじさんがサラッと重要な事を言ってきた。

 そういう重要な事は一番最初に教えてほしい。


「まあまあ、落ち着けよ。溶岩の中に自分から飛び込んで死んだらしい」

「そんなぁ……」

「安心しろ。倒したヤツらから話はしっかり聞いている」


 せっかく頑張って、ここまで追いかけて来たのに、死んだとか信じられない。

 落ち込んでいる私におじさん達は、Bランクパーティから聞いた仮面男の情報を話してくれる。


 何でも落ちている手足を調べたら、『ゾンビナイト』という新種のモンスターだったらしい。

 一人だけ負傷者していた銀髪の男が、戦利品だと言って、腕を見せてくれたそうだ。

 でも、ちょっと待ってほしい。それはあり得ない事だ。


「あれ? でも、死んだモンスターの身体は素材以外は消えますよね?」

「確かにそうだな? ハハッ。まだ溶岩の中で生きているのかもしれないな」

「……」


 私の疑問におじさん達が笑って答えた。

 火耐性が高いマグマスライムでも溶岩の中では生きられない。


 でも、可能性はある。むしろ、千切れた手足が消えてないなら、生きている可能性の方が高い。

 おじさん達はどこでゴーレムが倒されたのか知らないみたいだけど、三十階を探せば見つかる。

 念の為にもうちょっとだけ探してみよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ