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第46話 間話:メル

「メルちゃん、冒険者なんて続けなくてもいいのよ?」


 短剣と鞄を持って、家からダンジョンに行こうとすると、心配顔のおば様に呼び止められた。

 隊長が死んでしまったから、宿屋暮らしから実家暮らしに戻ってしまった。


「大丈夫です、おば様。安全な一階までしか行きませんから。それじゃあ行ってきます」

「えぇ、気を付けるのよ」


 おば様に元気に手を振って、家から出発した。

 暗いお葬式気分の家の中にいる方が、おかしくなりそうだ。


 隊長が二十階で行方不明になってから、四日になる。家に帰ったのは昨日の朝だ。

 昨日はおじ様とおば様に事情を話した。

 隊長は親子喧嘩していたみたいだけど、おば様が「馬鹿息子が……」と言って泣いていた。

 心配してくれるお母さんがいてくれる隊長は幸せだと思う。それに親不孝だと思う。


「まだ死体も見つかってないんだから、頑張らないと!」


 皆んなは隊長が死んだと思っているみたいだけど、私はまだ信じられない。

 隊長はほとんど怪我してなかったから、岩壁や岩階段を作って、その中に隠れていたかもしれない。

 こうやって毎日ダンジョンに行けば、冒険者の人から隊長の目撃情報が聞けると思う。


 それに毎日行けば、お金も貯まるから嬉しい。お金があれば自分の好きな物が買える。

 隊長が買ってくれた服は地味でダサいから、綺麗な色の服に変えたい。


「エイッ!」


 ドスッ! ダンジョンに入ると、まずはスライムを倒していく。

 筋力上昇LV4の手袋とアサシンダガーのお陰で一撃で倒していける。

 体力上昇LV4、自然治癒力LV4、素早さ上昇LV3とこれだけ装備していたら、やっぱり強い。


「そろそろ二階に行きたいな。小さな弓矢も買わないと」


 服も良いけど、隊長の言う通り投資も大事だ。

 弓矢が上手くなれば、二階のビッグモスキートも倒せるようになる。

 スライムの二倍のお金を稼げるようになるから、大金持ちになれる。


「でも、まずは宝箱を見つけよう。こっちにあると思う」


 勘を頼りに炭鉱迷路を進んでいく。

 二十階の青い宝箱を開けた後に『宝箱探知LV3』になった。

 これのお陰で一番近くの宝箱の方向が、何となく分かるようになった。

 隊長の置き土産らしいから、大事に使わせてもらう。


「あっ、やっぱりあった!」


 通路を進んでいくと、予想通りに行き止まりに赤い宝箱があった。

 それに曇り空のようなモヤモヤに、途中から雨が降り出した。

 宝箱に近づくと、頭の中のモヤモヤが変化するみたいだ。

 これならジェイさんが言っていたように、赤い宝箱の中身を売って生計を立てられる。


「ちょっと早いけど、換金所に行こうかな」


 宝箱を全部取ってしまうと、勘が働かなくなるらしい。

 お昼ご飯までは時間があるけど、換金所に魔石を売りに行く事にした。

 ちょうどいいので、換金所のおじさんに子供用の弓矢があるか聞いてみよう。


 ♢


「どうしたんだい、メルちゃん⁉︎」


 換金所に行くと、赤毛のおじさんがビックリした顔になった。

 ビックリするよりも私は椅子が欲しい。


「これを売りに来たんです」

「……あぁ、遺品整理に来たのか」


 カウンターに置いた鞄の中身を見て、おじさんは失礼な事を言ってきた。

 隊長の物を勝手に売りに来たりはしない。


「違います。さっき一人でスライムを倒して来たんです」

「そうか……まだ、アイツの亡霊に取り憑かれているのか。メルちゃん、こんな事をしても誰も喜ばないぞ。君はこれから、君の人生を歩んでいいんだ」

「はい?」


 前もそうだったけど、このおじさんは人の話を聞いてないと思う。

 目頭を押さえて、何故か涙を我慢している。

 悲しい話も感動する話も一つもしていない。

 さっさとお金貰って、良い弓矢が買えるお店の情報を手に入れよう。


「おじさん、子供用の弓矢が欲しいんですけど、良い弓矢を売っているお店を知りませんか?」

「すまないな。歳を取ると涙もろくなってしまう。それで弓矢は何に使うんだ?」


 おじさんが紺色のハンカチで涙を拭くと、弓矢の使用目的を聞いてきた。

 日常生活で弓矢は使わないから、ダンジョンで使うに決まっている。


「盗賊は弓矢が得意みたいなんで、弓矢を買って、二階のビッグモスキートを倒そうと思ってます」

「それは駄目だ! 死んだカナンもメルちゃんに、自分の分まで生きて欲しいと思っているはずだ! 冒険者なんて危険な仕事はもう辞めなさい!」

「うっ……」


 ダン! 正直に話したら、おじさんが握り締めた右手をカウンターに強く叩きつけた。

 聞く相手を間違えたみたいだ。おば様もそうだけど、おじさんも冒険者を続けるのに反対している。

 おば様と同じように嘘を吐いた方がいいみたいだ。


「ごめんなさい、冗談です」

「えっ、冗談……」

「はい。本当は弓矢で魚を取ろうと思っているんです」

「何だ、そんな事か……コラ! 大人を揶揄ったら駄目じゃないか」

「ごめんなさい」


 冗談だと言うと、おじさんはポカンとした顔になった。

 その後は本気で怒ってしまった事が、恥ずかしくなったみたいだ。

 叩きつけた右手を軽く持ち上げて、軽く怒ってきた。

 そんなのいいから、弓矢のお店を教えて欲しい。


「あっ、本当だ……」

「これでたくさん魚を取れるぞ。でも、強化すると威力が上がるから、魚が木っ端微塵になるからな。食べる所が無くなってしまう」

「はい、気をつけます」


 おじさんは弓矢のお店は教えてくれなかった。

 だけど、宝箱から手に入れたばかりの神銅三個を使って、短弓という銅色の弓矢を作ってくれた。


「矢はモンスターの骨を加工した強力な物もあるが、まあ、魚相手なら一番安い木の矢で十分だろう。この近くにある武器屋なら、一本5ギルで売っているはずだ」

「はい、探してみます」


 余計な事を言わなければ、おじさんは物知りみたいだ。

 弓矢と換金したお金を受け取ったので、食堂に行く前に木の矢を買いに行こう。

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