第4話 天才の原石
帰りが遅いから家の前でウロウロ待っていると、走ってくるメルの姿が見えた。
歩いてやって来たら、役立たずの怠け者だと叱れたのに面倒なヤツだ。
「37分だ。道にでも迷っていたのか?」
「ハァ、ハァ……す、すみません」
疲れ果てたのか、俺の前まで走って来ると地面に座り込んだ。
遅れた理由を聞いているのに、また謝るだけで答えようとしない。
「謝るのだけは得意なようだ。初日だから許してやる。その冷えたパンはお前が全部食べろ」
「は、はい……ありがとうございます」
「食べたら次の仕事を与えてやる。家の中に入って、手と顔を洗え」
馬鹿にするように軽く笑って許してやると感謝された。
パサパサのパンが食べられるのが嬉しいようだ。
風呂場で手と顔を洗わせて、台所の冷蔵庫からジジイの牛乳瓶を取り出した。
食費は俺が用意するように言われたが、文句は言わないだろう。
部屋に連れていって、パンと一緒に食べさせた。
「はぐっ、はぐっ!」
「誰も取らない。ゆっくり食べろ」
「は、はい!」
食べるのも早いようだ。三分もかからなかった。
食べ終わったので、約束通りに次の仕事を教えてやろう。
「俺の仕事は冒険者だ。お前の仕事はその手伝いだ。今から言う、『アビリティ』と呼ばれる能力を習得してもらう。習得できれば仲間として給料を払ってやる。分かったな?」
「はい、頑張ります!」
「頑張るだけなら馬鹿でも出来る。パンみたいに遅れて持ってきたら失格だ。制限時間は一週間だ。習得できない時は家から出ていけ。いいな?」
「は、はい……」
頑張ると言ったくせに、習得する自信はないようだ。
失敗した時の罰を冷酷に教えてやると、沈んだ声が返ってきた。
まあ、謝ると食べる以外は何一つ上手く出来ていない。自信がないのも仕方ない。
幸せな生活を期待して、この家にやって来たのなら諦めろ。
馬鹿姉貴が二度と孤児を送ろうと思わないように、お前には徹底的に後悔してもらう。
習得してもらうアビリティは、『筋力上昇』『体力上昇』『調べる』の三つだ。
さっきの修業で足りない部分は見させてもらった。
アビリティとは条件さえ満たせば、誰でも習得できる技術や能力のようなものだ。
指定した三つの初級アビリティは、大人なら誰でも習得しているものだ。
だが、誰でも習得できるが、誰でも簡単に習得できるわけではない。
簡単に習得できるアビリティを指定したりしない。
『筋力上昇』——重い物を持ち上げるのに役立つ。重い剣を振り回していれば習得できる。
『体力上昇』——長時間動いても疲れにくい身体になる。その辺を走り回っていれば習得できる。
『調べる』——手で触れた対象を調べる事が出来る。勉強すれば自然と習得できる。
「まずはお前が習得しているアビリティを調べる。手を握るから好きな方を出せ」
「お、お願いします……」
アビリティの簡単な説明を終えると、メルに手を出させた。
習得アビリティを見るには、身体に触れなければならない。
俺の調べるはLV4で一人前程度の力がある。
アビリティを実戦で使うなら、最低でもLV3以上は必要だ。
【名前:メル 年齢:7歳 性別:女 身長:121センチ 体重:18キロ】
少し怯えた感じで出してきた右手を握ると、調べるを使った。
メルの身体の前に白い文字が浮かび上がった。
基本情報はどうでもいいので、習得アビリティを確認した。
『空腹耐性LV4』『物理耐性LV4』『自然治癒力LV3』『忍耐力LV3』『体力上昇LV2』『筋力上昇LV1』『調べるLV1』——
「⁉︎」
何だ、これは? 最低最悪のクズ親もいたもんだな。
気分が悪くなるものを見てしまった。アビリティは習得した順番に並べてみた。
最初に空腹耐性、次に物理耐性、自然治癒力なら、どんな環境で生活していたのか大体分かる。
右手をよく見てみたら細かな傷が見える。いや、これは俺がやったのかもしれない。
「あ、あの……どうですか?」
「……合格だ」
「えっ?」
右手を握ったまま俺が不機嫌そうに黙っているから、メルが聞いてきた。
約束は約束だ。右手を離すと合格だと教えてやった。
新しい課題を用意して、一週間も付き合うつもりはない。
さっさと仕事させてやる。
「指定したアビリティは習得していた。明日から仕事だ。自分の食費ぐらいは稼げるようにしてやる」
「あ、ありがとうございます!」
「礼はいい。まずは武器だな……短剣なら少しは素早く使えるだろう。これを持ってみろ」
「はい!」
鍵の付きの棚から一番軽そうな短剣を探して、それをメルに渡した。
全長30センチ以下、重さ350グラム程度だ。
長剣の三分の一程度の重さだから、三倍は速く振り回せる。
【アイアンダガー:短剣ランクN】——地上製の鉄の短剣。
「どうだ、使えそうか? 無理なら正直に言え。嘘を吐かれる方が迷惑だ」
「えーっと、使えると思います」
「だったら、それを使え」
「ありがとうございます」
俺の質問にメルは、右手に持った短剣を軽く振り回してから答えた。重さは問題ないようだ。
あとは安っぽい服をどうにかして、髪を美容院で綺麗にさせよう。
俺の隣を歩くなら、それなりの格好になってもらわないと俺が恥をかく。
「次は服を買いに行く。汚れた服で隣を歩かれると笑われてしまう……とりあえず、コレを着ろ」
「うぅ……すみません、ありがとうございます」
タンスの中から適当に黒色の上着を取り出すと、メルに投げ渡した。
鍛えれば少しは使えそうだが、駄目なら姉貴に手紙を送って、使った費用を請求する。
久し振りのダンジョンだが、メルを鍛えるついでに、雑魚モンスターでも倒してみるか。




