第2話 自宅修行
半年後……
「578、579、580——」
ポタポタと身体から汗を流して、部屋の中で腕立て伏せを続ける。
俺から独立した四人が、半年でDランクからBランクに昇格した。
アイツらは上を目指してないと言っていたが、Eランクに落ちた俺の遥か上にいる。
パーティランクは総合評価だから、腐ったリンゴが混じっていても俺よりも上だ。
「くっ、まだ筋力LV4のままか」
腕が疲れたので一旦休憩した。
アビリティ『調べる』で自分の『筋力』を調べたが、LV4のままだった。
パーティメンバーの独立、あれから全てが上手くいかなくなった。
何十人も冒険者を勧誘しているのに、変な噂の所為で誰も仲間にならない。
仕方なく一人でダンジョンに入っては、魔石とモンスター素材を集める日々を送った。
だが、それも一ヵ月で精神的に限界だった。
同業者に後ろ指を指されて、笑い者にされながら同じダンジョンで働けない。
早くアビリティを習得・強化して、別の町のダンジョンで再出発を目指すしかない。
そもそも、この町の冒険者は俺の価値が分かってない。
アレンを雇う前の時間には巻き戻せないが、俺一人でも先に進む事は出来る。
数年後にAランクダンジョンで活躍する俺の噂を聞いて、後悔するがいい。
「カンナ、お姉ちゃんからあんたに手紙よ。鍵を開けなさい」
「チッ。部屋の前に置いておけよ。あとで見るから」
修業中なのに扉がノックされたと思ったら、ババアが手紙を持ってきた。
もちろん見るつもりはない。
姉貴は珍しい魔法属性持ちで聖騎士の職業に就いている。
その所為か町の冒険者達には聖女と呼ばれている。
職業とは才能のようなもので、年齢や性格などの影響で勝手に決まってしまう。
俺の職業は地属性魔法使いという平凡なもので、優秀な姉貴と子供の頃から比較されている。
「まったく、いつまで引きこもっているんだい? ジャンヌが仕事を紹介すると言った時に、意地を張らずに引き受ければ良かったんだよ。今からでも遅くないんだから、私が——」
「余計な事するなよ! 俺は引きこもりの屑じゃない。修業してんだよ!」
すぐに余計な事をしようとするババアを怒鳴りつけた。
俺はその辺の社会不適合者の落ちこぼれ連中とは違う。
選ばれし存在だ。今は来るべき日の為に修業している。
姉貴のお下がりの仕事なんか恥ずかしくて出来るか。
「はいはい、分かりました。それと明日からあんたの部屋に、教会から引き取った女の子に住んでもらうわよ。綺麗に片付けておきなさい」
「はぁ? 何言ってんだよ。俺はどこに寝ればいいんだよ」
早く修業を再開したいのに、ババアが馬鹿みたいな事を言ってきた。
二階の俺の部屋に住まわせなくても、二階には散らかっている姉貴の部屋がある。
住まわせるなら、そこを片付けさせればいい。
「そんなの決まっているでしょ。あんたが一番暇なんだから、あんたの部屋で面倒見るんだよ」
「おいおい、勘弁してくれよ。また姉貴だろう? 猫じゃないんだから、人間拾ってくるなよ」
「猫じゃないから拾ってくるんだよ! 私もあんたみたいな駄目息子を育てているんだから、あんたも親の育てる苦労を知りな!」
「くっ!」
何度も修業中だと言っているのに、まったく話が通じない。
修業で忙しい俺に、ババアが小汚い子供の面倒を強引に押し付けてくる。
そして、ババアにこんな馬鹿なお願いをするのは姉貴しかいない。
拾ってきた子供で孤児院が満杯になったから、今度はこの家を満杯にするつもりだ。
馬鹿姉だから可哀想可哀想と言って、捨てられた子供を見つけたら拾ってくる。
「おい、女の子なんだろ? 俺がエッチな事をするかもしれないぞ。そうなったら色々と困るんじゃないのか? そうなる前に姉貴の所に追い返せよな!」
だが、ここは俺の聖域だ。何人たりとも俺の許可なしには立ち入れない。
無理矢理に入ってくるなら、傷モノにして追い出してやる。
「あっははは! あんたにそんな度胸はないよ。まあ、その時は変態達が入る場所で、一生修業してもらうから大丈夫だよ。あんたが処分できて本当に助かるよ」
「このババアが!」
怒りで血が沸騰しそうだ。母親が息子に言っていい台詞じゃない。
俺はやる時は子供、大人関係なくやる男だ。臆病者ではない。
彼女がいないのは、今は仕事が恋人だからだ。
「分かった。子育てするだけでいいんだろ? 良い子になるように育ててやるよ」
「あんたが思っているほど、子育ては甘いもんじゃないよ」
「ババアに出来る事なら誰でも出来るんだよ。子供なんて飯を食わせれば育つんだよ」
だが、そっちがそのつもりならば俺にも考えがある。
犯罪行為を使わずに、一日で家から追い出してやる。
「はぁ……家賃はタダにしてあげるけど、食費と日用品はあんたが用意するんだよ。出来ない時は、あんたには家から出ていってもらうよ。二人も面倒見れないからね」
「はいはい、分かった分かった。部屋の掃除の邪魔だからさっさと消えろ」
「あんたが消えた方が一番早く片付くよ。無理なら諦めて仕事するんだね」
いちいち余計な事を言ってくるババアが、やっと部屋の前から立ち去った。
この俺に子育てが甘くないとか言ってたけど、誰に言っているのか分かってない。
俺は隊長として、ダンジョンで大人達を一人前の冒険者に育てていた。
子供ぐらいは余裕で見れる。
「さてと、どんな風にイジメてやろうかな?」
子供が来るのが今から楽しみだ。
少し厳しくするだけで新米冒険者達のように、『辞めさせてください!』と泣いて頼み出す。
一時間以内に追い出せば、二度と子供を住まわせようとは思わないだろう。




