第18話 伐採作業
地下十階『ジャングル』……
地上と木の上からの赤毛猿の攻撃を警戒しつつ、隠した宝箱に向かって進んでいく。
以前は弓使いがいたから、飛行系のモンスターは弓矢で勝手に撃ち落としていた。
盗賊も弓矢は得意だが、メルが十四歳ぐらいにならないと使えないだろう。
「巨大蚊と同じだ。視覚だけに頼らずに、木のしなる音や葉っぱの擦れる音を聞き逃すなよ」
「そう言われると、たくさん聴こえてきました⁉︎」
「俺と自分の音は聞き流さないと大変だぞ」
油断しないように注意するが、メルには早かったようだ。
近場の音さえも敏感に聴き取っている。
とりあえず半径一メートル以内の音は無視していいぞ。
「あっ⁉︎ 隊長、あそこに宝物があります!」
「んっ?」
メルが宝物を見つけたと、木の上を指差して言ってきた。
俺が隠した宝物はもっと先の方にあるから、別の宝箱を見つけたようだ。
ラッキーだけど、猿に気づかれたら大変だ。次からは小声で報告しろ。
「どこにあるんだ?」
「あそこの木の上にあります」
「うーん、確かにあるな」
指差す方向を念入りに探してみると、地上十メートルの高さに赤い宝箱がチラッと見えた。
枝分かれした幹の真ん中にあるから、周囲を破壊しても宝箱は落ちてこない。
宝箱はメルに開けさせないと意味ないが、落ちたらかなり痛そうだ。
「あそこまで、登れるか?」
「落ちていいなら登れます!」
「それは登れないのと一緒だな」
一応木登りが得意か聞いてみたが、自信満々で出た答えがそれなら無理だ。
俺が取りに行くか、メルを背中に背負って登るしかない。
だけど、俺も木登りは得意じゃない。
木の幹は太く、巻き付いた太い蔓は登りやすそうに見える。
でも、壊れやすく、滑りやすそうにも見える。
俺の全体重と命を預けるには、コイツは信用できない。
「仕方ない。時間はかかるが、この木を倒して回収するか」
大きな音を立てれば、赤毛猿が集まってくる。
だけど、邪魔者を誘き出して排除できるから、ちょうどいいだろう。
宝箱までの大岩階段を作るという手もあるが、魔力が途中で無くなりそうだ。
動けなくなるまで頑張っても、手に入るのは死だけだ。
「ハァッ! ヤァッ!」
ドガッ‼︎ 剣を抜くと、大木に刃を叩き込んだ。木の倒し方は前に見た事がある。
剣を幹に叩き付けて、まずは三角形の切り込みを作る。
次に反対側を剣で真横に切っていく。
あとは半分ぐらい切れば、木の重みで勝手に倒れていく。
力自慢の斧使いが、この方法で木を倒していたから間違いない。
二十分後……
「ハァ、ハァ……!」
「隊長、大丈夫ですか? タオルを貸しましょうか?」
「使用済みは使わない! お前は周囲の警戒をしていろ!」
「はぁーい」
メルの汗まみれのタオルなんて使えない。
毎日の筋力トレーニングで鍛えたはずの両腕が、小刻みな悲鳴を上げている。
直径八十センチ程度の小木のくせに、倒されないように無駄に頑張っている。
俺を本気にさせたいようだ。
それに五十センチまで切って、別の方法を試すわけにはいかない。
それだと俺が失敗したみたいに思われてしまう。
俺は絶対に失敗しない男だ。
十分後……
「あっ、本当に倒れていきます!」
「ハァ、ハァ……手こずらせやがって」
ミシミシとへし折れる音を立てて、大木がドォスンと地面に切り倒された。
蒸し暑いジャングルの所為で、予想以上に体力を消費してしまった。
切り倒した大木の宝箱に、メルと一緒に近づいていく。
枝分かれした幹の間に、磁石のように宝箱が張り付いている。
「銀色の石が入っていました」
「それは『神鉄』だ。もう一つの宝箱を回収に行くぞ」
宝箱の蓋を開けて、メルが銀色に輝く石を見せてきた。
一個一万ギルだから落とされる前に没収した。
♢
「剣で木を倒せるなんて凄いですね。普通の剣だったら、剣の方が折れそうです」
「この剣は姉貴のお下がりの剣だからな。その辺の剣よりも頑丈に出来ている」
痺れた両腕を休憩させつつ、歩きながら無駄話をしていく。
メルが俺の剣を凄いと褒めているが、本当に凄いのは俺の腕力だ。
「ジャンヌお姉ちゃんの剣なんですね」
「お姉ちゃんねぇ……」
姉貴は引き取った孤児に、お姉ちゃんと呼ばせているみたいだ。
俺にはお姉様と呼ばせていた。
たまに可愛い弟をサンドバッグにする酷いお姉様だった。
でも、俺に押し付けている時点でお姉ちゃん失格だ。
「確かこの辺だったはずなんだが……」
姉貴の武勇伝を聞きながら、宝箱の隠し場所に到着した。
目印に四個の岩塊を、地面に四角形に並べている。
その四角形の角から、二十歩進んだ茂みの中に宝箱がある。
ジャングルの景色は似ているから、間違わないに目印を置いておいた。
ここじゃないみたいだから、別の角から二十歩の茂みの中だろう。
「あったぞ。早く開けろ」
二回目で無事に隠しておいた宝物を見つけた。
誰かが悪戯で岩塊を動かしてはいなかったようだ。
メルが宝箱を開けて、銀色の石を見せてきた。
「さっきと同じでした」
「そうだろうな。LVが上がったか調べるぞ」
「はい、お願いします」
これで合計十一個の宝箱を開けさせた。そろそろ宝箱探知LV2になってほしい。
そう思って調べたが、結果はLV1のままだった。まだまだ足りないようだ。
次にキリがいい数なのは二十個だから、その時にでも調べるとしよう。
「次で最後の宝箱だが、さっきのように別の宝箱が見つかる可能性もある。油断せずに探すように」
「はい、今度は青い宝箱を探してみます」
「そこまで期待していない。赤で十分だ」
冒険者になってから二年も経つが、青い宝箱は数個しか見つけてない。
冒険者二週間の素人が簡単に見つけられる物ではない。
馬鹿な夢を見させるつもりはない。時間の無駄だ。