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第167話 結婚条件

 村長宅で冒険者カードを二枚手に入れると、魔人村の自宅に向かった。

 棚に保管している魔術の指輪を探して、それに銀魔石をくっ付けた。

 スッと魔石が吸収されたので、属性魔石で間違いないようだ。

 二個だけ持ち出すと、外に出た。


 次の目的地はファーストの町だ。メルを小船に乗せて出発した。

 職人ジジイ達には用はないが、町の武器屋で良い指輪が買えるかもしれない。

 苦労して人魚を倒しまくって、水の指輪を作るのは最終手段だ。

 その前にもっと楽な方法を探すに決まっている。


「二百人匹倒せば、水の指輪になるんでしょうか?」

「一個じゃ駄目なのは分かった。吸収するなら作れるのは間違いない」


 メルが聞いてきたが、流石に人魚の銀魔石を二百個も欲しくない。

 十個で変化すればいいが、百個も吸収させれば、何かの指輪に変化するだろう。

 あと人匹とかいう変な人魚の数え方を作るな。


 町の近くで降りると、カカシンのローブで完全偽装した。

 これで堂々とは無理だが、コソコソ程度には町中を観光できる。

 二階と同じように簡単に、町の中に入る事が出来た。


 いつもならば屋根の上で、住民達が大歓迎してくれるのに今日は一人もいない。

 寂しさはまったく感じない。むしろ、嬉しいぐらいだ。


「見るのは武器屋だけだ。他は見ないからな」

「魔導具屋さんぐらいは行きましょうよ」

「声でバレるかもしれないだろ。パパッと帰るんだよ」

「むぅー!」


 余計な買い物も寄り道もしない。二階の町で看板のデザインは調べた。

 武器屋は竈門にハンマー、魔導具屋は手提げランプにテントだ。

 欲しい物が無かった時は、無駄に歩き回らずに人魚狩りを繰り返す。

 予定通りに精霊の書を二階の冒険者達に無料配布する。


「見つけたぞ」


 人通りの多い町中を通って、武器屋を見つけた。

 この町は子供が多いから、いざという時は人質には困らない。

 店に入ると、木製カウンターに赤髪の若い女が座っていた。

 自分で探すよりも聞いた方が早い。カウンターに指輪を置いて聞いてみた。


「すみません。この指輪と同じ効果の指輪はありますか?」

「んっ? あー、この指輪の複製なら、あそこにありますよ」

「複製ですか?」


 女店員サマンサは十六歳と若いが、流石は武器屋の店員だ。

 紫色の宝石が嵌った指輪を軽く見ると、すぐにやる気のない声で棚の一つを指差した。

 複製という言葉が気になるが、偽指輪という意味だろう。


 棚まで移動して偽指輪を調べると、確かに魔術の指輪と表示された。

 しかも、値段は百万ギルと本物よりも高い。

 この町では偽物の方が価値があるみたいだ。


「魔法が使える指輪とかありませんか? 強力なヤツがあれば買いたいんですけど」

「強力な物? 魔法の指輪は販売してませんよ。欲しいなら、町の住民になるしかないですね」


 狭い店内を歩いて、魔法の指輪を探してみたが見つからなかった。

 店員に聞いてみると、やっぱり売ってないそうだ。


 だけど、売って欲しいなら自分と結婚しろと言ってきた。武器屋の店員ならば利用価値がある。

 武器を横流ししてもらう代わりに、付き合うぐらいは考えてもいいかもしれない。


「あー、冒険者と付き合うつもりはないんで」

「えっ?」


 見ていただけで、何も言ってないのに女店員が左手を振って断ってきた。

 若いだけで男からチヤホヤされると勘違いするな。最初から付き合うつもりはない。

 カカシンの余った布で加工した収納鞄から、人魚の銀魔石を取り出した。


「いえいえ、この銀魔石の使い方を聞きたいだけです。食べるんですか?」

「んっ? あー、この魔石は復元できないから食べないです。水色の精霊の書とかありますか?」

「えぇ、ありますけど……」


 聞かれたので、素直に鞄から取り出して、新品の精霊の書を渡した。

 パラパラと?だらけの本を捲り終わると、女店員が教えてくれた。


「全然使ってないですね。ここに書かれている物を全部祭壇に捧げれば、隠し文字が現れますよ。それに銀魔石の使い方があります。素材を集めるのが大変ですけどね」

「へぇー、そうなんですか」

「ついでに水、木、炎、風の四種類の書を集めると町の住民になれます。指輪が欲しいなら、結婚するか、それしか方法はないですよ」


 もしかすると人魚を倒したと分かったから、俺に少し興味を持ったのかもしれない。

 親切に交際する条件を言ってきた。これが噂に聞くツンデレというヤツだな。

 精霊の書を四種類集めたら、子猫みたいに甘えてくるのだろう。

 それはそれで気持ち悪いから遠慮しておこう。


「それ、極秘情報じゃないんですか? 俺に教えても大丈夫なんですか?」

「極秘じゃないですよ。教える必要がないだけです。冒険者は雑魚だから教えても無駄ですよね?」


 情報を漏らした女店員を心配して聞いたら、半笑いで雑魚だと言われてしまった。

 俺は大きくなったら、鳥さんになって空を自由に飛びたいなぁー……とか言う子供じゃない。

 俺に出来ない事はない。


「俺最強ですよ。四冊集めたら付き合う……いや、結婚しますか?」

「別にいいですよ。でも、早めにお願いしますね。二十代前半には町の誰かと結婚しているんで」

「大丈夫です。一週間以内に結婚式を挙げさせてあげますよ」

「それは楽しみです。是非、お葬式にならないように気をつけてください」


 サマンサは余裕の表情だが、結婚を約束させた。

 木の門番は焼けばいい。炎の門番は紫氷で氷漬けにすればいい。

 風の門番は強敵かもしれないが、人数を増やせば問題ないだろう。


「クスクス、隊長は気の強い女の人が好きなんですね」


 武器屋を出ると、メルが笑いながら言ってきた。


「何を言っている? 女は大人しい方がいいに決まっている」

「つまり、遊びの女ですね」

「言い方が悪いな。協力者だ。四種類集めたら、結婚を免除する代わりに協力させる」

「結局、酷い男ですね。女の敵です」


 このまま町から出る予定だから、メルが不満を言いまくる。

 面倒くさいから食堂の飯を持ち帰るしかない。

 口に飯を詰め込めば、余計な事も喋れないだろう。


 ♢


【水精の指輪:使用者に水精霊の加護を与える】


「ごほぉ、ごほぉ……回復水だ」

「隊長、死ぬほど結婚したいんですね。ちょっと可哀想です」


 血塗れの状態で泉から砂漠に這い出た。

 人魚の魔石を五十個吸収させると、魔術の指輪の宝石が水色に変化した。

 四十八回目の岩風呂を作って、人工魔石を風呂にバラ撒くと、メルに回復水を作らせた。

 早く両手を突っ込んで、水を黒炎で適温に変えてほしい。


「いっぱい本が集まりましたね。これを配って調理鍋と交換してもらいましょう」


 戦利品の水色の本が岩箱に詰め込まれている。

 当初の予定では冒険者達に無料配布する予定だったが、それだと俺が痛いだけだ。

 出来れば痛みの分の報酬が欲しい。


「くぅぅぅ!」


 熱めの風呂に飛び込むと、傷口に回復水が滲みてきた。

 水精の指輪をメルに使わせたが、水魔術LV4ぐらいの実力しかない。

 加護というぐらいだから、水耐性もあると思っておこう。


「本を配るのは炎魔法と氷魔法が使える冒険者だけだ。門番を倒す戦力として使わせてもらう」

「それはいいですけど、調理鍋は必要です。教会の子供達に焼き肉だけは酷すぎます」

「何だ、そんな事の為に欲しかったのか。子供なんて肉とハンバーグだけでいいんだよ」


 俺ならば、付け合わせの野菜も必要ない。

 教会の子供には乳牛を一頭渡しているから、直飲みで牛乳でも飲んでいればいい。

 肉と牛乳さえあれば、子供は勝手に大きくなる。


「動物じゃないんだから、普通の人は美味しい料理を食べたいんです。報酬に二十五冊貰いますね」

「おいおい、一人一個ずつ渡すつもりか?」

「当たり前です。隊長がやっているのは自給自足じゃないです。牛に育てさせているだけです」


 貰いすぎだろうと言いたいけど、次の木の門番でも活躍してもらわないと困る。

 メルのめちゃくちゃな要求を受け入れるしかない。

 それに魔剣を使いまくったから、新しいアビリティ『呪い耐性LV1』を習得した。

 まだ実感できないが、魔剣を使っても、身体への負担が減るはずだ。


 血塗れ回復水を砂漠に流すと、セカンドの町を目指した。

 グレッグが全然戻ってこない。これ以上待っているつもりはない。

 二十人ぐらいの冒険者を連れて、木の門番を焼き殺してやる。

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