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第166話 冒険者手帳

 宿屋にいた冒険者達に話を聞いて、町の情報を集めてみた。

 宿屋は大部屋の中に複数の個室があるタイプで、風呂や食堂はないそうだ。

 食事がしたい場合は、外の食堂で料理を持ち帰るのが一般的らしい。

 メルのように魔石と素材を用意して、調理鍋で作る冒険者もいるそうだ。

 

「ほら、やっぱり調理鍋が必要なんですよ」

「必要ない。祭壇があれば十分だ」


 個室に入ると、一つしかないベッドにメルが飛び込んだ。

 焼いた黒キノコを食べていただけなのに、俺よりも疲れていると主張している。


「祭壇は持ち運べないです。万が一の為に必要なんです」

「要らないと言ったら要らない。どうしても欲しいなら、冒険者から盗んで来い」

「駄目です。泥棒は犯罪です」


 盗賊に正論を言われてしまった。

 今の俺達はカカシンだから、泥棒も殺人も合法になるのを知らないようだ。

 ある程度盗んだら、黒炎で宿屋ごと証拠隠滅すればいいと教えてやろうか?


 もちろん考えるだけで、善良な冒険者達に危害を加えるつもりはない。

 ポイントに踊らされる冒険者達は、メルと同じでお馬鹿なだけだ。

 人魚を自力で倒した冒険者ならば、精霊の書を手に入れている。

 祭壇で簡単に作れる物を大量のポイントを貯めて、手に入れようとはしない。


「犯罪なのは、このポイント交換だ。完全な詐欺だぞ」

「詐欺じゃないですよ。四日もあれば、調理鍋は手に入ります」

「祭壇の門番を倒せば、一日で手に入る。それも全員分だ。絶対に裏がある」


 確かにポイントを貯めれば、安全に次の階層まで行ける片道チケットが手に入る。

 門番に比べれば、生息するモンスターは弱い。勝てなくても逃げられる。

 頑張れば頑張る程に、高性能な武器と魔導具が手に入れられる。

 良い事尽くめのポイント交換だ。


 だが、俺の直感が言っている。これは間違いなく詐欺だ。

 偽金を作る町の住民が親切な事をするはずない。

 祭壇を素通りしてもらいたい理由が必ずある。


「じゃあ、ポイント貯めずに何するんですか?」

「ククッ、決まっているだろう。こっちもポイントを配らせてもらう」

「注射器でも配るんですか?」

「もっと過激な物だ」


 メルがお馬鹿な事を聞いてきたが、相手がされたくない事をするのが基本だ。

 精霊の書を集めて、冒険者達に配って、町が悪どい詐欺をやっている事実を教えてやる。

 何百年も続いた町の信頼と実績をブチ壊してやる。


 ♢


「チッ。ここもか……」


 町の看板付きの建物を回っているが、どこも料金がギルではなく、ポイントだった。

 武器屋に売っている指輪が欲しくても、一万ポイントも必要になる。

 どうしても、クエスト依頼書をやってもらいたいようだ。


「すみません。ギルで買えないんですか? 一階の町では使えましたよ」

「悪いけど、ギルは使えないよ。二階からはポイントしか使えないんだ」


 よせばいいのに、店員のオヤジに商品を持っていって、メルが聞いている。

 どうせ適当に誤魔化されるだけか、力尽くで黙らされるだけだ。


「ギルをポイントに交換できないんですか?」

「あっはは、無理だよ。ポイントは冒険者カードでしか貯められないから、冒険者同士でも交換は無理なんだ。ポイントを貯める実力がない冒険者を、先には進ませられないからね。我慢してもらうよ」

「そうなんですね」


 今の話で分かるように、不正防止も完璧なようだ。

 その前に俺達の冒険者カードはAランクじゃない。ポイントを貰う事は出来ない。

 カードを見せただけで、攻撃されるに決まっている。


「まあ、他の方法もないわけじゃない……」

「どんな方法ですか?」

「町の誰かと結婚すればいい。識別阻害しているけど、何歳なんだい?」

「七歳です」

「あっははは、これは悪かった。まだ結婚するつもりはないようだ」


 ポイントで払えないなら、身体で払えというわけか。

 ローブ越しにメルの身体を見たオヤジが年齢を聞いた。メルは指を七本立てて見せた。

 これで七歳でもいいよ、と応えたら、この町は焼き滅ぼした方がいい。


「ポイント貯めてから、また来るしかないな。帰るぞ」

「はい。じゃあ、また来ます」

「ああ、十二歳になったら、またおいで」


 永遠の七歳と0ポイントだと何も買える物がない。

 変態武器屋から出ると、町の商店観光を終わらせた。


「隊長、どこに行くんですか?」

「名案があるから実行する」


 町を脱出すると、小船で扉がある方角を目指した。

 冒険者カードならば、魔人村に倒された冒険者の物が二人分あるはずだ。

 フードで顔を隠せば、カードの性別なんてどうでもいいだろう。


「いないな……」


 祭壇の扉に到着したが、グレッグがいなかった。扉には水が流れ落ちている。

 三兄妹とまだ花竜を探しているのか、二階の魔人村で遊んでいるんだろう。


「二人いれば十分だな。お前は炎を出し続ければいい。あとは俺が倒してやる」


 火種があれば、魔剣を好き放題に使える。

 森を燃やす必要もなく、黒炎を直に紫氷に変えればいいだけだ。


「本当にそれだけでいいんですか?」

「一回倒したんだから、余裕で倒せるに決まっている。ほら、行くぞ」


 臆病者には口で説明しても分からない。

 メルを岩板に乗せて、扉の中に侵入した。

 前と同じように丸い泉の中にやって来た。

 これで違う門番だとヤバイが、半裸の人魚が現れた。


「ラララ~!」

「うわぁ! 凄い美人です!」

「金髪は悪魔の色だ。騙されるな。さっさと炎を出せ」

「あぅっ! あとで炎代請求します!」


 人魚に見惚れているメルを叩いて、魔剣を抜いた。

 エルマと同じ金髪人魚ならば、何百回だって殺せそうな気がする。


 三十分後……


「ごほぉ、ごほぉ……今日はここまでだな」

「隊長、まだ死なないでくださいね」

「まだ駄目なら、いつならいいんだ?」

「鍋を手に入れて、人間に戻った後です」


 小船の後ろに乗っているメルが、背中をさするが優しさは感じない。

 人魚を二連続で倒すと、身体が限界だと言い出した。

 二人分の精霊の本を手に入れたから、あとは銀魔石と人魚の鱗の使い方を考えたい。


「その本があれば鍋は要らない。それにお前は人でなしだから、人間に戻るのは不可能だ」

「そんな事言うなら、もう背中さすりませんよ」


 一度も頼んだ事はない。

 俺はおじいちゃんじゃないから、小遣い目当ての孫娘には癒されない。

 それに癒しは別の方法を考えている。


 まずは人魚の銀魔石で強力な水の指輪が作れるか試す。

 可能ならば、毒の国の木の精霊を倒して、木の魔石を手に入れる。

 水の魔石と木の魔石を合わせれば、強い回復の指輪が完成するはずだ。

 魔人村の自宅に魔術の指輪があるから、死人の冒険者カードを探すついでに試してみる。


「おい、コン。殺した冒険者の持ち物はどこにあるんだ?」

「んっ? 三兄妹はどうした?」


 魔人村に到着すると、大木に張り手をしている赤毛大猿に聞いた。

 他にやる事がないようだ。俺とメルしかいないのに疑問に思っている。


「花竜を食べたいから別行動だ。それよりも荷物はあるのか?」

「荷物? 殺した後は焼いているから分からねぇよ。倉庫にでもあるんじゃねぇのか」

「倉庫? そんなのがあるのか?」

「あるよ。あそこだ」


 村を開拓する時に隅々まで見たけど、倉庫なんて立派な建物は見ていない。

 コンに場所を聞くと、村長の丸太小屋を指差した。

 村長の扱いが酷すぎる。倉庫を守る番犬代わりだ。


 扉を叩いて勝手に入ると、全身鎧の村長が椅子に座っていた。

 椅子の奥には武器や荷物が、ピカピカの新品みたいに放置されている。

 ゴールデンスライムの村長が綺麗に洗濯しているようだ。


「村長様、冒険者の荷物を調べたいんですけどいいですか?」

「……」

「ありがとうございます」


 奥の荷物を指差して聞くと、村長は両手で丸を作って頷いた。

 鎧の中身を見たいとか、血塗れの服の洗濯して欲しいと頼んだら、バツで断るのだろうか?

 村長を代わって欲しいとか頼んでみたら、すんなりと丸を作ってくれそうだ。


 まあ、今は村長をやっている程暇じゃない。

 三十個程の山積みにされた収納鞄を開けていく。

 回復薬に解毒薬などの医薬品、明かりやテントなどの魔導具が数種類見つかった。

 服が入ってないのは、デーモン二人が着ているからだろう。


「カードがないですね」

「死体と一緒に燃やされたのかもしれない。町の宿屋で盗んだ方が早いかもな」

「……」

「んっ? どうしましたか、村長?」


 メルと一緒に探していくが、収納鞄に冒険者カードが見つからない。

 諦めて帰ろうかと思ったが、椅子から立ち上がった村長が肩を叩いてきた。

 振り返って聞くと、戸付きの棚を指差している。

 あの戸棚にカードが入っていると言っているんだろう。


「開けますね?」


 戸棚を開ける前に村長に確認した。ただ頷いただけだが、開けていいみたいだ。

 戸棚を開けると、冒険者手帳が大量に入っていた。


「うわぁ……千冊近くはあるぞ」


 棚には複数色の冒険者手帳がビッシリと詰め込まれている。

 一冊の冒険者手帳を手に取って開くと、冒険者カードが入っていた。

 目的の物は手に入ったけど、パラパラと手帳をめくっていく。

 最後の日に何をしていたのか気になるものだ。


 だけど、最後のページは明らかに筆跡が違っていた。

 達筆な血文字で殺した方法が、嬉々とした感情を込めて書かれている。

 他の手帳も調べてみたが、全部に血文字で書かれていた。


「これ、村長が書いたんですか?」

「……」


 誰が書いたか知らないが、書いた奴は間違いなく猟奇殺人鬼だ。

 椅子に座り直した村長に聞くと、口元に左右の人差し指を交差して、小さなバツを作った。

 村長ではないみたいだ。

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