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第16話 水中洞窟

「壊されてないみたいだな」


 目的の建物に到着した。

 壊れた瓦礫が散らばった室内に、手作りの岩階段が無傷で残っている。

 岩階段に両手で触れて魔力を流して、砂のようにボロボロ壊していく。

 階段は数十秒で壊れて消えて、赤い宝箱が出現した。


「開けていいですか?」

「当たり前だ」


 メルが聞いてきたので、さっさと宝箱の蓋を開けさせた。

 宝箱の中に緑色に輝く小石『古代結晶』が見えた。


「それが古代結晶だ。短剣の強化には五個必要だからな」

「宝箱が残り三個なら足りないですね」

「足りない分は買えばいい。一個五千ギルで売っている」


 残りの宝箱は七階、十階、十一階にある。

 十階から宝箱の中身が変わるから、手に入る古代結晶は全部で二個だ。

 もちろん別の宝箱が見つかる可能性もあるから、まだ分からない。


「一万五千ギルは高いですね。ちょっと買えないです」

「地道に貯めればいい。頑張れば買える金額だ」

「そうですね。頑張ります」

「ああ、しっかり頑張れ」


 メルの声が少し買って欲しそうな感じだったが、欲しい物は自分の力で手に入れろ。

 小遣いが欲しいなら、自分で稼げばいい。これが俺の教育方針だ。

 買ってくれると期待するだけ時間の無駄だ。


 地下六階『古代遺跡』……


「止まれ。隠れていろ」

「はい」


 骨のブーメランを持った白い猫が見えた。

 猫人は素早い動きなので、俺の攻撃を回避されるとメルが危なくなる。

 建物に隠れさせながら、慎重に七階への階段を目指して進んでいく。

 これも換金所のオヤジが、護衛パーティを用意できないからだ。


「ギィニャー‼︎」


 ズバァン‼︎ 可愛い生き物にも容赦はしない。

 猫人の胴体を真横に真っ二つにした。

 断末魔の叫び声を上げて、魔石と猫皮に変わった。


「よし、出てこい。あと少しで階段だから頑張れよ」

「は、はぁーい」


 建物から出たメルが若干引いているが、野良猫は殺さないから安心しろ。

 猫を飼いたいなら、ヌイグルミ一匹までは許してやる。

 俺の部屋には過剰な可愛いは不要だ。


「ふぅー、七階の宝箱を取ったら昼休憩にする。いいな?」

「はい、まだまだ大丈夫です」


 安全地帯の階段に到着した。

 残りは五階だが、往復を考えるとまだまだ四分の一だ。

 メルは平気そうだが、俺の方が精神的に疲れ始めている。

 他のパーティの後ろを黙って付いていくか、金で護衛を雇いたい。


「水中洞窟は炭鉱迷路とほとんど同じだ。ただし、水溜りには気をつけろ。そこからモンスターが飛び出してくるからな」

「水溜りですね。分かりました」


 七階と八階の説明を階段に座ってする。

 歩きながらする余裕は俺にはない。


「足元だけ注意していたら死ぬぞ。水溜りは天井と壁にもある。しかも、底無しだ」

「うっ……それは怖いです。私、泳げないです」

「だったら、絶対に落ちるな。それで問題解決だ」

「うぅぅ、全然解決してないです」


 メルは泳げないようだが、重い鎧を着た冒険者のほとんどが泳げない。

 それに一番怖いのは、武器や荷物を水溜りに落とす事だ。

 貴重な武器を回収する為に、命懸けの潜水に挑戦する事になる。


 もちろん俺はやるつもりはないから、水泳の練習ついでにやらせてやる。

 俺は寄ってくるモンスターを倒すから忙しい。


 ♢


「もうそろそろいいな。出発するぞ」

「はい」


 前のパーティが階段から出ていって、二分経過した。

 水中洞窟のモンスターを俺達の為に倒してくれている。

 金で護衛を雇うのは勿体ないので、黙って付いていく事に決めた。

 俺が頼んでも断られるか、高額の護衛料を要求されるだけだ。


 地下七階『水中洞窟』……


 天井から塩辛い水滴が落ちてくる。

 天井や壁の水溜りからは、水が重力に逆らっているのか落ちてこない。

 青白く輝く洞窟は不気味で肌寒く、体温が徐々に奪われていく。

 黒岩の濡れた地面は硬く、赤、白、黒色の珊瑚や貝殻が落ちている。


「あの青カニは食べられるんですか?」

「んっ?」


 知らない冒険者達の戦闘を見ているメルが、おかしな事を聞いてきた。

 七階のモンスターは『ブルークラブ』という青色のカニだ。

 人間並みに大きく、胴体から生えた六本の足で前後左右に動いて、両手の鋏で攻撃してくる。

 赤色なら美味しいかもしれないが、青色は不味そうにしか見えない。


「毒ガニだな。明らかに不味そうだ」

「食べて死んだ人がいるんですか?」

「いや、聞いた事はない。角兎なら焼いて食べたいと思うヤツもいるかもな。でも、料理が完成する前に消える。絵に描いた料理と同じだ」


 聞いた事があるかもしれないと思い出そうとしたが、やっぱりなさそうだ。

 その前にモンスターは倒したら消えてしまう。絶対に食べられない。

 包丁で切るか、鍋で煮ている時には、もう魔石になっている。

 食べたいなら生きたモンスターを噛み千切るか、魔石を噛み砕くしかない。


「食べられるなら、食費が節約できると思ったんですけど……」

「子供が食費なんて気にするな。キチンと三食食べさせてやる。早く大きくなってくれないと困る」


 削った食費で古代結晶でも買うつもりだったのだろう。

 残念がっているが、俺はモンスターの肉弁当なんか食べない。


「この先の分かれ道に宝箱がある。護衛がいなくなるから、青カニが増えるぞ」

「はい、気をつけます」


 注意すると木盾を構えて、キチンと周囲を警戒している。

 メルが家に来てから二週間になるが、少しは頼もしくなってきた。

 そろそろスライムぐらいは、一人で倒させてもいいかもしれない。


 岩壁で隠した宝箱から古代結晶を回収すると、八階への階段がある道に戻った。

 これで強化に必要な古代結晶は残り三個になった。


「八階もさっきと同じように無料の護衛を雇う。護衛がやって来たら休憩は終わりだ。しっかり休むんだぞ」

「はい、分かりました。いただきます」


 階段に到着すると、予定通りに昼休憩にした。

 午後三時を過ぎているから、遅めの昼飯になる。

 収納鞄から弁当を取り出してメルに渡した。


 明日は一階の宝箱が復活するから、十一階の宝箱を回収したら急いで引き返す。

 若いから睡眠時間は二時間でいいだろう。それだけ寝られれば疲労は回復する。

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