第157話 錬金術
「三日か……意外とあるな」
店から出ると、これからどうするか考えてみた。
職人ジジイ達が安全の為に三日欲しいと言ってきた。
二人だけ行って、一人を一週間以内に帰せと言ってきた。
ジジイを誘拐監禁する趣味はない。
全属性の魔術の指輪を作ってくれたら帰してやる。
「護衛に何人か欲しいけど、顔見知りじゃないと危ないな。まあ、顔見知りでも危ないか」
職人の為にAランクダンジョンの観光案内をしようと思う。
そろそろ地下二階の探索もしたいと思っていた。
だけど、俺、メル、ゾンビ剣士グレッグの三人だけだと戦力的に不安だ。
木魔法使いのウィル、魔人達にも参加してもらう。これなら問題ない。
戦力的な問題は解決した。あとはメルに友達を紹介するだけだ。
二十人の友達が出来て嬉しいだろう。
ついでにターニャも修道女として連れていく。
こっちの友達と離れるのは寂しいだろうからな。
♢
三日後……
予定通りに怒っているメル、楽しそうなターニャを中船に乗せて、教会に向かった。
職人二人は社長のホールドと、浅黒い引き締まった身体の短髪黒髪のブラハムが乗っている。
万が一に備えて、武闘派の職人を選んだようだ。もちろんモンスターとの戦闘だ。
今回の観光は教会、内の町ファースト、魔人村の順番に回るつもりだ。
教会はウィルとララの二人に任せているから、子供は逃げてないはずだ。
内の町ファーストは人間を連れていれば、町の中を歩いても大丈夫だろう。
最後は魔人村に泊まって、魔人達と交流すれば観光は終わりだ。
その後はモンスターを倒して、魔石と素材集めになる。
一階は倒しまくったから、二階を中心に集めるとしよう。
「魔法属性は炎・水・地・木・氷・雷・聖・闇の八種類だ。それ以外を固有属性と呼んでいる」
「回復魔法は固有属性なんですか?」
「回復魔法は聖魔法の変化系に分類されている。大抵の魔法は変化や強化系だ。基本的に八種類だけだ」
「うーん、どれにするか迷っちゃいます」
魔法使いにしてやる、と連れてきたターニャが悩んでいる。
ホールドに魔法の授業を受けているが、お前には闇魔法がオススメだ。
闇金袋を作れれば、一生金には困らないぞ。
捕まっても、一生住む場所には困らないからな。
「悩むぐらいなら聖属性だな。聖霊召喚が出来るようになれば、戦闘能力も回復能力も化け物になれる」
「聖属性なら回復の指輪があります。あれでなれますか?」
「あれは聖属性の劣化版だ。一部の聖魔法しか使えない。Aランクダンジョンの魔石を使えば、強化版の指輪が作れるかもしれない。まずはそれを確かめないとな。魔法を覚えるのはその後がいいぞ」
「なるほど。まだ我慢ですね」
子供相手なら、ペラペラと極秘情報も話してくれるみたいだ。
俺が聞いたら、絶対に何も喋らない。
ターニャには後でお小遣いを渡してやろう。
確かに魔術の指輪の強化素材は魔石だ。
Bランクじゃなくて、Aランクダンジョンの魔石を使用すれば、違う結果になる可能性がある。
地下一階の水リスが水属性、爆裂茸が木属性だったら、聖魔法の指輪が作れるかもしれない。
「隊長、まだ薬は出来てないんですか?」
「そんなに早く出来るか。まだ二週間だ」
ジジイとターニャと話していればいいのに、不機嫌なメルが隣にやって来た。
ダンジョン前の回復水売りを禁止したから怒っている。
「えっー! だったら私は行かなくていいじゃないですか! 水を売らせてください!」
「路上で売るのは違法だから駄目だと言っただろ」
「今度は中で売るから大丈夫です!」
「そういう問題じゃないんだ。子供には分からない大人の世界があるんだ」
ゾンビの薬代を集めていたようだが、お前はやり過ぎた。
勝手に一本百ギルに値上げしているし、一日十万ギル以上も荒稼ぎしていた。
職人ジジイと大人の取引きをして、それを禁止する代わりに協力してもらっている。
ジジイが取引きを破ったら、また販売させてやるから諦めろ。
「大人です! おっぱいもあります!」
「それは脂肪の塊だ。腹に付いているものが、上に移動しただけだ。付けるなら知恵を付けろ」
「むぅー!」
大人だと、堂々と胸の膨らみを触って見せてくるけど、姉貴ので見慣れている。
くだらない事を言ってないで、ターニャのように情報を集めて役に立て。
「薬代は全部隊長が払ってくださいよ!」
「ああ、分かった分かった。まったく……」
ようやく諦めて、ターニャ達の所に戻っていった。
身体が大きくなったら大人じゃない。身体が小さいから子供じゃない。
他人に迷惑をかけないのが大人なんだ。
それが分からないようなら、まだまだ子供だな。
♢
「こ、これは⁉︎」
教会に到着すると、ホールドとブラハムの二人に神器の腕輪を渡した。
二人はすぐに腕に嵌めると、腕輪が強烈に光って消えてしまった。
ジジイ二人が狼狽えているけど、勿体ないから心臓発作は起こすなよ。
【名前:ルドルフ=ジャン=ホールド 年齢:58歳 性別:男 種族:人間 職業:錬金術師 身長:181センチ 体重:72キロ】
長い名前と、黒と灰色が混じった短髪には変化はない。
俺やメルのように変化はしないようだ。
識別眼で調べてみると、職業が上級職人から錬金術師に変わっていた。
五つあった製造系アビリティが消えて、『錬金製造LV8』に統一されたみたいだ。
早速、闇金袋の製作を依頼しないといけない。
「錬金術師か。石をパンに、水を酒に変えたヤツがいるらしい」
「おっ、それは面白そうだな! おい、石を出せ! 得意だろ!」
「はいはい……」
ジジイがはしゃぐなよ、と言いたい。
両手の手の平から丸い岩ころを二個作って、要求通りに二人に渡した。
「ぐぅぬぬぬぬ!」
ブラハムが岩ころに念を送っているようだけど、岩ころは岩ころのままだ。
二人とも錬金術師になっているから、これが錬金術の真の実力なのだろう。
「変えるには魔石がいるみたいだな。何でもいいから魔石はあるか?」
今度はホールドが魔石を要求してきた。
このゴロツキ共め。金と女と酒は出さないからな。
「何でもいいなら、コレでもいいな」
両手の手の平から青い人工魔石を二個作って、二人に渡した。
二人が受け取った魔石を岩ころに合わせると、パァッと光った。
今度は成功らしい。
ホールドは柔らかそうなパンに、ブラハムは硬そうなパンに変わった。
好みが違うと結果も違うらしい。
「なるほど。これは便利そうだな。試食してくれ」
「俺のも頼む」
「絶対に毒味だろう」
得体の知れないパンは食べたくないようだ。ホールドとブラハムが俺に試食を頼んできた。
食べられれば味なんてどうでもいい。一口大に千切ると、柔らかいパンから食べた。
「ペェッ!」
試食は終了だ。ゴミを口から吐き出した。
砂のような味で食感だけがパンだった。
元の素材が強く影響するようだ。
「食用にするには研究が必要みたいだな」
「ダンジョンの中で種を作れれば、育つんじゃないのか?」
「味ではなく、機能性か。芽が出るか試した方が良さそうだな」
「だったら、外と中の違いも調べる必要があるな。おい、植木鉢とかないのか?」
「無えよ! あとで自分で買え! 予定があるんだから、さっさと町に行くぞ!」
魔石と素材は提供すると約束したが、植木鉢は約束してない。
研究熱心なジジイの要求を今度は断った。