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第155話 神様

「ごほぉ、ごほぉ……あの最後の葉っぱが落ちたら僕の命も……んっ?」


 月明かりに照らされた病室の窓から、ベッドに寝ている子供が外を見ている。

 視線の先には、今にも枝の先から落ちそうな葉っぱが一枚残っている。

 その葉っぱを上空から下りてきて、容赦なく握り潰した。


「ああっ‼︎」

「私は神様だ。少年、落ちない葉っぱを作りたくないか?」

「か、神様⁉︎」


 足元の岩板を操って、驚愕する少年の病室の窓まで近づいていく。

 そして、窓越しに漆黒のローブのフードを取って、神様だと名乗った。

 少年はまた驚いている。予想以上の良い反応だ。


「お前の願いを聞いて助けに来た。死にたくないのだろう?」

「ごほぉ、ごほぉ……無理だよ。僕の病気は回復薬でも治らないんだから……」

「神に不可能はない。命を作る事も壊す事も可能だ」


 さっさと窓を開けて、自主的に助けを求めればいいのに面倒なガキだ。

 手の平で少年に似た岩人間を作ると、次はボロボロに崩して砂に変えた。

 早く決めないと、数年以内にお前が灰に変わる。

 

 ステイの兄貴が魔法使いの作り方を教えてくれたから、仲間を集める事にした。

 危険な大人で試すつもりはない。素直で騙されやすい哀れな子供達を探した。


 特に俺を命の恩人の神様だと崇めて、絶対に裏切らない子供は優秀だ。

 木が好きなお前には木魔法使いになってもらい、魔人村に緑を増やしてもらう。


「……時間だ。神の時間は貴重だ。二度は現れない。残り僅かな命、安らかに——」

「待って!」


 ポケットから時計を取り出すと、ゆっくりと天に向かって昇り始めた。

 これで動かなければ本当に終わりだが、すぐに少年がベッドから飛び降りた。

 昇るのをやめて、ゆっくりと下りていく。


「何かな?」

「ハァ、ハァ……本当に治るんですか?」

「君はそこに寝ているだけで治ると思うのかな? 奇跡を見たいなら、私の手を取ればいい」


 立っているだけで苦しそうな少年に、窓越しに右手を差し伸ばした。

 窓を開ければ、俺の手を取る事は出来る。さあ、早く開けなさい。


 ♢


「この辺に出るらしいんだが……」


 昼前の賑わう市場を屋根の上に座り込んで監視する。

 病弱な少年ティルを立派なゾンビ魔人にすると、魔人村に送り届けた。

 灰色の岩しかなかった村に、新しく緑が加わった。


 次はコソ泥が出没するという町で、新しい盗賊候補を探している。

 ゾンビ魔人を作るには、大量の進化素材が必要だ。宝箱探知器は何人いても困らない。

 魔人村の住民と同等のゾンビ魔人を揃えたら、どうなるか楽しみだ。


「泥棒だぁー! 誰か捕まえてくれ!」

「噂をすれば何とやらか……」


 男の大声が聞こえてきた。

 視線を市場の中に巡らせて、人混みをリンゴを持って逃げる三人組の子供を見つけた。

 職業は盗賊ではないが、素質は十分にありそうだ。三人とも逃げ足が速い。


「待てぇー! ハァ、ハァ……待たないとブッ殺すぞ!」

「へへーン! ダイエットしないから追いつけないんだよ! 俺達が協力してやるよ!」


 果物屋のオヤジが大声を出して追いかけているが、あのポッチャリ体型だと無理だ。

 完全にガキ達に舐められている。デブ猫が頑張って、ネズミを追いかけているだけだ。


「さて、俺も混ぜてもらうか」


 指先を子供の一人に向けると、足に向かって小さな弾丸を発射した。


「あぐっ‼︎」

「ピット‼︎」


 ドガッ‼︎ 金髪の子供が地面に派手に転んだ。

 逃げられたら困る。ピンチを助けるから価値がある。


「何やってんだよ!」

「うぐぐっ、痛くて走れない。足が折れてるみたいだ」

「はぁ? くそぉー!」


 二人の子供が駆け寄った。

 負傷した金髪は動けないようだ。ちょっとやり過ぎた。

 片方の子供が背中に金髪のピットを背負うと、また走り出した。


 路地裏に逃げ込んで隠れるみたいだ。

 迷路のような狭い道をデタラメに走っている。


「このままだと逃げられるな……」


 果物屋のオヤジはまだ追いかけている。

 神様が手伝ってやろう。


 路地裏に先回りすると、岩壁で狭い道を塞いでいく。

 逃げ道は全て封じさせてもらった。

 さあ、どうする?


「ユアン! 何なんだよ、これ⁉︎」

「知らねぇよ!」


 突然、袋小路になった路地裏の岩壁を叩いて、子供達が混乱している。

 退屈な日常に刺激を与える神々の悪戯だ。

 ついでに岩矢印で果物オヤジを道案内してやったぞ。

 全員俺に感謝していいからな。


「ヘッへへへ。もう終わりだ、ガキ共め。今まで盗んだ分、身体で払ってもらうからな」


 乱れた黒髪の白シャツオヤジが三人の前に立ち塞がった。

 手には路地裏で拾った角材を持って、たるんだ頬で不気味な笑みを浮かべている。


「くっ! カルキン、ピットを頼む。俺が時間を稼ぐから、その間に逃げろ」

「巫山戯んな! 俺が時間を稼ぐから、お前が逃げろ」

「はぁ? お前の方が弱いんだから、お前が逃げろよ!」

「うるせいー‼︎ こっちは一人も逃すつもりはねぇんだよ‼︎」


 勇敢な二人がどっちがボコられるか決めていたが、果物オヤジは平等主義者のようだ。

 全員まとめてボコボコにするみたいだ。

 奇声を上げて、まずは負傷者を背負っている白髪のユアンを狙った。

 負傷者を二人に増やす作戦は悪くない。


「さて、お手並み拝見といこうか」


 屋根の上に寝そべると戦いを見守った。まだ助けるのは早い。

 果物オヤジは逃げられないように、角材を大きく左右に振り回している。

 ピットを背負ったユアンが徐々に隅に追い込まれている。


「オラッ、オラッ! もう逃さねぇ、観念しろ!」

「この豚野郎! お前の所のクソ不味いリンゴの被害者を減らしてんだぞ!」

「痛てぇ、痛てぇ、このクソガキ! 食べ物を粗末にするんじゃねぇー‼︎」


 追い込まれた仲間を助けようと、もう一人の金髪カルキンが動いた。

 オヤジの注意を引きつけようと、盗んだリンゴを投げ始めた。

 それにオヤジが激怒した。確かに食べ物を投げるのは駄目だ。

 リンゴ農家が丹精込めて作ったリンゴに罪はない。


「オラッ!」

「ぐびぇ‼︎」

「カルキン‼︎ この豚野郎ッ‼︎」


 バキィ‼︎ 角材で強打されて、本当に弱いカルキンが地面に倒れ込んだ。

 リンゴ農家の痛みを思い知ったみたいだが、まだ助けるのは早い。

 もう少しだけピンチになってもらう。


「覚悟しろよ! 二度と盗みが出来ないように、その両手足をへし折ってやる。他のガキが盗まないように、店の前に晒し者にしてやるからな」

「巫山戯んな、よくもやりやがったな! ブッ殺してやる!」

「ひぃっ⁉︎ ナ、ナイフなんて、馬鹿な真似はよせ! 怪我するぞ!」


 おっと、状況が変わった。

 ユアンが背中からピットを下ろすと、ポケットから短剣を取り出した。

 仲間がやられて、ブチ切れている。今度はオヤジがピンチになっている。

 面白そうだから、もうちょっと様子見だな。


「早く金出せ、治療費だ! 殺すぞ!」

「近づくな、このガキの頭を踏み潰すぞ! ナイフを捨てろ!」

「やってみろよ! その時はお前を殺して、お前の家族も殺してやるよ!」


 ユアンは短剣で脅して、果物オヤジは倒れているカルキンの頭を右足で踏んで脅している。

 この場合、どちらの屑を助けるべきか悩んでしまうが、欲しい人材は決まっている。

 殺されたら困るので、右手の人差し指をたるんだオヤジの腹に向けた。

 

「ぐぼぉべぇ……!」

「なっ⁉︎」


 威力を落とした茶色い弾丸がオヤジの腹にめり込み、建物の壁に吹き飛ばした。

 壁に激突したオヤジがダラシなく、地面に崩れ落ちていく。


「ふぅー、つまらないものを撃ってしまった」

「おい、このオヤジ。いきなり気絶したぞ⁉︎」

「痛てててて、ビビって気絶したんだろ。金も貰っておこうぜ」

「そうだな」


 オヤジの狙撃が完了した。

 たくましい子供達が、気絶したオヤジのポケットから小銭を盗んでいる。

 採用試験も終わったし、そろそろ合格発表でもしてやろう。

 立ち上がると屋根から地面に飛び降りた。


 これから三人には神の家に住んでもらう。

 修繕した教会が無駄にならないように、そこに住んでもらい、モンスターの肉を食べてもらう。

 職業と魔法を覚えたら、ゾンビ進化してもらう。お世話は魔人達に任せるから安心だ。

 姉貴と同じように恵まれない子供達に、愛の手を差し出して救ってやろう。


「やあ、私は神様だ。君達に家と食事を与えに来た。さあ、一緒に行こうか?」

「な、何だよ、お前⁉︎」


 三人の前に現れると右手を差し出した。

 もちろん断る事は出来るけど、その場合は強制連行になってしまう。

 あまりオススメはしない。手足を折るぐらいは普通にやります。

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