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第154話 舎弟

「いいか。俺の言う通りにするんだぞ」

「……」


 冗談のつもりだったが、名案を思いついてしまった。

 行き先を魔人村から内の町ファーストに変更した。


「すみません。買取りお願いします」


 魔石を加えた犬の看板がある、換金所の扉を叩くと中に入った。

 カウンターには知らない茶髪の男が座っていた。

 日替わりで店番がコロコロ変わるから面倒くさい。


「例の魔人か……」

「はじめまして、兄貴。魔人で配達屋のカナンです。いつもお世話になってます」


 愛想笑いを浮かべて、ペコペコ頭を下げて、ステイという名前の兄貴に挨拶した。

 何回か魔石を大量に持ってきたから、怪しい魔人ぐらいには知られている。


「気色悪い。二度と兄貴と呼ぶな」

「へぇーい」

「……指定している魔石は全部買取りしているな。素材でも売りに来たのか?」


 兄貴が買取りリストを見ながら聞いてきた。

 前回持ってきた魔石が消費されたら、追加買取りしてくれる約束だ。

 すでに六千万ギル以上も買取りしてもらっている。

 もう闇金袋の偽金は十分に貰っている。


「はい。活きのいい素材を店の前に連れてきたんで、見てほしいんです」

「大物でも生け捕りにしてきたのか? モンスターの気配が二つあるな。面倒くさい奴だ」

「ささっ、こちらです」


 嫌そうな顔をしている兄貴を、店の外に丁寧に案内する。

 外には白服を着た、赤毛大猿とオークを土下座で待機させている。

 換金所を襲撃するつもりはない。俺の舎弟二人を紹介するだけだ。


「……何のつもりだ?」


 兄貴が魔人二人を見て警戒している。

 身体から溢れる魔力が数倍は濃くなっている。

 戦闘が始まる前に紹介しよう。


「舎弟のコンとオークです。生意気な魔人を見つけたんで、軽く半殺しにして舎弟にしました」


 赤毛大猿はコンちゃんとか、紅色の身体からコウと呼ばれている。

 コンちゃんの方が親しみやすいので、こっちの名前を採用した。


「勝手に町に連れてきたのか?」

「安心してください。調教済みです。おい、早く挨拶しろ!」

「コ、コンです。よろしくお願いします!」

「オークです。よろしくお願いします」

「ヘヘッ。この通り素直なもんです」


 兄貴がまだ警戒しているので、飼い主として命令した。

 コンが震えながら、オークが岩のように動かずに挨拶した。

 見て分かるように敵意はまったくない。


「舎弟とかどうでもいい。お前達、掟を忘れたのか? お互いの領地には立ち入らない決まりだろう」

「いや、これは……」


 兄貴に少し脅されただけで、コンが余計な事を喋り出しそうだ。

 舎弟の演技も出来ない役立たずは、ここには必要ない。


「おい、いつまでいるつもりだ? 邪魔だと言っているんだ。さっさと服を脱いで山に帰れ!」

「ごぶっ‼︎ す、すみません!」


 怒鳴りつけると、顔面を蹴りつけた。

 信じられない顔で俺を見ているけど、剣を抜こうとしたらすぐに動いた。

 白い長袖上着と長ズボンを急いで脱ぐと、二人は布パンツ一枚で走り出した。


「すみません。気が利かない奴らで。頭の調教だけは難しくて……」

「軽はずみに魔人を連れてくるな。お前は元人間という事で特別に許可されているだけだ。魔人と仲良くしたいなら、この町には来るな」

「そんなつもりはないですよ。兄貴達が手を出せないみたいなんで、俺が手を出しました。全員舎弟にしてやりますよ。魔人の俺なら掟は関係ないですよね?」


 無断で連れてくれば、怒られるのは分かっていた。

 納得できる馬鹿らしい理由を話せば、許してくれるはずだ。

 町の人達に気に入られようと、頑張る俺は好感度急上昇だ。


「フッ。お前の力で全員は無理だ。雑魚魔人を倒した程度でいい気になるな」


 馬鹿にするように軽く笑うと、すぐに叱ってきた。

 兄貴の好感度はまだ上がってないようだ。

 そういえば全然知らない人だった。

 兄貴の中の俺の印象は、お調子者の馬鹿だろう。


「確かに化け物みたいなヤツがいるから全員は無理です。強くなる方法とかないですか?」

「ないな」

「そこを何とかお願いします! 魔法を三つとは言いません! 二つでいいから使えませんか?」


 地面に両膝をついて、冷たい兄貴に向かって、両手を擦り合わせてお願いする。

 馬鹿だと思われているなら、徹底的に馬鹿になるしかない。


「無理だ。この町の人間が魔法を複数使えるのは『遺伝』だ。子を作らない魔人には無理な話だ」

「うっ……死んで生まれ変わるのは無理ですね」


 いくら意識が高くても、死んだら終わりだ。

 だとしたら、子供しかない。俺の場合は相手はメルだろうか。

 地魔法と炎魔法が使える子供が生まれる。でも、俺は全然強くなってない。

 しかも、子供が強くなるには時間が必要だ。十何年も待つつもりはない。


「もう一つ方法があるが、これは子供の頃から属性魔術の指輪を嵌める方法だ。モンスターの肉を食べて成長する事で、任意の魔法属性を習得できる。これは成長期の子供にしか効果がない」

「俺、二十歳だからそれも無理ですね」


 優しい兄貴が二つ目の方法を教えてくれたが、こっちも俺には使えない方法だ。

 モンスターの肉で任意の魔法属性を習得する方法は、俺のゾンビ進化と同じやり方だろう。

 あの時に属性魔術の指輪を嵌めていれば、二つ魔法が使えていたかもしれない。


 だけど、子供にモンスターの肉を食べさせれば、魔法を一つ習得させられる。

 次にゾンビにしてから進化させれば、二つ目を習得させる事が出来る。

 俺は強くならないけど、子供と仲間を強くする事は出来るという事だ。

 ターニャで実験してみる価値はあるな。


「出来ない事は考えない事だ。鍛えるか称号でも手に入れろ。称号は職業に関連した行為で習得できる」

「称号ですか……」


 俺の鋼の肉体と黄金の頭脳は、これ以上は鍛えられない。

 確かに称号に手を出した方がいいかもしれない。

 ダンジョンに監禁されないなら考えてもいい。


「魔法使いの称号で良いのとかありますか?」

「何を言っている? お前の職業はモンスターだろう。モンスターの称号とか知らん」

「いえ、魔法使いです。モンスターじゃないです」


 兄貴にオススメ称号を聞いたら、職業を変更されていた。

 何度も言うけど、俺は人間だ。


 ♢


【称号:大魔導師】

 獲得方法:四属性の魔法を習得する。

 称号効果:魔法攻撃力が20%上昇する。


 何度も頼んで、魔法使いの称号を一つ教えてもらった。

 すでに地魔法、炎魔法、氷魔法、水魔法、回復魔法の五つを使った事がある。

 剣や指輪で使う魔法は数に入らないらしい。


「完全に厄介払いされたな」


 習得不可能の伝説の称号を教えられても意味がない。

 こうなったら、モンスターの称号でも調べるしかない。

 スライム小屋の村長様なら知っているだろう。

 小船に乗り込むと、コンとオークを上空から探しながら魔人村を目指した。


「このクソ野郎が! とりあえず殴らせろ!」

「まあ、落ち着け。情報を手に入れてきた」

「知るか!」


 せっかく見つけて乗せてやったのに、いきなり赤毛大猿が殴ろうとしてきた。

 演技と本気の違いも分からないらしい。演技の蹴りで怒るなよ。


「それで……あれだけの危険を冒して、どんな情報が手に入ったんだ?」

「魔法を覚えるのは無理だ。強くなるには魔人用の称号を調べる必要がある」

「それだけか⁉︎ それだけの為に行ったのか⁉︎ 馬鹿なのか⁉︎」


 オークが聞いてきたので、手に入れた情報を教えてやった。

 すると、またコンが怒り始めた。馬鹿と天才は紙一重だ。


 馬鹿は駄目だと言われればすぐに諦める。

 天才は駄目だと言われれば、その情報を手掛かりに別の方法を探す。

 今回は称号持ちの魔人を探したり、称号の情報を手に入れて、称号図鑑を製作する。


 この図鑑を魔人で共有で使えば、全体の戦力アップは確実だ。

 それなのに赤毛大猿はやる気がない。


「はぁ……俺達は強くなりたいと思ってねぇよ。魔人も獣系や亜人系と色々いるんだ。一緒にするな」

「つまり、系統別の称号があるだけだろ? やる事は変わらないな」

「ケッ。やりたいなら一人でやるんだな。俺達は手伝わねぇからな」


 やれやれ、負け犬根性が染みついてやがる。

 向上心がないヤツは絶滅するだけだと知らないらしい。

 少し危機感を思い出してもらうか。

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