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第153話 日曜料理

 魔人村の住民に魔石と商品を交換すると説明すると、商品を買いに外の町に出かけた。

 廃教会の中に日の光が降り注いでいる。午前十時を過ぎているから、店も開いているはずだ。


 食品の保存は氷狼姉さんがいるから、山肌に穴を掘って一緒に入ってもらう。

 簡単な冷蔵庫の完成だ。断られたら氷剣を使えば問題ない。


「料理人を村に住まわせればいいんだが、それなら料理を作れる魔人を育てた方が早いか」


 外の町と村を何度も往復するのは面倒だ。

 小船で町に向かいながら、楽な方法を考えてみた。


 村に食堂を作れば、俺が運ばなくて済むようになる。

 腕輪は一人分あるし、ゾンビ進化もある。誰でも村に移住させる事は出来る。

 人口が少ないんだし、人間でもいいから増やした方がいいだろう。


 問題があるとしたら、岩の亀裂に出来た細長い村に誰が住みたいかだ。

 俺は住みたいとは思わない。せいぜい宿屋代わりに使うぐらいだ。


「宿屋よりは観光地の方が向いているだろう。魔人人形でも売るか?」

 

 宿屋を作るなら布団と毛布が必要だ。壁と天井も必要だ。

 食堂に宿屋と一気に手を出すと、やる事が増えてしまう。

 やっぱり便利な従業員がもっと欲しい。

 

「教会を修繕して、定期的に住民にお供えでもさせるか?」


 町の住民が定期的に物をお供えしてくれれば、俺は何もしなくてもいい。

 お供えのお礼に魔人側が魔石をお返しすれば、良い関係を続けられる。


 それなら魔人村を引っ越した方が便利そうだ。

 ダンジョンと教会の出入り口に村を置けば、確実に冒険者も通るから利用する。

 安全だと思うなら村に泊まって、危険だと思うなら教会に泊まればいい。

 俺としては金を稼げて、商品が売れればそれで問題ない。


「教会側の協力者でも探してみるか」


 名案を思いついたから、即実行だ。

 まずは料理人でも探してみよう。


 ♢


 外の町『ベルン』……


「ヤバイな。全然知らない町だった」


 飲食店の多くは開いているが、肝心の味が分からない。

 食べ歩きをするか、住民に聞き込みして、美味しい店を探さないといけない。


 だけど、食べ歩きは小食の俺には無理だ。

 矢毒ガエルとミノタウロスが胃の中にまだ残っている。


 それに魔人の味覚と人間の味覚は同じじゃない。

 不味い料理を美味しいと思うかもしれない。

 色々な店を回るよりは、凄腕の料理人を雇って、色々と作らせる方が早い。


「とりあえず人気店でも探してみるか」


 考えるのは誰でも出来る。行動しなければ結果は出ない。

 住民に聞き込みをして、美味しい店を紹介してもらった。


「ここか……」


 オススメされたチーズ料理の店に来た。

 鍋に入った溶けたチーズの中に、焼いた肉や野菜を漬けて食べるそうだ。

 これなら俺でも作れる。食べた後にチーズの購入先でも聞くとしよう。


「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ」


 まだ食べる時間には早いのか、人気店なのに客が少ない。

 四人用の丸テーブルに座れた。

 女店員が水を持ってきたので、メニューの料理を注文した。


「チーズ鍋一人前」

「一人前ですね。少々お待ちください」

「ふぅー、半人前はなかったか……」


 一人前はキツイが、一口食べたらシェフでも呼ぼう。


「お待たせしました。チーズ鍋一人前です。ごゆっくりどうぞ」

「おっ……早いな」


 注文して四十秒も経っていない。それなのに料理が到着した。

 ドロドロ熱々に溶けた白いチーズが、小さな鉄鍋に入っている。

 白い丸皿にはすでに焼けている肉と野菜が乗っている。

 あとはチーズを漬けて食べるだけだ。


「流石は人気店だな。客を待たせないか」


 野菜は生のままでは、ダンジョンには持ち込めないが、焼いた物なら持ち込める。

 フォークで一口大にされた皮付きジャガイモを刺して、チーズの海に沈めた。

 チーズが絡みついてくる。


 果物だったが、チョコレートで似たような料理があった。

 だけど、果物も焼かないと持っていけない。

 ダンジョン内で野菜を育てる方法がないと駄目だな。


「むぐっ、むぐっ……悪くないな」


 チーズを染み込ませたジャガイモを食べた。

 酒の味と少し塩気を感じる。ジャガイモに付いていた塩が原因だろう。

 いくらでも食べられないが、野菜は食べれそうだ。

 正直肉は見るのも嫌だ。野菜だけを食べると店を出た。


「チーズは調味料だな」


 シェフを呼ぶ必要もなかった。チーズは塩胡椒と同じだ。

 その辺の店で買えば手に入る。聞き込みを再開して他の店の料理も調べた。

 当然、外から見るだけで食べるつもりはない。


 どうやらチーズ料理と牛肉料理が多いようだ。

 逆に言えば、それ以外の店が少ない。

 閉鎖的な町の印象はないが、新しい事に挑戦しようという気配がない。

 のんびりとした性格の町と住民なのだろう。


「この程度なら料理人を雇う必要はないな」


 俺は大きな勘違いをしていた。

 最高の料理を提供するべきだと思っていたが、調味料があれば誰でもいい。

 その辺のおばさんに制服を着せれば、一流家庭料理人の完成だ。

 金に困っているおばさんを募集して、交代で朝飯から晩飯まで作らせよう。


 俺がやる事は教会の修繕と買い物だ。ついでに料理レシピ集めだ。

 写真付きのメニュー表を作って、魔人に食べたい料理を注文させる。


「アイデアは完成した。あとは需要だな」


 計画は完璧だが、俺は慎重な男だ。

 せっかく用意しても魔人がいらないと言えば、それで終わりだ。

 残るのは綺麗になった教会とおばさんだけだ。


 まずは張り紙で協力者を募集をして、町の住民の需要を確認する。

 日曜限定で物々交換を始めて、上手くいきそうなら村を移転させる。

 駄目そうなら、俺が日曜限定で料理人になるしかないな。


 ♢


 日曜日……


「……」


 俺は悪くない。住民が悪いと思う。キチンと張り紙で宣伝しておいた。

 赤毛大猿とオークを連れて、午後三時五分前から六時まで待っていたが誰も来なかった。

 用意していた魔石は待っている間に、調味料で美味しく食べてしまった。


「ゲプッ……まあ、こうなるだろうと思っていたぜ。さあ、帰ろうぜ」

「くっ、顔で選べば良かった!」


 三メートル近い強面の魔人が二人もいれば、普通の住民は逃げるに決まっている。

 甘い匂いで誘い出そうとしたが、爆裂茸は赤毛大猿の腹に消えてしまった。

 こんな事なら俺一人で来るべきだった。


「ケケッ。確かにお前の顔を不細工だからな!」

「お前だよ!」

「何だと⁉︎ お前の方が不細工だ!」

「喧嘩はやめろ。二人とも不細工だ。誰が来ても同じだ」

「……」


 確かに醜い争いだった。

 誰が一番不細工なのか決定しても、結果は変わらない。

 オークに止められて、喧嘩をやめた。


 今日の為にホーンラビットの皮で作った、白い服を二人に着てもらった。

 それも無駄に終わってしまった。次回はメルとターニャでも連れて来よう。

 中船を作ると、荷物を持って乗り込んだ。


「外の町は内の町の奴らとしか取引きしない。何百年も続いているから仕方ない」

「新参者は絶対にお断りという事か……」


 魔人村に向かって飛び立つと、オークが失敗した原因を話してきた。

 外の町はベルン、内の町は『ファースト』と呼ばれている。

 一人ぐらいは来るだろうと、少しは期待していたが駄目だった。

 予想以上に団結力があるようだ。


「ケッ。俺はもう行かねぇぞ。最初から人間と仲良くするつもりはねぇからな」

「……それは別にいいが、もう人間は襲うなよ。悪い印象しか持たれない」


 安心しろ。俺も二度と連れて行くつもりはない。

 目的のアビリティ『復元』は習得させてもらった。

 下の階層の入り口も教えてもらったし、お前は戦力としての価値しかない。


「嫌だね。襲ってくるなら殺すに決まっている。生かして帰せば、また襲いに来るだけだ」

「悪いが俺も紅の意見に賛成だ。外の町と取引きしたいなら、内の町を破壊すればいい」

「その通りだ! 俺達の為に何かしたいなら、あの町の人間を皆殺しにしろよ!」

「じゃあ、今から行くぞ」


 コイツら俺を手伝うつもりがないらしい。

 希望通りに進路をファーストに変更した。

 お土産として町に渡してやるから、それで手伝ってもらう。

 俺の信用度が急上昇してくれるはずだ。


「待て待て待て‼︎ 殺すつもりか⁉︎」


 だけど、すぐに船を落とそうと赤毛大猿が暴れ出した。

 壊される前に止まると、後ろを振り返った。

 

「皆殺しにしたいんだろ?」

「出来ればやってんだよ! 出来ねぇからやってねぇんだよ!」

「出来るよぉー。お前なら一人で出来るって。俺は信じてる!」

「出来ねぇよ!」


 不安そうな赤毛大猿を笑顔で励ました。俺は無限の可能性を信じる男だ。

 町の上空で置き去りにしてやるから、頑張って夢を叶えればいい。

 夢が敗れても、赤毛皮ぐらいは氷狼姉さんに送り届けて、立派に戦ったと伝えてやる。

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