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第148話 換金所

「用は済んだな。町から出て行ってもらう」

「まだ終わってないです!」

「何だと?」


 もう喋らないでほしいけど、もう喋ってしまった。

 呪解師の家を出ると、ゼクトが帰れと言ったのに、メルがまだ帰らないと言い出した。

 友達の家じゃないんだから、邪魔だと言われたら帰らないと駄目だ。


「このままだと家に帰れないです。旅費が無くなりました。換金所とか無いんですか?」

「換金所ならあるが、お前達に利用させるつもりはない」

「ほら、メル。迷惑なんだから帰るぞ」


 俺と同じようにお金の心配をしてくれるのは嬉しいが、今はお金よりも心配するものがあるだろ?

 金と命の両方を取られる前に退散するぞ。換金所は外の町で探せばいい。

 メルの左腕を掴んで町を出ようとした。


「えぇー⁉︎ このままだとお金取られただけですよ! 紙切れ貰っただけですよ。こんなの泥棒です!」

「俺達が泥棒だと!」


 だけど、メルが俺の右手を振り解いて抗議してきた。

 どうやら馬鹿ではなかったみたいだが、今それを言うのは馬鹿だ。

 メルの失礼発言に監視の男達が怒った。

 事実を言っているだけだが、このままだとマズイ事になる。


「コラ、メル! この人達は泥棒じゃない。一ヶ月後に商品が用意されてなくても、追加料金を請求されても、また一ヶ月後に来るように言われても、泥棒じゃないんだ。分かったな!」

「……」


 別に悪意はない。親として子供を叱っているだけだ。

 あとでアイスクリームを買ってやるから、黙って叱られなさい。


「はい、分かりました……ぐすっ、お金は諦めます」

「そうだ。分かればいいんだ。すみません、お騒がせしてしまって」


 しっかり叱ったから、メルが半泣き状態になった。

 ついでに俺も平謝りで謝ったから、これで一件落着だ……


「魔人のくせに舐めやがって。俺達を金を騙して奪う泥棒扱いか?」

「ゼクト、コイツら殺した方がいい。悪い噂を撒き散らすだけだ」


 とは行かなかった。やっぱりメルの泥棒発言に怒っている。

 青髪と緑髪の男二人が殺そうと詰め寄ってきた。

 それを他の三人が立ち塞がって止めた。


「くだらない。言わせておけばいいだけだ」

「その通りだ。魔人の言う事を信じる人間はいない」

「チッ。仕方ねぇな。ほら、さっさと帰れ!」

「ありがとうございます。すぐに帰ります」


 仲間達に説得されて許してくれたみたいだ。

 イライラしながらも、奪われていた剣を青髪の男が返してくれた。

 てっきり一生奪われたままだと疑ってしまった。


「待て」

「えっ?」


 小船を作っていると、ゼクトが言ってきた。

 やっぱり帰すつもりがないと言うつもりだろうか。


「監視付きなら、換金所を使っていい」

「はい?」

「おい、何言ってんだ⁉︎ 魔人だぞ⁉︎」


 予想外の言葉で反応に困った。それはゼクトの仲間も同じみたいだ。

 青髪の男が俺達を指差して、また興奮している。


「だったら、外の換金所を使わせるつもりか? 金を奪われて、換金所を使わせてもらえなかった。そう宣伝してもらいたいのか?」

「だから、殺そうと言ったんだ。今からでも遅くない」

「魔人達と全面戦争するつもりか? 不干渉の掟を破っても、手に入るのは死体の山だけだ。元人間だから町に入れた。今殺せば魔人を殺した事になるぞ」

「くっ……!」

 

 話し合いの途中だけど、殺されるなら逃げたい。

 外の町に換金所があるなら、そっちを使うし、悪い噂を流すつもりもない。


 まあ、それを言っても信用されてないから、駄目なのは分かっている。

 返した剣で俺から先に攻撃させて、正当防衛を狙っているならそれもない。

 俺は大人しく武器を捨てて降参する男だ。

 

「分かった。だったら、お前達だけで監視しろ。何かあったら死んで責任取れ。その覚悟があるならな」

「大丈夫だ。何か起こる前に終わらせる」

「フン。安心しろ。変な動きをしたら先に殺しておいてやるよ」


 話し合いが終わったみたいだけど、ここから外の換金所を使うとは言いにくい。

 まさかとは思うけど、この喧嘩も俺達から金を搾り取る罠じゃないだろうか。


 ♢


「はぁ……死ぬかと思った」


 何とか生きて町の外に出られた。

 魔石と素材は町の外周にある、小さな換金所で買取りしてくれるそうだ。

 どうせ魔石一個1ギルで買取られるだけだ。もう騙されない。


「隊長、二人でパパッと倒しましょう! 魔石一個1500ギルらしいですよ!」

「誰に聞いたか知らないが、安く買い叩かれるだけだ。アイスクリーム買ってやるから帰るぞ」

「じゃあ、一個だけ買取ってもらいましょうよ。それならいいですよね?」

「まあ、一個だけならいいか」


 メルのやる気が漲っている。

 腕を振り上げて、モンスターに八つ当たりしたいようだ。


 仕方ないのでストレス発散を手伝ってやる。

 小船を作って、少し町から離れた場所で赤牛を倒した。

 町に近づくモンスターは、自警団という野盗に狩られている。


「ちょっと待っていろよ」


 このまま赤魔石を持っていけばいいが、このまま泣き寝入りするのは悔しい。

 習得済みの魔石製造のアビリティを使って、小船の中に青魔石を大量に作っていく。

 一個1500ギルならば、334個作れば、奪われた金を回収できる。


「隊長、大丈夫なんですか? バレたら殺されますよ」

「分裂するスライムを倒したとか言えばいいんだよ」


 メルが心配しているが、俺は魔石を売りに行くだけだ。何の問題もない。

 パパッと適当な数を作ると、さっき案内された換金所に向かった。

 換金所の壁には、魔石を咥えた犬の看板が取り付けられている。


「すみません。買取りお願いします」


 換金所の大きさは明らかに一軒家だ。だから、軽く扉をノックした。

 変な行動をするだけで殺されるなら、他所様の家の扉は勝手に開けない方がいい。

 強盗として処理されてしまう。


「看板が見えないのか? 勝手に入れ」


 しばらくすると面倒くさそうに、灰色髪の顎髭男が扉を開けて出てきた。

 白の長袖シャツに緑の袖無し上着、紺色の長ズボンを履いている。

 どう見ても寝起きの家主が出てきたとしか思えない。


「すみません、お邪魔します」


 部屋に入るとカウンターが一つだけ、他は商品が置かれている棚しか見えない。

 今度はこの雑貨屋で何か買わないといけないらしい。


「おい、こっちは暇じゃないんだ。買取って欲しいのがあるなら、さっさと持ってこい」

「すみません。珍しい物がたくさんあったので……」


 お客の姿は一人も見えないが、寝るのに忙しいようだ。確かに外の町は夜だった。

 カウンターのオヤジに赤魔石と青魔石を一個ずつ見せた。

 時間が経ってちょっと冷静になった。やられてもやり返したらいけない相手がいる。


「人工魔石は駄目だ。赤は1500ギルになる。まさか、これ一個だけじゃないだろうな?」

「すみません。赤牛が強過ぎてこれだけです」

「あんな雑魚も倒せないのか。10歳の子供でも倒せるぞ」


 たった一個で起こされて、オヤジが怒っている。

 でも、正直に外の小船に三百個以上あるとは言えない。

 もっと怒られる。


 だけど、高額で赤魔石を買取ってくれるみたいだ。

 家にあるミノタウロスの魔石でも運んでみるか。


「すみません。Bランクダンジョンの魔石も買取ってくれますか?」

「ああ、問題ない。魔石は食糧だ。こうやって肉に変えられるからな」

「……何ですか、それ?」


 自宅の魔石を買取ってもらえるか聞いてみた。

 すると、オヤジがいいと言った後に魔石を肉に変えた。

 魔石の買取りよりも、そっちの肉の方を詳しく聞きたい。


「何だ、こんなのも知らないのか? 『復元』だ。ダンジョンで生き残りたいなら覚えないと死ぬぞ」

「そんなアビリティ見た事ないですよ。どうやって覚えるんですか?」

「それはお前達が他所者だからだ。この町の人間なら全員使える」

「じゃあ、お金を払うんで教えてください」

「はぁ? 呼吸の仕方なんて自分で分かるだろ。死にたくないなら息でもしてろ」


 オヤジは呆れた感じに馬鹿にするだけで、習得方法を教えてくれない。

 なるほど。魔人は死んでもいいから当然だ。自力で習得するしかない。


「じゃあ、今度はたくさん持ってきます」

「せいぜい頑張れ。ほれ、お小遣いだ」

「うっ……ありがとうございます。メル、帰るぞ」


 明らかに馬鹿にされている。

 帰ろうとすると、カウンターに2000ギル置かれた。

 銀色の硬貨二枚をお礼を言って受け取ると、商品を見ているメルを呼んだ。

 次に来る時は、2000万ギル払わせてやる。

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