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第146話 お喋りメル

「なるほど。小さいけど町だな」


 小船を数分飛ばして、草原の中に見つけたシミのような場所を目指した。

 到着すると、高級感のある灰色の屋根に、白い壁の建物が250軒以上も建てられていた。

 冒険者達の探索用の拠点ではなさそうだ。商店があり、大人以外にも子供が町中を歩いている。


「子供がいるなら安全ですね。隊長、降りてみましょう」

「そ、そうだな……」


 いきなり人間の皮を突き破って、昆虫系モンスターは襲って来ないだろう。

 罠だと疑いすぎるのは良くない。ゆっくりと小船を降ろしていく。

 

「止まれ! 見た事がない魔人だな。ここは人間の町だ。何の用で来た?」

「うっ……」


 やっぱり町への着陸許可が必要だったみたいだ。すぐに止められてしまった。

 屋根の上で両腕を組んでいる灰色髪の男が、警戒心剥き出しの声で聞いてくる。

 屋根の上には他にも五人の男達がいる。返答次第では即攻撃されそうな雰囲気しかない。


「えーっと……」


 観光、商売、人探しと頭に浮かんだが、どれも怪しさしか感じない。

 次の言葉が出ないでいると、メルが勝手に答えた。


「薬が欲しいんです」

「薬だと? 何の薬だ?」

「魔人から人間に戻れる薬です」

「人間に戻る薬だと?」


 怒るべきところだが、俺が何か言うよりは、女の方が油断してくれそうだ。

 このまま話させよう。灰色髪は話を聞くつもりはあるみたいだ。


「はい、人間に戻りたいんです」

「……事情は知らないがそんな薬はない。必要ない薬は誰も作らないからな」

「そうですか……」


 やっぱり俺の予想通り、薬がない可能性が当たっていた。

 これ以上話す事はないから、落ち込んでいるメルと町に帰るとしよう。

 ゾンビは長生きだから、天才の俺が数百年後に薬を完成させてやる。


「ありが——」

「だが、必要な人間がいるのなら話は別だ。探している薬を作れる保証はないが、それでもいいなら付いて来い」

「えっ、本当ですか⁉︎ ありがとうございます!」


 お礼を言って帰ろうとしたが、まだ早かったみたいだ。灰色髪に歓迎されてしまった。

 正直言って、アビリティLV9を持っている人達には歓迎されたくない。

「なかなか可愛いな。俺の女にしてやるよ」「これで有り金全部か?」、みたいな歓迎をされそうだ。


 でも、ここから歓迎を断る勇気はない。

 女と金は置いていくから、俺の命だけは助けてもらおう。


「俺はゼトス。ここにいる連中と自警団をやっている」

「メルです。こっちが隊長です」

「隊長じゃなくて、カナンです。この町に姉貴のジャンヌがいると思うんですけど、知りませんか?」


 小船を茶色の地面に着陸させると、すぐに二十人近くの男達に囲まれてしまった。

 路地裏に連れて行かれて襲われる前に、町に家族がいる事をアピールした。

 これで少しは襲いにくくなったはずだ。


「この町に魔人は住んでいない」

「いえ、姉貴は人間です。俺達は事故で魔人になった人間です」

「事故か……呪いならば解呪師がいる。試してみるか?」


 姉貴がいるのか教えてほしいけど、解呪師がちょっと気になる。

 家に呪われた剣があるから、迷剣から名剣に変えてほしい。


「はい、お願いします」

「料金は一人二十万ギルだが問題ないか?」

「あっ、俺はいいです。コイツだけやってください」

「えぇー! 隊長も受けましょうよ!」

「いや、俺はいいよ……」


 メルは受けるみたいだが、やっぱり金を要求してきた。

 これで解呪が効かなくても、金を請求されるパターン成立だ。

 似たようなインチキ商売を聞いた事がある。


「どちらでもいい。案内してやるが、おかしな動きをしたら容赦はしない。気をつけて行動しろ」


 これから解呪師の所に案内するみたいだけど、まだ肝心の答えを聞いていない。

 町の案内ならば、姉貴にも参加してほしい。


「あの……それで姉貴はいますか? 茶色い髪で二十二歳なんですけど……」

「その女なら二ヶ月以上は見ていない。たまにやって来て、子供達と遊んで帰るだけだ」

「そうですか……じゃあ、姉貴の仲間はいませんか? 名前はリカルドとエルマです」

「この町にはいない。会いたいなら自分で探せ」


 役に立たない姉貴に頼るのはやめよう。そう思って姉貴の仲間を頼る事にした。

 だけど、こっちも頼れないみたいだ。結局最後に頼れるのは、自分自身しかいない。


「隊長、お姉ちゃんを見つけても呪いは解けないんだから、さっさと行きましょうよ」

「ああ、そうだな。よろしくお願いします」


 メルは早く行きたいみたいだが、ゼトスが嘘を吐いている可能性もある。

 見ず知らずの他人を簡単に信用するのは危険だぞ。


「こっちにあるが、その前に武器を預からせてもらう。使わないなら問題ないな?」

「はい、全然ないです」


 愛剣を全部奪われると、解呪師の所に向かって歩き出した。お金はまだいいみたいだ。

 監視が八人に減ったけど、格上相手に勝てる見込みはもうない。

 大人しく金を払って、町から自然に出るしかない。


「この町に家族皆んなで住んでいるんですか?」

「ああ、俺達はダンジョンで産まれた人間の子孫だからな。結界の外に出られないから、ここで暮している」

「へぇー、大変そうですね」

「そうでもないさ。外とは結界越しに物資の交流をしている。生活に不便を感じた事はない」


 メルを挟んで、二人の会話を盗み聞きする。

 結界の外まで逃げれば、町の住民は追いかけて来れないみたいだ。

 法外な値段を請求されそうになったら迷わずに、その辺の物を持って逃げるとしよう。

 没収された剣の代わりぐらいは手に入れたい。


「あっ! 隊長が腕輪を持っていますよ。あれを付ければ通れますよ!」

「うっ……」


『このお喋り女!』と今すぐに口を塞ぎたいが、もう遅い。

 腕輪も寄付するしかない。没収されるよりは心のダメージは少なくて済む。


「その腕輪がBランクの物ならば無理だ。前に試した事がある。俺達の存在はモンスター扱いだ。ここから出るには、このダンジョンの王を倒すしかない」

「ここにもいるんですね。五十階まで行けばいいんですか?」

「それは分からない。この町が出来てから数百年で、七階までしか進めていないからな」

「七階……」


 良かった。腕輪はゴミだから寄付しなくていいみたいだ。

 だけど、Aランクが攻略不可能なダンジョンだと分かってしまった。

 姉貴が子供達と遊んでいるのも、攻略を諦めたからだろう。

 数百年で七階は、流石に難易度が高すぎる。


「だったら、隊長にゾンビにしてもらって、進化すれば出れるかもしれないですよ。私はその方法でダンジョンから出られました」

「ほぉー、事故じゃなかったのか?」


 メルは住民の為と思って言ったのだろうが、俺の為を思うならもう喋るな。

 周囲の敵意が明らかに俺に集中している。誤魔化すには相当の技術がいる。


 だが、ここはあえて正直に話すしかない。お喋りメルがいるから嘘がすぐバレる。

 死にそうなメルを助ける為に、仕方なくゾンビにしたと話した。


「……なるほど。お前が屑なのは分かった。それにその方法は無理だな。ここには宝箱はない」

「えっ、本当ですか?」

「本当だ。宝箱探知というアビリティがあるみたいだが、外から来た冒険者が反応しないと言っていた」

「へぇー、そうなんですか?」

「はっ⁉︎」


 何故か俺が屑認定されたが、どうやらもう一人屑が紛れ込んでいるみたいだ。

 メルが視線を逸らしているが、お前の言う事は二度と信用しない。


「着いたぞ。ここだ」


 解呪師の所に着いたみたいだ。家の壁にドクロと十字架の看板が付いている。

 インチキ解呪に金を払うのは嫌だが、情報料だと思って我慢するしかない。

 ゼトスが黒い木扉を開けて中に入ると、その後にメルに続いて入った。

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