第145話 新商品集め
「キュイ!」
氷剣を抜くと、水リスに向かって、普通に突撃した。
身体の正面に構えている水の玉から、水リスが棒状の水弾を一発ずつ発射してくる。
弓矢よりも少し遅いぐらいの速度だ。強さは地下25階、Dランクぐらいだろう。
【名前:水リス 種族:獣系 体長:38センチ】——水魔法LV4を使用する。
識別眼で調べたら、水リスは貴重な水魔法を使えるモンスターだった。
使役して、従業員として、回復水に使う綺麗な水を永遠に出してもらいたい。
でも、使役を水に使う余裕はない。
使役枠は二つ空いているが、綺麗な川の水でも汲めばいい。
至近距離からの水弾を軽く回避して、水リスの胴体に蹴りをブチ込んだ。
「キュイッッ‼︎」
「っ!」
ドパァン‼︎ 右足のつま先が突き刺さると、水リスの身体が破裂した。
予想外の脆さと赤い返り血に驚いてしまったが、結果が省略されただけだ。
「やれやれ楽勝だったな」
あとで新しい手帳を買って、水リスは楽勝と記入しておこう。
地面に落ちている赤い魔石と水色の小さな皮を回収した。
この色で作るなら、ワンピースかスカートが良さそうだ。
「ほら、倒せたじゃないですか!」
「俺だから倒せたんだ。もう余計な事はしないで教会に行け」
「むぅー!」
手に入れた皮で新商品を考えていると、メルが走ってきて、怒った感じに言ってきた。
倒したのは俺だから、お前に威張る権利はない。
教会を真っ直ぐに指差して、出て行けと言ってやった。
俺は水色ワンピースと赤色ワンピースを作るから忙しい。
白い狼と赤い牛を倒して、皮が手に入るか確認したら、町に連れて帰ってやる。
しばらくは外出禁止にして、従業員として、回復水を作らせてやるから覚悟しろ。
「隊長、あっちに宝箱の気配がします」
「うっ……本当だろうな?」
「確かめないと分からないです」
「くっ……」
次の水リスを倒そうとしていたのに、棒読みの台詞で宝箱探知器が報告してきた。
明らかに怪しいが、Aランクダンジョンの宝箱には興味しかない。
目の前に餌をぶら下げられて、メルに操られている気分だが仕方ない。
「分かった。連れて行ってやる。でも、安全を確かめた後だ。それまでは教会にいろ」
「はぁーい」
「チッ」
下手に進化させて、強くなってしまった子供の悪い見本だ。
大人を利用する悪いメルを廃教会に再び押し込んだ。
やっぱりターニャを進化させるのも、考え直した方がいいな。
「まったく……」
とりあえず少し予定変更だ。
まずは赤い魔石と素材を集めて、どのぐらいで売れるのか確かめる。
この街の換金所ならば、俺からも買取ってくれるはずだ。
さっきと同じように、見つけた水リスを次々に蹴り倒していく。
皮以外にも水色の金属の小さな球を落とした。
この大きさだと、大量に集めないと短剣も作れない。
「ふぅー、水リスはこのぐらいでいいな。次は狼狩りだ」
25匹程倒すと水リス狩りは終了した。
まだミニスカートが六着ぐらいしか作れないが、他にも素材はいる。
草原を軽く見回して、走り回っている白い狼を見つけた。
【名前:ホワイトウルフ 種族:獣系 体長150センチ】——鋭い金属の毛を持つ狼。
金属なら危なくて服には使えないが、武器と戦闘用防具の素材には出来る。
『Aランクダンジョンのモンスター素材使用』と紹介すれば、冒険者に飛ぶように売れる。
しかも、俺のオリジナル商品だから、他の店では絶対に手に入らない。
これはもう勝負有りだな。ライバルになる武器屋は存在しない。
「五匹ぐらい倒したら、赤牛を倒して帰るとするか」
白狼の身体は硬そうだから、緋色の剣『バーミリオン・レックス』を使用する。
Aランク武器ならば、スパァと気持ちいいぐらいに切れるはずだ。
もう一本のAランク武器は汚したくないから、見学してもらおう。
緋色の剣を右手に持って駆け出した。
「ヴヴヴ!」
性格は好戦的なようだ。
向かってくる俺に対して、白狼は睨みつけるとすぐに向かってきた。
地下5階のウルフよりは速いが、フェンリルよりは遅い。
地下36階のメタルキャットの狼版といった感じだ。
モンスターの強さには、バラ付きがあるようだから注意した方がいいかもしれない。
だけど、この程度の相手なら余裕だ。白狼に向かって一気に加速した。
そして、両手で握った剣を右から左に振り抜いて、交差した白狼の頭と背中を削ぎ落とした。
「セィッ!」
「グゥ……!」
宙に下顎の付いてない白狼の頭が舞い上がると、倒れた胴体に少し遅れて地面に落ちた。
コイツも楽勝だ。身体が消えるのを待って、赤い魔石と白い牙を小船に投げ込んだ。
毛皮が出るまで倒してやろう。ウルフと同じなら尻尾も出そうだが、それでもいい。
♢
【名前:ブラッドカウ 種族:獣系 体長3メートル】——強靭な筋肉と頭の左右の太い黒角を武器に、敵の返り血で身体を染める。
「赤じゃないのか?」
白狼の尻尾は手に入らなかったが、毛皮は無事に手に入った。
次は赤牛から皮を手に入れようと思ったのに、まさかの情報が表示された。
呪われた血塗れワンピースは流石に販売できない。
でも、倒さないと白なのか、赤なのかも分からない。
のんびりと草を食べている、四匹の小さな群れを黒岩の弾丸で襲撃した。
「グモォー‼︎」
攻撃されても血塗れにはなる。直撃した弾丸が赤牛の身体にめり込んだ。
肉が押し潰され、骨が折れるような衝撃に、赤牛の身体が大きく仰け反った。
でも、何とか耐え切ると俺の方に向かってきた。
確かに強靭な身体だが、五発も直撃すれば耐え切れない。
両手を向けると、四匹に向かって連続発射を開始した。
チクタク、チクタクと約二十秒で、名前通りの血塗れ牛が完成した。
「はい。ご協力ありがとうございました」
草原にいる獣モンスターは余裕で倒せそうだ。
血塗れ牛の強さは地下28階の緑小竜ぐらいしかない。
落ちている赤い魔石と皮を回収した。
今度の新商品は赤色ワンピースで決定だ。
十分後……
「さてと、宝箱を回収して帰るか」
草原の安全確認は終わった。リス、狼、牛ぐらいなら何とかなる。
俺が黒岩の矢を作れば、メルでも倒せるだろう。
素材が積み込まれた小船に乗り込んで、教会を目指した。
「あっ、もぉー! 四十分も待たせるなんて酷いです!」
「四十分しかだ。ほら、行くぞ」
教会の絵の前まで行くと、俺を見つけたメルが絵から飛び出してきた。
文句なら俺の方が山程あるが、それを言うのは宝箱を見つけた後だ。
今はこれ以上機嫌が悪くならないように、我慢するしかない。
教会に魔石と素材を積み込んだ小船を置いて、盗られないように岩で包み込んだ。
次に新しい小船を作って、広くなった空間にメルを乗せた。
これでいざという時は小船を捨てて、素早く逃げられる。
「隊長、上から見ないと人が探せません。上に飛んでください」
「はいはい」
草原の海を小船が走り出すと、すぐに後ろの乗客が文句を言ってきた。
言われた通りに小船を上昇させていく。
宝箱を探しながら、草原のモンスターを倒させる予定だったが、空には銀色の鳥が飛んでいる。
メルには鳥を撃ち落とさせればいいだろう。念の為に黒岩の矢を作って渡しておくか。
「隊長、隊長! あっちです!」
「はいはい。大声で騒ぐな。聞こえている」
メルの身長に合わせた岩矢を作っているのに、バシバシと背中を叩いてくる。
あっちでもこっちでも見てやるから、作り終わるまで待っていろ。
「あっちの方に小さな町が見えますよ!」
「んっ? 町?」
探しているのは宝箱で町ではない。
矢を作るのをやめて、メルが左手が指差す方向を見た。
こんな場所に町があるわけない。草原を目を凝らして探していく。
「何もない……んっ? あれか?」
結構遠くの方だが緑色の草原の中に、灰色の空間がポツンと出来ている。
変わった形の木でも立っているだけかもしれないが、メルは俺よりも目が良い。
飛行小船になった小船を飛ばせば、二分ぐらいで着くから行ってみるか。