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第140話 帰宅

 メルの進化が終わるまで、黒炎魔法の使い方を考えてみた。

 一番良さそうなのは炎の矢を作って、弓矢で射つ攻撃だ。

 弓矢をAランクまで強化して射てば、威力は相当に高くなるはずだ。


【名前:メル 年齢:7歳 性別:女 種族:ゾンビ魔人 身長:143センチ 体重:36キロ】

【進化素材:竜水銀七個】【移動可能階層:15~50階】


「うぅっ、痛いです」

「あれ? もう魔人になるのか……」


 進化が終わったらしい。

 茶髪が黒髪に変わり、僅かに赤髪が加わったメルを見た。

 将軍とか、女王になると予想していたのに外れてしまった。


「じゃなかった⁉︎ メル、大丈夫か⁉︎」


 でも、そんな事はどうでもいい。頭を押さえて痛がっている。

 慌てて駆け寄ると声をかけた。


「あれ? 隊長ですか? ここどこですか? 死んだんですか?」

「何も覚えてないのか?」

「うーん、闘技場までは覚えてます」

「そうか、それは良かった」


 周囲を見回して自分が死んだと思っているようだが、何も覚えてないなら都合が良い。

 ここからは厳しい訓練は全て廃止にしよう。思い出さない方がいい事もある。


「ここは49階だ。お前を生き返らせる為に苦労したんだぞ」

「隊長が一人でですか? リエラお姉ちゃんはどこですか?」

「アイツは用事があるといなくなった。今は俺一人だけだ」

「そうですかぁ……」


 とりあえず現在の状況を簡潔に説明した。

 特に俺が命の恩人であり、一人で頑張った事は強調しておく。

 だけど、リエラがいないのが不安なようだ。表情が少し曇った。

 ここは優しい言葉の一つでもかけてやろう。


「まだ動かない方がいいな。その辺に寝転んでいろ」

「隊長、喉がカラカラです。水ないですか?」

「そんな物はない。アメ玉で我慢しろ」

「えぇー」


 ちょっと甘くし過ぎたようだ。調子に乗っている。

 というよりもよく見たら、状態異常の使役化が消えている。

 俺の言う事はもう聞くつもりはないらしい。

 渡したアメ玉を不満そうに口の中に入れて、ガリガリと噛み砕いている。


 さて、Aランクダンジョンで医者を探す必要はなくなったが、困った事になった。

 これから、家に偽メルがいる事と、進化しないと外に出られない事を話さないといけない。

 どちらも俺の所為ではないが、俺がどうにかしないといけない。


「水が飲みたいんだよな?」

「はい、喉がカラカラです」

「よし、任せておけ!」


 だが、話すのは今じゃないと思う。

 混乱しないようにさり気なく話すのがベストだ。

 岩コップを作ると、次に氷剣の剣先に氷塊を作った。

 まずは良い事だけを教えてやろう。


「お前は死を乗り越えた事で、炎魔法が使えるようになった。この氷を溶かして、水にしてみろ」

「何言ってるんですか? そんな事できないです」

「いや、自分の力を信じるんだ。そして、俺を信じろ。さあ、やってみろ!」

「えぇー、出来ないですよぉー」


 俺が信じられないのか、俺を馬鹿にした感じで見ているが、信じてやれば分かる。

 岩コップを強引に左手に持たせて、右手で炎を出して溶かすように指示する。


「はいはい、こんな感じですか?」


 呆れた顔をしているが、喉が渇いているのは本当のようだ。

 右手を氷に向けると、すぐに氷が黒い炎に包まれて溶け出した。


「わ、わあっ⁉︎ 隊長がやったんですか!」

「お前の力だ。調べるで自分を調べてみろ」

「は、はい!」


 溶けた氷の水でコップが満たされていく。

 メルはビックリしているが、これなら余計なものは見ないはずだ。

 言われた通りに調べるLV4を使って、自分を調べ始めた。


「あっ、ゾンビになっている! 隊長がやったんですか!」


 そこは見なくていい部分なのに、見てしまったようだ。

 メルが大声で叫ぶと、信じらないといった顔で俺を見た。

 だが、素直に認めよう。確かにこれは俺がやった。


「そうだ。あのままだと死んでいた。助けるにはゾンビにするしかなかった」

「うぅぅ、臭いゾンビになるなんて……」

「元気を出せ。治療方法はある。まずは最終進化までして、ダンジョンから出られるようになれ」


 俺も最初はゾンビになってショックを受けたが、生きていれば楽しい事はある。

 半泣きになっているメルに、進化素材を優しく手渡した。

 覚悟が出来たら自分で使えばいい。


「これ凄く痛いですよね?」

「いや、全然痛くない。進化したら町に帰れるぞ」

「うぅぅ、町に帰りたいです」


 メルが聞いてきたが、聞く相手が悪い。平気な顔で嘘を吐いた。

 とりあえず予定変更だ。正気に戻ったメルを家に届けよう。

 近くに置いておいても、不満と愚痴しか言いそうにない。

 青い宝箱が復活した頃に連れてこよう。


 ♢


【名前:メル 年齢:7歳 性別:女 種族:ゾンビ魔人 身長:155センチ 体重:45キロ】


 最終進化を終わらせたメルと、夕暮れ時の町に帰ってきた。

 オヤジ達に落とし物を届けて、ついでに病院のヴァン達にも落とし物を届けた。

 午後七時過ぎていたので、宿屋に泊まってから、朝に家に帰るようにメルを説得した。


 午前十時……


 家の前で張り込んでいると、ババアと一緒に偽メルが家から出てきた。

 買い物に出掛けるようだ。


「あれ、誰ですか?」

「金で雇われたお前の替え玉だ」


 偽メルをジッと目で追いかけながら、メルが聞いてきた。

 まずはこの状況を見てもらってから、どうするか考えてもらう。

 本物のメルだと名乗り出てもいいし、偽メルに自分の居場所を譲ってもいい。

 俺はどんな決断でも尊重する。


「帰る家はあるんですよね?」

「ああ、優しい両親に暖かい家がある。お前が現れたら家に帰れる」

「だったら可哀想です。帰してあげましょう」

「それでいいのか?」

「はい、それがいいです」


 あの家の何がいいのか分からないが、メルは帰りたいようだ。

 デカくなっても子供みたいに可愛がられるか微妙だが、本人が決めたのなら仕方ない。


「分かった。事情は俺が話してやる。家に帰るぞ」

「はい!」


 張り込みは終わりだ。誰もいない家に向かった。

 不用心に二階の窓が開いているから、そこから入らせてもらう。

 岩板を浮かせて、メルと一緒に窓から侵入した。


 部屋の掃除をしながら、偽メルが帰宅するのを待つとしよう。

 綺麗に片付けた方が、すぐに引っ越しも終わるからな。


「帰ってきたぞ」

「はぁーい」


 掃除の邪魔にならないように、屋根の上で日向ぼっこしているとババア達が見えた。

 あっちも俺に気づいたのか、偽メルが手を振っている。

 流石は偽者だ。演技が過剰すぎる。本物は見るだけで手は振らない。


「さてと、手を振る意味をただいまから、さよならに変えてやるか」


 俺の出番がやってきた。立ち上がると、ポケットから一万ギル金貨を十三枚取り出した。

 家に入るのはババア一人で十分だ。屋根から飛び降りて、偽メルを解雇する。

 今日までよく頑張りました。早く良い家と良い両親の所に帰るんだな。

 荷物とお土産は忘れるんじゃないぞ。

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