第14話 ホーンラビット
月曜日の朝……
「青は無かったが、赤を四個見つけてきた。十一階まで行くぞ」
「そんなに深くまで行くなら、食糧がいっぱい必要ですね」
「ああ、そうだな。とりあえず二日分買っていくぞ」
土日の単独での宝箱探しを終えて、メルと一緒に隠した宝箱の回収に出発した。
昨日の夜中に家に到着したので、報告は歩きながらしている。
報告は歩きながらでも出来るが、仮眠は家の中じゃないと出来ない。
二人分の食糧と飲み物を二日分四千ギルで購入すると、ダンジョンに向かった。
流石に手作り弁当を二日分作らせる時間はない。
「お前の実力だと危険しかない。俺から離れるんじゃないぞ」
「はい、頑張ります!」
「おおっ、良い返事だ」
週末元気に遊んだのだろう。気合いを入れたら、メルから元気な返事が返ってきた。
俺は寝不足と疲労でちょっと疲れているが、これが若さというものかもしれない。
とりあえず、行った事がある炭鉱迷路と縦穴草原の説明は省略した。
五~六階は古代遺跡、七~八階は水中洞窟、九~十階はジャングル、十一~十二階は沼地だ。
一番警戒するのは十階で、木の棒を持った攻撃的な赤毛猿が、木の上から飛び降りて襲ってくる。
他のモンスターも危険だが、地上から襲ってくるから襲撃に気付きやすい。
「攻撃よりも回避に集中するように。防御は絶対にするな。骨が折れるからな」
「気をつけます」
ひと通りの簡単な説明を終わらせると、最後に戦闘の注意事項を教えた。
盾を構えて防御しても、ひ弱な身体じゃ意味がない。盾は壊れないが腕は壊れる。
メルには回避と逃げる事だけに集中させる。攻撃は全て俺に任せればいい。
一~二階はほぼ通り過ぎるだけ。
三階のビッグアントは剣と魔法で叩き潰していく。
あっという間に地下四階に到着した。
メルにとっては初上陸になる。
地下四階『縦穴草原』……
「ホーンラビットは攻撃を避ける知能があるから、ビッグアントよりも手強い。ここで避ける練習をするぞ」
「頑張ります!」
「ああ、死ぬ気で頑張れよ。一発でも攻撃を食らったら、今日の探索はここで終わりだ」
「うぅぅ、厳しいです」
ホーンラビットは白いウサギ型のモンスターで、大人の胴体ぐらいの大きさがある。
主な攻撃は角の生えた頭の突進頭突きと、ジャンプしてからの飛び蹴りがある。
この程度の雑魚モンスターの攻撃が回避できないなら、五階に連れて行っても怪我するだけだ。
「俺に付いて来い! 付いて来れないなら置いていく!」
「は、はい!」
剣と盾を構えて、五階への階段に向かって、草原を早足で突き抜ける。
メルにとってはランニング程度の速さだが、モンスターは足が遅いからと手加減してくれない。
死ぬ気で走れないヤツには、ここで死んでもらう。
「キュキュ‼︎」
「来たぞ! このまま突っ切る! 俺が倒すまで生き残れ!」
「はい!」
木扉が床に擦れるような鳴き声を上げて、五匹の角兎が向かってきた。
前方を塞ぐように扇状に広がっているから、まずは中央をこのまま突破する。
その後にすぐに反転して、メルを全力で追いかけてきた角兎を倒す。
「ハァッ!」
「ギュ‼︎」
ザァン! まずは正面の一匹を剣で斬り倒した。
そのまま走って、すぐに反転して立ち止まった。
「そのまま全力で走れ!」
「ハァ、ハァ……はい!」
残り四匹がメルに狙いを定めて追いかけている。四匹は活きのいい餌に夢中のようだ。
向かってくるメルのすぐ後ろの地面に意識を集中して、魔力を流して溜めていく……
「キュキュ‼︎」
そして、四匹がメルに頭から飛び掛かった瞬間、岩壁を地面から出現させた。
「ギュギュッ‼︎」
メルの背後に突然現れた大きな壁に、角兎達が次々に激突していく。
逃げる相手を全力で追いかけると、こうなってしまう。
あとは岩壁に頭をぶつけて苦しんでいる、四匹にトドメを刺すだけだ。
「ハァ、ハァ……怖かったです!」
「こんなのは野良猫と一緒だ。恐怖と緊張に慣れないと、まともに動けないぞ」
「うぅぅ、頑張ります!」
角兎にトドメを刺すと、魔石と素材の回収をメルに任せた。
この程度で息切れするなら、荷物は全部俺が持たないと重過ぎて走れない。
筋力と体力を上げる前に倒されたら、宝箱探知器を育てる意味がない。
「一個目の宝箱は六階にある。五階はさっさと通るから、それを強化するのは帰り道だ」
「ありがとうございます」
五階への階段をゆっくり下りながら、ブロンズダガー改を指差して話した。
自力でウルフを倒させて強化させる予定だったが、強い武器を持たせないと不安だ。
それに目に見えるご褒美があった方が、子供はやる気が出る。
「ほら、今度はウルフの皮だ」
「わぁーい!」
予定通りに五階はパパッと通り過ぎた。
遭遇したウルフ六匹を倒すと、落とした素材はブロンズダガー改に吸収させていく。
家にレア素材のウルフの尻尾を隠しているので、帰り道は通るだけでいい。
それだけで尻尾以外の強化素材は集まりそうだ。
「六階は『子猫獣人』と呼ばれる人型モンスターだ。骨の棍棒を持っているから気をつけろ」
「子猫なら可愛いんでしょうね?」
六階へと続く階段を下りながら、子猫獣人の説明をする。
夜の古代遺跡に生息する猫人は、身長110センチ前後で、メルよりも少し背が低い程度だ。
骨の棍棒で叩いたり、ブーメランのように投げ飛ばしてくる。
四足歩行と二足歩行を上手く切り替えて、素早い動きで壁を走ったりする。
遭遇すれば可愛いと思う前に、すぐに怖いと思うはずだ。
「確かに可愛いが、モンスターは階段の結界を通れない。家に連れて帰るのは無理だからな」
「階段全部に結界があるんですか?」
「ああ、神様が張った結界だから通るのは不可能だ」
「そうなんですか。残念です……」
どんなに可愛くても、モンスターはモンスターだ。ペットには出来ない。
前にスライムを抱えてダンジョンの外に出ようとしたが、見えない階段の結界にぶつかった。
モンスターを持った状態で、結界に触れて調べるを使えば、『神の結界』と表示される。
地下六階『古代遺跡』……
「こっちだ。まだ見つかってないといいんだが……」
寄り道せずに宝箱の隠し場所に一直線に向かう。
宝箱は持ち運び出来ないので、上手く隠さないと見つかってしまう。
今回は建物の中にあった宝箱を階段を作って、その中に隠した。
多分、屋根に上れる便利な階段だと思うだけで、誰も怪しまない。