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第138話 消えた鶏

 地下28階で三個、地下27階で二個の命結晶を手に入れた。

 これで進化できるが、ちょっと待った方が良いかもしれない。


「炎魔法か……」


 魔術の指輪の強化方法は分かった。

 病院のオヤジ達に聞けば、指輪が取れる階層を教えてくれるだろう。

 金貨を詰め込んだ革袋で殴りつければ、持っている指輪を全部買取る事も出来るだろう。

 俺が悩んでいるのは、病人を殴るかどうかではなく、メルに炎魔法を覚えさせるべきかだ。


 宿屋に泊まっている時に、面白半分で炎魔法を使われると大変な事になる。

 町中でも同じだ。ゾンビに常識的な行動は期待できない。


 全部の魔石を調べたわけではないが、氷、雷、水、地、木、風、火の七種類を習得できると思う。

 どう考えても、ゾンビでも安全に使える魔法は一つもない。


「回復魔法ならいいんだけどなぁ……」


 一応安全な魔法はあるが、回復魔石を落とすモンスターが分からない。というよりも、多分いない。

 候補としては不死身のウッドエルフ、動く骸骨の骸骨双剣士、動く死体のゾンビがいるが指輪がない。


「仕方ない。指輪を手に入れてくるか」


 俺は計画的に行動する男だ。予定を変更する。

 まずは黒妖犬を倒しまくって、炎魔法LV1の強化素材の黒妖犬の牙を手に入れる。

 50本手に入ったら、墓地にメルを埋めてから、入院中のオヤジ達のお見舞いに行く。


 そして、魔術の指輪と進化素材を、内職で作った物と物々交換で入手する。

 これなら宝箱を探すよりも断然早い。完璧な計画だ。


 ♢


 午後六時……


「いらしゃませ。ごゆっくりどうぞ」


 閉店前にオヤジ達の魔導具店に入ると、金髪の若い男店員が挨拶してきた。

 病院に果物を持ってお見舞いに行ったら、昨日退院したと言われてしまった。

 ヴァン達とクォーク達はまだ入院中だったが、用もないのに会うつもりはない。


「すみません。社長のジャンさんはいますか? 病院にお見舞いに行ったら、退院したと聞いたんですけど……」


 困った顔で果物籠を強調しながら、男店員に丁寧に聞いてみた。

 ダンジョンから出て、果物屋、病院に行って、ここまで来た。

 強気な態度で門前払いされるつもりはない。

 

「はい、社長ならば作業場にいます。呼んで参りますので、少々お待ちください」

「いえいえ、病み上がりの身体に無理をさせるわけにはいきません。私が行きます」

「恐れ入ります。こちらになります」


 作業場にある素材を見てみたい。

 男店員の後に自然な形で付いていく。

 

「社長、お見舞いの方をお連れしました」

「そうか。入ってもらえ」


 男店員が作業場の扉を二回ノックすると、部屋の中に呼びかけた。

 すぐに貫禄のある声が返ってきた。男店員が扉を開けたので、遠慮せずに中に入った。

 すぐに鉄ハンマーを持った興奮したオヤジ二人が襲いかかってきた。


「テメェー‼︎ ブッ殺してやる‼︎」


 まだ心の治療が終わってなかったようだ。

 病院送りにしてもいいけど、治療費を請求されてしまう。

 果物籠で手が塞がっているから、軽い足蹴りだけで済ませておこう。


「オラッ!」

「ぐぼぉ……!」

「やめろ! 暴れるなら外でやれ!」


 蹴り飛ばしたオヤジ二人が壁に激突して停止した。

 壁を突き抜けていないのが、俺が手加減した証拠だ。


「それで何の用で来たんだ? お見舞いに来たわけじゃないだろう」

「49階の落とし物の武器や素材箱を回収しておいた。一週間以内に届けてやるよ」


 社長の妄想オヤジが不機嫌そうに聞いてきたが、この報告で少しは機嫌も良くなるだろう。

 落とし物まで届けにきた命の恩人だ。追い出される心配はまずない。


「そうか。それは助かった。おい、一応は命の恩人だ。菓子はいいが、茶ぐらい出してやれ」

「チッ。おい、水でいいよな?」

「お構いなく。オヤジの淹れた茶を飲むつもりはない」

「ああ、そうかよ」


 親切な俺に対して、誰も感謝していないが、俺も楽しい会話をするつもりはない。

 さっさと用件を済ませよう。部屋を軽く見てみたが、魔術の指輪はなさそうだ。


「用件はそれだけか? だったら、ちょっと実験に協力してくれ」

「それは良かった。こっちも頼みたい事がある。内容次第で考えてもいいぞ」

「なるほどな。先に言ってみろ」


 妄想オヤジの実験内容が気になるが、聞くだけならタダだ。

 俺の頼み事を先に聞きたいようだから、遠慮せずに言ってみた。


「神銅、古代結晶、神鉄、竜水銀、太陽石を七個ずつ欲しい。それと魔術の指輪の入手階層と購入だ」

「石は子供の進化用か。魔術の指輪は何に使う? あれは魔導具の接着剤ぐらいにしか使えないぞ」

「フッ。遅れているな。最新技術を見せてやるよ」

「んっ?」


 どうやらオヤジ達には職人を名乗る資格はないようだ。

 接着剤にしか使えないというのなら、炎の指輪の力を見せてやる。

 手の平の上に炎の塊を出現させた。


「ほぉー、よく気が付いたな。確かに大量の魔石を吸収させると、魔術の指輪は属性変化する」

「何だ、知っていたのか。だったら、魔石の属性も調べているんだろ? 命の恩人なんだから全部教えろ」


 驚く顔が見れると思ったのに、オヤジ達は薄ら笑いを浮かべている。

 一般的に知られていないだけの情報なら、情報料は貰えない。


「ああ、教えてやるよ。その指輪を強化できるのはLV2までだ。しかも、魔法使いにしか使えない。ついでに鍛治屋のオヤジが42年、結婚指輪代わりに嵌めているが、アビリティは習得できてない」

「魔力が必要という事か。だったら、魔力の指輪があるから、それを使えばいい」

「残念だったな。魔力の指輪は魔法使いの魔力を倍増させるものだ。0を倍増させても、0だ」

「なるほど……」


 使えると思った指輪がオヤジ達によって、低評価にされていく。

 実にオヤジ達が楽しそうな笑みを浮かべている。

 この程度で俺のプライドを傷つけられると思っているなら、小さい男達だ。


「指輪を入手できるのは、45~49階だ。石は換金所で自分で買うんだな。次はこっちの番だ」


 俺の炎の指輪がゴミだという情報しか貰ってないが、頼み事を聞かないといけないらしい。

 妄想オヤジが長方形の鳥籠に入った白い鳥を持ってきた。


「コイツは雌のニワトリだ。コイツをゾンビにして欲しい」

「それが頼み事か? 地上でゾンビニワトリでも繁殖させるつもりか?」


 嫌な予感しかしない。永遠に腐った卵でも産ませるつもりだろうか。

 それを売りまくって、食べた人間をゾンビにするつもりなら、オヤジ達は殺した方がいい。


「そんなつもりはない。ゾンビにした状態なら、ダンジョンに連れて行けるか試したいだけだ」

「本当か?」

「噓吐いてどうなる。さっさとやれ」

 

 頼み方が悪いが、俺に関係する事だから調べておいて損じゃない。

 手の平を切って、ニワトリに無理矢理に血を飲ませた。


「コケッー‼︎ コケッー‼︎」

「指輪はいいから、石を寄越せ。百個ぐらい予備であるんだろ?」

「あるわけないだろう。自分達で探せ!」


 鳥籠に中でニワトリが暴れ回っているが、俺は進化素材の再交渉で忙しい。

 落とし物を届けてやるんだから、感謝の気持ちに渡すのが礼儀だ。


 二分後……


「おい、ニワトリが消えたぞ」

「悪魔め」

「やめろ。俺の所為にするな」


 交渉は進まないのに、実験結果は出たようだ。

 鳥籠の中のニワトリが灰になって消えてしまった。

 オヤジ達が信じられない目で俺を見ているが、やらせたのはお前達だ。


 ♢


「チッ。無駄金を使ってしまった」


 再交渉が失敗すると、換金所に内職の品を売りに行った。

 何故か買取り不可が多かったが、交渉術を駆使して安値で買取ってもらった。

 目的の進化素材は手に入ったから、良しとしておこう。


「さてと、どうしようか」


 このまま墓地に帰ってもいいが、出来れば魔術の指輪が欲しい。

 オヤジの所で進化素材は手に入らなかったが、魔石の属性リストは手に入れた。

 俺の予想通りに七種類の属性しかない。問題はこの属性をどうやって習得するかだ。


 魔法使いならば指輪は使用できるが、魔法使いでもアビリティは習得できないそうだ。

 つまり、使用するには魔力が絶対に必要なのは間違いない。


 だけど、魔人に進化すれば魔力問題は解決すると思う。

 ついでに言えば、進化は生まれ変わるようなものだ。

 メルが炎の指輪を嵌めていたら、炎を使える可能性は十分にある。


「こちらも実験するしかなさそうだな」


 結論は出た。とりあえず炎の指輪だけで実験してみる。

 魔術の指輪は84万ギルと高価な物だ。実験が失敗しても、メルは消えない。

 欲をかいて、84万ギルが消える方を心配しよう。

 余った金で弁当とアメ玉を購入すると、墓地に引き返した。

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