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第137話 鬼教官

 地下33階に到着した。宝箱は六個あるらしい。

 数十匹の巨大ゴキブリが一度に襲ってきたが、両手から弾丸を発射して駆除した。

 地面に大量の白魔石と黒甲殻が落ちている。薬品製造で粉薬が作れそうだ。

 鉄盾の内職はまだ終わってないが、色々な内職があった方が気分転換になるだろう。


「この魔石も駄目みたいだな」


 メルが嵌めている魔術の指輪に、ゴキブリの魔石を押し付けてみたが吸収されない。

 強化素材の属性魔石がよく分からないが、火竜やウッドエルフの魔石は吸収された。

 吸収される魔石と吸収されない魔石がある。


 おそらく魔法属性が関係していると思う。

 火竜は火、ウッドエルフは木だろう。

 特定の魔法属性を吸収させる事で、指輪が強化されるはずだ。

 まずは四十八種類の魔石を調べて、どれが属性魔石なのか把握する。


「うっ、うっ! ううううっ!」

「この辺にあるんだな?」

「あうっ」


 宝箱を見つけたようだ。

 地面を指差した後に、埋まっている範囲をグルグル指差している。

 それが終わると、俺が魔力で引っ張っている小船に乗り込んだ。

 早く内職を終わらせたいようだ。


 五十分後……


「よし、進化の時間だぞ」


 一時間もかからずに紅蓮石を二個見つけた。

 安全な階段の中まで移動すると、小船に乗っているメルに吸収させようとした。


「ゔゔっ!」

「痛ぁ! こら、進化しないと大人になれないぞ!」


 だけど、紅蓮石を持つ手を思いっきり叩かれた。大人にはなりたくないようだ。

 もしくは痛いのが嫌なんだろう。でも、嫌でも進化してもらわないと俺が困る。

 無理矢理に頭に押しつけて吸収させた。


「あと五分我慢すれば終わるからなぁー」

「ゔゔゔゔっっ‼︎」


 メルが階段をのたうち回っているが、俺は粉薬を作るのに忙しい。

 階段を通る冒険者が心配そうに見ているが、いつもの事だと言っておいた。


【名前:ゾンビアサシン 年齢:7歳 性別:ゾンビ 身長:136センチ 体重:32キロ】

【進化素材:命結晶七個】

【移動可能階層:25~50階】


「なっ⁉︎ アサシンだと⁉︎」


 数分後、メルの呻き声が聞こえなくなった。

 粉薬を作るのをやめて、見てみると暗殺者になっていた。

 厳しく育て過ぎた所為で悪い道に進んでしまった。


『素早さLV2』『千里眼LV2』『会心率LV2』『防具製造LV1』『薬品製造LV1』


 でも、新アビリティを五つも覚えている。教育方法は間違っていない。

 キチンと能力は上昇しているし、性格が少し悪くなっただけだ。

 この調子でビシバシと教育してやろう。


「よし、メル。粉薬作りを手伝ってくれ」

「ゔぁ? へっ!」

「……」


 訂正しよう。性格がかなり悪くなっている。

 嫌な顔をしてから、階段にうつ伏せに寝転んだ。手伝うつもりはないようだ。

 仕方ないので、抱えて小船に乗せた。寝るならこっちに寝てもらう。


 ♢


 寝転んでいるメルは気にせずに、冷たい風が吹き荒れる雪原を小船は進んだ。

 魔術の指輪に倒した氷蛇、レッドゴーレムの魔石を吸収させた。

 雪熊の魔石は吸収されなかったが、メル用の服の素材に多めに倒しておいた。


 地下29階……


 メルはまだ寝転んでいるが、ここでは頑張って仕事してもらう。


「メル、休憩終わりだ。宝箱は何個あるんだ?」

「ゔっ」

「宝箱は十個もないぞ。本当は何個あるんだ?」

「ゔっ」


 反抗期なのか知らないが、寝転んだまま両手の指を全部見せてきた。

 もう一度聞いたら、十個から変更するつもりはないようだ。

 俺が殴らないと思って、舐めた態度を取っているなら、溶岩の中に放り込む。

 そうすれば自主的に進化して、火傷を治療したいと思うだろう。


「分かった。もう俺は知らないからな。ここに置いて行くからな。いいんだな?」

「……」

「分かった。勝手にしろ」


 だが、俺はコイツの親と同じ屑になるつもりはない。

 小船を溶岩洞窟に置くと、スタスタと歩いて離れていく。

 三分もせずに心配になって、泣きながら追いかけてくるはずだ。


 十五分経過……


「あのガキめ!」


 洞窟の壁に擬態して様子を見ていたが、ピクリとも動かない。

 何日間も死んだフリで遊んでいたから、長期戦は得意なようだ。


 だったら、強面の冒険者に頼んで脅してもらう。

 俺が颯爽と現れて助けてやれば、死ぬほど感謝する。

 それで二度と反抗しなくなる。


 でも、俺が助ける前に、冒険者がメルに殺される危険もある。

 ここはその辺にいるマグマスライムに襲わせた方が得策だ。

 マグマスライムを捕獲すると、小船に向かって放り投げた。

 さあ、闘争本能を呼び覚ませ。


「ゔゔっ⁉︎ あうっ!」


 狙い通りにメルが驚いて飛び起きると、襲ってきたマグマスライムを殴りつけた。

 だけど、マグマスライムの身体はとても熱い。うっかり触ると大火傷だ。

 ズボッと身体にめり込んだ右拳を慌てて引き抜いている。


「ゔゔっ! ゔゔっ!」


 触ると熱いと学習したのか、弓矢を鈍器のようにして叩き始めた。

 少し賢くなったが、あの攻撃で倒すのは無理だ。


「もう見ていられないな。使え」


 これ以上は見る価値はない。このままだと永遠に倒せない。

 背中に装備している氷剣を抜くと、メルの近くに放り投げた。


「あうっ?」


 回転しながら飛んでいった氷剣が地面に突き刺さった。

 音に気づいたメルが弓矢の攻撃をやめて、氷剣を見つめている。


「さあ、その剣を使うんだ」


 まだ助けるのは早すぎる。危機的状況が人を成長させる。

 誰かが助けてくれると期待するな。自分の命は自分で守るしかない。

 剣を拾えという熱い視線を送り続ける。


「ゔゔっ!」

「よし、いいぞ。そのまま斬り殺せ」


 俺の念が通じたのか弓矢を放り投げると、氷剣の柄を両手で握って振り上げた。

 剣の使い方は短剣で覚えていたようだ。刀身を持っていたら凍傷になっていた。

 マグマスライムに氷剣を突き刺して、アイススライムに変えて倒した。


「チッ。また寝ている。俺がいないと駄目人間になるな」


 次は何をするかと様子を見守っていたが、アイススライムの上に雪熊の毛皮を敷いて寝始めた。

 他にやりたい事がないようだ。きっと思考がゾンビなんだろう。

 冒険者が来たら襲う、冒険者が来ないなら休む、そんな単純な思考だ。


「やはり厳しくしないと駄目だな」


 駄目ゾンビを見守るのをやめた。嫌われる事を恐れるべきではない。

 擬態をやめて近づくと、溶け始めたアイススライムを蹴り壊した。

 メルが地面に腹から落ちた。


「あゔっ‼︎」

「いつまで寝ている! さっさと仕事しろ!」

「ううっ、ううっ」


 容赦なく蹴り起こすと、近くの地面を怒鳴りながら踏み砕いた。

 メルは頭を抱えて震えているが、俺を鬼教官にしたのはお前だ。


「いいか。この魔石を指輪に百個吸収させろ。そうすれば休憩させてやる。あと宝箱は何個ある? 嘘付いたら、こうだからな!」

「ゔっ! ゔっ!」

「よし、二個だな。さっさと案内しろ!」

 

 地面に落ちているマグマスライムの魔石を拾って、指輪に無理矢理に吸収させた。

 ついでに宝箱の数を聞いてから、地面をまた踏み砕いた。

 俺の気持ちは今度は伝わったようだ。震える指を二本見せてきた。


「はうっ!」


 やはり上下関係は重要だ。氷剣を持たせて、メルにマグマスライムを倒させていく。

 氷剣の魔力補給は、ゴキブリの魔石が大量にあるから問題ない。

 アビリティ習得も重要だが、俺への忠誠心はもっと重要だ。忠誠心を育ててやる。


「残り88個だ。早く倒さないと百個追加するぞ」

「ゔゔっ!」

「反抗的だな。五十個追加だ」

「ゔっ⁉︎」


 小船に乗って、歩いているメルの後ろを付いていく。

 立ち止まっている駄目ゾンビには、小岩を作って近くに投げつける。

 流石に当てるまではしない。怪我させると治療する手段がない。


 201個目……


「ゔっ、ゔっ!」

「んっ? どういう事だ?」


 あと450個吸収させないといけないのに、魔術の指輪に魔石が吸収されなくなった。

 指輪が壊される前に小船から飛び降りて、メルから魔石を取り上げた。

 魔石を指輪に叩きつけても吸収されない。


【神器の指輪:使用者に炎魔法LV1を与える】

【強化素材:黒妖犬の牙五十個、マグマスライムの炎核五十個、炎竜の鱗五十枚】


「……予想通りだな」


 調べ終わると、メルが嵌めている貴重な指輪を取り上げた。

 子供が持つには早すぎる。俺の指にこそ相応しい。


「おお! 使える!」


 指輪を嵌めると、右手の人差し指に魔力を集めてみた。

 人差し指の先に赤い炎が現れて揺れている。


「よしよし、良くやった。さあ、26階に行くぞ」

「あうっっ、うあっっ!」


 人差し指から火を消すと、満面の笑みでメルの頭を撫でまくった。

 次は26階の黒妖犬を弓矢で倒してもらおう。

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