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第135話 死の天使

「……」


 さて、問題が発生した。

 素直に手を差し出して実力を見せてもいいが、モンスターだとバレると騒がれる。

 騒がれるだけで済むならいいが、女が悲鳴を上げて、俺を触った手を大消毒する。

 受付としては大変失礼な態度だが、十分にあり得る可能性だ。


 だったら別の方法で騒がれた方が、俺の精神的被害は最小限で済む。

 実力を見せろというのならば、ここにいる冒険者を全員病院送りにする。

 二度と俺のアビリティを見たいと、言えないようにしてやろう。


「疑われるなんて不愉快だ! 一番強い職員でも冒険者でもいいから連れてこい。俺の実力を見せてやる」

「あっ、そういうのはいいです。すぐに済みます。ご協力が出来ないようならば、お引き取りください」

「チッ……さっさと終わらせろよ」

「ご協力ありがとうございます」


 カウンターに拳を叩きつけると、生意気な受付女を脅した。

 だが、護衛が後ろに控えているから、強気な態度で却下してきた。

 仕方ないから右手をカウンターに置いた。そんなに見たいなら見ればいい。


【名前:カナン 年齢:20歳 性別:男 種族:ゾンビ魔人 身長:178センチ 体重:64キロ】


「あっ、あっち側の人間だ」

「んっ?」

「いえいえ、何でもないです! Cランクに変えておきますね」


 悲鳴は上げなかったが、受付女は一瞬で無表情になると、気になる事を口走った。

 竜人はこちら側の人間と言っていたから、俺と同じ人間が何人かいるのだろう。

 まあ、あっち側でも、こっち側でもお金さえ貰えれば文句はない。

 笑顔対応に戻った受付女から、お金、鞄、銅色から銀色になった冒険者カードを受け取った。


「絶対に俺にビビっていたな」


 換金所から端た金を手に入れると、近場の食堂に向かった。

 腐食防止のマントで包んで、メルの好きな定食料理でも運んでやるか。

 腹が空かなくても栄養は必要だろう。


 ♢

 

 翌日……


 必要なアビリティ装備と定食料理を持って、49階を目指した。

 体温調節のアビリティだけは、氷海用に大至急習得したい。


「メルを進化させたら、Aランクにでも行くか」


 俺はこの小さな町で終わるような男じゃない。

 準備が出来たら、メルを連れて、姉貴がいるAランクダンジョンを目指す。

 一ヵ月もあれば、余裕で準備できるだろう。


 ピラミッド、溶岩洞窟、闘技場を抜けて、戦闘で出来た穴が綺麗に塞がった草原に到着した。

 落ちている武器や素材回収は後にして、まずはメルが階段に避難しているか確認する。

 小船から降りて、暗黒城に続く階段を下りていった。


「おっ!」


 すぐに階段に倒れている、黄色と黒色の雷蛇革のコートを着たゾンビを見つけた。

 やる事がないから、死んだフリをして遊んでいるようだ。


「メル、飯の時間だ。起きろ」

「ゔっ? あうっ、ゔあっ!」


 俺の声に反応したのか、飯の匂いに反応したのか分からないが、メルが立ち上がってやって来た。


「好きなだけ食べていいからな。俺は他の三人を見てくる」

「あうっ」


 手に持っている腐食防止のマントを階段に置いて広げると、山積みの弁当十二個を見せた。

 ゾンビなら食中毒の心配はないだろうが、両手は水で洗わせておこう。

 岩スプーンを手渡せば、あとは自分で出来るだろう。


「やっぱりか」


 結界の向こう側にゾンビ三人が座り込んでいる。

 階段から出ると、出た方の階層に拘束されてしまう。

 50階から出るには殺生白珠で進化させるか、聖水を与えて人間に戻すしかない。

 ここは勿体ないから聖水を選ぶとしよう。


 とりあえずゾンビ達の無事は確認できた。

 次は草原に落ちている武器を集めて、ゾンビ達に渡せば、勝手にモンスターを倒してくれる。

 殺生白珠を集めるように命令しておけば、俺はそれを回収に来るだけでいい。


「余裕が出来てしまったな。何をすればいいんだ?」


 忙しければ人を雇う。人を雇えば余裕が出来る。

 一流の人間はその出来た余裕で新しい事に挑戦する。


 防具製造LV2のアビリティを上げてもいいが、ここは薬品製造のアビリティを習得する。

 手袋のアビリティLVを強化素材を集めて上げて、習得しやすい状態にする。

 薬品製造は聖水を作るには必要なアビリティだ。


 ゾンビにする、人間に戻す、これを一人で出来るようになれば非常に助かる。

 聖水を作るのに必要な材料は『綺麗な水』『魔石』+『聖魔法、回復魔法、薬草、薬木など』だ。

 水は氷海、魔石はミノタウロス、薬草はバラ園にあるだろう。


「まずはミノタウロス狩りだな」


 50階の赤い宝箱が全部復活するまで約四日だ。

 メルの進化に必要な神金剛石は、39階のキメラを倒して入手できる。

 四日後に草原の兵士達を突破して、ゾンビ達が集めた殺生白珠を回収して、メルを進化させる。

 あとはメルを進化させながら、一階を目指すだけの単純作業になる。


 苦戦するのは城門前の数千人の兵士との戦闘だけだ。

 ゾンビ三人がいないから、使役できる強力なモンスターが必要だ。

 一匹だけしか使役できないから、慎重に選ばないといけない。


「よし、火竜にするか」


 考える必要もなかった。

 俺は常に道具は最高の物を使う。それは者でも物でも同じだ。

 火を吐けて、空を飛べる、これ以上のモンスターはいない。

 三日ぐらい輸血すれば、多分使役できるだろう。

 使役したモンスターは、結界を通る時に小さくなるから、火竜も階段を通れるはずだ。


「おっと、武器を拾わないといけないのか……面倒くさいな」


 早速火竜を半殺しにして、輸血しようと思ったのに他にやる事があった。

 草原に散らばっている、ヴァン達の武器や鞄を見つけないといけない。

 放っておいたら、兵士達がそれで武装する可能性がある。

 特に虹色魔玉は放置していたら、進化されるから危険しか感じない。

 余裕が出来たと思ったが、まだまだ忙しいようだ。


「ふぅー、忙しくて死にそうだな」


 ♢


 草原の片付けに六時間、火竜の輸血に二日かかった。

 切れ味抜群の赤い剣で火竜の背中に切り込みを入れたら、そこにスッポリと入って輸血を行なった。

 輸血後の使役火竜に虹色魔玉を使って、進化も完了させた。

 ついでに俺の銀剣も、拾った鞄の中から将軍の魂を拝借して、強化させてもらった。

 使った素材はすぐに倒して戻すから問題ないだろう。


【ベノム・ドラゴンベイン:長剣ランクB】——刃に竜種にのみ有毒な猛毒を持つ剣。斬られた竜は弱体化する。

【強化素材:殺生白珠七個、ダンジョン主一セット】


 特化型の武器は正直使いにくい。

 両刃の刀身は紫色に変色して、刀身の真ん中に青い文字がのたうち回っている。

 切れ味は上昇したんだろうが、赤の剣と一緒に持つと、あまりにも毒々しい。


「意外と少ないな。七人倒せば終わりだろ」


 49階『戦場草原』には、三千五百人近くの兵士達が武装して待機している。

 だけど、俺と強化火竜の前では人数が少なすぎる。

 色付き鎧の目立っている奴を倒せば、さらに人数が減るなら楽勝だ。


「じゃあ、適当に暴れてくれ」

「グルルゥ!」


 火竜に命令すると、翼を広げて飛んでいった。

 俺の方はゴーレムLV8に乗って、二本の大剣で鎧を着た雑魚どもを蹂躙する。

 俺を倒したければ三千人ではなく、三万人連れてくるべきだったな。


「飛行開始だ」


 火竜と同じように俺も飛ぶ事に決めた。

 右手に赤の大剣、左手に紫の大剣を翼のように広げた。

 戦場を飛び回る死の天使の降臨だ。

 俺の翼に触れたら死ぬから、せいぜい気をつけるんだな。


「あっははは!」

「ギャアアアアッ‼︎」


 まるで兵士達がゴミのようだ。

 草原を飛び回る俺のゴーレムに兵士達が押し潰され、切断されていく。

 超気持ち良いから、将軍は倒さないで、斬撃をLV8まで上げてみたい。


 二日後……


「遊び終わりだ!」

「グギャ‼︎」


 兵士を何十万人倒したか分からないが、生け捕りにした将軍七人の首を乱暴に撥ねた。

 俺の貴重な時間を無駄にしやがった。結構粘ったのに斬撃LV7から上がらない。

 暗黒城のゾンビ三人にも一日猶予を与えたから、殺生白珠を集め終わっているだろう。

 集め終わってなければ、アイツらの首もスパァンだ。


「偽メルが頑張っているから、この剣も強化するか」


 階段をメルと小さくなった火竜と一緒に下りていく。

 本物のメルが家に帰らなくても、偽者がいるから、ジジイもババアも騒がない。

 ドラゴンベインを強化する為に、さらに殺生白珠を集めてもいいだろう。


「あうっ、あうっ!」

「んっ? その弓を強化するのはまだ早い。お前には薬品製造係を任命する。頑張りたまえ」

「ゔゔっ!」


 メルがBランクの弓を指差しているが、戦闘力は十分に足りている。

 薬品製造の手袋を渡してやった。俺は防具製造で忙しいから、聖水作りは任せた。


「おっ!」


 階段の先に座り込んでいる三匹のゾンビが見えた。

 どうやら、首をスパァンする必要はなさそうだ。

 まさか命令を無視して、サボっているわけじゃないだろう。

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