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第133話 町に行こう

「があッ‼︎」

「逃すか!」


 往生際の悪い奴だ。地面を力一杯踏み付けて、真上に向かって飛んでいった。

 お前が俺から逃げられる場所はあの世だけだ。身体を撃ち上げて追いかけた。


「何がしたいんだ?」


 このまま真上に向かっても、神の結界にぶつかるだけだ。

 俺なら階段の中に逃げようとする。まあ、それは俺が塞いでいたから無理だった。


「重力崩壊『紅滅』——」

「えっ?」


 結界にぶつかる前に空中で反転すると、神の結界を足場に、俺に向かって急降下してきた。

 左手に握った赤い魔石を砕いて、ヤバそうな赤い雷を放つ、直径二十センチはある黒い球体を出現させた。

 あの赤雷球を限界まで加速してから、俺の顔面に叩き込むつもりだ。


「死ね」

「うっ!」


 ヤバそうな攻撃だが避ければ大丈夫だ。でも、避ければ階段から逃げられる。

 ならばやる事は一つだけだ。赤い剣を正面に構えて、刀身に岩鎖を巻き付けていく。

 さらに長方形の岩盾を剣の前に構えた。やれるものならやってみろ。


「なぐっ⁉︎ ぐおおおお‼︎」


 赤雷球が激突すると、岩盾は呆気なく壊された。岩鎖の岩もボロボロ剥がされていく。

 両手で剣を飛ばされないように支えているが、支える手が馬鹿みたいに震えている。

 この剣と鎖が絶対に壊れないか、今すぐ知りたい。


「殺す殺す殺す殺す殺す——ッ‼︎」

「ぐゔゔゔっ!」


 空中に踏ん張って押し返そうとするけど、どう見ても猛スピードで落ちている。

 落ちてくるだけなら受け止められると思ったが、絶対に重さが激増している。

 巨大隕石でも受け止めている気分だ。赤雷球が剣を押し下げて、頭に近づいてくる。

 このままだと地面に叩き落とされて、頭が粉々になるのは時間の問題だ。


 だったら、攻撃を逸らすか躱すしかないが、剣がくっ付いたように動かなくなった。

 動かせるのは俺の身体だけだ。でも、それだけあれば十分だ。

 弧を描くように、足裏の岩板を上に向かって乱暴に動かした。


「ウラァッ‼︎」

「ぐぼぉっ‼︎」


 木の枝にぶら下がって一回転するように、強烈な双飛び膝蹴りを腹筋にブチ込んだ。

 そして、オルファウスがフラつき苦しんだ瞬間、剣を赤雷球から引き剥がした。


「一人で落ちてろ!」

「ふゔぁぁ⁉︎」


 左手を突き出したまま、オルファウスが地面に激突した。

 地面が吹き飛び、左腕が折れて、顔面からグチャグチャに砕け散った。


「自分の命まで粗末にしやがって……ゾンビに出来ないじゃないか」


 多分、ゾンビになるよりも死んだ方がマシなんだろう。二人もバラバラ死体を選んだ。

 仕方ないから鎖使いでも、ゾンビにしよう。いないよりはマシだ。


「さてと、やるか……」


 決着はついたが、まだ終わりじゃない。

 人質の生死を確認して、死にかけはゾンビにする。

 その後はメルを暗黒城から急いで探して、階段の中に避難させる。

 一週間後にモンスターが再出現するかは微妙だ。一時間後かもしれない。


「やれやれ、忙しくて死にそうだな」


 人質達の落下地点に急いで向かうと、岩塊に拘束されている連中を探した。

 呼吸と脈を確認して、死んでいるなら容赦なく血を飲ます。


「ぐがああッッ!」

「痛い痛い痛い!」


 どうやら全員無事みたいだ。岩船を作って無理矢理に詰め込もう。

 縦三列、横六列で立たせて乗せれば、小船でも運べそうだ。

 落ちている武器や鞄は後で回収に来るとしよう。


 ♢


「うわあああッッ‼︎」

「邪魔だ邪魔だ! 轢き殺すぞ!」


 34階の階段に寝転んでいる冒険者達が邪魔すぎる。

 こっちは急患を運んでいるから、道を開けるのが常識だ。


 町までの到着目標時間は35時間だ。流石にそれ以上は無理だ。

 メルを探すには時間がかかるから、下僕のゾンビ三匹に探させている。

 変態アレンなら嗅覚だけで探せるだろう。

 見つけられたら、ご褒美に進化させた後に治療してやる。


「とりあえず病院の前に放置して、残る問題は俺が灰にならないかだな」


 時間があるので町に着いた後の予定を考えてみた。

 事情を聞かれると面倒なので、急患は病院の前に放置で決定だ。


 問題があるとしたら、その前だ。

 ダンジョンから持ち帰れるのは魔石と素材、アビリティ装備しかない。

 アビリティで加工しないと、葉っぱ一枚も持ち出せない。

 持ち出そうとすれば、町とダンジョンの間の結界を通った瞬間に灰になる。


 つまり俺も灰になる可能性が多少はある。

 髪の毛を引っこ抜いて、安全を確かめてから出ないといけない。

 もしも灰になった時は、急患を乗せた小船だけを外に置いて、50階の家に帰ろう。


 31時間後……


「うわああッッ‼︎」

「懐かしいな。ほぼ二ヶ月ぶりぐらいだ」


 予定より早く地下一階に到着した。スライムを轢き殺しながら進んでいく。

 人間はまだ轢き殺してない。十六人ぐらいとちょっとぶつかっただけだ。

 治療費はコイツらが病院にいるから、コイツらに請求するといい。

 正義の味方鎖男には請求したら駄目だ。


「病院帰りに服でも買いに行くか」


 シトラスの服は普段着のような安物だから肌触りが良くない。

 最低でもシャツは五千ギル以上じゃないと駄目だ。

 安過ぎると馬鹿にされるが、高過ぎても馬鹿にされてしまう。


「チッ、そう言えば金がなかった。魔石と素材はあるのに……」


 買い物をしようにも金が無かった。曲がった金貨が数枚あるだけだ。

 俺の冒険者カードが入った鞄は、リエラが持ち逃げしたそうだ。

 再発行するには、換金所で身元を調べられないといけない。

 魔人のゾンビで再発行されるか心配だ。そのまま討伐されそうな気がする。


 まあ、いざという時は換金所を襲えばいい。

 魔石を全部売っても、進化素材を買えるだけの金額にはならない。


 地下洞窟を抜けると、六百段以上もある階段をゆっくり上り始めた。

 人が多いから流石に慎重に上るに決まっている。階段の頂上に扉が見えてきた。

 時刻は昼時だから、腹は減らないが、久し振りにまともな何かを食べたい。


「大丈夫だよな?」


 扉を開けて、小船を先に町に出した。

 次に水色の髪の毛を引き抜いて、太陽の光を髪の毛に浴びせてみた。

 どうやら問題ないようだが、まだ安心できない。

 右手から鎖を外して、小指の先だけ光に当ててみた。

 温かいだけで変化はなかった。


「よし、病院に行くか」


 扉を全部開けると、平常心で町中に出た。

 誰もいなかったら『うおおおおお! よしよしよしよしよしぉー‼︎』と喜び絶叫していた。

 だが、それは人目のない静かな場所でやろう。喜びすぎだと笑われてしまう。


「刺し身、焼き肉……今は無性に野菜が食いたいな」


 小船を病院に向かって進ませていく。

 病院はすぐ近くなので、到着したら小船と急患の拘束を壊して放置する。

 その後は適当に服を買って、風呂とサウナがある宿屋に泊まるとしよう。

 

「じゃあ、ゆっくり休むんだぞ」


 予定通りに病院の前で急患達を放置した。俺はこれから換金所に行くから忙しい。

 換金所を襲って、服屋に行って、サウナに入って、サラダを食うから大忙しだ。


「あぁー、オヤジ達の素材を盗んでくれば良かった。全然盗む時間がなかった」


 今すぐに戻るつもりはないが、時間があれば、オルファウス達の持ち物を探して回収していた。

 俺のバラバラ死体のアビリティ装備、銀剣、氷剣、呪われた剣、魔石と素材しか回収できなかった。

 剣は四本もいらないし、全身岩鎖に鞄を背負うとか完璧に変態だ。


「はぁ……仕方ない。今日は節約するか」


 変態として目立ちたくないから、行き先を換金所から実家に変更した。

 ババアのタダ飯とジジイの無料宿屋で我慢する。タンスの服も我慢すれば着れるだろう。

 俺が死んだ事になっているから、元気な顔を見せるついでにちょうどいい。


「なっ⁉︎」


 だが、家の目の前まで行くと、信じられないものを目撃してしまった。


「おば様、この洗濯物も乾いてます」

「ありがとう、メルちゃん。でも、休んでないと駄目よ。怪我してるんだから」

「このぐらい平気です!」


 ババアが茶髪の子供と、楽しそうに洗濯物を取り込んでいる。

 その女は絶対にメルじゃない。背格好は似ているが偽メルだ!

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