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第132話 隠れ家の鍵

「ぐがあああ‼︎」


 黒針が胸の中心に直撃した瞬間、身体ごと意識が吹き飛んだ。

 服の下に丸盾を作っていたから、爆発の衝撃は多少は防げたと思う。


「……」


 痛みを感じるが青空が見える。

 地獄にしては綺麗だが、地獄に堕とされるような事はしていない。

 むしろ、悪人を二人も処刑したから、天国行きで当然だ。


「……」


 何で、生きているんだろう? 数秒間の現実逃避を終わらせた。

 目だけを動かして、身体の下を確認するが何も見えない。

 おそらく、今の俺は草原の地面に頭だけ転がっている状態だ。

 あとは踏み潰されるのを待つだけの存在だ。


 だが、死を待つだけでいいわけがない。

 生き残ったのなら、まだやるべき事があるという意味だ。

 俺の中には、戦う為に必要な魔力と意思が残っている。

 頭の下に向かって、人型になるように魔力を流し始めた。


「フゥッ‼︎」

「⁉︎」


 だけど、そんな時間はないようだ。空から赤い剣が頭に向かって落ちてきた。

 慌てて頭を飛ばして緊急回避すると、俺がいた地面が大きく割れて砕け散った。


「チッ! まさか、エストまで死ぬとは思わなかった。この化け物が!」

「……」


 いや、あれは自殺だから俺の所為にされても困る。

 頭だけを宙に浮かせて、最後の一人の動きを警戒する。

 怒り心頭といった感じにオルファウスが睨んでいる。


 自己再生が発動されているのか、顎が動かせそうだ。

 喉まで再生されたら喋れるだろうが、そこまで生きられる保証はない。

 とりあえず、あれを使わせてもらおう。巨大な岩塊を目指して頭を飛ばした。


「逃すか! 死ね!」

「ぅっ……」


 剣から打ち出された大量の赤い弾丸が飛んできた。

 地面スレスレに急降下して躱して、次の攻撃を急上昇して躱した。

 直線的な攻撃は弾道を予測しやすい。


 巨大岩塊に到着すると、その中に避難した。

 この中には頑丈な鎖と服が残っている。

 全身が再生されるまで籠城してやる。


「あー、あー、よし、喋れる」


 首まで再生されたが、服を脱がす為の手がまだだ。時間稼ぎするしかない。

 覗き穴を一つ作って、向かってくる敵に弾丸を次々に発射する。

 でも、弾丸を食らっても、オルファウスは構わずに突っ込んでくる。

 完全に透明マントで防がれている。


 倒したいなら、二時間ぐらい攻撃を続けて魔力を削りまくるしかない。

 エストがいない今、空中戦なら俺の方が圧倒的に有利だ。

 岩塊を安全な空中に飛ばして、真上から撃ち続ける。


「ぐぐぐっ! 全然上がらない!」


 早く空中に逃げたいのに岩塊が浮かばない。

 身体が小さくなったから、扱える魔力が減少したみたいだ。

 そんな話は聞いた事がないが、今はありのままの事実を受け入れるしかない。


 岩塊の中心にある萎んだ鎖を利用して、俺を守る鎖の鎧を完成させる。

 鎖を岩で覆って操って、頭に巻いた。これで即死の心配はしなくていい。

 あとは攻撃を耐えつつ、身体が再生したら予定通りに空に逃げる。


「絡まるんじゃないぞ」


 シトラスの身体から萎んで板状になった鎖を抜き取っていく。

 背中に取り付けられた収納箱から、手足と腰に向かって六本の鎖が伸びている。

 これを外せば俺が装備できそうだ。服を脱がせて、収納箱も脱がせた。

 汚い下着だけは勘弁してやる。


 二分十八秒後……


「完成だ」


 失われた手足を取り戻して、全身に黒岩の鎖を巻き付けた。

 元の透明な鎖だと町中は歩けないが、これなら見えないから問題ない。

 岩塊から抜け出ると、待たせていた最後の一人の前に空中から飛び降りた。


「懺悔の時間は終わりだ。地獄で死んだ仲間と冒険の続きでもするんだな」

「何だ、その格好は? 安心しろ。お前を殺したら引退する。お前のお陰で分け前が増えたからな!」

「このゴミが!」


 仲間の死に涙も流さずに笑い返すと、オルファウスは剣を振り回して向かってきた。

 この鎖の持ち主も無念だろう。俺に力を貸してくれ。お前の分までブン殴ってやる。

 両手足に力を込めると、恐れずに走り出した。


「おおおお!」

「潰れろ!」

「ぐはあっ!」


 オルファウスが飛び掛かってくると、重力を込めた刃とともに急降下してきた。

 両腕を交差させて受け止めようとしたが、腕ごと地面に叩き伏せられた。


「頭が本体みたいだな!」

「はぅっ⁉︎」


 死の予感を感じて地面を転がった。

 後頭部に振り下ろされた必殺の一撃が地面を爆発させた。

 空から打ち上げられた草と土が降ってきた。


「あ、危なかった!」


 オルファウスの攻撃にここまでの威力はなかった。

 魔力を暴走させて、俺の頭を一撃で木っ端微塵にするつもりだ。

 命懸けの攻撃で命を奪うとは、命を粗末にするな。


「お前はここで始末する」

「それは俺の台詞だ、このクソ野郎が。姉弟揃って俺の邪魔しやがって!」

「いいや、お前が邪魔しているだけだ。これ以上邪魔できないように、この世から排除してやる!」


 素早く立ち上がると、右手に黒剣、左手に丸盾を作って走り出した。

 一対一の長期戦ならば高確率で勝てる。だが、コイツに時間をかけるつもりはない。

 さっさと倒して人質を回収する。一人ぐらいはまだ生きている可能性がある。


「舐めるな。小僧」

「くっ!」


 右手の黒剣と左手の丸盾が突然砕け散った。

 さっきも岩壁を壊されたから、作るだけ無駄かもしれない。

 でも、壊すには魔力が必要だ。無限に壊せるわけじゃない。再び剣と丸盾を作り出した。

 お前如きの力では、絶対に壊せないものがあると教えてやる。


「ハァッ!」

「この!」


 黒剣を真っ直ぐに投げ飛ばすと、次に盾と右手から弾丸を連射した。

 剣を持っているからと油断したな。俺は命懸けの接近戦を挑むほど馬鹿ではない。

 弾丸を連射しながら、向かってくるオルファウスから後ろ飛びで距離を取り続ける。

 汚い者が正々堂々綺麗な方法で倒される事を期待するな。

 お前の魔力を容赦なく削りまくって殺してやる。


「ぐがぁ、ぐぅ!」

「限界か?」


 透明マントが壊れたのか、弾丸が当たり始めた。だが、演技の可能性がある。

 油断させて、俺が近づいてきたところを狙う作戦かもしれない。

 俺は絶対に油断しない。地面に倒れて動かなくなるまで近づかない。


「ぐっぐぐぐ、くそ!」

「あっ! 逃げやがった!」


 普通は死ぬまで戦うのに信じられない。階段に向かって走り出した。

 燃え盛る町まで逃げて、火竜の中に隠れるつもりだろう。

 せこい手を考えつくものだ。そこまで逃すわけがない。

 空から追い越すと、階段口の前に降りて逃げ道を塞いだ。


「ぐっ、分かった! お前の仲間になる!」

「はい?」

「金と装備を欲しいだけやる。隠れ家に大量に置いてある。これがそこの鍵だ!」

「……」


 これが命乞いというものだろうか?

 小さな宝石が埋め込まれた、枝分かれした銀色の鍵を見せてきた。

 見た感じ特殊な魔法鍵だから、相当厳重に隠れ家は守られている。


「見逃すだけで、全てお前の物になる。断るなら鍵を壊す。失った命の代わりに欲しくはないか?」

「……確かに悪くない取引きだ。その話が本当なら」

「本当だ。隠れ家まで案内する。信用できないなら剣を渡す。ほら、これでいいか?」


 何度も嘘を吐いている人間を信用できない。疑いの眼差しを向けた。

 すると、赤い剣を地面に放り投げて、両手を上げて降参した。


「見っともない奴だな。次は靴でも舐めるのか?」

「舐めるから助けてくれ! エストの奴に脅されて仕方なかったんだ!」

「近づくな! 死んだ仲間の所為にするとは最低だな」

「本当なんだ! 信じてくれ!」


 必死に顔を歪めて被害者面を作っているが、嘘の臭いしかしない。

 少なくとも、俺の心臓を二回潰して、メルを一度殺しかけている。

 エストの話し通りなら、リエラも全身穴だらけで殺されている。

 最低でも四人は殺している凶悪犯だ。


 それに武器は持ってないが、右腕にアビリティ付きの腕輪を隠している。

 武器を手元に瞬間移動させるアビリティだ。赤い剣に黒い勾玉が見える。

 降参のポーズに見せかけているが、上段の構えからの剣の振り下ろしにしか見えない。

 俺が赤い剣を拾おうと屈んだ瞬間に剣を戻して、絶対に攻撃してくる。


「分かった。信じてやるよ。隠れ家が嘘だったら殺すからな」

「ああ、絶対に後悔させな——」

「ハァッ‼︎」


 本当だとしても、もう信じるつもりはない。

 赤い剣を拾おうと近づくフリをして、剣を素通りして、黒岩剣を降参する右腕の肘に素早く振り上げた。

 腕輪の付いた汚い右腕が地面に落ちていく。

 

「ぐがあああッッ‼︎ テ、テメェー、何のつもりだ‼︎」

「今のは闘技場の分だ。汚い金で俺の心を買えるとでも思ったのか? 自惚れるな」

「ぐゔゔゔっ!」


 負け犬が血を垂れ流す右腕を左手で握り締めて喚いているが、俺はそれを両手足やられている。

 地面の赤い剣を拾い上げると、階段でのアイアンクローの分、左胸を斬り裂かれた分を回収させてもらう。

 左足と首の二本はサービスで付けてやる。有り難く頂戴しろ!

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