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第131話 チキンゲーム

「くっ!」


 駄目だ。二十秒も経ったのに誰も助けに来ない。

 オルファウスの赤い剣の突きを躱して、エストの両手の黒い短剣を躱し続ける。

 二人とも明らかに身体に突き刺そうと狙っている。

 一撃で倒すと豪語しているなら、攻撃を食らうのは絶対に駄目だ。


「後ろ飛びが得意みたいだな。だが、距離を開け過ぎると死ぬぞ」

「くぅぅぅ!」


 言われなくても分かっている。離れ過ぎると黒短剣が飛んできて爆発させられる。

 でも、ワザと至近距離で刺されて、エストを爆発の道連れにするつもりはない。

 それで喜ぶのは地魔法使い二位だけだ。


 それに逃げるだけなら出来る。逃げないのは逃げるつもりがないからだ。

 お前達を生かしておくと、安心してダンジョンに入れない。

 まずは赤い剣から奪わせてもらう。両足に力を込めると前に突撃した。


「ハァッ、セィッ、リァッ‼︎」

「ぐぐっ、お前は野獣かよ!」


 剣を振り回して、オルファウスへ集中攻撃していく。

 赤い剣で防がれ躱されるが、反撃する余裕はなさそうだ。


 コイツらは常に俺を前後左右で挟んで攻撃してくる。

 立ち位置に注意して、エストに短剣を撃たせる隙を与えないようにする。

 このまま弱そうな方から倒させてもらう。


「ハァッ‼︎」

「ぐぅっ!」


 赤い剣を力で跳ね上げると、そのまま回転切りで胴体を狙った。

 終わりだ。回避は不可能、右腹に刃が吸い込まれていく。


「ぐぐぐっ……⁉︎」


 けれども、刃が右腹に食い込む六センチ手前から進まない。

 結界のような見えない何かに押し返されている。


「残念!」

「ぐがぁぁ‼︎」


 声と一緒に左肩に赤い刃が振り下ろされた。

 赤い剣が左肩から左胸の真ん中まで切り裂いて停止した。


「惜しかったな。重力圧縮の結界だ。全身は無理だが、手の平大の空間なら張れる。まあ、覚える必要はないけどなぁー‼︎」

「——ッ‼︎」


 赤い剣の重量が恐ろしく重くなった。そして、背中に何かが突き刺さった。

 赤い刃の下に銀剣の腹を敷いて、左手で柄、右手を刀身の腹に置いて押し上げる。


 多分、背中には黒い短剣が刺さっていると思う。

 この赤い剣を押し退けても爆死は確定だ。

 背中の危険物を爆発させないように排除するしかない。


 その方法があるとしたら魔法破棄だけだ。

 俺の身体に直接突き刺さっているんだ。

 魔力比べで負けるはずがない。


「うおおおおッッ‼︎」

「ぐぐっ、さっさと死ねよ! 普通は死ぬぞ!」


 俺は凡人じゃないから、心臓が死んでも俺の魂は死なない。

 赤い剣を押し上げながら、背中に刺さった危険物を俺の魔力で浸食・破壊していく。

 誕生日ケーキの蝋燭を吹き消す走馬灯は、まだ見えなくていい。


「ウラァッ‼︎」

「くっ!」


 一気に気合いを入れて、赤い剣を身体から押し退けた。

 そして、このチャンスを見逃すはずがない。


 背中に刺さった異物を粉々にすると、左足の裏をオルファウスの腹に叩き込んだ。

 けれども、また結界に防がれた。それならと、結界を踏み台に右足を側頭部に叩き込んだ。


「チッ! ハァッ‼︎」


 でも、また結界に防がれた。同時に何ヶ所も防げるとは聞いていない。

 トドメのつもりで脳天に剣を振り下ろしたが、やっぱり結界に防がれた。

 今すぐに「大嘘吐き野朗!」と叫びたいが、全身攻撃はまだ試していない。

 

「エス、爆発させろ!」

「無駄だ!」

「——ッ‼︎」


 着地すると、背中を警戒しつつ、オルファウスへの集中攻撃を続けた。

 重力の結界はこちらの攻撃を全て停止させている。

 無敵の全身鎧でも着ていると思うしかないが、そんな便利な物は存在しない。


 顔面目掛けて、左手の張り手を突き出した。

 予想通り結界で止められたが、これでいい。

 まずは見えない鎧の正体を見させてもらう。


 左手から結界を岩で覆うように魔力を流していく。

 宙に薄い岩の膜がどんどん広がっていく。

 明らかに手の平大が嘘なのは見れば分かる。

 これでは無敵の透明マントだ。


「便利な身体だな。胸の傷まで塞がりかけている。頭を潰しても死なないのか?」

「チッ!」


 左手を離すと、急いで離れた。これは駄目だ。

 槍のように一点集中で結界を貫かないと倒せない。

 少なくともエスト並みの攻撃力がないと突破は無理だ。


「流石に疲れてきた。どうして、さっきは爆発させなかった?」

「破棄された。道連れでもいいなら、刺した瞬間に爆発させる」

「それでもいい。化け物をさっさと倒すぞ」


 俺が悪役なら、お前達は悪役に殺される町人1と2だな。

 左胸の切り裂かれた傷が塞がっている。自己再生の回復速度が半端ない。

 体力か魔力でも消費して使用されるんだろう。

 どっちも大量にあるから好きに使えばいい。


「すぅーはぁー」


 同じ手は通用しない。まずは落ち着いて冷静にならないといけない。

 酸素は必要ないが、ゆっくりと息を吸って吐いた。

 コイツら三人とも防御力が異常に高すぎる。


 最強の槍でも手に入れたいところだが、最低に呪われた剣ならある。

『あの剣は何だ?』と警戒させる為だけに装備している。

 このまま氷剣と一緒に使われる予定はない。


「最強ね……?」


 地面に落ちている岩小屋の瓦礫の中に、武器が落ちてないかチラッと見た。

 ヴァンとクォークの剣はBランクだから、多少は使える。

 強化素材が落ちていれば、俺の剣を強化できる。

 でも、虹色魔玉七個と将軍の魂四個が必要だ。

 見つける前に勝負は終わる。


 一番現実的な方法はAランクの赤い剣を奪い取って、それでエストを叩き斬る。

 これが考えられる中で一番勝率が高い方法だ。だったら、あとは実行するしかない。

 オルファウスに狙いを定めて、左手から弾丸を発射しながら突撃していく。


 弾丸が軽々と躱されて、エストが黒針を飛ばしてきた。

 すぐに爆発させるのは分かっている。回避しても黒針は追いかけてくる。

 下手に逃げても時間の無駄だ。

 視界を塞がないように身体の左右に岩壁を作ると、そのまま全速力で突っ込んだ。


「ぐぅっ!」


 左の岩壁が破壊されて、爆発の衝撃が身体に襲い掛かってきた。

 空中でも一発食らったが、両足で踏み止まれば何とか耐え切れる。

 体勢を崩されながらも、粉砕された岩壁を捨てて走り続ける。


「あっ!」

 

 右の岩壁が突然砕け散った。

 オルファウスがやったのだろう。むしろ好都合だ。よく見える。

 接近してくるエストに向かって、剣を振り払った。


「ハァッ!」

「フゥッ!」

「ぐふぅ……!」


 分かっていたが、俺の剣を受け止めるつもりはないようだ。

 剣を姿勢を低くして躱して、そのままカウンターで左膝を右足で蹴り抜いた。

 絶対に左膝が砕けたが、タダではやられない。

 腰の岩鞘を操って、右回りでエストの頭に駄剣二本の刃を振り下ろした。

 

「何だ、これは……?」


 駄剣を右腕で軽々と受け止めると、エストは理解できない顔をした。

 世の中には不必要な物を持ち歩く人間がいるという事だ。


「ゴミだ‼︎」


 砕けた左膝で無理矢理に踏ん張って、右腹を狙って、銀剣を振り回した。

 右腕は上に持ち上がっている。順番は変更になったが、隙だらけの腹を斬り裂く。


「んぐっ! 無駄だ」

「くぅぅぅ!」


 けれども、左手が伸びてきた。刃に硬い衝撃が走った。

 強靭な左手の手の平に刃が受け止められた。

 だが、左腕一本で俺の全力を防げるはずがない。

 このチャンスを諦めるほど愚かではない。


「うおおおおッッ‼︎」

「ぐぐっ……!」


 渾身の力で左腕を押し返して、刃を右腹に食い込ませた。

 草原の地面を岩に変えて、エストの両足を拘束していく。

 駄剣二本を黒岩で包み込んで、押し潰す力を増していく。

 オルファウスに助ける時間は与えない。全力の瞬殺を実行する。


「ぐぐぐっ、確かに二位の実力はある。だが終わりだ。地雷針、離れなければ頭が吹き飛ぶ」


 勝利を確信する俺の前に、エストは右手一本で黒針を作ると、針先を俺の胸に向けた。

 

「くっ、俺と心中するつもりか⁉︎」

「嫌なら今すぐ離れろ。これ以上剣を動かすつもりなら、お前が死ぬだけだ」


 生か死か、本気か嘘か……考える時間はない。

 腕の力を少しでも抜いたら、剣は押し返される。

 言う通りに離れても助かる可能性はない。

 だったら覚悟を決めるしかない。


「ククッ。やってみろ‼︎」

「‼︎」


 ひと笑いすると両腕に力を入れて、剣を右腹にさらに食い込ませた。

 今日が人生最後の日ならば、人の言う事なんか聞いてられるか。

 俺は自分のやりたいようにやって死んでやる。

 お前は負け犬の二位になって、地獄にでも堕ちていろ。


「くたばれ‼︎」

「——ッ‼︎ 死ね」


 刀身が腹の中に消えた瞬間、黒針が胸の中心に飛んできた。

 嘘だと信じたかったが、やはりそれはなかった。

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