第128話 称号効果
「ふぅー、久し振りに熱くなってしまった。まあ、俺相手に頑張った方だな」
床に深く食い込んでいる剣二本を引っこ抜くと、左腰と背中の鞘に戻した。
本気を出すとか言っていたが、絶対に疲れ果てていたから、結界と水を維持できなかっただけだ。
「さてと、壊すか」
普通は負傷者の救助が最優先だが、俺の場合は戦利品の回収が最優先だ。
巨大イモ虫のような形になっている、竜人を閉じ込めた黒岩の塊を壊していく。
床に落ちてないから、この中から金色の宝箱が見つかるはずだ。
「おっ! あったあった、大量だな!」
岩塊の中から赤い魔石、黒い角、黒い爪、紫色の竜鱗、金色の宝箱が見つかった。
勢いで開けそうになったが、宝箱はメルに開けさせた方がいい。
黒岩で隠してから、扉の外に探しに行こう。
小船に乗ったままだったら、遠くまで流されているかもしれないな。
「無いな? 流されたか?」
宝箱を隠すと、ゴーレムに乗って、炎剣と負傷者が落ちてないか部屋の中を探してみた。
氷塊の中にも下にも見つからない。やっぱり部屋の外に全員流されたみたいだ。
「おっと……上もいないな」
扉の前の氷塊を撤去しようとしたが、念の為に天井を見上げてみた。
氷の大地の攻撃で、天井に突き刺さっている可能性も少しはある。
でも、天井には足は生えてなかったし、何かが潰れたような跡もなかった。
俺がここまで探してやったんだから、負傷者を見逃しても、誰も文句は言わないだろう。
「回復薬で治せない時は血でも飲ませるか!」
開いている扉を塞ぐ積み上がった氷塊の山を、ゴーレムで殴り壊していく。
人が挟まっていたら大変だが、人間と氷塊の違いぐらいは分かる。
上から崩れ落ちてくる氷塊は気にせずに、どんどん殴り壊して廊下に出た。
「……間違いない。アイツら俺を置いて逃げやがったな」
水浸しの廊下に出ると誰もいなかった。
今頃は結界に守られた階段の中で「助かった!」とか言って喜んでいる。
「チッ。まだ助かってないだろうが」
置いて行かれる前に早く階段に行くとしよう。
その後はメルに宝箱を開けさせて、負傷者を全員大船に乗せて、町まで急いで連れていく。
ダンジョンの外に出られるか確認するついでだから、運搬費用は安くしてやろう。
それに命の恩人ならば大抵の物は要求できる。
逆に死なれると大抵の物を要求されてしまう。
ここは助けておいた方が、お得になるのは間違いない。
助けた恩で一生骨の髄までしゃぶり尽くしてやる。
♢
『極地魔法LV8』『強射撃LV8』『斬撃LV5』『剛力LV8』『圧縮LV6』『物理耐性LV8』『魔法耐性LV6』『氷耐性LV5』『聖耐性LV5』『素早さLV5』『自己再生LV8』『識別眼LV8』『防具製造LV2』『眷属使役LV5』『運LV5』——
「かなりLVアップしているな。名前まで変わっている」
水浸しの廊下に負傷者と炎剣が転がっていないか、探しながら進んでいく。
ついでに余裕が出来たので、進化後のアビリティを確認した。
新しいアビリティは『氷耐性』『防具製造』の二つを習得していた。
どうやらLV8になると、アビリティの名前が変わるのと、変わらないのがあるようだ。
物理耐性はLV8になっているのに、物理耐性のままだ。
ゾンビも毒耐性LV9なのに、猛毒耐性みたいな名前ではない。
耐性系のアビリティは名前が変わらないのだろう。
「意外と使いにくいな」
試しに名前が『調べる→識別眼』に変わったアビリティを使ってみた。
触れなくても対象を調べる事が出来るのは便利だが、意識すると見えてしまう。
アビリティは意識すれば、オンとオフの切り替えが出来るから練習するしかない。
だが、これだけの力を手に入れた今なら、俺が地魔法使い一位なのは間違いない。
そして、駄目押しに腕輪を使えば、俺の上には誰も立つ事が出来なくなる。
まさに称号通りに王に相応しい。
「そういえば、あの称号は何の効果があるんだ?」
竜人を倒す前は『ダンジョン主候補』『蠱毒の王候補』だった。
倒した後は候補が消えていた。
これで正式になったのだろうけど、何かが貰えたわけじゃない。
身体を調べてから、見えてきたダンジョン主を調べれば分かるのだろうか?
【称号:ダンジョン主】
獲得方法①:全進化の石を吸収してダンジョン主候補になった者が、ダンジョン主を倒す。
獲得方法②:ダンジョン主が倒された後、ダンジョン内にいる強化モンスターの中から選ばれる。
称号効果:1~50階までのダンジョンの地形とモンスター、人間、宝箱の位置が分かるようになる。
月に一度ランダムでアビリティLVが1上がる。ただし、50階から出られない。
『一度だけ選択可能。就任する? 辞める?』
「はぁ? ブチ殺すぞ‼︎ また閉じ込めるつもりか‼︎」
思わず立ち止まって絶叫すると、城の壁を全力で殴って破壊した。
凄い力を手に入れたと喜んでしまったら、最後の方に恐ろしいものが見えた。
当然、辞めるに決まっている。
「くそ、使えない称号だった! 次だな……」
【称号:蠱毒の王】
獲得方法:多数のモンスターと冒険者を倒して、50階に到達した嫌われ者の蠱毒の王候補が、最後に同じ境遇の蠱毒な王を倒す。
称号効果:50階に出現するモンスターを使役できるようになる。ただし、50階から出られない。
『一度だけ選択可能。就任——
「もういい!」
獲得した嫌がらせ称号は迷わず破棄した。
ダンジョンから出る為に頑張っていたのに、モンスターと一緒に暮らせるか。
「くそ、効果は微妙に凄いけど、獲得条件が分からないな。称号図鑑なんてあったか?」
五階には誰も見つからなかったから、ゴーレムから出ると、岩板に乗って階段を下り始めた。
称号のマイナス効果は最悪だけど、プラス効果は結構凄い。探せば良いのが見つかるかもしれない。
「人の気配がするな」
一階まで下りると、左翼側から中央ホールを目指した。
扉が開いて、水と負傷者が出てきたなら、俺なら怪我人を担いでここを目指す。
階段口の結界を右手がすんなりと通ったので、階段を駆け上がっていく。
しばらく上っていくと、百五十段辺りでやっとオヤジ達が見えてきた。
「おーい、負傷者はいるか?」
「良かった。お前は生きてたか」
「そんな事はどうでもいい。死にそうなヤツがいないか聞いているんだ」
水も滴る優しいオヤジだが、こっちは輸血の準備は出来ている。
死にかけはゾンビにしてやるから、あとで聖水を大量に持って来い。
「少し静かにしろ。負傷者は六人だけだ。残りは手遅れだ」
「手遅れだと? 本当に手遅れなんだな!」
「ああ、そうだ。奇跡が起きないと助からない」
「だったら、俺が絶対に助けてやる!」
そこまで騒いでないのに怒られた。
でも、重要なのは手遅れが二人いる事だ。それなら遠慮なくゾンビに出来る。
右腕を切って、看病オヤジと代わると銀髪の口に押し付けた。
「おい、何するつもりだ! やめろ!」
「邪魔するな!」
「ごぶっ!」
「アレン、絶対に助けてやるからな!」
輸血を邪魔するオヤジを殴って、必死にアレンに生きろと呼びかける。
死にかけはアレンと赤髪の魔法曲芸士ブレルの二人だ。
片方は死んだ方がマシだったと思うぐらいに、徹底的にこき使ってやる。
五分後……
「ゔゔゔゔっっ‼︎」
「よし、二人とも助かったぞ」
「この悪魔め。お前は地獄に堕ちるぞ!」
輸血が終わると二人が痙攣を始めた。
一時間以内にゾンビ化するので、岩塊に閉じ込めておけば問題ない。
運が良ければ聖水で人間に戻れる。
でも、一人は運が悪いから一生ゾンビのままだ。
「まあいい。早めに町に戻るぞ! 悪いがお前には、怪我人を町まで運ぶのを手伝ってもらう」
「ああ、いいぜ。報酬はあとで相談させてもらうけどな。でも、一つ用事があるから少し待ってもらう」
「それは構わないが急いでくれよ」
「ああ、分かっている」
妄想オヤジが予想通りに、俺に負傷者の運搬を頼んできた。
言われなくても連れて行くつもりだったから、二つ返事で引き受けた。
「びしょ濡れだな。着替えないとな」
「ゔゔっ、ゔゔっ」
階段に濡れた服でメルが座っていた。
さっさと開かずの扉に連れていって、宝箱を開けてもらおう。
「おいおい、50階に行くつもりか?」
「大丈夫だ。階段の近くで服を着替えさせるだけだ。女の子だぞ。覗くなよ」
メルを引っ張って階段を下りようとすると、オヤジが心配して聞いてきた。
俺は手柄を堂々と言うような男じゃない。竜人を倒した事は誰にも言わない。
ちょっと時間のかかる着替えをさせるだけだ。