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第124話 ダンジョン主

「んっ? 何で通れないんだ?」


 出発してから約五秒、小船に最初の危機的状況が訪れた。

 49階へ上る階段の中に入れない。小船の船首がゴツゴツと見えない壁に当たっている。


「まったく、どういうつもりだよ。いきなり通行止めか?」


 小船から降りると、階段の結界を調べに向かった。小船が通れない時点で何かおかしい。

 神の結界が通れないのはモンスターだけで、小船だけなら通れるはずだ。


【魔人結界】——地下50階のダンジョン主が作り出した結界。破壊不能、脱出不能。


「はぁ? そんなの知らねえよ!」


 階段を塞ぐ結界から左手を離して剣を抜くと、怒り任せに斬りつけた。

 最近まで自由に出入りさせてたくせに、いきなり脱出できないとか巫山戯るな。


 ギィーン‼︎


「チッ、この辺で許してやる」


 二十回程、結界をデタラメに斬りつけたが、破壊できない事が分かっただけだった。

 ここから出るには、この結界を作った本人を壊さないと駄目らしい。

 でも、魔人結界と言われても、俺には全然心当たりがない。剣を鞘に戻して考え始めた。


 多分、ダンジョン主は開かずの扉の中にいると思う。

 このまま待機していれば、ヴァン達が倒せば結界は消える。

 逆にヴァン達が倒されれば、永遠に消えない。


 だったら今すぐに加勢に行った方がいいが、進化には時間がかかる。

 やるとしたら、このままで戦わないといけない。


「仕方ない。見学に行くか」

 

 何時間待つか分からないのに、黙って待っているほど暇じゃない。

 苦戦しているようなら手伝って、楽勝ならトドメを刺して腕輪を回収だ。

 さっき言ったばかりだが、ダンジョンの中を逃げ回る自信はある。


 小船に再び乗り込むと、五階の開かずの扉を目指して進んでいく。

 ロビンに「本体はまだ出ないのか?」と聞きたいが、アイツは適当に予想する。

 また外れだろう。誰もいない、静かな階段を上りきった。


「何だよ、もう終わったのか?」


 開かずの扉の前にオヤジ達がボッーと突っ立っている。

 このまま小船をゆっくり反転させてもいいけど、腕輪を見てからでもいいだろう。


「おっ! 何だよ、心配で見に来たのか?」

「そういうわけじゃない。もうダンジョン主は倒したのか?」


 俺に気づいたオヤジの一人が勘違いして聞いてきたが、結界の事は内緒だ。

 姉貴に全てを聞いているはずの俺が、結界の存在を知らないのはおかしい。


「へぇー、あの竜人はダンジョン主って言うのか。今入ったばかりだから、兄さんも行けよ」

「いや、俺はいいよ。見に来ただけだから……」

「はいはい、分かってるよ。毒持ちみたいだが、兄さんなら無敵だろ。頑張って来いよ!」

「ちょっ、このぉ……!」


 やるとは一言も言ってないのに、小船から無理矢理に降ろされて、扉の中に集団で押し込まれた。

 俺はお前達が心配で見に来たんじゃない。俺が外に出られるか心配で見に来たんだ。


「やらないって言ってるだろう! やって欲しいなら、その赤い剣と青い剣を寄越——」

「ほらよ!」


 カラン、カラン!


「くっー!」


 報酬を要求し終わる前に、オヤジが炎剣と氷剣を躊躇なく投げ込んできた。

 俺は端た金で何でもやる恥知らずな男じゃない。

 だが、そこまで言うなら、一番後ろから援護ぐらいはしてやる。


 ♢


「チッ、腰抜けクソジジイ共め」

「戻ってくるなんて、急に一人で帰るのが怖くなったんですか?」

「違う。報酬分の仕事をしてやろうと思っただけだ」

「だったら前に行けよ。こっちは人数足りてるんだから」

「お前が行けよ! お前、遠距離できないだろ!」


 炎剣と氷剣を左右の手に持って、後方で弓矢を構えているロビンの横に加わった。

 アレンが前に行けと文句を言っているが、どう考えても、前衛が前衛に行くべきだ。


 前衛はヴァン、ガイ、クォーク、金髪の雷鞭使い。

 後衛はロビン、アレン、坊主頭の回復棍棒使い、赤髪の風ブーメラン使い。

 前衛四、後衛四のバランスの良い隊列だが、扉の所にさらにオヤジ十二人がいる。

 不測の事態が起きたとしても、戦力的には何とかなる人数だ。


「攻撃しないのか?」

「相手が動かないのに、迂闊に攻め込むつもりはないですよ。様子見です」

「ふーん。慎重だな」


 距離は残り100メートルを切っているのに、誰も攻撃しない。

 椅子に座っている紫色の竜人もピクリとも動かない。

 俺をゾンビにした罠を思い出すが、部屋に中にはゾンビが落ちてくる穴は見えない。


「来ますよ」

「ああ」


 距離50メートル。

 武器を構えて近づく俺達に対して、竜人がゆっくり椅子から立ち上がった。

 そして、最大級の警戒をする中で予想外の事が起きた。


「よくぞここまで辿り着いた。人間共よ。我が名はルティヤ。このダンジョンの支配者だ」

「なっ⁉︎ 嘘だろ、モンスターが喋りやがった!」


 竜人の口からしゃがれた男の声が聞こえてきた。

 戦闘中に動揺するべきではないが、喋れるモンスターは見た事がない。

 もしかすると、あっちは竜に噛まれた男かもしれない。


「お前達如きが喋れるのだ。驚くほどの事ではあるまい」

「如きかよ。随分と下に見られたもんだな。お前を倒せば腕輪を貰えるのか?」


 尊大な竜人に臆する事なく、ガイは矛先を向けて問いかけた。

 この人間を下に見た話し方は、多分元人間という線はハズレだ。

 モンスターならば、喋れたとしても殺人罪には問われない。


「慌てるな人間、もう少し会話を楽しめ。そこの腐った奴、お前はこちら側の人間だな。何故、我に刃を向けている?」

「えっ、俺?」

「そうだ、お前だ。我に逆らうのならば、容赦なく捻り潰す。命が惜しくはないのか?」

「あぁー……」


 会話の途中だったが、竜人が突然右腕を俺に向けて、仲間だろうと言ってきた。

 仲間になった覚えはないが、これはチャンスかもしれない。話を合わせて交渉するか。


「分かった、仲間になる。仲間になれば、俺は何を貰えるんだ?」

「そんなものは決まっている。我に仕える栄誉だ。お前はこの城で永遠に我の僕として暮らせる。これ以上の褒美はこの世に存在せぬ」

「……」


 はい、さっさとブッ殺します。

 何も貰えないのに永遠にタダ働きしたいヤツはいません。

 

「悪いな、そんな褒美なら仲間になれない。褒美はお前の命に変えさせてもらう」


 右手に持っている氷剣の切っ先を向けて、交渉決裂を教えてやった。

 俺に仲間になって欲しいなら、月に28個の殺生白珠を納めて、邪魔な結界を解け。


「愚かな。同族のよしみで慈悲をくれてやったのに断るとはな。では、問おう。炎と氷、どちらが好きだ?」

「何だ、それ? 炎と氷なら、炎だな。もう殺していいか?」

「構わぬ。出来るものならやってみろ。お前が消し炭になる前にな」


 命乞いでもするかと思ったのに、右手に炎、左手に氷の塊を作って聞いてきた。

 火竜と氷竜の能力を持っているようだが、その程度なら逆に安心だ。

 くだらない人生最後の質問に答えてやると、氷剣の切っ先に鋭い氷柱を作って発射した。


 ドガッ!


「……」


 悪いな。今の俺も両方使える。

 発射された氷柱は竜人の左胸に直撃して砕け散った。

 やはりこの程度では死なないが、戦闘開始の合図にはちょうどいい。


「おおー!」


 合図と同時に八人の冒険者が動き出した。

 俺は予定通りに最後方から援護するから頑張って……とは行かないようだ。


 ガシャン‼︎


「なっ⁉︎」


 天井と壁のステンドグラスが砕け散ると、大量の水が流れ落ちてきた。


「気をつけろ! ガラスが落ちてくるぞ!」

「その前にブッ殺す!」


 ガラスへの注意が飛び交う中、ガイの槍が竜人に向かって飛んでいった。

 でも、その槍を軽々と竜人は左手で掴んで受け止めた。


「そうだ、急いだ方が良い。我が倒されるのが先か、お前達が溺れ死ぬのが先か、さて、どちらだろうな?」

「くだらない手を使う。水上を歩けないとでも思ったのか? 行くぞ!」

「おおー!」


 竜人が愉快そうに口角を上げて話していたが、まったく効果はなかった。

 ヴァンの掛け声で恐怖する事なく、前衛達は水浸しの床を蹴って突撃した。


「まさか、これを使うとはな……」


 後ろを振り返ると、開かずの扉がまた閉まっていた。これは長期戦になりそうだ。

 背中の鞄を開けて、水上歩行の靴を取り出して履き替えた。

 ゾンビなら溺れ死ぬ事はないが、水の上は歩けない。

 ついでに殺生白珠も使っておこう。ここで死んだら永遠に使えない。

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