第118話 集団いじめ
【名前:ゾンビハンター 年齢:7歳 性別:ゾンビ 身長:130センチ 体重:26キロ】
【進化素材:殺生白珠七個、神金剛石七個】
【移動可能階層:35~50階】
秘密基地で大人しくなっているメルを調べた。成長期なのか、また身長と体重が増えている。
それに盗賊のシーフから、狩人のハンターになっている。ちょっと更生したみたいだ。
これなら問題なく、外に連れていく事が出来る。
「よし、行くぞ。乗客に噛み付いたりするなよ」
「あうっ」
言葉はまだ話せないようだが、理解力があれば問題ない。
俺の注意に頷いたので、メルを暗い秘密基地から明るい地上に連れ出した。
地上に出ると早速、アレンが睨みつけながら近づいてきた。
「んっ? 本当に前と同じ子供か? 少しデカくないか?」
「ゔゔっ!」
「痛ぁーッ⁉︎ このガキ、石投げやがった!」
怒ったメルがアレンの顔面に岩人形を投げつけた。これは仕方ない。
弓泥棒の人質野朗だから、半殺しにされても文句は言えない。
大袈裟に痛がっているけど、心配するだけ時間の無駄だ。
さっさと自己紹介を終わらせよう。
「紹介するメルだ。メル、コイツがロビン、コイツがオヤジ、コイツが坊主頭だ」
「あうっ」
「オヤジじゃない。町で職人をやっているジャンだ。と言っても、会うのは三度目だな。まあ、よろしく頼む」
「回復・支援担当のリュド=バルトだ。リュドでいい」
「いっゔ」
乗客三人を指差して紹介すると、メルは覚えたのか頷いた。
まあ、覚えなくてもいい連中だ。全員「あうっ」と呼べばいい。
「ちょっと! 何で俺の自己紹介だけしないんだよ!」
「そんなの覚えているからに決まっているだろうが! この変態人質痴漢野朗が!」
「ゔゔゔっ!」
「うぐっ……」
お前の為に全員が気を利かせてやっていたのに、下らない事を聞いてきた。
喋れないメルに代わって、怒りの気持ちを込めて代弁してやった。
「確かに必要ないですね。加害者は忘れても、被害者は覚えているものです」
「いやいや、副隊長の指示じゃないですか⁉︎」
「私は連れてきて欲しいと頼んだんです。後ろから抱き着けとは一言も言ってません」
「やっぱりか、この変態め! お前は一番後ろで後ろ向きに座れ! その汚い目で二度とメルを見るんじゃないぞ!」
一番悪い奴と小船の新しい席順が決まった。
メルは先頭の俺の後ろに座ってもらう。流石に一番前は危険だ。
でも、誰かの後ろに座らせるのも危険だ。
信じているが、乗客に噛みついたら聖水が必要になってしまう。
♢
地下46階……
メルを仲間に加えると、46階の宝箱探しを始めた。
といっても、進化したメルのお陰でそこまで苦労していない。
進化した事で『宝箱探知LV6』『モンスター探知LV1』になっている。
俺達の仕事は襲ってくるデーモンを倒しながら、世間話をするだけだ。
「そういえば、45階の不死身の植物はどうやって倒したんだ? すり下ろして倒したのか?」
「すり下ろす? あれは身体の細胞を破壊すれば倒せる。簡単で効果的なのは火だな。デカイ焚き火を作って、その中に投げ込めばいい。まあ、そんな手間をかけたくないなら……これだな」
ウッドエルフの倒し方を聞いたら、オヤジが砲身の付いた長めの短剣を見せてきた。
得意げに見せているが、その武器が魔法を撃つ銃なのは知っている。
「ちょっと見せてもらってもいいか?」
「ああ、いいぜ。見れるものならな」
意味深な台詞を言って、ニヤリとオヤジが笑って、赤い刀身の剣銃を渡してきた。
調べられても困らないのか、調べられない自信があるようだ。
どちらにしても気持ち悪い笑みだが、調べるLV7の実力を見せてやろう。
【フレイム・インパクト:剣銃ランクX】——刀身と砲撃に炎属性を有する。
【使用素材:魔術、魔力、炎耐性、物理耐性、斬撃、射撃、炎竜の牙、炎竜の鱗、巨人の鉱石、虹色魔玉】
【必要アビリティ:武器製造LV7、道具製造LV7】
「……」
なるほど、全然分からない。使った素材と必要なアビリティが分かっただけだ。
それにランクXとか意味不明すぎる。威力が低いのか、高いのか、どっちか分からない。
「興味があるならうちの店に来い。お前は筋が良い。あの子供の服は上手く作れているぞ」
「それはどうも……ダンジョンから出られたら見学に行かせてもらうよ」
褒められ勧誘されたが、今すぐに作れない武器に興味はない。
魔法武器は金を貯めて、製作を依頼して手に入れるとしよう。
手製のオリジナル武器をオヤジに返してやった。
地下47階……
46階の宝箱は五個しかなかった。誰が一個盗ったかという犯人探しが始まった。
軽い取り調べと持ち物検査の結果、俺、ヴァン組、クォーク組、ホールド組の誰も盗っていなかった。
だとしたら、オルファウス組かモンスターしか考えられない。
モンスターはあり得ないから、犯人はオルファウスに決定された。
でも、盗られたものは返ってこない。おそらく、もう使われてしまった後だ。
真犯人探しが始まる前に、別の話題に切り替えるとしよう。
燃える町を占拠する巨人を指差して、どうやって倒すか聞いてみた。
「あの巨人はどうやって倒したんだ? 集団で瓦礫を投げつけてくるだろ?」
「瓦礫は知らないが、普通は多数で撹乱して足を狙うな。ある程度の数を動けなくしてから、一体ずつ倒している」
「こっちも似たようなものです。たまに後ろを向いている巨人の首に、矢を直接射って倒す事もありますけどね」
「ふーん。一体ずつは一体ずつでも、まずは周囲の巨人の動きを奪った後か」
俺の質問にリュド、ロビンの順番で教えてくれた。
人数は六人いるけど、メルとメルの護衛の俺が外れると、四人になってしまう。
ちょっと戦力的に不安なメンバーだけが残ってしまった。
他のヤツらは、まだ下の階で火竜の素材を集めているのか、47階には誰も来ていない。
俺としては、先に48階の宝箱から探して、47階に戻るのがベストだと思う。
「巨人の手足を切断すれば、安全に探せるとは思うがどうする? 人を呼んでくるか?」
「攻撃が三人、防御が二人もいれば十分ですよ。私、アレン、カナンが攻撃役。ジャンとリュドはメルの護衛をお願いします」
「まあ、そうなるだろうな。じゃあ、若いのに頑張ってもらうとするか」
ロビンに勝手に作戦を決められてしまったが、俺だけ反対するとビビっていると疑われてしまう。
やる気になっている、リュドとホールドにメルを預けて剣を抜いた。
「本気ですか、副隊長? 実質二人でやるようなもんですよ!」
だけど、この臨時パーティには一人だけビビリが紛れ込んでいたようだ。
アレンが俺の方をチラチラ見て、ロビンに危ないと言っている。
その意見には俺も賛成だが、俺の方を見て言っているのが気に食わない。
「よく分かっているじゃないか。アレン、俺達の足を引っ張るんじゃないぞ」
「はぁ? お前に言ってんだよ! お前だけEランク冒険者だからな! 下から二番目だからな!」
「じゃあ、お前の実力はFだな。ビビってないでさっさと動けなくするぞ。それともビビり過ぎて、お前が動けないのか?」
「何だと! お前から動けなくしてやってもいいんだからな!」
弱い犬ほどよく吠えるらしい。確かによく吠えてくるが、噛みつく勇気はないらしい。
これだけ俺に言われているのに、殴りかかって来ない。
先に殴ってやるから、殴り返してくるか試してやろうか。
「もういいでしょ。口喧嘩は終わりです。口ではなく、手と足を動かしてください。私が前から攻撃して注意を引きつけるので、二人は左右から別々の足を攻撃してください。それぐらいは出来ますね?」
これから野良犬を拳で躾けるところだったのに、時間切れのようだ。ロビンが止めてきた。
確かに野良犬の躾には時間がかかる。あとで人目のつかない所でやるとしよう。
「当たり前だ。アレン、行くぞ」
「なに、命令してんだよ。俺が左足を狙うから、お前は右足を狙えよ。分かったな!」
「いや、全然分かんない。俺が左足を狙うから、お前が右足を狙ってくれ。右手と左手、どっちか分かるよな?」
「ああーッ‼︎ もう駄目だ! もう我慢できない!」
戦闘前なのに、味方一人の精神が恐怖で錯乱したようだ。
右手と左手を丁寧に教えていると、いきなり奇声を上げて怒り出した。
怖くてチビリそうなら、その辺の火の消化活動をしてくればいい。
そのぐらいの時間は待っててやるよ。