表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/172

第110話 森の料理人

 結界に守られた階段の中に入ると、メルに見張りを頼んで、虹色魔玉七個を使用した。

 流石にウッドエルフがいる、バラの森の中で進化する度胸はない。


 ドクン‼︎


「ぐぅ、があああっ‼︎」

「ゔあっ、ゔあっ!」


 待ってはいなかったが、いつもの苦痛の時間がやって来た。

 胸を押さえて横方向だけに激しく転げ回る。

 縦方向に転がると、階段下まで転げ落ちてしまう。


 十五分後……


「ふぅー、これで進化は最後かもしれないな」


 メルが騒いでうるさかったが、進化が終わって身体が楽になった。

 闘技場で痛めた部分も治ったのだろう。早速、進化後の身体を調べてみた。


【名前:腐った魔人 年齢:20歳 性別:男 種族:魔人 身長:178センチ 体重:64キロ】

【進化素材:殺生白珠七個】

【移動可能階層:1~50階】


 体重が少し増えたみたいだが、それ以外の変化は、移動可能階層が50階になったぐらいだ。

 ここまで移動できるなら、外に出られそうな気もするが、無理なら安全な場所で暮らすしかない。

 闘技場で魔石を稼いで、水晶を素材に、バラの森でメルと静かに豪勢に暮らすとしよう。

 

『剣術LV7』『体術LV7』『盾術LV7』『斬撃LV1』『射撃LV6』『圧縮LV5』『筋力LV7』『素早さLV1』『物理耐性LV7』『魔法耐性LV4』『聖耐性LV4』『自然治癒力LV6』『調べるLV7』『眷属使役LV4』『運LV3』——


 新しく習得したアビリティは二つあるが、すでにアビリティ装備で使っている。

 全体的にはLVアップしているから、戦闘を避けて、人質を連れ去るぐらいは出来るかもしれない。


 だけど、確実に連れ去るには、まだまだ実力が足りない。一人で50階に行くのは難しい。

 氷か木でも斬りまくれば、斬撃をLVアップできるだろうけど、修行する時間はないだろう。


 それにそろそろ50階から、ヴァン達は引き返してくると思う。

 俺がわざわざ危険を冒して向かわなくても、ここで待ち伏せするという手もある。

 行き違いになったら、それこそ大変だ。ここに置いたメルまで連れ去られてしまう。


「あーあ。ウッドエルフみたいに不死身なら、迷わずに行くんだけどなぁー」


 良い手がないから階段に寝転んだ。

 別に助けに行きたくないわけではない。助けにいく実力が足りないからだ。

 言い訳ではなく、事実だからどうしようもない。


「ゔあっ、あうっ!」

「何だよ、ちょっとぐらい休憩させてくれよ。疲れてるんだよ」


 遊んで欲しいのか、メルが俺の足を手で叩いてきた。だけど、今は休憩中だ。

 接近する足音も話し声も聞こえないから、遊びたいなら階段を往復していろ。


「ゔあっ、ゔあっ!」

「まったく、剣がどうかしたのか? これは玩具じゃないんだぞ」


 だけど、俺の言うことを聞かずに、今度は剣を奪い取ろうとしている。

 俺の代わりにモンスターを倒しに行くつもりなら、やめておけ。

 孝行娘になる前に、モンスターにやられて親不孝娘になるだけだ。


 でも、注意してもしつこく剣を欲しがるので、仕方なく起き上がると、剣を貸してやった。


「分かった分かった。どうしたいんだ?」


 メルは鞘付きの剣を受け取ると、下手くそに振り回した後に俺に突き返してきた。

 何がやりたいのか、さっぱり分からない。


「ゔあっ! ゔゔっ、ゔゔっ!」


 俺が何も反応しないからか、今度は階段下を何度も指差し始めた。

 身振りで俺に何かを伝えているようだ。

 表情は怒っている感じだから、仕事しろや掃除の邪魔みたいな感じだろうか。


 だとしたら、剣を振り回していたから、戦えと言っているんだと思う。

 でも、ウッドエルフは倒せないと知っているから違うと思う。

 だったら、45階よりも下の階にいる相手と戦えと言っているだろう。


「もしかして、リエラを助けに行けと言っているのか?」

「あうっ!」


 適当に推測して言ってみたけど、正解だったようだ。メルが頷いている。

 眷属使役がLVアップした影響なのか、急に賢くなっている。

 もう一回進化できるから、次は片言で喋れるかもしれないな。


「お前の気持ち分かるけど、ウッドエルフを倒せないのに先に進めると思うのか?」

「あうっ、ゔゔっ!」


 俺の質問に、メルはまた身振りで答えようとしている。

 剣を指差してから、右腕を曲げて力こぶを見せようとしている。

 全然力こぶは見えないけど、何を伝えたいのかはすぐに分かった。


「剣を強化しろと言っているのか?」

「あうっ」

「まあ、確かに戦力アップにはなるな」


 予想通り正解だったようだ。メルは頷いている。

 剣はまだ調べてないけど、調べるはLV7になった。

 今度は強化素材が分かるかもしれない。とりあえず調べてやるか。


【エンシェント・ストーム:長剣ランクB】——持ち主に素早さ上昇の加護を与える。

【強化素材:虹色魔玉七個、ウッドエルフの枝十五本、デーモンの皮十五枚、巨人の鉱石十五個、炎竜の鱗十五枚、将軍の魂七個】


「うわぁー、これは無理だな」


 強化素材は見えたけど、すぐに諦めた。

 こんなに集めている時間はないし、虹色魔玉が七個手に入るなら、メルの方に使う。

 結局分かった事は助けに行くなら、このままさっさと行けという事だけだ。


「ゔゔっ、ゔゔっ!」

「はいはい、助けに行くよ。でも、素材を集めながら行くからな。入手できない時はそこで終わりだ」

「ゔあっ、ゔあっ!」


 言い訳はいいから、早くやれだろうな。

 メルが腕を引っ張って、45階に連れて行こうとしている。

 進化して強くなっているけど、どうせウッドエルフは倒せない。

 俺の実力を見せつければ、諦めて待ち伏せ作戦で納得するだろう。


 ♢


「さてと、どうしようかなぁー?」


 岩塊に閉じ込めたウッドエルフを見下ろして、どうやったら倒せるか考える。

 奪い取った毒矢、麻痺矢、睡眠矢の枝矢は剣に吸収されなかったから、倒さないと駄目らしい。

 逆に言えば、倒せるという事だけが分かってしまった。


「切っても殴っても駄目なら、擦り潰してみるか」


 メルが監視しているから、失敗した方法はもう使えない。

 やるとしたら、黒岩ですり鉢とすりこぎ棒を作って、すり鉢に細かく切ったウッドエルフを入れる。

 あとはゴーレムですりこぎ棒を持って、グチャグチャになるまで、ウッドエルフをかき混ぜるだけだ。


 でも、普通にそれを手でやっても、ウッドエルフの修復スピードの方が速いから無理だろう。

 常に高速で切り刻みながら、高速でかき混ぜないと倒せないはずだ。


「待てよ? 器が小さい方が身動き出来ないよな」


 ゴーレムの圧倒的なパワーで擦り潰そうと思ったけど、どちらかというと火起こしの方が良さそうだ。

 筒型のすり鉢を作って、その中にウッドエルフを入れて、上からすりこぎ棒でフタをする。

 あとは棒を高速回転させれば、摩擦熱でウッドエルフが燃えていく。


「これなら行けそうな気がする。よし、やってみるか!」


 名案を思いついたので、早速調理器具を作ってみる。

 まずは正方形の大きな黒岩の塊を用意して、ウッドエルフを入れる穴を一つ空ける。

 直径50センチ、深さ150センチぐらいでいいだろう。あとは穴にピッタリ入る棒を作るだけでいい。

 あっという間に、頑丈なすり鉢とすりこぎ棒が完成した。


「美味しくなれよ」


 ゴーレムに乗り込むと、ポイっと胴体だけのウッドエルフを穴に落として、すぐにすりこぎ棒でフタをした。

 両手で棒を回すつもりはないので、両手から魔力を棒に流して、楽に超高速回転を開始した。


「オオオォー‼︎」

「美味しくなれ、美味しくなれ」


 ゴリゴリという残酷な音と、食材の声が聞こえてくるが、これは料理を作っているだけだ。

 三秒もあれば燃え始めるから、燃え尽きるまで気にせずに続けよう。


「……」

「んっ、終わった?」


 七秒ぐらいで棒が底に付いた気がした。食材の声は聞こえてこない。

 棒の回転を止めて、穴から引き抜いて、覗き込んでみた。

 穴の中から緑色の食材が消えていた。


「よし、予定通りだな」


 すり鉢を逆さまにすると、穴から砕けた枝と赤い魔石が落ちてきた。

 もうちょっと早く、棒の回転は止めた方がいいみたいだ。

 まあ、森の中には岩塊に閉じ込めた食材が沢山ある。少しぐらい失敗しても問題ない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ