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第105話 四十四階氷竜

「厄介なのは凍結能力だけだな。多分、牙や爪だけじゃなくて、触れるだけでも凍結する」


 フェンリルを楽に倒す為の作戦会議が始まった。

 フェンリルの動きが素早い、ゴーレムの覗き穴が使えない……はとりあえず置いておく事にする。

 問題は同時に何個も解決できない。


 触れたら危険なら、だったら触れなければ安全だ。

 触れられる前に、一撃で首や胴体を切断すれば倒せると思う。

 まあ、それはさっきやって失敗したばかりだ。必殺の一撃が躱されたら大ピンチになる。


「やはり遠距離攻撃でやるしかないか」


 これもさっきやって上手くいかなかったが、空中から弾丸を撃ちまくれば、射撃のLVがアップする。

 手袋無しの射撃はLV1だ。これがLV4ぐらいまで上がれば、弾丸が当たる可能性がある。


 おそらく、フェンリルの身体からは常に、冷風のようなものが噴き出している。

 それが鎧の役目をしていると思う。それさえ貫通できれば、弾丸は当たるはずだ。

 ゴーレムから飛び出して、服を脱いで、命懸けで凍結耐性を習得するよりはマシな作戦だと思う。

 こっちは習得する前に死んでしまう。


「よし、出発だ!」

「あうっ!」


 二人だけの作戦会議は終わった。

 ゴーレムを上空に飛ばすと、さっきのフェンリル達を探していく。

 上空から落ちた一匹は多分死んでいるはずだ。

 どこかに赤い魔石が落ちてないか、こっちも探してみる。


「いた。二匹だけか」


 しばらく捜索を続けていると、地上に二匹のフェンリルを見つけた。

 今度は寝転んでないから警戒していたようだ。二匹とも空にいる俺を見上げている。


「では、作戦開始だ!」


 両手を地上に向けると、フェンリルの片方だけに狙いを定めた。

 走れなくなるまで追いかけ回して、バテバテの状態のところを弾丸の海に沈めてやる。


 ドガガガガガッッ‼︎


「ガルゥ、ガルゥ……!」

「さて、何分持つかな?」


 狩りが始まった。弾丸の雨をフェンリルは波打つように走って躱していく。

 これが全速力だとしたら長くは持たない。

 逆に手加減しているのなら、2~3時間の追いかけっこを覚悟しないといけない。


 七時間後……


「はぁ……疲れた。これは駄目だ」


 地上に降りると、山積みになっている黒い弾丸を退けて、赤い魔石と白い毛皮を回収した。

 予定通りにフェンリルを弾丸の海に沈めた。だけど、長かった。長過ぎる戦いだった。

 安全には倒せたけど、楽に倒すという目標とはかなりかけ離れている。


「LV3か。こっちも予定通りか」


 射撃のアビリティを調べると、LV1からLV3になっていた。

 あれだけ撃ったんだから、LV5ぐらいにはなってほしかった。

 正直もう追いかけっこはしたくないけど、今度は六時間ぐらいで倒せるかもしれない。


「はぁ……残り九匹だと思って頑張りますか」


 やる気はないけど、やはり死にたくはない。長時間でも安全第一で生きたい。

 次のフェンリルを探して、空に飛び立った。


 ♢


 十七時間後……


「ヤバイな。早すぎる!」


 戦闘の時間感覚が麻痺してきたのかもしれない。

 五匹目のフェンリルを三時間で倒して喜んでしまった。

 普通の一対一の戦闘時間は秒か分だ。時は未知の領域である。


 現在の射撃LVは5だ。LVが上がるたびに倒す時間が、六時間、五時間、四時間と短くなっている。

 まあ、俺がフェンリルの動きを予想して、躱す方向に弾丸を撃っているのも大きいだろう。

 LV7になれば、絶対に一時間を切れるはずだ。これで分の世界に戻れる。


「さてと、さっさとLV7になるか」


 十二時間後……


 俺の考えは甘かったようだ。LV5から全然LVが上がらなくなった。

 LVではなく、技術で二時間で倒せるようになってしまった。


「もうアイツら、50階から引き返しているんじゃないのか? 間に合うのかよ」


 ようやくフェンリルの毛皮が集まったので、上空を飛んで44階を目指している。

 毛皮が欲しいのに、爪とか尻尾とか要らない素材が出てきた。

 暗黒物質も地上を撃っていた二個も見つけたから、残りの素材は氷竜だけになった。


 でも、28階の緑小竜と同じで嫌な予感しかしない。

 今度は小竜ではなく、姉貴の手帳に竜と書かれている。

 大きさを書いて欲しいのに、書いてないから分からないけど、フェンリルよりは大きいはずだ。

 最大で14メートルぐらいだと思っていれば、見ても驚かずに済むだろう。


 ♢


 地下44階……


 40階で襲われてから二日も経過している。

 流石に待ち伏せはないと思いながらも、一応は警戒する。

 予想通りに階段の中にも出口にも誰もいなかった。足跡と箱を引き摺った跡も残っていない。

 皆んな、俺よりも大事な用があるようだ。


「待ち伏せするなら、ここが良さそうだな」


 階段に拘束していたメルを連れてくると、44階の氷海を見渡した。

 時間的にもここが最適の場所だと思う。

 剣を強化して、ついでに氷竜二匹を使役できれば完璧だ。

 使役できる数は最大で三だ。


 だが、問題がある。この辺のモンスターはデカ過ぎる。

 モンスターの大きさで使役に必要な血の量は変わる。

 間違いなく、血が足りずに俺が干からびてしまう。


「やっぱり欲張らずに倒すしかないな」


 氷竜の全身を噛むつもりはないので、何ヶ月かかるか分からない輸血は諦めよう。

 ここは剣を強化する事だけに集中する。

 氷竜を探して上空を飛んで、空と地上の両方を警戒する。


「ああ、あれだな……」

 

 しばらく捜索を続けていると、氷の大地の上に青白く輝く塊を見つけた。

 大きさは10メートルぐらいしかないから、予想よりは小さい。

 まあ、予想よりも小さいだけで、強そうなのは変わらない。


 氷竜は太い胴体に細長い首と尻尾、背中には巨大な翼が二枚生えている。

 頭には鋭い角が背中に向かって二本あるが、攻撃用には見えない。

 姉貴情報だと、口から吐く氷の息に気をつけた方がいいそうだ。

 触れた瞬間に凍り付くらしい。


 おそらく、それ以外にも気をつけた方がいい事は沢山あるが、それは自分で見つけるしかない。

 まずは翼を破壊して、飛べなくなったところをフェンリル作戦で狙い撃ちだ。


 ドガガガガガッッ‼︎


「グオオォー‼︎」

「くっ、全然駄目だ!」


 開始四十六秒、作戦終了だ。

 弾丸の雨を弾き飛ばして、巨大竜が翼を羽ばたかせて急上昇してきた。

 青白い鱗と水色の翼が硬過ぎて、氷竜には全然効かない。


 そりゃー、二時間以上も当てないとフェンリルも倒せないんだ。

 翼を壊すだけでも一時間は欲しい。


「くっ……飛べるぶん、フェンリルよりも厄介だな!」


 直線のスピードは俺の方が勝っている。

 何とか後方を追尾してくる氷竜から、一定の距離を取れている。

 このまま逃げる事も可能だが、これは絶好のチャンスかもしれない。

 大剣で翼を破壊できれば、氷竜を地上に落とせる。


 それが出来たら大ダメージは確実で、上手くいけば転落死だ。

 もしかすると、フェンリルよりも楽に倒せるかもしれない。

 何なら翼じゃなくて、首を切り落としてもいい。

 それが出来たら一撃で終わらせられる。

 

「まあ、それが出来たら苦労はしない」


 くだらない妄想をやめると、現実を見る事にした。

 だけど、効果がありそうなのは大剣による攻撃ぐらいだ。

 体当たり一撃でゴーレムは壊されそうだけど、背中に乗りさえすれば一方的に攻撃できる。

 絶対に倒せない相手とは言えない。


「決死の突撃しかないか」


 他にいい作戦はなさそうだ。覚悟を決めると、右手から水晶剣を出して大剣に変えた。

 安全の為に胴体部分は丸岩ではなく、完全に分厚い岩壁で補強させてもらう。

 これならば、氷竜の一撃にも耐えきれるはずだ。


 逃げるのをやめて反転すると、両手で大剣を握って、氷竜に真っ直ぐに飛んでいく。

 気をつけるべきは、氷の息、前足の爪、尻尾の三つの攻撃だろう。

 緑小竜は尻尾でよく攻撃してきた。


「くっ……!」


 予想通りに真っ直ぐに飛んでくる俺に向かって、氷竜は氷の息を吐いてきた。

 息と言うよりも、小さく鋭い氷柱の無数の弾丸だ。

 それを急上昇で躱すと、氷竜も急上昇で追いかけてきた。


「ここだな」


 攻撃のチャンスだ。急上昇から急降下に切り替えた。

 こっちは翼で飛んでいるわけじゃない。両足を地上に向かって発射した。


「……⁉︎」


 氷竜から見たら、急停止もせずに、いきなり後ろ向きに走り出したようなものだろう。

 急降下しながら大剣を振り上げると、その綺麗な鼻先に大剣を振り下ろした。


 バキィン‼︎


「食らえ」

「グゴォ……‼︎」

 

 狙い通りに水晶の刀身が氷竜の顔面を切り裂き、首の途中で止まった。

 氷竜の身体から大量の血が空に飛び散って、凍り付いて赤い氷になって地上に落ちていく。

 なかなか幻想的な光景だが、首から大剣を抜かせてもらった。

 このまま一緒に落ちるのは勘弁してほしい。


「ふぅー、分の世界に戻って来れたぞ!」


 どうやら長い長い戦いはここで終わりらしい。待ち望んでいた戦闘時間、分の世界に戻ってきた。

 お祝いにこの氷の大地を、真っ赤な血の花でいっぱいにしてやる。

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