第103階 クリスタルソード
「危ないから、お前はここで待機だ。いいな?」
「ゔあっ」
本当に分かっているのか分からないが、頷いたので信じる事にする。
拘束したメルを岩山の階段の中に少しだけ入れると、階段を警戒して下りていく。
階段の出入り口と中は待ち伏せされやすい場所だ。
メルを42階に連れて行くなら、階段の安全を確認した後だ。
「……よし、誰もいないな。連れてくるか」
42階の出入り口まで行って、周囲を念入りに調べてみたが誰もいなかった。
砂利道の上に足跡と、オヤジ達の箱を引き摺った跡が残っていたから、先に進んでいるようだ。
階段を駆け上がると、メルを小船に乗せて、階段を急いで滑り下りた。
地下42階……
相変わらず落雷が頻繁に落ちているが、ここでの予定も宝箱探しだ。
ご褒美は地下四階のホーンラビット人形なので、メルはやる気があるようだ。
少し早足で雷平原を進んでいる。
「あれが『雷鳥』か……五、六羽もいるのかよ」
空を見上げると、青白い光を放っている大きな鳥の群れを見つけた。
雷蛇に比べると身体は小さいが、4~5メートルぐらいはありそうだ。
羽毛の布団を作るには良さそうだけど、布団は防具じゃないから作れない。
倒し損になりそうだから、出来れば俺達の事は放っておいてほしい。
「ゔあっ、あうっ!」
「んっ? もう見つけたのか?」
「ゔあっ!」
岩壁の傘を広げて、落雷と雷鳥に気をつけながら歩いていく。
しばらく歩いていると、メルが立ち止まって地面を指差した。
やはり進化後だから反応が良くなっている。聞いたら頷いてくれる。
「じゃあ、パパッと掘るぞ」
必要な数はたったの三個だ。六時間以内に見つけられる。
拘束したメルとゴーレムに乗り込むと、巨大スコップで地面を掘って、巨大ハンマーで岩柱を粉砕していく。
そして、三十分を少し過ぎたぐらいに宝箱を発見した。
「青かよ……」
一個目から青い宝箱を引くとか、嫌な予感しかしない。
でも、埋めるわけにもいかない。
ゴーレムからメルを出して、宝箱を開けさせた。
「ゔあっ、ゔあっ!」
「おっ、手袋じゃないか! 製造系か?」
革製じゃないけど、メルが毛糸の赤い手袋を持ってきた。
手袋系のアビリティは、結構便利なものが多いから期待できる。
メルから手袋を受け取ると、ご褒美のホーンラビット人形を渡して、調べてみた。
【神器の手袋:使用者に解凍能力LV1を与える】——凍ったものを手袋で激しく擦ると、溶かす事が出来る。
「ブチ殺すぞ!」
「あうっ⁉︎」
「ああああっ! もう駄目だ、もうやってられない!」
流石に我慢できなかった。赤い手袋を地面に思いきり叩きつけた。
ここが地下一階なら、このアビリティでも我慢できる。
でも、ここは42階だ。水上歩行に水上歩行に解凍手袋だ。
命懸けでやって来た冒険者に対して、このゴミアビリティは酷すぎる。
熱々の熱湯をかければ出来る事を、わざわざこの手袋でやる意味が分からない。
「ゔゔっ、ゔゔっ……!」
「お前は何やってるんだ?」
少し落ち着いてきたから、メルに聞いてみた。
何故か地面にしゃがみ込んで、頭を両手で押さえて震えている。
触ろうとすると、明らかに怯えられている。俺は虐待した覚えはないぞ。
「別にお前に怒っていたわけじゃない。ほら、次のご褒美はコレとコレだ。何か分かるか?」
ウルフ人形と猫獣人人形を作って、メルの目の前の地面に置いた。
コイツが宝箱を探してくれないと、何も出来ないから、機嫌を直してもらわないと困る。
「あうっ……?」
俺が少し離れると興味があるのか、頭を押さえていた両手で二つの人形を手に取った。
どうやら気に入ったようだ。キメラの皮に包んでいる、他の人形まで取り出して遊び始めた。
「やれやれ、少し休憩するぞ」
身体は疲れてないが、精神的に疲れてきている。地面に座り込んだ。
メルの言葉は分からないが、表情や仕草は少しは人間らしくなっている。
進化させていけば、元通りになるかもしれない。
「よし、休憩終わりだ。宝箱に案内してくれ」
「ゔあっ、ゔゔっ!」
「駄目だ。休憩は終わりだ。この人形も没収する」
十分間の休憩を終わらせると、立ち上がった。
メルはまだ遊びたいようだが、問答無用でウルフと猫獣人の人形を取り上げた。
♢
「よし、三個揃ったぞ! これで強化できる」
「ゔあっ!」
暗黒物質三個が集まった。
これで二年以上も愛用してきたゴーレムブレイカーを強化できる。
少しだけ寂しい気持ちもあるが、鞘に入った剣に暗黒物質を吸収させていく。
三個吸収すると、剣が白く輝きながら少しずつ形を変え始めた。
そして、輝きが終わると黒い鞘が白い鞘に変わっていた。
「ほぉー、透明な両刃の剣か。俺の純粋な清い心を表しているのかもしれないな」
「ゔあっ⁉︎」
白い鞘から剣を抜くと、水晶のような透明な刀身が現れた。
刀身の横幅が広くなっているから、前の細い剣と違って頑丈そうだ。
【クリスタル・レフレクシオン:長剣ランクB】——刀身に微弱な魔法反射能力を有する。
【強化素材:暗黒物質五個、雷蛇の皮十枚、雷鳥の羽根十枚、フェンリルの毛皮十枚、氷竜の鱗十枚】
「おお、Bランク装備だ! あぁ、でも……蛇皮が足りない! 取りに行かない!」
水晶の剣を調べたら、まだまだ強化できそうだった。
雷蛇の皮はメルの為に、フード付きコートを作ったから数が足りない。
まずは雷鳥を倒して、その後に残りの宝箱を探してみよう。
雷鳥が倒せないなら、宝箱を探す意味がない。
「お前はここで留守番だ」
「あうっ」
頑丈な岩小屋を作ると、その中に岩人形と一緒にメルを閉じ込めた。
俺が雷鳥を倒している間は、ここでお人形と遊ばせる。
騒がしい子供が一緒にいたら、空中戦に集中できない。
ゴーレムに乗り込むと、弾丸のように空に撃ち上がった。
「ピィーッ!」
「動きが速さそうだな。カウンターでやってみるか」
前方四百メートル先に五羽の雷鳥が見える。俺を敵だと判断したようだ。
空中で軽やかに旋回すると、五羽がバラバラに分かれて向かってきた。
俺のゴーレムは直線にしか素早く飛べない。
集団でのヒットアンドアウェイ、当て逃げ作戦をされると面倒そうだ。
向かってくる雷鳥に対して、まずは右手から水晶剣を取り出して巨大化させた。
弾丸での遠距離攻撃は、警戒されそうだからやめておく。
それに弾丸程度で倒せるとは思えない。
この剣で倒せないようなら素早く逃げるしかない。
「あれは……何だ?」
俺に向かって飛んでくる雷鳥の身体から、バリバリと鳴る青白い強烈な光が溢れ始めた。
何かしてくると警戒して待っていると、翼をたたんで身体を槍のように細めた。
そして、その体勢のままグルグルと高速回転して突っ込んできた。
「やっぱりか!」
他の雷鳥も同じように翼をたたんで、高速回転して突っ込んできた。
やはり当て逃げ作戦で、俺の身体を蜂の巣にするつもりだ。
飛んでくる雷鳥の矢を何とか躱していく。
「ピィーッ!」
「くっ、意外と厄介な相手だな!」
集団で一斉攻撃してくるから、立ち止まってカウンターで一羽倒せても、他の攻撃を全部食らいそうだ。
やるなら、最後に攻撃してくる雷鳥を狙いたいけど、それも無理そうだ。
攻撃を躱された雷鳥は停止して、素早く翼を広げて、また加速してから高速回転で突っ込んでくる。
雷鳥の矢の連続攻撃が止まらない。
だが、躱した直後に隙が少しだけある。
攻撃を躱されて、翼を広げて、次の攻撃準備をしている雷鳥を狙えばいい。
素早く躱して、素早く追いかければ、剣で叩き切れるはずだ。
雷鳥の攻撃は上下三百六十度からやってくるが、そのほとんどが斜め上と斜め下からの攻撃が多い。
バツを描くように、上下の雷鳥が入れ替わるように攻撃してくる。
攻撃のパターンさえ分かれば、タイミングを合わせるのは簡単だ。
「今だ!」
斜め上からの攻撃を素早く避けると、剣を振り被って、下に見える雷鳥の背中に振り下ろした。
ザァン!
「ピィーッ‼︎」
背中を深く切られた雷鳥が、血を宙に撒き散らして落ちていく。
切れるぞ! という喜びを感じたいが、まだ四羽も残っている。
仲間をやられて、二羽同時に突っ込んできた。
「ははっ……回収するのが大変そうだな」
二羽の攻撃を避けると、落ちていった雷鳥を探した。かなり小さい点になっていた。
どの辺に落下したか分からないと、倒しても素材を回収できそうにない。
刀身の腹での峰打ちに切り替えよう。