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第102話 四十一階の発掘

「くっ、これだから蛇は……!」


 宝箱の発掘作業中なのに、何度も『雷蛇』が邪魔しにやってくる。

 雷蛇は全長14メートル前後、太さ1メートル、輝く黄色の皮の上に黒色が所々に塗られている。

 剣を何度も叩き付けて、胴体を叩き潰して倒している。


「シューッ‼︎」


 だが、何度も同じ手が通用するわけがない。ゴーレムの身体に太い胴体を巻きつけられた。

 両足と胴体を締め上げられて、バキバキとゴーレムの体内の丸い岩コロが壊れて悲鳴を上げる。


「ゔゔっ⁉︎ ゔゔっ⁉︎」

「ああ、ピンチなのは分かっている。すぐに串刺しにするから安心しろ」


 すぐ隣に拘束しているメルが、ヤバイと騒いでいるが、これも予定通りだ。

 雷蛇の攻撃手段は丸飲みにするか、締め付けるだけと分かっている。

 あとはその対抗手段を用意すればいいだけだ。


 だが、俺の豊富な戦闘経験のお陰で、最初からその対抗手段は持っている。

 ゴーレムの胴体部分から無数の棘を突き出した。

 棘に刺された雷蛇の身体がビクッと跳ねたが、まだまだ締め付けてくる。

 蛇は生命力が高いから油断せずに、身体が消えるまで何度も突き刺さないと駄目だ。

 

「ほら、楽勝だっただろ?」

「……」


 俺が聞いているのに、メルは無反応だ。

 ゾンビは疲れないはずなのに、騒ぎ疲れたのだろう。

 十七回刺して倒した雷蛇から、黄黒の蛇皮と赤い魔石を回収した。


「この蛇皮は猫柄だな。コートでも作ってやろうか? フードも付ければ、猫みたいで可愛いぞ」

「ゔゔっ、ゔゔっ」

「ああ、確かに蛇皮は着心地が悪そうだな。帽子ぐらいで十分だな」

「ゔゔっ、うあっ」


 ゴーレムに発掘作業をさせながら、蛇皮を広げて、楽しそうに話しかける。

 相変わらず何を言っているのか全然分からないが、続ける事が大事なのは知っている。

 メルの意識が俺並みに高ければ、こんな苦労はしなくていいのに……


 まあ、起きてしまった事は仕方ない。低いなら俺が上げてやればいいだけだ。

 凡人でも俺の元で三年も修行すれば、ゾンビのままでも話せるぐらいには回復する。

 

「お前は本当に運が良いぞ。普通は死んでいたのに助かって、しかも、ゾンビになっても未来は明るいんだからな」

「……」


 やれやれ、また疲れたみたいだ。

 地道な戦闘と発掘作業を続けて、宝箱は三個見つけている。

 メルが嘘を吐いてないのは分かったが、宝箱が何個あるのかが分からない。


 まあ、次の宝箱が赤だと分かっているだけマシだ。

 さっき見つけた青い宝箱からは、何故か水上歩行の靴を手に入れた。


 確かにヴァン達に奪われたから持ってないけど、もう一度欲しいとか、取り返したいとは思ってない。

 おそらく43階と44階が『氷海』と呼ばれる場所だから、この靴が活躍するのだろう。

 でも、俺は岩の小船を作れるから本当に欲しくない。頼むからもう二度と出ないでくれ。


「んっ? 動かない。当たりか?」


 巨大スコップが何かに当たって動かない。

 宝箱は基本的に固定されて動かないようにされている。

 地面の中の宝箱は大岩に乗っているか、岩盤の上に乗っている事が多い。

 丁寧にスコップで土砂を退けていくと、やっぱり大岩に乗っている赤い宝箱が現れた。


「ほら、お前の出番だぞ」

「ゔゔっ、ゔゔっ!」

「こら、走ったら危ないぞ」


 宝箱を開ける係はメルだ。

 ゴーレムから出して、拘束を解いてやると、宝箱に向かって走っていく。

 そのまま宝箱を素通りして逃げるつもりならば、今度からは上半身だけ自由にさせよう。

 

 だが、俺の悪い予想はまたハズレたようだ。

 宝箱を開けたメルが、真っ黒に輝く玉を持って戻ってきた。

 まるで犬のようだ。


「はいはい、良く出来ました。ご褒美のブラックジジイ人形だよ」

「あうっ、うあっ!」

「これは良いのかよ……」


 暗黒物質を受け取ると、頭を撫でて、ご褒美にジジイに似せた岩人形を渡してやった。

 メルは喜んでいる感じだが、これはちょっと複雑な気持ちになる。


 一個目にやった俺人形は投げ捨てられて、二個目のリエラ人形、三個目のババア人形は大事にしている。

 俺がジジイ以下の存在とか、正直信じられない。


「さて、武器を強化するべきか……」


 子供の美的センスに悩むのはこの辺にして、剣を強化するのに必要な暗黒物質が集まった。

 これでいつでも強化できる。でも、剣に使うのは勿体ない気がする。

 七個集めてメルに使用すれば、他の階でも集められるようになる。


「剣に使うのと、お前に使うのと、どっちが良いと思う?」

「ゔあっ?」


 こういう重要な決断は、やはり一人で決めたら駄目だ。

 右手に剣、左手に暗黒物質を持って、メルに聞いてみた。

 メルは右、左と見た後に剣を手に取った。


「なるほど。やっぱりか」


 メルのお陰で俺の考えは決まった。七個集めた方が良さそうだ。

 愚か者は目先の利益で行動するから失敗する。

 ここで剣に使って、一週間後に再び現れる宝箱を探すつもりはない。


「よし、メル。次の宝箱に案内しろ。次のご褒美はブラックスライム人形だぞ」

「ゔゔっ! ゔゔっ!」

「こらこら、案内するまでやらないからな」

「ゔゔゔゔっっ!」


 ただの丸い岩コロになら勝てると思ったのに、ブラックスライム人形が欲しいようだ。

 今すぐに欲しいと、歯を剥き出しにして怒っている。

 かなりショックだが、進化させれば人形の価値ぐらいは分かるだろう。

 気にせずに宝箱探しに集中しよう。


 ♢


「ほら、開けるんだ。ご褒美の俺人形だぞ」

「あうっ……」


 八個目の宝箱を見つけたのに、メルのテンションが低すぎる。

 これでご褒美の俺人形は五体目だ。

 俺の人形を投げ捨てなくなるまで、この地獄は永遠に続く。


「ゔあっ!」

「はい、良く出来ました」


 言われた通りにメルが宝箱を開けて、暗黒物質を持ってきたので、頭を撫でて人形を渡した。

 子供は犬猫と一緒だから、とりあえず頭を撫でて褒めてやれば尻尾を振って喜ぶ。

 岩柱に俺人形を投げつけて遊んでいるけど、人形の首や手足を折るのは禁止だぞ。


「おーい、メル。遊びは終わりだ。こっちに来い。進化の時間だ」

「ゔゔっ、ゔゔっ」

「あいつ、また捨てやがったな……」


 無惨に頭が無くなった俺人形が地面に捨てられているが、怒るだけ時間の無駄だ。

 やって来たメルの頭に暗黒物質を押しつけて吸収させていく。

 俺人形の痛みを進化の痛みで思い知るがいい。


「ゔゔゔっ、ゔあああっ!」


 七個の暗黒物質を吸収させると、予定通りに地面の上を悶え苦しみ出した。

 ゾンビだと痛みを感じる機会が少ないので、この機会にしっかりと反省してもらう。


「ほら、悪い事するから痛いんだぞ。俺と俺人形にキチンと謝るまで痛いのは止まらないからな」

「ゔああっ、あゔっ、ゔばあっ!」

「いや、駄目だ駄目だ。その程度で許されない。もっとキチンと謝らないと、神様は許してくれないぞ」

「ゔゔゔゔっっ、ああゔっっ!」


 俺の時と同じなら、二分ぐらいで一回目の進化は終わる。

 たった二分で許してもらえるんだから、楽なお説教だと感謝してもらいたい。


 五分後……


「ゔあっ?」

「なるほど。個人差があるようだな」


 予想よりも苦しんでいる時間が長かったから、途中でお説教するのに飽きてしまった。

 泥だらけのメルの服を軽く叩いて綺麗にすると、進化後のメルを調べた。


【名前:ゾンビシーフ 年齢:7歳 性別:ゾンビ 身長:127センチ 体重:23キロ】

【進化素材:虹色魔玉七個】

【移動可能階層:40~45階】


 新しく習得したアビリティはないが、胸の穴が綺麗に塞がっている。

 あとは進化素材が一種類だけなのは助かるけど、俺と同じ素材なのが困る。

 45階で七個手に入っても、次の階に行けるのは一人だけだ。


 まあ、一週間後に再出現する宝箱を開ければいいけど、それもちょっと微妙なところだ。

 俺とメルの実力で、45階の探索が出来るとは思えない。


 万が一にも45階は大丈夫だとしても、50階は流石に無理だ。

 闘技場と同じで、倒したモンスターから宝箱が出現する。

 コソコソと隠れながら探す事は出来ない。


「やはり奪い取るしかないな。俺がかなり修行しても無理だ。戦力が全然足りない」


 出来ない事は素直に認めた方がいい。とても楽になれる。

 ヴァン達が50階から引き返したところを待ち伏せして狙う。


 狙う場所は当然『氷海』だ。

 氷の下からの攻撃は対処できないし、海の底までは追いかけてこない。

 こっちは荷物さえ海に落とせば勝利確定だ。


「よーし、メル。移動するぞ」

「ゔあっ」


 新しい作戦が決まった。勝利の喜びに浮かれている連中を、冷たい海に叩き落としてやる。

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