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第101話 チビゾンビ

「なるほど。誰もいないな」


 40階への階段には誰もいなかった。40階の闘技場にも誰もいなかった。

 正確には元気なミノタウロス達がいたが、コイツらはどうでもいい。

 次に探すとしたら、39階の階段と39階の闘技場になる。

 流石にその先までは探すつもりはない。


「もう食べられた後なのかもしれないな」


 39階の階段を上りながら考えてみた。

 もしもリエラが殺されて、モンスターに食べられた後なら、遺品の剣二本を貰いたい。

 だけど、剣を持っているのは、おそらくヴァン達だ。


 復讐するついでに取り返したいけど、実力差は十分に分かっている。

 帰り道の疲れているところを待ち伏せして襲っても、返り討ちに遭うだけだ。

 復讐なんて無謀な事は考えずに、今はメルと二人で生き残る方法を考えないといけない。


「ここにもいないか……」


 39階の闘技場の中にも誰もいなかった。

 当たり前だが、キメラがいる闘技場の真ん中で休んでいるわけない。

 探すのは38階の階段の中までで終わりにしよう。

 長時間メルから目を離したくないし、キメラを倒して神金剛石を二個手に入れたい。

 

 でも、オヤジ達に回収された後なら手に入らない。

 それに手に入ったとしても、剣を強化するには暗黒物質が三個必要だ。

 そんな余裕があるなら、メルを進化させる方が先だと思う。


 だけど、強くならないとまともな探索も出来ない。

 剣が先か、メルが先かでちょっと迷ってしまう。


「はぁ……まずは確認でもするか」


 悩んでいても仕方ないので、ブラックゴーレムLV5に乗り込んだ。

 まずは邪魔なキメラの手足と羽を叩き潰して、あとはゆっくりと一対一で戦う。

 リエラ情報と俺の経験から、二十匹倒してもデカイキメラと宝箱が出なければ、取られた後だ。


 だけど、長時間戦闘をやる前に38階の階段を調べよう。

 リエラが怪我している場合は治療が必要になる。

 いなかった場合は、予定通りにキメラを倒して、宝箱があるかないか確認すればいい。

 あったら回収して、無かったら41階に帰るだけだ。やる事は何も変わらない。


 ♢


 二時間後……


「ははっ……まあ、戦う意味はあったな」


 乾いた笑いと一緒に、41階のメルの所に戻ってきた。予定通りに調べ終わり、戦い終わった。

 結局、リエラは見つからなかったが、神金剛石五個と防具製造の白革手袋を手に入れた。

 小船の中にはキメラの素材と魔石もあるから、練習したら革のシャツぐらいは作れそうだ。


「ゔゔっ、ゔゔっ」

「はいはい、ただいま。お土産を持ってきたぞ。すぐに作るから待っていろよ」


 岩柱に入り口を開けると、中から呻き声が聞こえてきた。

 何を言っているのか分からないが、こんな感じの事を言っていると思う。

 とりあえず休憩ついでに、キメラの薄茶色の皮で革シャツでも作ろう。


「おお、意外と簡単だな!」


 防具製造の手袋をはめると、シャツ作りを開始した。

 使う皮の枚数と魔石の数で、大きさを調整できるようだ。

 大小様々な革シャツが完成していく。メルは半袖、俺は長袖でいいだろう。

 これなら下着とか靴下も作れそうだ。


「馬鹿野郎! 何やってんだよ!」

「ゔゔっ⁉︎」


 完成した革靴下を地面に怒りを込めて叩きつけた。

 こんな所でのんびり古代人ごっこをするつもりはない。

 メルの両肩を掴んで聞いてみた。


「メル! 宝箱がある場所は分かるか? 案内してくれ!」

「ゔゔっ、ゔゔっ」


 俺の言った事を理解しているのか分からないが、岩柱の中から外に出ていった。

 フラフラとメルは呻き声を出しながら歩き続ける。

 頭に落雷が当たりそうで怖いが、両手を上に上げて岩壁の傘を広げた。

 これで直撃よりはマシぐらいにはなったはずだ。


「ゔゔっ、ゔゔっ」

「それにしても、このまま意思疎通できないと厄介だな」


 転んだり、いきなり走り出したりしないからいいけど、この状態は死んでいるのと一緒だ。

 でも、使役を解除しても、ゾンビ状態は継続されるし、また使役をし直すと、その階層しか移動できなくなる。

 今のところは、進化以外に良くなりそうな方法はなさそうだ。


「んっ? ここにあるのか?」

「ゔゔっ、ゔゔっ」

「なるほど……」


 メルが急に立ち止まって、地面を指差した。

 そんなわけないと思いながらも剣を抜いて、地面に突き刺した。


「ハァッ!」


 ザスッ! 地面に向かって力一杯突き刺した剣が、刀身の根本まで埋まってしまった。

 俺の力が凄いと喜ぶべきか、何も埋まってないと悲しむべきか分からない。

 とりあえずこの指先の下ではなく、この辺に宝箱があると伝えているんだろう。


 でも、流石に地面を指で指しただけの手掛かりで、広範囲を探す気にはなれない。

 もうちょっと詳しい範囲を教えてもらいたいし、確実にあるという確証が欲しい。


 だけど、いきなりそれをメルにやらせるのは難しい。

 今の俺とメルに必要なのは、最低限の意思疎通が出来る手段だ。

 まずは遊び相手になって、仲良くなる事が大事だと思う。


「メル、弓矢と矢だぞ。これで宝箱のある範囲を矢で教えてくれ。俺の言っている事が分かるよな?」

「ゔゔっ! ゔゔっ!」

「おお! よしよし、慌てなくていいからな」


 弓の弦は付いてないけど、形だけは弓矢になっている。

 黒岩で作った頑丈な弓と矢一本をメルに見せると、興奮した感じで寄ってきた。

 襲われそうで少し怖かったが、チビゾンビだからそこまでの脅威はない。

 片手で投げ飛ばせる自信はある。


「そうそう、そんな感じだぞ」

「ゔゔっ? ゔゔっ?」


 やはり子供は玩具が好きなようだ。

 矢を射とうとしているけど、ポロポロと何度も矢を落としては拾っている。

 アレンに奪われた弓矢は後で奪い返すから、しばらくはこれで遊んでもらう。


 六分後……


「ゔゔっ! ゔゔっ!」

「理解するまで少し遅かったな」


 地面に叩きつけた弓矢と矢を、メルが怒って踏んづけている。

 全然壊れないけど、これでメルの知能が10階の赤毛猿以下だと分かった。

 その通り、この弓矢では絶対に矢は射てない。


「知能は3~5歳ぐらいか。3歳なら線ぐらいは引けるだろう。メル、この棒で宝箱がある範囲を囲むんだ。出来たら、ご褒美のお人形さんだ」


 チビゾンビの知能が分かったので、今度は茶色い棒と人形を作って見せた。

 今度は二つとも壊せるから、線が引けなくても壊して楽しめる。


「ゔゔっ? ゔゔっ!」

 

 メルは目の前で右手の棒と左手の人形を振って、どちらが欲しいか選ばせる。

 メルは右、左と見た後に棒の方を選んだ。やっぱり冒険者だから、お人形には興味はないようだ。

 武器になりそうな方を選んだ。


「ゔゔっ! ゔゔっ!」

「これは……? まさか⁉︎」


 地面に線を引くように言ったのに、メルは棒を地面に何度も突き刺している。

 しかも、少しずつ前に進んでいる。この動きは何度も見た事がある。

 忘れるはずがない。地中の宝箱を探す動きだ。


「なるほど。知能は落ちても、記憶は残っているのか。とりあえず止めないとな」


 まだ胸の傷が塞がってないのに、重労働をさせるつもりはない。

 嫌がるメルから棒を奪い取ると、身体を拘束させてもらった。

 調べるのは俺一人でも十分に出来る。


「さてと、ササっと探してみるか」


 ブラックゴーレムに乗ると、巨大スコップを作って地面を掘り始めた。

 とりあえず宝箱を探してみる。もしも見つからない時は、メルが嘘を吐いた事が分かる。

 見つかった時は二個目を探せばいいだけだ。

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