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第八十八話 襲撃について①

「高いわね……こんな高いとこから街を見下ろしたことなんて無かったわ。」


「舌を巻く景色だね……。アズは高いとこ苦手とかないの?」


「魔法さえ使えればどんな高さから落ちてもどうにかなるんだから、恐怖みたいな感情はないわ。そうは言っても、ここまで高いのは新感覚だけれど……。」


僕とアズは、窓から下に広がる帝国の街並みを覗いていた。

僕らが何に乗っているのか、それはフローライトが言っていた……そう龍車である。龍車とは、前にちょこっと話をしたと思うが、もはや車ではなく飛行機。空を飛ぶ全長数十メートルのドラゴンが、人が何人も入ることのできる大きな荷車を背負って飛んでいるのだ。


つまり僕らは今、その荷車の中にいる。

空だ。大空だ。僕らは今、大空の中にいる。雲の上から街を見下ろす、景色は新鮮そのもの。


日本に住んでいたとき飛行機に乗ったことがあるので、こういう景色にはある程度慣れているのだが、アズや他の人たちにとっては本当に初めての感覚だろう。まさに新感覚。

興奮は人一倍だ。


アズも冷静に装っている様子ではあるが、窓から見る景色に釘付けであったり、足をぶらぶらと揺らしていたりと、隠しきれてない興奮が伺える。


「にゃは~、空の上のたび、超楽しいにゃ~。」


「だよね!ウチも龍車なんて、初めて!マジ最高だわ~。」


エメラルドとアイも楽しそうに、ニコニコ笑顔。

あれ、何でアイがいんの?そう思った人も多いだろう。


そう彼女こそ、コハクが無理やり話を通して連れてきてもらった今回の助っ人だ。

金等級が来てくれるなんて、これほど強力な助っ人はいない。ギルドマスターも試験が大変だと言うのに、機転を回してくれたようだ。


ありがとうギルドマスター……。

さすが僕たちの、シルフ様だぜ。


「ねえフォス、あれは北戦線かしら?」


「ん?あぁ……それっぽいね。すごいね、まさか北戦線まで見えるなんて。」


「そうね。こんな空高くを移動できる何て、夢でも見てるみたい。確か龍車って世界に5匹もいないって聞くわよね。」


「そうにゃ!やっぱり勇者ってすごいにゃ!権力の塊にゃ!」


「あはは、その表現はよくないっしょ。けど……ひゃ!?」


唐突に肺が浮くような感覚。

そう……この龍車。飛行機より悪い点があるとすれば……と言うか大きすぎる欠点なのだが、乗り心地がめちゃくちゃ悪いのだ。


乗っているのが機械ではなく生物なので、しょうがないと言えばしょうがないのだが、とにかく揺れる。そして大きく傾くこともしばしば。シートベルト必須である。


おかげで僕もアズも常に、椅子にがっちり固定されている。飲み物など飲めるわけもない。


それに飛行機みたいに安全装置が充実してないので、緊急事態が起これば自力で何かしらしないと普通に死ぬ。

スリル満点。もう危険アトラクションとでも言った方がいい。


まあ結局無事に、モンキー街に着くことはできた。大体半日くらいかかっただろうか。竜車だったら何日もかかるのだから、ものすごいスピードである。

ただ龍車の影響は想像以上に、大きかった。


「ねえフォス、頭がクラクラするんだけど……。」


「うん……僕もクラクラする。」


「なんかずっと揺れてるような気分にゃ~。」


「うえっ、気持ち悪……。」


うん、皆酔った。





モンキー街に着いた後、僕ら4人は宿屋の一室借りて休むことになった。馬車にも竜車にも乗って酔わない強靭な体を持つ僕ら冒険者たちが、まさかこんなにも酔うとは……。


フローライトさんはケロッとしていたのだが、僕らには「慣れだから」と言って励ましてくれた。風の盗賊団の本拠地に乗り込むには時間に余裕があるから、ゆっくり休んでとのこと。他から来ると騎士団と合流したりと、色々とやることがあるらしい。


騎士団に捕まった……と言った情報も、流石に龍車より早く伝達されることはないだろう。

時間に余裕があるのは確かだ。けど迷惑をかけてしまうなんて、ちょっと申し訳ない。


ちなみにジェットも、何ともない様子だった。

あの子凄すぎ……。


借りた宿屋は4人部屋で、ベットの他壁やお風呂の装飾であったりと結構高そうな雰囲気。フローライトが手配してくれたのだが、普通の部屋で良かったんだけどな……。彼女なりの僕らに対する気遣いなのだろう。


と言うか……冷静に考えれば、普通男女別の部屋じゃね?女性3人と同部屋……アズとは良くあるとしても、こんなことはまずない。


これはキャッキャウフフな展開が……ある訳もなく、そんな気力も無い。

皆ベットの上や、景色を眺めたりと、皆思い思いの場所で休んでいる。僕も飲み物をちびちび飲みながら、椅子に座ってボーッとしていた。


ずっと動いてないのに、常に揺れてるようなそんな感覚。ドラゴンに半日も乗っていると、人はこんなことになるのか……。目を閉じるとさらにその感覚が際立つようで、どうにも寝れるような状態ではなかった。

はっきり言おう、気持ち悪い。


とりあえず深呼吸を意識して、精神を整えることにする。病は気から…何て言葉もあるし、精神の持ちようは大切だ。


「フォス、なんか話しなさいよ。」


「え?」


気付くとアズが僕の傍までやって来ていた。

僕と同じように水分を取りながら、座布団にすわっている。


「なんか話していた方が、気が紛れるのよ。だから何か話しなさい。」


「すごい無茶ぶりだね。えーっとじゃあ、そうだな。久しぶりに、将来の夢の話でもする?」


「聞かせなさい。」


「僕の夢は知ってると思うけど、なろう系チートハーレム主人公みたいになること。」


「だから白金等級になって、もててハーレム作るんでしょ?」


「そうそう。ハーレムってのはなろう系主人公、必須の要素だからね。だから僕の夢は、ハーレムを作ることとも言える。」


「フォスってハーレム作りたかったのかにゃ?」


唐突にベッドの上にいたアイが、口を挟んできた。アズに聞こえるだけの声量で話していたつもりだったんだけど……聞こえてたのか。そういや獣人は元から、鼻や耳がすごくいいんだっけ。


「うん。おかしいかな?割と本気なんだけど……。」


「ん~別にできるかは置いとくにして、おかしくは無いと思うにゃ。生き物の本文は子孫を残すことにゃし、フォスが子孫を残そうとハーレムを憧れるのは至極当然にゃ。」


「何かいきなり生々しいわね。フォスって子孫多く作るために、ハーレムしたいの?」


「いや、憧れって要素が強いかな。けどもしかしたら本能的には、そう言う思いが働いてるのかもね。」


「きっと働いてるにゃ。うちもイケメンの男いっぱい侍らして生きて行きたいにゃ。」


「いきなりとんでもな欲望暴露してきたわね……。アンタには無理よ、諦めなさい。」


「にゃあ!?それを言ったら、アズも無理にゃ!」


「別に私は目指してないわよ。私はそうね……夫は一人いれば十分ね。」


「うわ、夢ないにゃ。」


「うっさいわね。」


アズがギリっとアイのことを睨む。

思い出してみれば、前にアズは結婚なんてしたいとも思わないって言ってたな。けど今、一人いれば十分……と結婚について少しばかりかもしれないけど、一応考えてくれたらしい。


「何あんた笑ってんのよ?そんなにハーレムに憧れないことがおかしい?」


「え!?あ、いやそんなことないよ。素晴らしいことだと思う。アズはきっといいお嫁さんになるね。」


「は!?はぁ!?う、うっさいわね。うっさいうっさいうっさい!あとそれ、セクハラだから!」


「マジか……。」


世の中ってなんて世知辛いのだろう。

あと僕、笑ってただろうか?そんなつもりはなかったんだけどな。


アズは何故か顔を赤くして、飲んでいた水を一気に飲み干している。照れてんのか、セクハラされて怒ってるのかよく分からない。けど怒ってたら殴ってきそうだし、やっぱ照れてたりして?


アズって意外と初心(うぶ)疑惑が、この頃僕の中で浮上してれるからな。変な男とかに将来騙されないといいけど。いやアズが騙されるような、そんなタマじゃないか。アズの危険察知能力は、常軌を逸してる。直ぐに気づいて、瞬殺ノックアウトだ。


「ん!?あれ。もしかして今フォスっちたち、恋バナしてる?」


唐突に声がかかってその方向を見ると、外を見ていたはずのエメラルドが僕たちの方を見ていた。どうやらアズが顔を赤くしたりしてた様子が、恋バナに見えたらしい。


「いや、恋バナではないかな……。ハーレム作りたいって、そう言う話。」


「ハーレム!?やっぱ恋バナじゃん!何でフォスっちたち、恋バナ初めてんの!?するならウチも混ぜてよ!」


「いやだから恋バナをしてるわけじゃ……って、うわ!?」


え!?唐突に窓際にいたエメラルドが、僕の側まで走ってくる。そしてそのまま僕に抱きついてきた。

柔らかい感触と共に、甘いような良い匂いが鼻を通る。


「ちょ!?はぁ!?あんた何してんのよ!」


「うぅ、恋バナを混ぜてくれなかった罰だし……。」


「いいから、離れろ!」


無理やりアズが、僕からエメラルドを離す。あんな唐突に抱きついてくるとか、陽キャ怖いな。

ちょっと嬉しくなってる僕がいるのは否定しないけど。


「えー、もうアズっち怖すぎだって!冗談じゃん!冗談!」


「冗談でも良いことと悪いことがあんのよ。」


「そう?ごめんごめーん。それで何!?フォスっちはハーレム作りたいって?」


エメラルドはアズをスルッといなすと、僕の顔をじっと見てくる。何だかエメラルドの目が、キラキラしてる気がする。


「う、うん。白金等級冒険者になったらハーレム作りたいなぁ……なんて思ってるんだ。」


「うわ、白金等級冒険者になりたい理由、不純すぎない?」


「それを言われたら、反論の余地がないよ。」


「あはは、嘘嘘。うちはそう言うの良いと思うよ。冒険者ってのは自由だからね!だからそうなりたいのかも、どういう理由でなりたいのかも、全部自由!」


そう言ってエメラルド両手を天井に突き上げる。酔ってて気持ち悪いだろうに、その元気はどこからくるのだろう。僕にも分けて欲しいくらいだ。


「エメラルドも、白金等級冒険者になりたい理由とかある?」


「え、うち!?うちは別に白金等級目指してないから。なりたくないし。」


「ええ!?何で!?」


「だって別にうちは偉くなりたくて冒険者やってんじゃなくて、楽しいから冒険者やってんの。だから白金等級とかになるより、今の楽しい人生を謳歌したい……的な?もうフォスっち、金等級冒険者が全員、白金等級冒険者になりたい何て思っちゃだめだよ!」


「ご、ごめん。気を付けるよ。」


世界四大ギルドの金等級まで上り詰めた冒険者の中に、白金等級になりたくないと思ってる人がいるなんて正直思ってなかった。皆表には出さなくても、心のどこかで白金等級になりたい……そういう野望を抱えている。そう信じて疑うことは今までなかった。


けどエメラルドは、明らかに本気で言ってる。

白金等級になりたくないと。ならば真にそうなのだろう。皆がそうだと、決めつける行為は何事であっても良くないことだな。反省。


「あはは、謝んなくていいよ。うちが特殊なだけなんだから!アイっちもそう思うっしょ?」


「シルフギルドは欲望の塊みたいなやつしかいないからにゃ~。フォスがそう思うのも無理はないにゃ。実際うちも白金等級なりたいにゃ。」


「何でなりたいのよ?」


「そりゃ白金等級になって偉くなって、金持ちになりたいからにゃ。金持ちになれば食事にも困らないし、あの面倒なウルツに付き合う必要もなくなるにゃ。最高にゃ。」


「あ~、アイっちも動機不純~。」


「不純でいいにゃ。不純最高にゃ。アズも白金等級になりたい理由は不純のはずにゃ。」


「は、はぁ!?私が白金等級になりたい理由は、あんたたちと違って不純じゃないわよ。」


「え~本当かにゃ~?」


「アズっち、聞かせてよ!」


そう言ってカイヤとエメラルドが、アズに迫る。さっきまで皆気持ち悪そうな暗い表情をしていたのに、今は生き生きとしている。

アズが白金等級になりたい理由……確かに僕も聞いたことはない。けど……何となく分かってはいる。それは……きっと軽い理由ではない。


「……見返したいのよ。」


「見返す……かにゃ?」


「私を…私たちを……貶めて、地獄へと追いやったあいつらを見返したい。それだけよ。」


「うわ、やっぱ不純にゃ。」


「はぁ!?不純じゃないわよ!ちゃんと話聞きなさいよ。このキメラ猫!」


「にゃにゃ!?今、アズが言ってはいけないことを言ったにゃ!殺すにゃ!ぶっ殺すにゃ!」


「え!?ちょ、まって、二人とも落ち着いて!」


そこから数分間、シルフギルド冒険者二人の本気の枕投げが始まったのは言うまでもない……。


読んで頂き感謝!もう十二月なんて、早すぎだよね。

昨日は休んでごめんね。

これからも唐突に休むタイミングあると思うから、そのときはtwitter(https://twitter.com/kazenotayori5)で発信するから、確認してくれると嬉しいな。

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