第八十七話 試験について⑤
僕とアズが急いでシルフ街騎士団本部に駆けつけると、そこにはすでにコハクやパールの姿があった。奥の席には相変わらずフローライトが鎮座しており、エメラルドがその傍でふわぁと欠伸をしている。
ただ何より目立つのは部屋の中央にいるジェット。そして彼女が片手に持ち上げている、ボロボロになった男の姿であった。歯が欠けていたり、爪が剥がれていたり、服がボロボロだったりとその姿は悲惨の一言。顔面は何度か殴られたのか、アザと腫れで見るも無惨なものになっている。
「えっと……ラリマーさん、これは?」
「こいつは風の盗賊団の連中だ。ジェットが捕まえてきて持ってきた時は、既にこんな感じだった。」
「どんだけ、ボコボコにしてんのよ……。」
さすがのアズも、この男の惨状に若干引いている。
ただ……風の盗賊団の捕虜を得ることが出来たというのは何よりも大きな収穫だ。ジェットには心から賞賛を送りたい。めっちゃ雰囲気怖いから、話しかけられないんだけどね……。
ラリマーからこちらに向かっているときに聞いたのだが、ジェットが貧民街に一人で調査に行き見事に、風の盗賊団の捕虜を捕まえたんだとか。そしてジェット自ら拷問し、情報を洗いざらい吐かせた……と。
「ここまでって……あんた、どんな拷問したのよ?」
「全ての爪を剥いだ後、全部の指を切り落とした。それを回復魔法で治して…五回ほど繰り返したら……吐きました。」
ジェットはさもそれが当たり前のような様子で、淡々とそう語った。回復魔法を応用した拷問と言うのはあるにはあるのだが……ここまでエグいのはなかなか。
ただここまでしないと風の盗賊団は情報を吐かなかったし、ファインプレーと言っても差し支えない。騎士団での拷問だったら、こうはならなかったかもしれないしね。
「すっごいパルパルだよね!けど騎士団の許容範囲外で拷問するのって、いいんだっけ?もしかしてジェットってパルっちゃう?」
「ぷはっ、パルっちゃうってなんだし。笑えるんだけど。けどそこんとこどうなんさ、フローライトは?」
「大丈夫。ジェットの行いは騎士団の調査に沿うものだし、私の独断で行ったと言うことで収めることにするわ。」
「わぁー、良かったね!ね、ね、ジェット!」
「気安く……呼ばないで…下さい。」
「えーなんでなんで~。私ジェットって呼びたい!パルりたい!パルっと言いたい!」
「……あなた、何を言ってるんで…すか?」
「ジェット、気にするな。そいつに言語は通じない。適当に相槌を打つのが正解だ。」
「……そうですか。」
「あーラリマー酷い!パルパルの意味が分からないのは、受けての怠慢だよ!現にコハクは分かってるもん!ね?」
「私をその頭の悪そうな会話に、巻き込まないでくれないかしら?大体そんなことより、本題に入ってくれる?白金等級冒険者である私の貴重な時間を奪ってるのよ。ギルドの作業も残っているし。」
「あーごめんね。分かった、じゃあ始めるわ。けど…まだ来てない人が……、」
フローライトがそう言いかけた瞬間、僕らの背後の扉が勢いよく開く。そして入ってきたのは、スピネルとヒスイの姿であった。
「すいません遅れました……とヒスイちゃんは誠心誠意の謝罪を口にしながら部屋に飛び込みます。」
「試験直後に抜け出すのは、無理がありますわよ。」
二人は全力で走ってきたのか、疲れが薄ら見える。本来なら試験の後片付けをしなければならないのだ。そりゃ来れないのも当然だとは思っていたが……どうやら急いで抜け出して来てくれたらしい。
僕は気を使って彼女たちを部屋中央まで通すように避けると、開いていた扉を閉める。
これで必要なメンバーは揃ったと言えるだろう。フローライトがニコニコと満足気な表情を浮かべながら、口を開く。
「ごめんね。皆も試験後の仕事大変なのに、集まってくれてありがとう。すぐに終わるから。」
そう言ってフローライトは、地図を取り出した。そこには帝国全土の位置や情報が鮮明に記載されている。そしてフローライトはその地図に書かれている、一つの都市を指さした。
「ジェットが情報を吐かせてくれたことで、風の盗賊団の本拠地の場所が判明したわ。それがここ、モンキー街近くに広がる森よ。」
モンキー街か……。モンキー街はこのシルフ街より海岸部側にある都市で、距離も遠い。竜車で移動しても、間違いなく数日はかかる。それにモンキー街に続く道は、海産物を運搬する有名な行商路なのだ。だから年中混んでいる。
正直地理には全然詳しくないので、僕が持っている情報はこのくらいだろうか。これだけでも知っていた方だと、むしろ褒めて欲しいくらい。
けど何故そんな場所に本拠地が……?その疑問を代弁するかのように、ヒスイが言葉を口にする。
「わざわざモンキー街近くに、本拠地を置くなんて…どういうことなんでしょうか?とヒスイちゃんは疑問を口にします。何かしらの利点が?」
すると意外なことに、答えたのはコハクであった。コハクは寄りかかっていた壁から上体を正すと、ヒスイの顔をちらりと見る。
「風の盗賊団は、窃盗行為以外にゴーレムを売り払うって言う収入源があったらしいわ。推測にはなるけど、それと行商路として利用できるモンキー街は、好都合…なのかもしれないわね。」
「おぉ……なるほどとヒスイちゃんはつい、感嘆を食いにします。」
「わー、一瞬で分かっちゃうなんてさすがコハク!パルパルだ!」
「これくらい、分からないでどうするのよ。あなたもそう言うつもりだったでしょ?フローライトさん。」
「ま、そうね。私も理由は同じこと考えてた。けど……多分あと数日もすれば、この本拠地は移動すると考えられるわ。あそこまで逃げるのに徹底した組織、団員が私たちに捕まったことを知ればすぐに移動するでしょう。」
そう言われて、皆一度押し黙る。
確かにフローライトの予想は、当たっている可能性が高い。風の盗賊団は今まで、一切のヒントも残さない秘密を徹底した組織。
仲間が帰ってこないと分かれば、本拠地のアジトがバレたと予想をつけることは容易に想像出来る。そしてら本拠地をすぐさま移動して、姿をくらますはずだ。
どのぐらいの綿密な情報網を風の盗賊団が持っているのか、それは残念ながら僕らには分からない。けどこの捕まったという情報が、伝わるのは時間の問題だ。
となれば……
「すぐにでも本拠地を叩くために動く。皆同じ結論にたどり着いたと思うわ。」
フローライトは僕ら集まっていた全員を見渡す。そして椅子から立ち上がると、ドンっと重みある打撃音と共に地図の置いてある机の上に両手を乗せた。
「もちろん私も同じ。だから今すぐ風の盗賊団討伐のため、出撃するわ。他の騎士団とも連携を取り、動きを悟られないため少数精鋭で動くつもり。けど……ゴーレムを売り捌き、アダマンタイト性の牢屋をも壊す連中。正直戦力としては不安が残る。」
フローライトはそう言って一呼吸を置く。けど皆、その後に来るであろう文言を何となく理解していた。そして案の定、彼女はその言葉を口にする。強い意志を瞳に込めて。
「だからあなたたちシルフギルドの冒険者にも協力して欲しい。今から一緒にここを出て、共に風の盗賊団を討伐してくれる方はいない?報酬もこれまでの比では無いほど、多く出すわ。どう?だめ?」
そう言われると、皆顔を曇らせる。全員ギルド入団試験の後処理が残っている。それも合格者を決める重大な話し合いに参加する者も多いはずだ。容易に頷くことはできない。
ただ……そう言った仕事を考えることなく、容易に引き受けられる人がここには2人いる。
それはもちろん……
「僕は行きますよ。」
「私もフォスが行くなら、行くわよ。」
僕とアズのことだ。
「良かった……感謝するわ。二人なら一緒に来てくれると、思ってた。」
フローライトはパッと花開いたかのような、明るい笑みを咲かせる。僕とアズもギルド入団試験の後処理は、一切任されていない。ギルドに誰を入団させるかという、何よりも重要な作業だ。カイヤを贔屓すると考えられる僕とアズが、その作業に関与する訳は無い。
ただ……やはり僕ら以外の冒険者は厳しい。毎年、誰を入団させるかは、全ての冒険者の意志の基行われるとされる。その体を守るためにも、そんな大切な期間を賊の調査などには割けない。
「申し訳ないですけど、ヒスイちゃんは厳しいですね。前準備にほとんど関与しなかった以上、後仕事をするのが道理だと思いますので。」
「我もご主人様から色々、雑用を頼まれてますのよ。一日だけとかならまだしも、少なくとも数日かかる仕事などできませんわ。」
早速ヒスイと、スピネルが辞退を表明する。それに続くように、パールも口を開けた。
「私も色々パルパルだし……厳しいかな…、うわぁーごめん!フローライトさん!」
「いえいえ、大丈夫。一緒に行きたいと、そう思ってくれるだけでも私は嬉しいわよ。この調子だと、コハクさんも無理…かな?」
「……そうね。さすがに白金等級が、この時期にギルドを抜けるのは無理。ただ……シルフギルドの団員、一人くらいなら助っ人を呼ぶことは可能よ。誰が来るかは分からないけれど、ギルドマスターに話をつければ一人くらい大丈夫かもしれない。」
「本当!?そんなことできるの!?」
「そこは私がどうにかするわ。ギルドマスターも事情を話せば、理解を示してくれるはず。そしたら一人分くらいの仕事の空きを、無理やり作るのも可能よ。銅等級とかかもしれないけど、戦力にはなるはずだわ。」
「シルフギルドの冒険者なら誰でも戦力になるわよ!助かるわ!」
「そう。じゃあ早速、話をつけてくるわね。」
そう言うとフローライトは、パッと部屋から出ていった。ギルドマスターに無理言って話をつけるなんて、それこそ白金等級冒険者だからこそできることだ。やはりこの依頼に、コハクを巻き込んで良かったのかもしれない。
コハクが出ていく姿を見送ると、ずっと黙っていたラリマーが口を開いた。
「もちろんだが俺も無理だ。ヒスイと同じように、事前準備に参加しなかった分、これから色々と働く必要がある。だが……ジェット、風の盗賊団討伐の件どうだ?」
「どうだ……と言うのは…つまり…、」
「フォスや騎士団と共に、風の盗賊団討伐に出向いて欲しい。ジェットの所有権はギルドでは無く、俺にある。だから俺の許可があれば、ジェットは自由に動くことが可能だ。お前ならギルド試験の後仕事も関係ない。」
「……私はあなたが命令するのであれば…行かない以外の手段は持ち合わせていません。」
「そうか、なら頼む。」
「……分かり…ました。」
ジェットの表情は長い黒髪に隠れて見えなかったが、小さく頷いたことだけは理解出来た。その反応を見てラリマーはフローライトへと向き直る。
「……と言うことだ。ジェットのこと、頼む。」
「ええ。もちろんよ。助かるわ。ジェットさんも、これからよろしくね。」
「……はい。」
どうやらこれで、風の盗賊団の討伐メンバーは決まったらしい。僕とアズ、そしてジェットに、コハクが話をつけてくるもう1人。加えてエメラルドと、フローライト率いる騎士団の精鋭組。
「何か、うちマジでテンション上がってきた。んでうちらどうやってモンキー街の方まで行くの。竜車?騎士団で竜車、出してくれんの?けっこう時間かかるし、早く出発しなきゃだよね。」
エメラルドは軽く握り拳を作り、やる気十分な様子でフローライトに話しかける。しかし……その返答は僕らも想像を絶するものであった。
「いえ、龍車で行くわ。」
「ん?だから、竜車っしょ?」
「違うわよ、龍車よ。」
「え!?あ、え!?もしかして空飛ぶ方の!?マジ!?」
「そ。」
「ええ……。」
その事実が明らかになった瞬間、その部屋は時間が止まったのかと思うほど静寂に包まれた。
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