第八十二話 少女について③
俺がジェットとギルドに戻ったとき、空は既に夕暮れであった。ちょっとした散歩のつもりだったけれど、出店で買い食いをしたり、公園でのんびりしたり、と想像以上に時間を使ってしまった。
ジェットの話を報告しないといけないと言うのに、予想以上のダラけぶりである。さっさとフォスとアズに言わなければ……きっと食堂にいるだろ。
そう思っていたが、残念ながらその予想は外れていたらしい。食堂には夕飯を食べに多くの人が訪れて来ていたが、フォスたちの姿はなかった。
とりあえず近くに居た知り合いに、フォスがどこにいるか聞いてみることにする。
「おい、マリン。フォスがどこに行ったか、知ってるか?」
「フォス?あー、そう言えば騎士団の方に行くとか騒いでたきがするのじゃ。」
「そうか、ありがとう。」
俺はジェットを部屋に留守番させた後、ダッシュで騎士団のシルフ街本部に向かった。騎士団に行ったと言うことは、風の盗賊団について勇者と話に行っているのだろう。
ならそれはそれで好都合。
この話は勇者にも伝えるべき事柄だ。騎士団の建物はシルフギルドより立派とは言えないものの、シルフ街ではその次に大きて立派な建物。遠くにいても、見渡せば必ず視界に入ってくる。迷うことも無く、最短距離で向かうことができる。
屋根の上をパッパと飛んで移動し、騎士団のエントランスに入る。そして白髪の男に用があってきたんだけど……と言うとすぐに1番奥の部屋へと通された。
さすが騎士団。仕事が早い。
俺がシルフギルドの冒険者であることを即座に確認して、行動に移してくれた。
勇者とはイーグル街の後片付けで、数秒話した以来だろうか?初対面な訳ではないし、いきなり来たとしても問題は無いはずだ。そう思いながら三回ノックをして、中に入る。
「うわっ……。」
俺は重厚な扉を開けると共に、そう声を漏らしていた。
何故なら……予想以上の人数がその部屋に居座っていたからである。
奥に座っているのは勇者なのは確実として、フォスもアズもいるのは当然。ただあそこにいるサラマンダーギルドの冒険者は誰だ?あとヒスイにパールにコハク…更にはスピネルまで……シルフギルド冒険者大集合である。
何か開けたのに、もう1回閉じたくなる気分になった。
「あー、ラリマーだ!何しに来たの〜?」
扉の近くに居たパールが、すぐに俺の傍に近づいてくる。全員の視線が俺に一瞬にして集中したのが、肌で感じた。
「あら、ラリマー。フォスとアズに、私が確実に情報を持ってる……何て嘘をついたそうじゃない。私を隠れ蓑に使うなんて、浅はか。そして愚かしい。どう落とし前をつけるつもりなのかしら?」
パールの嬉しそうな笑顔とは相反するような、鋭く恐ろしい目つき。ホントにこいつ怖いな。
スフェーンにも普通に楯突いてたし、昔から性格が尖ってるんだよな……。
「落とし前?俺はコハクが白金等級相当の博識さを持ってすれば、答えられると踏んだだけだ。どうやら俺の予想以上に、頭が弱かったようですまないな。」
「頭が弱いなんて、笑える冗談を言うものね。自身の愚かさを相手のせいにするなんて、三下がやることよ。本当にシルフギルド冒険者?」
「お前もまた、自分の知識の無さを論点をずらして誤魔化しているだけだド三流。ホントに白金等級冒険者か?」
「負け犬の遠吠えは、煩わしくてたまらないわね。どれだけ言ったところで、あなたの愚かだった判断は消えないのよ?理解出来てる?」
「理解できてないのは、どっちだろうな。大体……」
「すいません、ちょっと落ち着きましょう。ラリマーさんは何でこの場所に来たんですか?もしかして情報を掴んだ…とか?」
俺とコハクの言い合いに、フォスがパッと口を挟む。どうやら話の進行のために、会話を遮ってくれたらしい。
正直助かった。俺もコハクも、間違いなく言い合いは引くことはなかっただろう。
「ふっ、そうだな。すまない。フォスの言う通り、重要な情報を得たので伝えに来たまでだ。」
「えー!?ラリマーすごーい。」
「まさかラリマーが情報を掴んでくるとは、ヒスイちゃんもビックリですね。」
俺の発言に、皆期待の眼差しを向けてくる。
悪くない。ただそれより前に、話しておかなければならない相手がいる。
「フローライトさん、話してもいいか?」
「もちろん、いいわよ。情報持ってきてくれるとか、助かるわ。ね、エメラルド。」
「うん、めっちゃ助かる。あ、うちのこと知らないよね。サラマンダーギルド金盗賊団、エメラルドでーす。よろしくね〜。」
そう言って黒髪ツインテールの少女は、俺に挨拶してくる。これは確か流行りの、じょしこうせいの服だったか?ここまでこの服が似合ってる人も、あまり見たことがない。
少しジェットにも着させてみたい……と思ってしまった。きっと似合う。
「そうか。俺はシルフギルド金等級冒険者、ラリマーだ。よろしくな。」
「よろ〜、ラリっち。あ、けどラリっちだとラリってるみたいじゃん。超やば〜、ウケる〜。」
エメラルドは勝手にあだ名をつけて、勝手に笑っている。愉快なやつだ。
「けどどうしよっかな〜。うちあだ名つけないと、人の名前覚えらんない人間なんだよね〜。」
「いっそヤク中でいいんじゃない。お似合いよ。」
エメラルドが俺のあだ名で悩んでいると、コハクが口を挟んできた。まださっきの言い合いを根に持ってるらしい。ネチネチしてるな…まったく……。
ただ予想外だったのは、他の人たちも次々に発言を始めたことだった。
「あだ名をヤク中にしたら、シルフギルドにホントにヤク中がいるみたいでイメージダウンよ。大人しくラリマっちがいいんじゃないかしら?」
「あーじゃあじゃあヤクパルっちていいんじゃない?パルパル要素入ってて可愛いよ!」
「可愛さをとるなら、たぬきがいいわよ。たぬき!どう?」
「たぬきになったら、ラリマー要素皆無じゃないですか、とヒスイちゃんはとりあえずツッコミを入れてみます。とりあえずラリっちでいいのでは?」
「それなら、要素を加えてラリっちマークIIIとかがいいですわよ!かっこいいですわ!」
「マークIIIって、元々2人いたみたいで超ウケる〜。フォスっちはどう?何がいいと思う?」
「えー……メガネっちとか?」
「ぷっ、メガネっち。まるでラリマーの本体がメガネみたいじゃない。最高ね。」
「えー、コハク趣味悪いよ〜。じゃあメガパルっちとかいいじゃん!ね!」
「何かメガっと言葉もまた、強そうですわね。」
「じゃあメガたぬきよ!」
「もう誰か分からなくて、笑えてきますね。」
「もうメガを超えてテラでいいんじゃない?どうでもいいけれど。」
「テラたぬきって、テラワロスの進化系みたいだね。」
「あー、知ってますわ!テラワロスって、めっちゃ笑えるって意味ですわよね!」
「すごっ……よくこんな言葉知ってたね。」
「いっそ、テラメガネ。いいんじゃない、ラリマー要素も残っていて素晴らしいあだ名だわ。」
「確かにうち、テラメガネはインパクト大きいから、一瞬で覚えられる気がする!」
「えーパルパル要素あった方が、可愛くて覚えやすいよ〜。もう全部合成して、テラパルメガネがいい!」
「んじゃたぬきも加えて、テラパルたぬきメガネね。」
「新手の怪物でしょうか……とヒスイちゃんは感想を漏らします。」
「八割ラリマーさん関係ないけどね……。」
「化け物の誕生ね。おめでとう、テラパルたぬきメガネ。」
「んじゃテラパルたぬきメガネっち!よろしく……って言いずら!?ま、いっか。」
何故かエメラルドは納得してしまった。
果たしてどこに納得する要素があったのか、教えて欲しい。いつの間にか俺のあだ名がテラパルたぬきメガネっちになっているのだ。昨日の俺もビックリである。
「まあ、あだ名などどうでもいい。名前など所謂、その存在を指定するための言葉に過ぎない。」
「そうね、テラパルメガネっち……言い辛いわね。テラなのかパルなのかたぬきなのか……はっきりして欲しいものだわ。」
「テラパルメっネ……あー、かんだー。難しい〜。」
「多分言えたところで、なんの得もないですよとヒスイちゃんは全員に忠告します。」
「めんどいから、『あれ』って呼んだ方楽よ。あだ名を読まなくていいんだから。」
「ニックネームの意義が、消えたね。」
「やっぱりラリマっちでいいと思いますわ。」
「あー、やっぱそう?んじゃやっぱり、ラリマっちね。それでラリマっち、情報ってのは何?」
よく分からないうちに、話題が元の場所に帰結していた。こいつら自由すぎるだろ……。
わざわざ試験まで頑張って、ギルドに入ってきた冒険者なだけあるな。全員どっかネジが外れてやがる。
「そうだ……実はな、」
そうしてやっと本題に入った俺は、ジェットから聞いたことをそのまま話した。
風の盗賊団に魔族、それも魔王軍幹部が関わっていること。そしてこれはただの単純な窃盗事件ではなく、過去の闇属性研究所にも繋がっていた、重要な深い闇が隠れていること。そして空間転移魔法陣を作り上げた実力者であること……知りうる限りの全てを話す。
話を終えると、その反応は三者三様であった。
驚いている人から表情1つ変えない者まで、様々。
ただフローライトは終始誰よりも、落ち着いている様子であった。
「魔王軍幹部の関与ね。理解したわ。情報提供感謝するわラリマー。」
そう一度頭を下げると、俺が言っていたことを全て紙束に書き写し壁に貼った。言語が文字で示されたことで、全員の理解度も大きく上がる。こういう事細かな行動の差が。きっと勇者と凡人の違いなのだろう。
「魔王軍幹部……確かあなたたちは、イーグル街でそのレベルと戦ったのよね?」
「戦いましたよ、とヒスイちゃんは間髪入れず返答します。と言っても魔王軍幹部と真正面から退治したのは、この四人ですが……。」
ヒスイはそう言って、スピネルとフォス、そしてフローライトとアズがいる一帯を手のひらで示した。彼女の言う通り俺もヒスイもイーグル街にはいたものの、魔王軍幹部とは顔を合わせてもいない。
「確かに、対面したわね。けどフォスに至っては地下施設でも対面してるから二回目ね。」
「そうだね……ダークフェアリーの族長と戦ったのは僕じゃなくて、クリスタだけどね。」
「あとうちのガーネット。うちは地下施設にいたけど、魔王軍幹部には会ってないんだよね。ぴえん。」
「そう……フォスの関わった事件から、魔王軍幹部を二人も遭遇して、更には今回でもう1人。戦場でいっつも後ろで指示飛ばしてるだけの連中が、まさかこんなにも身近な存在になるとはね。私も早く戦いたいわ。」
コハクはニヤリと不気味な笑みを浮かべる。
あれは冗談じゃなくて、本気の目だ。魔王軍幹部と戦い殺したい……その殺気すら彼女の気配から感じ取れる。
「スピネルって魔族なのよね?あんたはこういう話、魔王軍に所属してたときに聞いたことないわけ?」
「我!?うーん我、他の種族全員興味なかったんですわよね。帝国と共同で云々みたいな話、一切聞いたことありませんわ。」
アズの何気ない質問に、スピネルは驚いた様子でそう答える。そう言えばこいつも、魔族だったな。
もうシルフギルドに馴染みすぎてて、何なら一緒の冒険者みたいな感覚だった。
その後皆思い思い悩みや、考えを口にしていく。
ただ……所詮魔王軍幹部の関わりに気付いたところで、進展するような話でもない。結局風の盗賊団が何者なのか?どこにいるのか?本拠地はどこなのか?そう言った決定的な情報は何も得られてないのだ。
これ以上、話を続けても進展はないとふんだのだろう。
フローライトがバっと立ち上がって、皆の顔を見渡す。
「とりあえず、全員協力感謝するわ。これからはシルフギルドの試験もあるだろうし、暇もない人も多いとおもう。もちろん私たちに無理して協力してくれる必要はないわ。けど何か新しい情報があったりしたら、いち早く教えて欲しい。じゃあ以上よ、解散。」
その鶴の一声で、一気に僕らはその部屋を後にした。
シルフギルドの試験もう数日後に迫っている。実際皆どのくらい協力するつもりなのだろうか?少し疑問だ。
そんなもんもんとした感情を抱きながら、俺もフローライトに背を向けて外へと足を進める。
ただ…俺が一番最後に出たからだろうか……
「今まで戦場にしか目が行かなかっただけで……魔王軍幹部の活動に私たち騎士団はもっと広い視野を持つべきだったのかもしれない。」
そう小さな呟きが聞こえた気がした。
読んで頂き感謝申し上げます。昨日投稿お休みしてしまい申し訳ございませんでした。
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