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第七十九話 試験について①

騎士団のシルフ街本部に行った次の日、僕は再びアズと朝食を食べていた。

2日連続でアズが早起きしてくる何て、稀なこともあったものである。


さっそく昨日あったこと……捕まえた風の盗賊団の団員が牢屋に穴を開けて逃げたこと、エメラルドやフローライトに会ったこと、そして調査を頼まれたことなど、1から10まで全てを教え、アズに協力を頼んでみることにした。


すると……アズは、


「いいわよ。」


と一言で了承した。


「え!?いいの?」


正直アズは了承してくれるとは思っていたものの、ここまであっさりしてるのは予想外だ。いつもであれば面倒だの、何でやんなきゃいけないの…だの色々と言ってから渋々引き受ける……感じだと思っていた。

ここまで素直すぎるのも不自然でちょっと怖い。


「そこまで驚くことじゃないでしょ。あんたが引き受けたのなら、それを同じパーティーである私がやらない訳にはいかないわ。一応引き受ける前に、一言欲しくはあったけどね。」


「それは……ごめん。」


僕が依頼を受けた以上、僕のパーティーが依頼を受けた、そう受け取られてもおかしくはない。

そうなる可能性がある時点で、パーティーのリーダーであるアズに話を通しておくのが礼儀であり、道理であっただろう。ついエメラルドとフローライトの圧に飲まれて、その場で依頼を引き受けてしまった。


「まあ、いいわよ。それでどうやって風の盗賊団を調査するつもりなの?騎士団が一切の手がかりを得られていない集団よ。簡単に情報が集まって来るとは思えないわね。」


「そうだよね……。とりあえず、シルフギルドの冒険者の人たちに聞いて回ってみるのがいいかなって思ってる。ついでに調査の手伝いをお願いできそうならする。フローライトは協力者は何人いても構わないって言ってたからね。」


「そう。けど協力なんてしてくれる人いるかしらね。試験の準備で皆忙しいわよ。聞けそうなのは……仕事が少なくなってるイーグル街の騒動関係者の人たちかしら。あと試験ギリギリでギルドに帰って来る遠出してた冒険者も…ね。」


「うん。とりあえずそこら辺から聞いていこうかなって思ってるよ。先ずは……」


「あいつね。」


アズと僕は共に、同じ方向を見ていた。

そこには何故か再び水着姿になってるスピネルと、白と黒が混ざった色をしているボブヘアーの少女がいた。彼女たちは意外ではあるのだが、仲が良いらしく二人で楽しそうに話していることが多い。

彼女たちに情報を聞き取りつつ、協力を頼んでみよう。


つか…なんでまたスピネルは水着姿何だろう……。また皿でも割ったのかな?

ただ僕が前に渡した羽織ものは気にってくれていたようで、今もしっかり着てくれている。良かったな…俺のカーディガン……。僕の押入れに一生埋まっているより、美少女に着てもらっている方が僕のカーディガンも喜ぶだろう。



「見てくださいですわ!ヒスイ!これが我が提案した特別スイーツ。その名もウルトラデラックスアルティメットスイーツマークⅢですわ。」


「うわぁ名前がとっても横に長いですねと、ヒスイちゃんは小言を漏らします。マークⅢってことは、ⅡとⅠがいるってことでいいんですか?」


「いますわ。けれど試作段階で、却下されましたわ。だからマークⅢですの。それにⅢって何だか言葉で明確に表せないようなカッコよさがあるように感じますわ。」


「なるほど……そうですか?とヒスイちゃんは一応首をかしげておきます。」


「そんなことより、早く食べてみてください!ほら!ほらっ!」


「急かされなくても、ちゃんと食べますよ。はむっ……この…味は……ピーマン?」


「ええ!?いきなり隠し味に気づくなんて、さすがヒスイですわ。」


「隠し味というのは食べ物を裏で引き立てる物を言いましてですね……、ここまでガッツリ入ってたら引き立てるどころか、メインに名乗り出てしまってますね。ヒスイちゃん驚きで味が分からなくなってきました……。」


楽しそうにヒスイとスピネルが会話している傍に、僕とアズは近づいた。

ヒスイは何故か、色んな物が無秩序に混ざっている謎の物体を口にしている。

見るからに美味しくなさそう。わざわざ食べてあげているヒスイの優しさなのかもしれない。

そしてアズが躊躇なくその会話に割って入る。


「楽しく話してる最中、ちょっといい?」


「ん!?あらアズさんですか?それと……あ゛…フォス様……。」


ヒスイは僕と目が合うと、瞳孔を開いたまま固まった。手に持っていたスプーンが、音を立てて床に落ちる。何でこんな驚いてるんだろう?みたいな目でスピネルがヒスイを見ながら、落ちたスプーンを拾った。


ヒスイはやっぱり僕のこと、様付けで呼んでるらしい。気恥ずかしくて仕方が無いのだけれど、ここはツッコむのは止めて話を先に進めようかな。


「スピネルとヒスイは、風の盗賊団についての話を聞いたことある?」


「風の盗賊団?そう言えば食堂に来てた人が、ちらほら言ってるのは聞きましたわね。シルフ街に本当に現れたとか…捕まったとか……、ヒスイは何か聞きました?」


「……え?あっ、はい。ヒスイちゃんは新聞に掲載されているレベルの話なら、聞いたことがありますよ。」


「そう。実は聞いて欲しい話があるのよ。」


そう切り出して、アズはつい先程話していたことをそのまま話してくれた。風の盗賊団の話をすると、二人は少々驚いたような顔を見せる。

ただ……


「なるほど、調査ですか。残念ながら風の盗賊団についてのヒスイちゃんの知識は乏しいようです。」


「我も知りませんわ。」


「そう……まあ知らないならしょうがないわね。」


「けれど調査の件については、引き受けます…とヒスイちゃんは高らかに宣言します。フォス様への恩は計り知れませんし、他の方より暇ですから。」


「我もカーディガンもらったお礼ありますし、協力させてもらいますわ。と言ってもご主人様の許す行動範囲内ですけど。」


「いやいやそれだけで、充分だよ。2人ともありがとう。」


二人は知ってはいなかったものの、調査の協力を快く、引き受けてくれた。

本当にありがたい限りである。


ヒスイは暇とは言っているが、話によればテスト中やテスト後の仕事は少なからずあるのだとか。それなのに調査を引き受けてくれるなんて、感謝以外の言葉が見つからない。せめて無理しない範囲で、頑張って欲しい。


またギルド入団試験が始まると、試験の会場にこの食堂が使われるため、食堂は使えなくなる。そのためスピネルには暇が生まれるとは思うのだが……多分ギルドマスターの奴隷だし色々な仕事を強制させられそう。

それでも調査を引き受けてくれる。


2人とも何ていい人たちなんだろう。

やっぱりシルフギルドって変な人多いけど、心優しい人も多い気がする。


この調子で、ダイヤとラリマーにも聞いてみるか……。

その僕の意思も既にアズは汲み取っていたようで、さりげなく質問をぶつける。


「さて……ヒスイはラリマーとダイヤがどこにいるか分かるかしら?2人にも協力してもらえるか聞こうと思ってるのよ。」


「うーん、残念ながら……。多分自室で、報告書作りに励んでいるとは思うんですけど……とヒスイちゃんは曖昧な予想を口にします。とりあえず部屋を尋ねてみては……あっ!」


ヒスイの視点が食堂の出入り口に一瞬止まった。

その視線を辿り僕も視線を動かすと、そこにはラリマーの姿があった。そして彼の横には、真っ黒な長い髪の少女がいる。ジェットだ……。


「まさに噂をすれば何とやら……ですわね。」


「ジェットが部屋から出て食堂まで来るとは……さすがのヒスイちゃんも空いた口が塞がりません。」


ジェットの出現により、食堂の空気が少々ピリッとする。それほどに彼女の存在は異質であった。


シルフギルドに来てからと言うもの、ジェットは部屋から全く外には出てきていなかった。冒険者の中にはジェットがこのシルフギルドに住んでいること自体、忘れている者が出てきたくらいだ。


そんな彼女が、部屋から出てきて食堂まで来た。

それはヒスイが驚くのも無理はないほど、イレギュラーで予想外なことなのである。


「ラリマー、それと一緒に食堂に来るなんて、どんな心情変化があったのよ?」


それでもアズは気にせず、ラリマーに迫った。

ホントキモの座り方が、アズはエグイな。僕だったら間違いなく、1歩引いてしまうところだ。

ただ……アズが行ってしまった以上、僕も行かない手はない。


「ちょっとジェットと散歩に行く前に、腹ごしらえに来ただけだ。別におかしいことでもあるまい。」


ラリマーはメガネを中指で押し上げながら、平然と答える。ただジェットはアズのことを怯えるかのように、ラリマーの背後に隠れた。

これではまるで、小さな子供だ。


ギルドマスターが特殊な気配察知の阻害魔法をかけたようで、ジェットからは禍々しい圧倒的な気配を感じ無くなった。いや感じなくなったと言うよりは、少しは感じるけど気にならなくなった。


これはつまり僕自身、ギルドマスターの魔法に騙されていると言うことだろう。こんな特殊な魔法を使えるなんて、うちのギルドマスターは本当に計り知れない。


ジェットが魔王軍幹部の補佐で、敵であり実力者であることを僕が自覚しているからいいものの、全く彼女を知らなければ一切の違和感を感じないだろう。

傍から見たら、本当にラリマーの背後に隠れる弱々しい少女にしか見えないのである。


「散歩?あんたそんな暇あんの?報告書はどうしたのよ。」


「ふっ、終わらせたに決まっているだろう。そうでなければジェットも俺も、絶賛引きこもり継続中だ。」


「へー、報告書終わったのね。いいこと聞いたわ。」


「いいこと?おいおい、変な面倒事に巻き込むのは止めてくれ。せっかく報告書が終わったのに、また書けとか言われたら七草粥が何個あっても足らん。俺は忙しいのだ、他を当たってくれ。」


そう言ってアズから離れようとするラリマーに、僕は駆け寄った。


「ちょっと待って、ラリマーさん。話だけでも聞いてくれません?」


「ん?なんだフォスか。まあアズが絡んでくる時点で、フォスが関与してくることは察していたがな。どうせ面倒事だろ?」


「面倒事と言うより、ちょっとしたバイトです。」


「バイト?」


そうして僕は、風の盗賊団についてさっきヒスイに説明したアズの如く端的に話した。

ラリマーは何だかんだ言っておきながら、話は最後まで聞いてくれる。ジェットも僕を睨んでいる様子ではあったが、耳に魔力を流して聞いてくれているようだ。


「分かった、話は理解した。残念ながら風の盗賊団については何も知らん。そしてさっきも言った通り俺は暇ではない。暇は暇だが、この暇を他のことに使いたいのだ。」


「つまり…協力は無理ってことかしら?」


「そうだ。そんなに怖い顔をするな。分かってる、一応頭の隅には置いておくつもりだ。何かあれば報告しよう、お金も欲しいしな。」


「そうですか……その、報告だけでも助かります。ありがとうございます。」


僕はそう言って、頭を下げる。

強制はできないし、そんなことさせるつもりもない。他にやりたいことがあるにも関わらず、微力だが協力してくれるのだ。ありがたいことである。


「ふっ、お前らは良いコンビだな。片方が礼儀正しくて、片方は礼儀正しく無いが突っ走る勇気がある。」


「何よそれ、馬鹿にしてんの?」


「そんなつもりは無いさ。そうだな……どうせだし、助言をしてやろう。俺は確実に協力してくれる人間を一人知っている。」


「ダイヤですか?」


「いや、ダイヤももちろんだが……違う。協力してくれるし、絶対に有力な情報を持っている人物だ。」


「絶対?そんな奴がいるわけ?」


「いる。昨日帰ってきた……」


そう言ってラリマーは、修練場の場所を指さしたのであった。


読んで頂き感謝申し上げます。

またも次話から視点がころころ変わるので、ご注意ください。評価、ブックマーク登録してくれないと悲しみます。よろしくお願いします。

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