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第七十七話 族について⑥

僕とメノウはエメラルドに(いざな)われ、シルフ街騎士団本部の奥の部屋へと向かった。扉はギルドマスターの部屋に似た雰囲気を感じる豪壮な物。


シルフ街に長年住んでおり、シルフギルドの冒険者である関係上、騎士団の建物にも何度か出入りしたことはある。ただ……ここまで奥の部屋にまで足を運んだのは初めてだ。シルフ街の騎士団長の部屋だろうか?ちょっと緊張してきた。


僕はこういうときに、かなり緊張してしまうタイプだったりする。小学生のときに学校集会で全校生徒の前で話さなければならない機会があったのだが……緊張で数分無言のまま立ち尽くしていた。


あれは作文の発表だったっけ……もう数十年前のことなので明確に覚えてないが、それくらい緊張には弱い。

ホントちょっと頑張って良い読書感想文を書いてしまったばっかりに……恥ずかしい記憶だ。


ただ戦闘とかの緊張感は慣れており、むしろ機敏に動けるようになった。けれどこういう緊張と、戦闘の緊張は全く別の話である。それでも今足が震えるほど緊張していないのは、エメラルドがいるからなのだろう。


彼女の雰囲気は……何と言うか緩い。

周りの空気が彼女がいるだけで和らぐような、そんな感覚。言葉で説明するのは難しいのだが、とにかくエメラルドがいるだけで緊張が和らいだ気がした。


しかし、うーん……さっきの雰囲気はちょっとピリついていたな。


メノウが『帝国立魔術学園から編入してきた異端児』そう口にした瞬間。僅かだが雲行きが怪しくなった。

エメラルドにとっては、触れられたくない過去なのだろう。


正直、そういうのはよく分かる。

誰しも触れられたくない何かはあるもので、それは僕にもある。日本の記憶とか……。

どうしようも無いけど闇に葬りたい過去を、他人に土足で踏み入られる。それは例え悪意が無かったとしても、良い気分では無いのだろう。


帝国立魔術学園……確かにメノウはそう口にしていた。

帝国立魔術学園とは魔術協会における、最高峰の教育機関だ。簡単に言えば魔術協会における世界四大ギルドのようなもので、難関の試験を突破しなければ入ることを許されない。


ただ……帝国立魔術学園は正直レベルが違う。

数年に一度しか開催されない入学試験なのだが、毎回合格人数は100人と決まっている。100人合格するなんて、毎年1人2人しか受からないシルフギルドより簡単じゃーんって思うかもしれない。


けど違うのだ。

何よりも大きな差は、受ける受験者のレベルの違い。


シルフギルドを受験する冒険者は、ほとんどが一般の冒険者。つまり言葉が悪いが、まともに教育を受けてこなかった面々なのである。

魔法も使えないし、学もない。言葉遣いすらまともにできず、文字が先ず書けない……とか。


とにかく合格する以前に問題を抱えている者が、受験者の中には多いのだ。よって実質的に合格するか…しないか…のラインを満たしている人なんて、受験者数万人の中に2桁いたらすごいくらい。

僕だってシルフギルドに入る時なんか、合格したものの今から言わせれば馬鹿でしか無かった。


だが帝国立魔術学園は違う。高等教育を受け、金が余るほど持っているような貴族の子供。何百年と続く魔術の家系のせがれ。魔法の扱いだけ見れば、僕に匹敵するかそれ以上の連中だ。


そういうビックで、リッチで、天才の集まりが押し寄せる試験なのだ。さらに受験にはある程度の地位と血統が必要で、一般枠からの採用は一人いるかいないか程度。つまり先ず、生まれの時点で足切りを受ける、そんな不平等で無慈悲な試験なのだ。

合格する難しさは、想像を絶する。


そんな試験を突破し、魔術師エリート街道をエメラルドは突っ走っていた。そしてなぜかその道から逸れ、サラマンダーギルドに入った。そういうことなのだろう。


もちろん前に言ったと思うが、僕は人の過去をわざわざ詮索したりしない。ただ……知りたくないのかと言えば、知りたいのだろう。

自分は教えたくないのに、他人のは知りたいなんて…僕は薄情者なのかもしれないな。


そんなことを考えているうちに、エメラルドが躊躇なく豪壮な扉を開けて入っていった。僕とメノウも追いかけるようにして入る。


さーて、シルフ街の騎士団長とご対面か。

正確に言えば騎士団長じゃなくて、シルフ街支部の支部長と言うべきなのだが…面倒なので『シルフ街では1番偉い騎士』って言う敬意を込めて、皆騎士団長って呼ぶ。あちら側としても支部長より騎士団長と呼ばれた方が、気持ちがいいだろう。僕も騎士団長って呼ぼーっと。


そんな覚悟を決めて、顔を上げると……明らかに支部長では無い存在がそこにいた。

透き通るような青い髪に、高そうな金品に装飾された白い服。胸元には赤色の天秤の刺繍がされており、道端で会えば思わず2度見してしまうほどに美しい出で立ち。


「あ、イーグル街であった人!」


女性は凛々しいキリッとした顔を、パッと花が開いたような表情に一変させ僕を指を差した。

……人違いでは無かったらしい。この女性は、フローライト、勇者だ。騎士団長と呼ぼーとかじゃなくて、正真正銘の騎士団長じゃないか……。

なんでシルフ街の騎士団本部にいるだろう……。


「えっと、こんにちはフローライトさん。」


「こんにちは、えーと名前は……回鍋肉(ほいこうろう)…だっけ?」


「いや、何で僕中華料理になってるんですか!」


「ごめんごめん。えーっと、フォース?」


「おしい!フォースと共に…じゃないですよ!」


「いや、ホルマリン?」


「離れた!?僕、まだ死んでませんよ。」


「あれれ、メンデルスゾーン?」


「もっと離れた!?頭文字から違う!」


「なーんて、フォスよね。」


「はぁ……からかうのはやめてくださいよ……。」


「ごめんね。ちょっといじりたくなっちゃった。けど風の盗賊団の逮捕には、感謝してるわ。」


僕が肩を下げると、フローライトはニコニコとした子供のような表情を浮かべる。ホントに勇者何だろうか?いやアメジストとあんな風に戦える以上、勇者なのだろう。ただそんな雰囲気を1ミリたりとも感じない,


あれだろうか?エメラルドとかと、同じタイプの人なのだろうか?

実力を感じさせない陽気なタイプ。

会って間もないが、そんな感じがする。


「すごいね、フォス。勇者とも知り合いなんて……やっぱり顔広いじゃないか。」


「たまたまですよ。ホントたまたま。」


「えー、フォスってすぐ謙遜するからな~。」


メノウが、ブクっと頬を膨らませる。

うわ、可愛い。先輩だってのに、小動物のような可愛さを一瞬感じた。思わず頭を撫でたくなるような可愛さ。

まあそんなことしたら、それこそ間違いなくセクハラなのだが……。


「そちらの方が、メノウよね。よろしくメノウ。あなたにも捕虜の件には感謝してるわ。逃げられたのは私たち騎士団の責任ね。謝るわ。」


「いえいえ、僕はお金がもらえればそれでいいんですけど……ダメだよね?」


「そこについては今から話しましょう。さあ、二人ともそこに座って。」


そう促されて僕らは、ふかふかの椅子に座る。

こういう椅子、シルフギルドにも欲しい。はよ食堂の椅子をふかふかにしてくれ……。



そこから数十分間、話し合いが始まった訳なのだが…ここでは会話の内容を要約して伝えようと思う。

先ず金銭の面だが……さすがに無報酬では無いらしい。


捕まえたのは僕らで、取り逃したのは僕らではなく騎士団の責任。ならば報酬を払わないのはおかしい。

ただ……規定の報酬全額とはいかず、半分くらいになるんだって。


騎士団の責任何だから全額払えやってなるのが一般人的感覚だと思うのだが、捕虜が居なくなり価値ある…得られると見込まれていた情報を失ってしまったのだ。

そこへの損害を鑑みて、報酬は下げられてしまう。


納得できないのなら、フローライトがポケットマネーで払うと言い出したのだが、僕らは丁重にお断りした。

そりゃお金をもらえるのに損は無いけど、死んでも欲しいって……そんな感じでもない。


生憎まだ懐には余裕があるし、フローライトにわざわざ迷惑をかけるつもりもない。それに……これは僕らからフローライトに対する借りとなる。


借りを作ること。

それは日本などでは大きな意味をなさないかもしれないが、この世界には大きな意味を得る。

カイヤだとかムーンのときだとか言ったように、この世界で借りとは絶対に体で払ってでも返さなければならないもの……と言う考えが浸透している。


勇者であるフローライトへの貸し、これはかなり高くつく。きっとどこかで役に立つときが来るだろう。


ちなみに話の合間に、なぜフローライトがここにいるのか聞いたのだが……何でも彼女がこの風の盗賊団の調査担当に選ばれたと言うことらしい。

それで早速1番最近で被害に遭ったシルフ街に訪れたんだとか。


ただの賊の集団に勇者が出てくるなんて、騎士団組織は風の盗賊団への意識を相当強めているらしい。

フローライトは人員が不足している分、私がやった方が楽に解決するから〜なんて気軽に言っていたけど、どこまでが真意何だか分からない。


ま、そんなことはどうでもいいことだし前置きなのだ。

この会話の本題…それは……


「風の盗賊団の調査に、協力してくれない?」


と言うことだったのだ。

フローライトはいつにも増して真剣な表情で、僕らにそう問いて来る。


「もちろん全面的に…とまでは言わない。けど情報集めに聞き込みするだとか、それだけでもいいから協力して欲しいのよ。さっきも言った通り騎士団は今、戦争の激化で人数不足気味でね……それに正直私もこの賊についてなめてた。牢屋をぶっ壊して逃げるような連中だとは思ってなかったわ。だから少しでも、協力者が欲しいの。報酬はちゃんと払うから…どう?」


そう言われて僕とメノウは一度顔を見合わせた。

どうするのが、この場合正解なのだろうか?これからはシルフギルドの試験で忙しい時期。僕も試験には携わらないとは言え、実は雑用みたいな試験関連の仕事を、ギルドマスターから頼まれていたりする。


少し悩んでいると、右前に座っていたエメラルドが僕らに顔を向けた。


「試験とかで大変なのは、うちも分かってる。うちのギルドも試験準備で手一杯だったからさ。けどフォスっちとメノっちが協力してくれるだけで、この事件…早く解決すると思うんだよね。空いた時間にちょっとやるくらいでもいいから……ダメ?」


そう上目遣いで言われると、少し困る。

まあ僕は他の冒険者とかよりは暇だろうし、いいのかもしれない。正直賊の調査とかめちゃくちゃ面倒そうなのは目に見えてわかるのだが、報酬がもらえるとなれば断る理由は言ってしまえば無い。


懐には余裕があるにはあるが、それはあくまでちょっとした余裕。何かあったただけで崩壊する砂上の城だ。

アズとかにも協力を仰げるだろうし、問題は無さそう。

けどメノウは……これからのことを考えると難しそうだ。


シルフギルドの試験は一日で終わるような試験ではなく、何日もかけて行われる。そこに採点とか判断とか……試験が始まるまででは無く、むしろ始まってからの方が大変になるのだ。調査に協力する暇は無さそう。


エメラルドとフローライトの視線が、僕らに集まる。

数秒の沈黙。そうして僕は答えを出した。


「分かりました。僕は協力します。」


「本当!?やった!」


「フォスっち、最高!いぇーい!」


「いぇ、いえーい。よろしくお願いします。ただ……」


そう言い詰まって、メノウの方をちらりと見る。

するとメノウもゆっくりと口を開いた。


「そうだね……僕は無理そうかな。ちょっとそんな余裕は無さそう。もちろんできるだけは協力するし、助けもするけど……ここはフォスに任せようかな。」


そう言って苦笑いのような複雑な表情を浮かべた。


「そう……分かった。メノウありがとね。協力してくれたら、その成果に応じて報酬は払うわ。よろしく。」


「うん。それに僕は無理だけど他に、協力できる暇がありそうな人がいたら誘ってみるけど……どうかな?その分報酬の出費が多くなってしまうと思うんだけどさ。」


「もちろんいいわよ。あ、じゃあこれ、シルフギルドの掲示板に貼っておいてくれる?人数が多ければ多いだけ、いいからさ。」


そう言ってフローライトは、近くの棚から人員募集と書かれた紙を取り出した。どうやら他の騎士団支部から協力を仰ぐために作られていたプリントっぽい。

メノウはそのプリントを、しっかりと受け取った。


協力してくれる人は……多分ほとんどいないと思うが、それでも一日だけとか、身の回りの人だけでも聞いてみるだとか、そう言う小さな協力は期待できそうだ。

それに言ってなかったが、試験に際して各地から長期依頼などで遠方に滞在していたシルフギルドの冒険者たちが、一斉に集まってくる。


その中には。情報をちょっとでも持っている人がいるかもしれない。人に話しけるのとかは……ちょっと苦手だけど僕も頑張ってみようかな。


「んじゃフォス。改めてだけど、風の盗賊団の件、心から感謝するわ。これからよろしくね。」


「はい。」


僕はフローライトと握手を交わした。

その手は暖かくて……とても痛かった。


読んでくれてありがとう。

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