第七十六話 賊について⑤
昨日、僕とメノウは無事風の盗賊団の団員を捕まえ、騎士団に送り届けた。謎の靴、相手を格上だと判断すると…すぐさま逃げる決断力、一言で一斉に逃げる統率力、おかしな集団だったなと言う印象に尽きる。
彼らが何者だったのか……気になりもするが、そこまで首を突っ込む気にもなれない。こっから先は僕らではなく、騎士団がやるべき仕事。全てが明らかになった後、新聞で読んでへ~と唸れるときが来るなら、僕は満足だ。
今日は曇り。秋らしい涼しさに包まれながら、僕は食堂にて朝食を口にしていた。秋と言えば食欲の秋だとか、読書の秋だとか、スポーツの秋だとか…って色々な言われ方をしてる訳だが、今の僕にとってはかなりどうでも良い。ただ……目の前に座る少女にとっては、大事なのかもしれない。
「へぇ、風の盗賊団ね。あんたホントに、変なことに巻き込まれるわね。」
アズは何個ものパンを、美味しそうに頬張っている。いつも起きてくるのが遅いアズだが、今日は珍しく早起きだ。平常よりも食べる量が多いあたり、食欲の秋だ。暇なときはいつも魔術本を読むか、修練場で魔法練習。
秋を満喫していると、言えるだろう。
修練場と言うのはシルフギルド内にある、魔法でも何でもして良い部屋のこと。主に銅等級の冒険者が自主練に使う場所なのだが、アズはその中に混じって良く魔法をぶっぱなしている。
ホント…変なところ肝が据わってる。僕は周りの視線が気になって、あんなとこで修行なんて無理だ。
「それでフォス。カイヤとのデートはどうなのよ。さっき場所が決まったとか、プレゼントが決まったとか言ってたけど。」
「うん、そう。準備はほぼ終わったかな。あとはデートする場所の下見…くらいかな……何か緊張してきた。」
「試験を受けるカイヤの方が、緊張してるでしょ。けど…そうね……はぁ……我ながら何であんなお願いを聞いちゃったのかしらね。」
「別に僕は気にしてないよ。むしろこの経験を得ることで、僕は1歩成長できる気がする。」
「デートで成長ねぇ……。果たして何が成長するのかしら……。」
アズは呟くように言うと、コーヒーを口にしながら窓の外を眺めていた。
何て優雅な姿なのだろう。
「それで……あんた、着ていく服とかも準備したの?」
「着ていく服!?えーと、普通じゃダメなの?」
「はぁ!?多分だけどカイヤかなり気合い入れて、デートに挑んでくるわよ。あんた前の服で行ったら、すっごい浮くわ。それでもいいわけ?」
「マジか……。けどオシャレな服とか、僕と真反対の位置にあると言ってもいいくらい良く分かんないんだけど……。」
「ま、そんなところだとは思ってたわ。しょうがないわね、私が服…その……選んであげてもいいわよ。」
「え!?ホント!?いいの?」
「デートに向かわせる理由を作ったのは、私だからね。それくらいはしてあげるわよ。」
「おぉ~、ありがたや~。アズが天照大御神にすら見えてきたよ。」
「何その、アーマードドラゴンみたいな神の名前。物騒ね。」
「あましか合ってなくない?あとアーマードドラゴンってデュ〇マでしか聞いたことないんだけど。」
そんな意味の分からない話をしていると、アズの視線がある一点を捉えて止まったことに気づいた。一瞬僕を見てるのかと思ったが、どうやら僕の後ろ側を見ているらしい。
誰かいるのかな……?そう思って振り返った瞬間、僕の視界が水色に遮られた。そして白いベレー帽が微かに、視界に移った。
「うわっいきなり振り返ると思わなくて、髪が顔にかかっちゃったよ。大丈夫!?」
どうやら僕の背後に、メノウがいたらしい。何だろう……すっごく良い匂いがする。
全く……僕の変態度に磨きがかかってきてるのではなかろうか。
一瞬でリラックスできたような気分だ。
「何よ。メノウがわざわざ話しかけて来るなんて、どういう風の吹き回しかしら。」
「別にアズに用は無いよ~だ。フォスに用があってね。」
「えっと……僕?何かあったんですか?」
そう聞くと、メノウがグッと僕に顔を寄せて来た。
距離が唐突に迫ったこともあり、少しびっくりする。ただそんな様子の僕を気にする様子も無く、メノウは本題を口にした。
「一緒に騎士団のとこまで、来てほしいんだけどいいかな?」
「騎士団ですか?」
「うん…それがね……昨日捕まえた、風の盗賊団の人、牢屋から逃げたんだって!」
「え!?ええええええええええええ!?」
その言葉の驚きに、僕は一層大きい声で叫んでいた。
★
僕とメノウは二人で、シルフ街の騎士団本部の地下牢に足を運んでいた。昨日捕まえた女性がいたと思われる牢屋には、大きな穴。どうやら外側から何者かによって、開けられたらしい。丁寧に地下まで穴が掘られている。
まあ……十中八九、風の盗賊団の仕業によるものだろうけど……。
ただ……もちろんだが、騎士団の牢屋が簡単に壊せるなんてことは無い。
騎士団の檻は、アダマント製なのだ。アダマント……魔力親和率0の希少な金属。
ムーン救出劇のときに説明したと思うが、アダマンタイト製の檻は魔力の干渉を一切受けない。
魔法で破壊することは不可能だし、魔力を込めた剣などの武器でも破壊は無理。もちろん魔力を込めた体術でも無理。つまり元々の力で破壊することが求められる。
ただアダマンタイトは鉄よりも硬度が高く、人の力で壊すことなんて出来ないことくらい誰でもわかるだろう。この世界で科学は発達してしないため、穴を開ける爆弾とかそう言う物も存在しない。
つまり……不可思議なのだ。
アダマンタイト製の檻に、これほど大きな穴を開けることなど……。
変な靴を持っていたように、僕らでは想像しえない技術を風の盗賊団は持っているのかもしれない。魔力をエネルギーとしない、物理法則を利用した強力な道具。
ホントに謎の多い集団だな、風の盗賊団は……。
せっかく捕まえた重要な参考人がいなくなってしまったのは災難だが、何より僕らに痛手なのはお金がもらえなくなる可能性。巷に有名な賊を捕まえた僕とメノウには賞金が払われる予定だったのだが、その存在がいなくなったことにより、お金を払うのか問題が発生したのだ。
間違いなくその内容のために、僕とメノウは騎士団に呼ばれたのだろう。
ただ……僕が驚いたことがもう一つある。
それは……目の前に立っている黒髪ツインテールの少女についてであった。
「おひさ~、フォスっち。めっちゃ久しぶりだよね、って言っても4ヶ月くらいかな。」
何故か騎士団の施設に、エメラルドがいたのである。
サラマンダーギルド所属、金等級冒険者エメラルド。闇魔法研究施設の調査では非常にお世話になった同胞だが、何故騎士団に…それもシルフ街の騎士団施設の中にいるのだろうか……。
「え~と……お久…久しぶり。」
「え、何きょどってんの?キモ~あははっ。」
エメラルドは陽気に、笑って見せる。
ただそのキモいと言う悪口は、普通に傷つく。悪意のない言葉で他人を貶す。陽キャってマジで怖いな。陰キャの敵って言われるだけはある。何かキラキラしてる気がするし……。
「えーとフォス、この方は?」
メノウはいきなり現れた女性が、妙に僕に親しげな様子であることを見て質問してくる。気付いてみると、エメラルドは徽章を服の中に隠しており、騎士団の服装でも無いため傍から見れば本当に誰か分からない。メノウの疑問も同感だ。
……つか何で、エメラルドは日本のJKみたいな服着てるんだ?明らかに日本の高校の制服だし……。
僕以外の転生した日本人が広めたのだろうか?まあ制服ってのは可愛いとこは可愛いし、ファッションとして需要があるとは思うが……。
ただ……エメラルドが何歳かは知らないが、20にも達してない若い人が着るべき服であることを、この世界の人は理解しているのだろうか?エメラルドはルックスもスタイルも良いので似合ってはいるが……歳食った奴が着たら目も当てられないぞ。
例えば……クリスタとか?歳は知らないが、僕よりは明らかに歳上なのだから20前半は越えている。制服を着るような年齢ではない。いや……クリスタは何だかんだで、着こなしそうだな。エロ本の恨みがあるし、今度着させようかな……。
おっと、脇道をそれ過ぎた。
メノウの問いに答えてあげなくては……。
「この方はサラマンダーギルドの金等級冒険者であるエメラルドさん。まあ……僕の友達ですね。」
「へ~友達?フォスっていつもアズといるから分からなかったけど、けっこう顔広いんだね。」
「いや、顔は狭いですよ。この表現が合ってるのかは知りませんけど……。エメラルドとは、一緒に地下施設で戦ったんです。」
「あ~、あのときか~。」
メノウは納得がいったようで、深く頷いた。地下施設だけで伝わるあたり、彼女にとっても記憶に残る出来事だったに違いない。シルフギルドでのカイヤ攻防戦。メノウには本当に、助けられた。
と……僕とメノウの会話を見ていたのだろう。エメラルドはバっと僕の側まで寄ってくると、いきなり肩を組んできた。
「はーい、うちフォスと親友のエメラルドでーす!君は?あっ、シルフギルドの金等級ってことは、フォスの知り合いだ!」
エメラルドはそう言って、嬉しそうにメノウが首からかけている徽章を指さす。
ただ……そんなことより、僕が気が気でないのはエメラルドが僕に密着してきたことだ。あの……色々当たってるんですけど……。メノウとは違うシャンプーの香りみたいなのがするし……。
冒険者ってみんな、人との距離感がバグってるんだろうか?ダイヤと言い、ウルツと言い、エメラルドと言い……陰キャのテリトリーに、平気な様子で土足のまま踏み込んでくるのである。恐るべし……冒険者……。
「僕はシルフギルド金等級冒険者、メノウだよ。よろしくね。」
「メノウ……?って、あっ!白金等級候補って言われてるちょー有名な人じゃん!?うわっ、光栄~。よろしくねっ!メノっち!」
「メノ……メノっち?」
メノウはポカンとした表情を浮かべる。
やはりエメラルドにあだ名をつけられて、最初に動揺しない人はいないらしい。
「そっ、メノウだからメノっち!嫌だった?」
「いや、大丈夫だよ。それで……へ~君がエメラルド君か。」
「何、うちのこと知ってたの!?有名人に知られてるとか、超テンアゲなんだけど!」
「あははっ僕は有名人なんて、そんなんじゃないさ。それにもちろん君のことは知ってるよ。帝国立魔術学園から編入した、異端児ってね。」
「……へぇ、知ってたんだ。」
そのとき、空気が変わった気がした。心做しか温度が下がったように思える。
エメラルドの視線が一瞬怖くなり、髪がバチッと光った。
「僕は割と物知りなんだよね。もしかして、知られたくなかった?」
「いや……けどあんま言って欲しくない…かな。過去は過去だかんね。今は今っしょ!んだからそゆこと!」
エメラルドは勢いよく、メノウのことを指さした。
このままこの話題を続けても良くない気がする。ここは話題を変えて、話を先に進めるべきだろう。
「それで……エメラルドはどうして、ここにいるの?風の盗賊団について調べてる…とか?」
そう僕が質問すると、エメラルドはパッと僕から離れたかと思えば……目の前に立った。
また近い。目が合うこともあり、ちょっと緊張する。
「うわっ、フォスっちってエスパー!?そうそう、その通りなの!実はうち、風の盗賊団の調査を手伝うように、ギルドマスターから言われてね!マジ辛み~って感じなのよ!」
「えっと……辛みなんだ。」
「そう、辛み!だってあの組織って全然証拠残さなくてね!ってあー、立ち話の方も辛みだよね?うちについてきて!こっちこっち!」
そう言ってメノウは手招きしながら、走り出す。
僕とメノウは彼女に流されるように、エメラルドの背中を追って歩くことになった。
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