第八話 獣人について②
これまで明確に話をして来なかったので、少し僕らが所属しているシルフギルドについて話をしよう。
細かい説明はまた別の機会にするが、この世界には『世界四大ギルド』と呼ばれるギルドがある。
サラマンダーギルド、ウンディーネギルド、ノームギルド、そして我らがシルフギルドだ。
この4つのギルドは他50いくつあるこの世界全てのギルドの頂点に君臨しており、全てのギルドは表面上この4つのギルドの傘下と言う形になる。
国王直轄の任務や、秘密裏に行わなければならない国を左右するような任務、超危険な魔獣の駆除任務など…世界四大ギルドには特別な依頼をされることが多い。
そのためそれ相応の高い能力を持った冒険者しか所属することを許されず、難易度の高い試験を突破した選りすぐりの猛者たちのみが世界四大ギルド所属の冒険者となることを許される。
等級関係なく世界四大ギルドと他ギルドの冒険者では、格と言うものが大きく違う訳だ。
そのため冒険者の地位を明確に言うと、下から…一般ギルド銅等級、一般ギルド銀等級、一般ギルド金等級、世界四大ギルド銅等級、、世界四大ギルド銀等級、、世界四大ギルド金等級、世界四大ギルド白金等級となる。
言うなれば、僕もアズも冒険者界隈ではエリートとなる。何か恥ずかしい。
そしてこのシルフギルドのギルドマスターは、少し変わった人だ。
髪色は薄い緑色で身長160cmほどの、短髪で細身の青年。ギルドマスターはそのギルドの名前を受け継ぐことが習わしのため、名前はシルフということになる。
見た目だけなら身長も含め中学生にも見えなくないほど子供っぽい容姿をしており、何歳なのか僕も分からない。
そんな彼だがギルドマスターという地位にありながら、ふらっと外に出て数日帰ってこないという暴挙に良く出る。
数ヶ月帰ってこないことも頻繁にあるため、副ギルドマスターが
「マスターはどこに行ったんだ!」
っと悲鳴をあげながら事務作業をしているところを、頻繁に目にする。
このギルドの運営はほとんど、副ギルドマスターがやっていると言っても過言ではない。
そんな調子なのにシルフギルドに所属する冒険者全員の名前を把握しており、一人一人の実力や成果を余すことなく知っているとても不思議な人物でもある。
さらになんでも魔法の腕はピカイチで、とても強いのだとか。
戦闘する所を見たことがある人間は少ないので、事実かは知らない。
「失礼します。」
先にノックをした後、アズと一緒に扉を開けてギルドマスターの部屋に入る。
その部屋は扉を向くようにして大きく重厚感のある木の椅子と机があり、その椅子にギルドマスターが座っていた。
「おー、待ってたよ!」
ギルドマスターは満面の笑みで、僕らを出迎えてくれる。
気付くとギルドマスターの隣には、資料らしき紙束を持った黒髪の女性が立っていた。
その黒髪は首が隠れる程度しか伸びておらず、服では隠しきれていないほどの色気を感じるスタイルの良さ。
首には白金に輝く徽章がかけられており、赤い目が自分たちをギラりと睨みつけた。
彼女こそ事務を一挙に担う、シルフギルドの実質的運営担当…副ギルドマスター、クリスタだ。
「ギルドマスターが直々に呼ぶなんて…私たちに何の用?」
アズはギルドマスター相手だろうと、特に臆することなく質問する。
目上の相手である以上敬語を使うべきだと思うが、アズは敬語を使いたくないらしい。
彼女曰く貴族だったときに、敬語を使いすぎて嫌になったのだとか。
よく分からないエピソードである。
まぁ、そんなアズでも敬語を使う人物がこの世に一人いるのだが……それは今は関係ない話である。
ギルドマスターも敬語とか礼儀とかを一々気にする人ではないので、アズを咎められることはない。
だがアズが敬語を使わないために、周りの人間がヒヤッとすることは良くある。
「いや~、実は二人に用があるって人がこちらに出向いて来ててね。ほら、こちらの方。」
ギルドマスターはそう言って手のひらを、部屋右奥の扉を示した。
するとその扉から、体格の大きな獣人が出てきたのだ。
いや、獣人と言っていいのかも分からない。
鷲の顔がついていながら、首より下は超絶筋肉ムキムキの人間のような体つき。さらに上半身裸。鋭い鷲の目が、自分たちの方を向いてきらりと光る。
その世にも奇妙な姿に、僕とアズは呆気に取られてポカーンと口を開けた。
「こちらグリフォンギルドのギルドマスター、グリフォンさんだ。」
「グリフォンだ。シルフ殿、ご紹介感謝する。あなた方がフォス殿とアズ殿でよろしいかな?」
どうやらこの大男がグリフォンギルドのギルドマスターらしい。
たしかに頭が鳥だし…グリフォンっぽい気がする。
「ええ、そうよ。私がシルフギルド金等級冒険者アズ。こっちがフォスよ。」
「フォスです。それでグリフォンさんが僕らに用と言うのは……?」
世界四大ギルド以外のギルドマスターと、僕ら世界四大ギルドの金等級冒険者ではどっちが位として上かと言われると難しい。とりあえず僕は誰であろうと、最初は敬語だ。
「うむ…本題に入る前にまず感謝を。あなた方のような未来をこの先担担うシルフギルド金等級冒険者の貴重な時間を、私ごときに割いて頂いくこと…心から感謝申し上げたい。本当にありがとう。」
グリフォンさんは深々と頭を下げた。
がたいが良いだけに、礼をする仕草さえ迫力を感じる。
「貴重な時間…ね。ええ、本当にそうよ。貴重な時間を割かせているという自覚があるなら、さっさと本題に入りなさい。私は忙しいの。」
アズは持ち上げられたことにより、少し鼻が高くなっている。
シルフギルドの冒険者が特別視されることは往々にしてあることだが、それでも敬意を払われすぎな気もする。ちょっと気持ち悪い。
グリフォンさんはどうやら、上下関係を深く気にするタイプの人間っぽい。
「はぁ……貴重な時間って…どうせ君たちは暇だろ。」
クリスタが小さな声で小言を言ったのが、微かに聞こえた。
確かにいつも暇な僕らだが…金がなくゴブリン狩りをしていたので、今日は珍しく暇ではなかったのだ。ぜひ訂正させていただきたいものである。
「はっ!では、早速だが本題に入らせて頂く。お二方にはキンググレートボアの一件、我がグリフォンギルドの冒険者がかなり迷惑をかけてしまったと聞いている。何でも我が仲間を葬ったキンググレートボアの仇を討って頂いただけでなく、同胞の命を助けて頂いたとか。さらには亡くなってしまった仲間たちの等級も回収して頂いたと、もう感謝してもしきれないことが多くあるのだ。本当にありがとう。」
グリフォンさんはそう言って、再び頭を下げる。
その鋭い瞳には薄っすらと、涙が浮かんでいるが見えた。
他ギルドとは言え、ギルドマスターに何度も頭を下げさせるのは何だか忍びなく感じる。
アズに会話を預けていると変なことを口走りそうなので、面倒だが自分が対応することにした。
「グリフォンさん、頭を上げてください。僕らは冒険者として当然のことをしただけですよ。ですからわざわざ感謝されるほどのことでもありません。」
自分がそう言うと……
なんと、グリフォンさんはいきなり泣き出した。
えっ!?
という空気に部屋一帯が包まれる。
「当然…当然と申し上げられますか……。天下に轟く世界四大ギルドの冒険者様がこんなにも素晴らしいお方だとは……、このグリフォン、余りの尊大な心意気に感動のあまり涙が…涙が……、止まりません。」
グリフォンさんはおよおよと泣いているのである。
「どうすんのよ、これ」
そう小さな声で、アズが自分に耳打ちしてくる。
自分も泣かれるとは思わなかったので、どうして良いか分からない
Hey Siri!泣いている人の御し方を教えて……。
ちらちらっとギルドマスターに目線を送る。
この雰囲気どうにかして下さいという、合図だ。
副ギルドマスターもなんとも言えないこの状況に、完全に顔が引きつっている。
すると、うちのギルドマスターが立ち上がり、パチンと指をならしてどこからかもってきたハンカチをグリフォンさんに差し出す。まるでマジックを見ているかのような手捌き。
空間魔法でも使ったのだろうか?全く原理が分からない。
空間魔法をこの世界で扱える人間はほぼいない。
間違いなく片手に収まる程度の人数だろう。
空間魔法が扱えれば異世界転生でよく見る、空間にアイテムボックスを作る…みたいなことが可能になるらしい。
何それ?僕も欲しい。
「グリフォンさん、世界四大ギルドだなんて関係ないよ。冒険者は本来こうあるべきなんだ。だから君がそこまで感動するほどのことでも本当はないはず。だが……一般の冒険者がそういう当たり前のことを実行できていないのも事実。もし少しでも心打たれたのならば、グリフォンギルドの冒険者にもこのような心持ちを持って活動できるよう教育してくれないかい?」
ギルドマスターの口調は柔らかく、安心する声色であった。
「は、はっ!……このグリフォン、我がギルドの冒険者が全員フォス殿のようになれるよう教育させて頂きます。いつか全ての冒険者が模範の行動をとれるように……。」
グリフォンさんは大きな声でそう言うと、ギルドマスターからもらったハンカチで涙を拭いている。
「グリフォンギルドの冒険者が全員フォスみたいになったら、ギルド崩壊するわよ。」
アズが小声で毒を吐く。
「そ、そんなわけないだろ?」
「いや、平然とハーレム作りたいとか言ってた人間よ。普通に見たらヤバイ奴よ。」
「そ、そこまで言うなよ。泣くぞ。」
正論なので、何の反論もできなかった。
ちなみに涙の数だけ強くなれるって何かの歌の歌詞が言ってた。
副ギルドマスターもあきれるような目で、自分を見てくる。
相変わらず彼女は、恐ろしい。
「シルフ殿ハンカチ、かたじけない。」
「いえいえ。」
ギルドマスターはグリフォンさんからハンカチを返してもらうと、またパチンと指を鳴らした。
その瞬間、そのハンカチ彼の手から無くなり何処かに消える。
やっぱり空間魔法はかっこいい。
「それでグリフォンさん、そちらの方は?」
ギルドマスターは不思議そうに、奥の部屋の扉を指さした。
そう言われて先ほどグリフォンさんが出てきた扉を見てみると…その扉は少し開いており、中から獣の目がぎょろっとこちらを見ている。
「あぁ、申し上げるのを忘れていた、誠に申し訳ない。ほら、出てきなさい。」
グリフォンさんに促されると、一人の少女がゆっくりと扉を開けて出てきた。
その少女には狐のような薄明るい灰色の耳があり、また短いスカートからも同じく狐のようなふわっと膨らんでいる尻尾が出ている。更にはスタイルも良く、胸もアズよりは少なくとも大きいだろう。美少女と言って差し支えない獣人の少女である。
というかよく見ると、首には見覚えのある銀色のグリフォンギルドの徽章がかけられていた。
まさしく、あのとき救った少女である。
助けたときはボロボロで、魔物の死骸の残りカスがこびりついているあられもない姿だったため、一目では気づかなかった。
「すまない。彼女がどうしてもついてきたいと言うのでついてこさせたのだ。何でも、お二人にお礼を言いたいらしい。カイヤ、言いたいことがあるんだろ?ほらちょうどいい機会だ。今言うと良い。」
どうやらこの獣人の少女はカイヤと言う名らしい。
カイヤは少しもじもじしながらも真っ直ぐに自分たちを見据えると、深々とお辞儀をする。
見るとすでに泣いていた。
「本当に私を助けてくれてありがとうございました……。きっと私の仲間たちも徽章を届けてくれたこと、感謝していると思います……。本当に、本当に、ありがとう……ござい……ます。」
少女は流れてくる涙を必死に腕で拭いながら、自分たちにそう告げる。
彼女の震える手には、自分たちが届けた四つの徽章が握られていた。
「フォス、どうすんのよこれ?私こういうの苦手なんだけど……。」
アズは自分を肘で小突き、そう小さな声で耳打ちしてくる。
副ギルドマスターも視線で、何か言ってやれとアイコンタクトを送ってきた。
うーん、やはり視線が恐ろしく怖い。
どうやら僕が何かを言わなければいけないらしい。
「僕たちはさっき言った通り、冒険者として当然のことをしただけです。だから感謝されることじゃない。それに…僕らがもっと早く到着してたら、あなたの仲間も助けられたかもしれない。だから本当は、僕らが謝らなければならないんです。だから……、」
そう言うと……、
「そんな、ことない。そんなことないです!これだけで本当に十分……なんです……。」
そう言って、彼女はさらに泣き出してしまった。
どうやら対応を間違えたっぽい……、さらに状況が悪化してしまっている。
とりあえず、何か涙を拭く物がないかポケットに手を突っ込む。
なんか拭けそうな物あるぞ!
そう思って、出てきた物はゴブリンメイジの金玉の入った麻袋。
そっと、誰にも見られないようにしまった。
どうやら僕の女子力は足りなかったようである。
「ちょっとあんた、悪化させてどうするのよ!」
「ご。ごめん……アズ、何か涙を拭く物ないか?」
小声で、アズに伝える。
こうなったら、女子に頼むしかない。
「あ、あるかも!」
そう言って、アズはポケットから何かを取り出す。
出てきたのは、ゴブリンメイジの耳が入った麻袋。
アズならハンカチを持っているかもしれないと思った僕が馬鹿だった。
クリスタは僕らの状況を察したのか、ポケットからハンカチを取り出した。
「乙女がこんな場で涙を流すのは良くない。君の美しい顔が曇ってしまうぞ。」
「す。すいません……、ありがとうございます。」
クリスタは泣いている獣人の少女の涙を拭ってあげる。
セリフからして何だかイケメンに感じる。
副ギルドマスターが僕らとカイヤの間に入ってくれたことにより、場がなんとか取り保たれる。
どうやら彼女には借りを作ってしまったようだ。今度、お礼にケーキでも買って行こう。
「いやはや、いろいろとすまない。その……、カイヤがフォス殿とアズ殿と一緒に食事をしたいらしいのだ。どうかカイヤと夕飯を共にしてくれないか?私もご一緒したくはあるが、ある件で用事があってそうはいかなくてね……。それに私がいない方が腹を割って話せると言うものだろう。その……どうだろうか?」
「それは、もちろんいいけれど……。」
アズは少し戸惑った様子で、自分の顔を見てくる。
自分は相違ないと、頷いておいた。
「そうか、ありがとう。カイヤ、良かったな。」
グリフォンさんは嬉しそうにカイヤの背中を、バシンッと叩いた。
音からして、とても痛そうだ。
叩かれたとき、一瞬ギロりとグリフォンさんをカイヤが睨んだように見えた。
「い、痛ぁ……、は、はい、その、宜しくお願いします。」
カイヤはそう言って、再度僕らに礼をする。
「グリフォンさんの連れということなら、客人ということになるかな。アズ、フォス。客人として丁寧に対応するようにね。」
ギルドマスターはそう言って、軽い笑みを浮かべながら自分たちに忠告してくる。
「分かってるわよ。」
「分かりました。」
アズと自分はそう言って、何とかこの場を乗り切ったのである。
ご愛読感謝申しあげます。
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