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第七十一話 夜明けについて⑩

「はははっ、めちゃくちゃな騒動に巻き込まれたな。どうだ?フォス。死線を再度乗り越えた気分は?」


「いや、普通に最悪ですけど。と言うか全然、笑える話じゃないですよ。」


「そうだな。新聞にこんな書かれてるくらいだからな。」


クリスタはそうだなとか言っておきながら、クスクスと楽しそうに笑っている。既にあのイーグル街の奇襲事件から、数日が経過していた。僕らは無事、戦後処理を終えてシルフギルドに帰ってきたのだが……そんなある日、たまたまクリスタと昼食を一緒にとることになった。


どうやらカイヤは修行最終段階と言うことで、自主練にしているらしくクリスタは暇らしい。アズはどうしてるのかと言うと……昼にもなるのに爆睡している。昨日は、戦後祝い!とか言ってワイン一瓶飲んでたからな……絶対二日酔いだ。


アズのことを心配しつつクリスタを見ると、彼女は短い黒髪の毛先をいじりながら、新聞を開いている。その新聞にはデカデカと『イーグル街魔王軍襲撃事件!騎士団、冒険者応戦するも……』と言う見出しで、一ページ見開きで描かれている。


他の新聞も、大体同じ感じの報道だ。騎士団や冒険者が頑張ったものの、被害を抑えることが出来なかった。そんな報道の仕方ばかり。


まぁ……そう言われてしまうのも納得出来る。騒動後に聞いたのだが、ダイヤやヒスイ、ラリマーはそれぞれ門の防衛をしてくれていたらしい。つまり僕ら冒険者は、門の防衛しか行っていないのだ。あくまで指揮系統を崩したに過ぎなくて、後のスケルトンたちの処理は完全に騎士団任せとなってしまった。


アメジストを逃がした後、フローライトがスケルトンを駆逐したらしいのだが……それでも限度がある。何でも今回の騒動での死亡者数は、五千人を超えるのだとか……。


五千人…多いな……。まだ情報が錯綜してるってのもあって、正確な数字とは言えないけれど、あの戦場で多くの命を失ったことは事実だろう。だが…それでも……そうだとしても僕らの中に、手を抜いたり、全力で無かった者などいなかった。


その努力を、その決意を、否定しては欲しくないものだ。

世間の人々にもその思いが、伝わればいいのだけれど……。


「まあ、そう落ち込むな。ギルドマスターは理想に近いくらい少ない被害者の数だって、皆を絶賛していたじゃないか。それに、無事帝国への移動魔法陣を見つけることが出来た。成果としては十分だ。」


クリスタは僕の感情の変化に気付いたのか、そんな言葉をかけてくれる。まったく……いっつも面倒くさがりの偏った性格をしているというのに、こういうときだけ気遣いができる。


彼女の言う通り、ギルドマスターは無事アメジストの追跡に成功し、移動魔法陣を発見し破壊に成功した。アメジストは逃がしてしまったが、後々のことを考えれば、想像を絶する大きな成果だ。


それは間違いない。間違いのだが……うーんアメジストを逃したの、怖いなぁ……。僕は置き土産的な形で、彼女の剣を受け取ることになった。あの禍々しい剣は今は、僕の部屋に保管されている。動き出したりしないよな?預けておくとか言ってたけど、返す機会どころか…一生会いたくないんだけ……。



そんな恐怖を感じて青ざめていると、メイド服の少女が僕らの元に近づいて来た。


「フォスにクリスタ。お水、お持ちしましたわよ。」


そのメイド服の少女は、片手におぼんを持ちその上に器用に水の入った透明なグラスを乗せている。美しく、そして長い薄紫色の髪は、ゴムと髪留めで綺麗に纏められていた。いわゆるポニーテール。


そんな彼女が何者かと言えば……スピネルだ。

実はあの騒動以降、スピネルはこのシルフギルドの食堂スタッフとして雇われたのである。


「どう、もう仕事には慣れた?」


「おーほっほっ、我の適応力をなめてもらっては困りますわ。魔王軍でなかろうと、奴隷だろうと、関係ありません。すぐに馴染んで見せますわ!ただ……アメジストが…我が裏切ったことを、報告するのではと思うと……」


スピネルは慣れた手つきお水をテーブルに置くものの、暗い表情を浮かべている。


シルフギルドに帰還した後、ギルドマスターによって彼女が自身の奴隷であること。そして魔族であることが説明された。皆激しく驚いていた様子だったが、僕は何となく気付いていた。


だってギルドマスターのことご主人様って呼んでたし……あとあの禍々しい漆黒の羽。帝国の種族に、あんな禍々しい漆黒の羽を持った者はいない。それに……ギルドマスターは詳しく彼女が何者かまで説明してはくれなかったが、あの戦闘能力の高さから考えて、ただの魔族じゃないのだろう。


けれどわざわざ聞く気もないし、問い詰める気もない。人は皆少なからず、他人に話したくない過去があるものだ。なら追求するつもりもない。ギルドマスターの奴隷と言うことなら、情報はそれだけでいいのだ。


僕以外のシルフギルドの冒険者も同じ感じで……皆、「ま、ギルドマスターのことだからな」ってことで、特に言う者はいなかった。皆ギルドマスターのことを信頼してるし、奴隷と言うことであれば、勝手な行動はとれない。魔族だろうと奴隷だろうと、気にする者はいない。


いや……訂正。

ここに一人いた。めちゃくちゃここにいた。

エクストラ気にしている人物が……。


「ご苦労。しかし君がギルドマスターの奴隷…ね……。興味深い。」


クリスタはまるで舐めとるように、スピネルを隅から隅まで目で追う。よほどスピネルに興味があるらしい。

その様子に不快感を覚えたのか……


「で、では、我はこれで!」


スピネルは早足でその場から去ってしまった。そのままキッチンの方へと姿を消す。スピネルにはちょっと申し訳ないことをしてしまったかもしれない。


「そんなにスピネルのことが気になるのか?」


「まあな、あのギルドマスターが連れてきたのだぞ。それに奴隷…何て……気にならずにはいられないだろ。」


「悪い人じゃありませんよ?」


「別に魔族だから疑っているとか、そういう訳ではない。単純に気配というか…まあ、いい。それに私はもう一人の方も非常に気になっている。」


「ああ…ジェット……ですか。」


ジェット……ラリマーが連れてきた魔王軍の少女だ。ただ非常に殺気溢れているというか……とにかく敵意しかないのだ。首輪が取れたら全員皆殺しにする……そんな雰囲気。


まあ敵に捕まったのだから、そうなるのも当然だとは思うのだが……誰もが何よりも驚いたのは彼女の気配についてだろう。明らかに強い。

会っただけで分かった。少なくとも僕よりは強いだろう。詳細には分からなくても、あそこまで圧倒的な雰囲気は異常だった。


何でも魔王軍ダークフェアリー族の魔王軍幹部補佐と言う立場にいる存在らしく、魔王軍の情報を持つ捕虜としても大きな価値がある。ただ情報を吐く気配は無く、無理やり言わせるしかないのだが、その権利を握っているラリマーが前向きじゃないらしい。


名目上彼女はラリマーの奴隷で、だからこそ彼女の権限は全てラリマーが持っている。だからラリマーが承諾しないと、どうにもできない。どうしても情報が欲しい騎士団や他の冒険者ギルドの人たちも、お手上げ状態だ。


今はラリマーの部屋に住んでるとのことだが……トイレくらいのときしか外に出て来ない上に、誰に話しかけられても無視。どんな人物なのか、未だによく分かっていない。


「あれは何と言うか、普通じゃないな。そんな雰囲気がした。フォスはどう思う?」


「そうですね……まあ、魔族だろうと強かろうと、一人の人間であることには変わらないと思うんですよ。だから……そういうことなんじゃないですか?」


「なんだその曖昧な回答は?」


「すいません、僕の気持ちを表現すると、こんな感じなんですよ。ただ心配はしてますよ。ちゃんとご飯食べれてるのか?とか。」


「母親みたいな心配の仕方だな。そういう私も、健康状態だとか、どんな様子なのかとか、心配してるのだがな……っておっと、ちょうど話題の人がいるじゃないか。」


そう言ってクリスタは、遠方に向けて手招きする。その目線を辿ると、その先にラリマーがいた。彼の横にはヒスイが立っている。察するに報告書の相談中だったのだろう。


二人は何事かと、僕らの傍にまで歩いて近寄ってきた。

前にシルフギルドの金等級冒険者とは全員交流があると言ったように、ラリマーやヒスイとも交流はある。


あるにはあるのだが……親しいかと言われると疑問が残る。ラリマーはギルドにいることがほとんどないので、そもそも会う機会が少ない。ヒスイとは…何と言うか会話する機会が全くない。会うには会うのだが、いつも距離が遠いと言うか……嫌われてないよね?

避けられてるとかじゃないことを、信じたい。


「どうしたクリスタ?俺に何か用でもあるのか?忙しいので、手短にして欲しいのだが。」


「何、ジェットがどんな状況なのか、聞こうと思ってな。」


「あー……ジェットか、まあボチボチだ。」


「ボチボチ?」


「そうボチボチだ。健康状態などを心配しているのなら問題は無い。そこはしっかり俺が管理している。」


ラリマーはどこか歯切れの悪いような様子に見えた。ただ嘘を言ってる気配はないので、健康状態は問題ないのだろう。


ラリマーはクリスタと同期らしく、だからか二人はとても仲が良い。こんなたわい無い質問ができるくらいには、友好な関係だ。


「呼び出した理由は、それだけか?」


「そうだ。忙しいとこ悪いな。報告書作業、頑張ってくれ。どうせとてつもない量なんだろ?」


「それはもう、毎日七草粥を毎日5杯は掻き込まないといけないほどにはな。フォスも同じ状況だろ。こんなとこでのんびりしていていいのか?」


ラリマーは視線をクリスタから僕の方に移してくる。

報告書……その質問はして欲しく無かった。前代未聞である、帝国領の街の襲撃事件。さらに戦闘した相手が魔王軍幹部。報告書の量は、尋常じゃない。


紙の山が一つできるくらいの量で終わるかどうか……。地獄だ。やりたくない。


「ど、どうにかする予定ですよ。息抜きも大事ですから。」


「ふっ、怪しいな。おっと、そうだ。フォスに聞きたいことがあったのだ。」


「聞きたいこと……?」


「そうだ。ときにフォス、ダイヤのことをどう思う?」


「え!?ダイヤ?」


いきなりの予想だにしない質問に、ついそう聞き返してしまった。何でいきなりダイヤの話題?

確かに一緒にイーグル街で戦ったけど……それについて?


あーそう言えばダイヤの師匠は、ラリマーだったな。いつもダイヤとは仲良くしてるし、師匠として気になるのかもしれない。ダイヤはずっとソロで、深い関係の友人がいないとも言っていたし、ラリマーも友人関係について心配していたのか。


「えーと、すごく頼りになる存在ですよ。信頼してますし尊敬してますし……人としても好きですよ。そんな感じですかね?」


「ほう好き……なるほどな。それは何よりだ。」


「えーと、どういうことですか?」


「あーいや、ダイヤがな……」


っとそうラリマーが口にした瞬間……


「ストーーーーップ!!!」


いきなり大声が聞こえた。気づけばダイヤがダッシュで突進してくる。そのままラリマーにタックルを決めた。

ラリマーはその衝撃で、数メートル床を転がる。


食堂には多くの一般人がいたこともあり、彼らの視線が一斉に僕らに集まる。


「ダイヤ。静かにしろ。」


「す、すいません。ついっ…ヒスイさんもフォスさんもすいません!」


そう言ってダイヤは僕らに頭を下げた後、一般客の人たちにも頭を下げる。あんなにも大声をあげて大胆な行動に出る何て、ダイヤらしくない。

何かあったのだろうか?


「えーと、ダイヤ。大丈夫?」


「だ、大丈夫です。師匠が変なこと言い出すから……と、とりあえずこの師匠は連れてきますね。ご昼食邪魔してすいませんでした!」


ダイヤは非常に慌てた様子で再度頭を下げると、ラリマーを引きずりながら外へと出ていった。


「いきなりタックルは酷くないか?大体、ストレートに聞かないとあれは鈍くて、ダメだぞ。」


「うるさい!私には私のペースがあるんです!」


そんなダイヤとラリマーの会話が、微かに聞こえた気がした。二人がいなくなったこともあり、一気に食堂が静かになる。そしてヒスイが、僕らの前に取り残されていた。


あ……これ知ってる。気まずいやつだ。

いきなり唯一話せる友人が帰ってしまい、友達の友達しかいない空間に閉じ込められる。フラッシュバックする日本の記憶。あーやべ、しんど。

苦痛以外何ものでもない、その痛みがひしひしと感じる。


ここは気を使って、話しかけるべきなのかもしれない。

関係の薄い相手に自分から話しかけるのは、あまり得意では無いのだが……ここは勇気を振り絞る。


「えーとヒスイは、報告書とかどう?進んだ?」


「へ!?え…あぁ……っと、半分くらい進んで…ます。」


何だろう、すっごい話辛そう。心做しか顔が赤くなっているようにも見えるし、緊張しているのだろうか?なるほど僕と同じように、ヒスイもまた陰の者なのかもしれない。何か親近感湧いてきた。


「何だ?ヒスイ。いつにも増して歯切れが悪いな。具合でも悪いのか?いつもと違いすぎて、むしろ不気味だぞ。」


僕らの空気を感じ取ったのか、クリスタがそう口を挟んでくる。するとヒスイはパッと反応してクリスタを睨んだ。


「それは…フォス様と会話するなんて、ほぼ初めてですし…緊張し無い方がおかしいとヒスイちゃんは訴えます!」


「命の恩人……だったか?それなら今回の騒動でラリマーに助けられたのだろ?ならラリマーも命の恩人じゃないか?なのに緊張しないのか。」


「あ、あれはフォス様に比べたら、格下もいいところです。今回のことで言えば、ギルドマスターの方が命の恩人と表現するのに相応しいですし、元はと言えばクリスタさんがギルドマスターを連れてこい何てことを言ったのが原因で……とにかく!フォス様の方が何倍も私の命の恩人だと、ヒスイちゃんは熱弁します。」


「分かった分かった。分かったから……すまん。落ち着いてくれ……。」


クリスタはヒスイの熱弁に圧倒されたようで、動揺が隠せない様子である。あそこまでビビってるクリスタも珍しい。ただ……何か、聞きな地味にない言葉に、僕は意識が持ってかれていた。


「フォス……様?」


そうつい言葉を口に出してしまったかと思うと、ヒスイが勢いよく振り返ってきた。彼女と目線が真正面から交わる。気付くと、顔を見てすぐにわかるくらい真っ赤になっていた。


「あ、あぁ、えとえと、この様付けはなんと言いますか……えーと、感謝の証と言いますか…え……フォス様!」


しどろもどろしている様子から一変、ヒスイは覚悟を決めたような表情で僕の名前を叫んだ。さらに様付け。

いきなりの大声に体がビクッと反応する。


「東戦線で私を助けたことを覚えていますか?とヒスイはドキドキしながら問いかけます。」


「東戦線……?もちろん覚えてるよ。」


何を言うのかと思ったが、数年前の戦争の話か。

その戦争は僕が金等級に上がるきっかけを作った戦いなのだから、覚えていないわけが無い。僕はアズとそこで魔王軍の将を倒したのだが、その際死にかけになっていたヒスイを助けていた。考えてみればヒスイと初めて話したのはあのときだったかもしれない。


いきなり何故数年前の話を……?何て思っているとヒスイがバっと僕に向けて頭を下げていた。


「あのときは……ありがとうございました!」


彼女は声は大きく、再び周りの視線が僕らに集まるほどだった。あまりにも綺麗なお辞儀に、僕も一瞬言葉を失う。


「そ、それではこれで……ヒスイちゃんは失礼いたしまし…っす、す。」


そのままカミカミの様子で、食堂の外へと出ていってしまった。声をかけようとするも、既に遅い。もう姿は見えない。


ありがとう……と言われても、助けたのは本当にたまたまで、わざわざお礼を言われるような行為をした訳じゃない。たまたま遭遇して、たまたま強い魔族倒して、結果的に助けたことになったと言うか……助けるつもりで行動した訳でもないのだが……

ただ……


ヒスイは何かを達成したかのような、清々しい顔をしていた。嬉しそうな表情を浮かべていた。それに僕だって……


「ふっ、良かったフォス。」


「……はい。」


悪い気分じゃ無かった。


これにて第二章完結です。

長かった……ここまで読んで下さった全ての方に、心から感謝申し上げます。

ptも、もうすぐ200と言う所まで来れました。モチベを繋げたのも評価、ブックマーク登録等して下さった方々、そして感想を下さった方々のおかげです。本当にありがとう。そして少しでも面白い…であったり、続きが読みたい…と思ってくださったのなら、ブックマーク登録、評価等して下さると、とても嬉しいです。感想も、ご指摘であったり質問など、ただ一言でも構いません。送ってくださったのなら、涙を流しながら読ませていただきます。よろしくお願いします。


第三章についですが、投稿日時はは丁度一週間後の11/7にしたいと思います。この期間に二章の誤字や脱字の確認、適さない表現の変更等の時間に使わせて頂ければと考えています。今までに投稿した文章の表現、内容が少々変更される可能性があるのでご注意ください。

時間が空いてしまいますが、この一週間の間にキャラクター紹介など、投稿する予定ですので、待って下されば幸いです。

本当にありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 2章お疲れ様でした(*´▽`)ノノ 3章も楽しみにしてます! [一言] はてさて鈍感フォスくんに対して好意抱く人が着々と増えてるけど最終的に誰が正妻の座を勝ち取るのやら?全員同率も有りうる…
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