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第六十七話 夜明けについて⑥

「花ノ雨!」


スピネルの言霊が、空に響き渡る。そして放たれる黒線の嵐。アメジストはその攻撃に遮られ僕に近づくことが出来ずにいた。


「もう、フォス君とのダンスを邪魔するなんて無粋ね。マナーってのを知らないのかしらぁ?」

アメジストは少し不機嫌な様子で、天を見上げながらつぶやく。


「マナーとか知りたくも無いですわね。今は何がなんでも、近づかせないですわよ!」

スピネルは力強く、そう発言した。


そんな様子を片目に僕は、アズに抱かれた状態から下に降りる。スピネルが足止めしてくれなければ、アメジストに追撃され命を落としていてもおかしくない。更にはアズまで巻き込んでしまうことになっていた。


アズはあの巨大魔法を使ったこともあり、疲れが薄ら見える。苦手とする近距離戦闘をこんな状態のときに強いてしまったら、最悪の事態……なんてこともありえる。


上空にいても、その全てを察して戦況を的確に判断し行動する援護。

スピネルには頭が上がりそうにない。


「フォス、さっきちょっと油断したわよね?」


「……バレた?ごめん、もう慢心しないように気をつけるよ。」


「そう。まあ、いいわよ。言ったでしょ、あんたは負けてない。死んでない。ならまだ抗える、そうでしょ?」


「うん……けど、どうすればいいか……。」


そう言って、少し悩む。

このまま斬り合いになっても魔力の消費量が多いし、長丁場になるほど元々の魔力量が少ない僕の方が厳しい。けれどスピネルやアズの援護があれば、少しばかりアメジストに隙が生じてもおかしくない。


その隙を突く、そうすれば勝てる……そんなこと分かってるのだ。だからこの作戦を選んだってのもある。

けど……想像以上に隙がない。それに……あの魔法。


瞬間加速を行い、僕の剣を避ける魔法。

あれをされてしまうと、必然的に僕はダメージを受けざる負えない。剣を避けられてしまった場合、既に体重移動が行われてしまうため隙が必ず生じるためだ。


これは剣術の基本で、だからこそ避けられないように、また避けても反撃されないようたち振る舞うのが普通だ。それに無理に剣を引き戻したり、足技で反撃する手もあるにはある。


あるにはあるのだが……あのアメジストのスピードでは意味を成さない。コンマ1秒でも生じる隙を、彼女は見逃してくれない。


ならば……僕はどうすべきだろうか?

遠距離攻撃に徹して、三人で追い詰める?それもいい。

三人で攻撃すれば隙を埋めやすく、接近する隙も作らせないかもしれない。


ただ……近づかれたらそれが最後だ。

魔法攻撃に集中してるときに、一気に近づかれ攻撃されれば受身を取れない。さっきの一撃は近距離戦闘だったから、受けられたって要素もあるのだと思う。


なら……やはり近距離戦闘?

けど今の僕では、力不足。はっきり言って役不足だ。

おっとこの役不足の使い方は、間違ってるんだった。けど誤用だとしても役不足だと言いたい。


近距離戦闘になったからとは言え、あの魔法を使われてまた受身を取れる保証は無い。さっきだって奇跡に等しかったのだから。それに避けられなかったとして、僕の剣では強力な一撃を与えられない。


僕の剣の威力は頑張って、やっと横に並べる程度。越えられはしない。それでは意味が無いのだ。

威力が無ければ、戦闘は長丁場。そうなったら問いの最初に逆戻り。まるで問いの無限ループ。


長丁場になればアメジストに隙が生じやすいかもしれない。けどそれは同時に、僕に隙が生じる隙も増えるのだ。やはり不利。


この状況打破のためには、僕がアメジストを超える必要があるのかもしれない。強力な一のない僕が、強力な一を作り出さなければならないのかもしれない。


そうすればこの悩みは……解決する。


近距離戦闘を有利に導く希望になる。勝利への兆しになる。けど僕はそんなこと出来るのか?


僕の先程の一撃は、既に全力なのだ。魔力も大量に使っているし、魔法陣だって勉強したての高度な魔法。それを超える?どうすればそんなことできるんだ……。


使ったことない、魔導書で見ただけの他の魔法陣を使ってみる?いや、そんなこと出来ない。アズじゃないのだ。僕にはすぐに何もかもをすぐに理解し、実行できるような頭脳は無い。


じゃあどうする?何だ?何だ?何だ?

僕は今ままでどうしてた?攻撃の威力を高めるために、実力より何倍も上の相手を倒すために何をしてた?

知識を使え、過去を思い出せ、知りうる全ての情報を蘇らせろ。

考えろ!考えろ!考えろ!


考えろおおおおおおおおおおおお!



「あまりにも無茶です!だってそれは、私の魔法に波長を合わせるってことですよ!そんな高度なことできるわけ……、」


そのとき思い出したのは、過去の記憶。地下施設でとんでもない化け物と戦闘した経験。一人の少女の困惑するような声。そう言えばこんな会話をダイヤとしていた。


……波長?


波長……波長……そうか、魔力の波長だ。あのとき僕はダイヤの魔法陣に波長を合わせることで困難に立ち向かおうとしていた。無茶であり、ありえない事を希望を信じて成し遂げた。


なら今の僕にもできる。

アズと波長を合わせて、さらに剣の威力をあげることが……。

アズとは同じ風属性なので、合成魔法における威力の向上は望めない。ただ彼女は言霊を使え、さらには他情報型の僕とは違う魔法陣を展開できる。合わされば、威力の上昇は計り知れない。


なら……なら!やるしかない!


「アズ!」


僕は気付けば振り向いて、アズの顔を見ていた。いきなり大声で名前を言われたこともあり、アズは困惑した表情を浮かべる。


「僕の剣に、アズの魔法陣を重ねてくれないか?」


その言葉を投げかけた瞬間、アズの顔が一瞬曇る。けどすぐに理解したらいい。ハッとした表情を浮かべた後、僕の顔を再び見据える。


「いきなり大声出したかと思ったら、面白いこと言うわね。波長を合わせるのは非常に困難……だけど私たちならできるかもしれない。」


「うん。5年も苦楽を共にしてきた、アズとなら……多分できるよ。」


全てを言わずとも、アズは理解する。そしてそこに勝ち筋を見出した。


あのとき僕はダイヤと魔力の波長を合わせ、成功に繋げた。それは非常に難しくて、困難で、言ってしまえば無理に等しいものだった。


けど今は違う。あのとき会ったばかりのダイヤと比べて、アズとは過ごしてきた年月が違うのだ。アズの魔法陣をずっと前から見てきた、アズの魔力を誰よりも傍で感じてきた。

だから魔力の波長を合わせる難易度も、ダイヤのときに比べ何倍も低くなる。


気付けばアズは、僕の手を握り共に剣を握っていた。僕の背中に覆い被さるようになり、肌が触れる。彼女の魔力の気配が、波長が、暖かな温もりと共に伝わってくる。


本来ならもっと密着したり、より魔力を感じやすい場所に触れた方がいいのかもしれない。けど僕らには……それだけで充分だ。


剣に大量の魔法陣が浮き上がる。

僕の縦に連なるような魔法陣に加え、アズの周りの空間全てを巻き込むような3次元的な魔法陣。その全ての魔法陣が、僕の剣を中心にして展開された。


僕の土属性に加え、風属性が合わさる魔力。そこにアズの風属性の魔力が流れ込む。混ざり合う。

最初は暖かくて、少し違和感があって、けどそれはすぐに調和する。まるで元々僕の魔力であったかのように、同化する。


僕とアズが互いに波長を合わせようと、寄り添おうと努力する。そして剣は激しい閃光に包まれた。


「へぇ、案外何とかなるじゃない。」


アズは笑みを浮かべながら、そう言葉をこぼす。

想像以上に、僕らの波長は容易に合わさりあった。妙に緊迫していなかったてのもある。アズの手は暖かくて、そのおかげで僕はいつの間にかリラックスできていた。


けどそれ以上の要因に、アズの圧倒的なセンスが関わっていることは間違いない。彼女は器用で、天才で、金魚掬いだって射的だって簡単にやり遂げた。それは魔力の波長を合わせる行為にすら、反映されていたのだ。

ホントに……僕のパートナーは、やってくれる。


魔力は完全に調和し、魔法陣が完全に一つのものへと変化する。風が巻き起こり、そして剣は視界から消えた。

空間が剣を中心にして歪み、激しい風だけが僕の目の前に佇んでいた。


「あらぁ、何か面白いことやってるじゃない。」


「ふふ、やりましたわね。これで時間稼ぎがいがあると言うものですわ。ほらアメジスト、逃げずに戦ってくることですわね。」


「言われなくても、そうするわぁ。」


アメジストがスピネルの攻撃をかいくぐって、僕へと迫ってくる。あのアメジストが、魔王軍幹部が、僕を殺そうと剣を振るってくる。けど自然と怖くない。


数分前は死にかけ、そしてさっきは死んでもおかしくない状況に追い込まれ……けど今は恐怖を感じていない。

彼女を恐れていない。横にアズがいるだけで、僕はこんなにも強くなれる!


「フォス、攻撃タイミングを一瞬遅らせなさい。」


アズは耳元でそう囁いてくる。

これは読み合いだ。アメジストが避けようとするか、そのまま立ち向かってくるか、その読み合い。

僕だけでは迷いが生じたかもしれない。けどアズのその言葉は、僕に勇気を与え迷いを消す。


僕は誰よりもアズを信じている。

彼女のセンスを、感の良さを知っている。だから疑わない。迷わない。


剣を振りかぶる。振る仕草を行う。

たった一秒に満たない時間の読み合いが、勝敗を左右する。フェイクなのかそうでないのか、そんなことに悩む時間は生じない。

直感、それだけがこの戦場の鍵。


そして……アメジストは視界から消えた。


「雲に霞。」


アメジストが一瞬にして、横に30センチズレる。それは剣を降っていれば致命傷となる距離の差。だが分かっていれば埋められる差だ。


「あらぁ、読まれちゃったわね。」


アメジストそう言葉をこぼす。そしてそれはこのコンマ数秒の読み合いに負けたことを意味した。


アズの剣を握る力が強くなる。そして必然的に僕の剣を握る力も強くなる。剣に流される魔力は、激しく波打った。自然と、二人の口が動く。

僕は気合いのために、そしてアズは言霊を唱えるように……


「「エクスカリバー!!!」」


そう叫んだ。僕らは全力で、剣を振り抜く。

それは風を大量にまとっているからか重くて、けどアズと一緒に振っているからか軽かった。アメジストは剣でその一撃を受けるも、充分ではない姿勢。


そして視界は真っ白な光に包まれた。


爆風。衝撃。

剣を振り抜いたとき、何が起こったのかよく分からなかった。けど分かったことは一つある、僕は強力な一を放ったということだ。


光が収まり、最初に視界に飛び込んだのは、僕らを中心として抉れている地面だった。そして僕らから扇状に、何メートルも広がる更地。建物が建て並んでいたはずの景色は一変していた。


本当に僕らがやったのかと、疑問が生じる。けどそれはすぐに疑問から確信に変わった。これくらいのことが起こってもおかしくないと理解した。


アズがその場にぺたりと座り込む。元々魔力を大量に消費していたのだ。もうほとんど使い果たし、限界に近いだろう。僕もまだ残ってるとは言え、かなりの量を消費してしまった。


「お疲れ様。」


そう言葉をかける。

気付くと空からスピネルが降りたって来た。


「やりましたわね。これほどのことやってしまえば、アメジストを倒したに違いありませんわね。」


そう言って、嬉しそうにガッツポーズする。

うん……けどそれ、思いっきりフラグ発言なんだよなぁ。


「そうだといいな。」


「そうだといいって、あれほどのことやったんだから当然ですわよ。当然……ですわよ……ね……。」


自然とスピネルの視線が動く。そこには一人の女性の姿があった。服は所々が破れ、痛々しい傷を多数負っている。血が地面に垂れ、ポトッポトッと赤く染め上げていた。

けれど、力強く立っている。


「……嘘ですわよね。」


「残念ながら、嘘じゃないね。」


「はぁ……魔王軍幹部ってあんなにも強いものなの?」


僕らの視線の先には……確かにアメジストが立っていたのだ。いつも通りの禍々しい笑みを浮かべて……。


読んで頂き感謝、感激雨あられ。

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