表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/254

第六十五話 夜明けについて④

「あらグロッシュラー、私の愛馬も……残念ねぇ。けど私、嬉しくもあるわぁ。だってフォス君が死ななかったんだもの。」


アメジストはうっとりとした顔で、僕の顔を観察してくる。僕のすぐ側には反抗しようと弓を構えた、アズ。

ただあれほどの巨大な魔法を成立させたこともあり、仕草には疲れが見られる。


「フォス!早く逃げなさい。今こそ逃げる好機ですわよ!ここは我に任せて、早く!」


スピネルはボロボロにも関わらず、アメジストから僕を遮るように立とうとする。手に持った傘を杖のように起こし、何とか立ち上がった。


僕にはこのスピネルと言う少女が、何者か分からない。

ついさっき会ったばかりの、謎めいた人物。けれど会ったばかりの僕のために、全力で頑張ってくれている。

それは……すごいことだ。冒険者のような徽章も持っておらず、騎士団の服装をしてる訳でもない。僕を救わなければならない明確な理由など、無いはずだ。


けれど……今にも倒れそうになのに立ち上がり、僕のために立ち向かってくれる。かっこいいと思った。

ありがとうと思った。


だから…だからこそ、僕はここでは逃げられない。


「スピネルさん!僕は逃げません。」


「はぁ!?」


「あら。」


スピネルとアメジストが全く逆の反応を示す。アズは静かに静観していた。そしてスピネルは僕の胸ぐらを掴んでくる。


「貴様!何を言っているんです!?早く逃げろと言っているのですわ!貴様が死んだら、我がどんな仕打ちを受けるか……絶対、ご飯抜きとか言われますわ!」


「いえ……けど、すいません。僕も本当は逃げたいんですけど、僕が近接戦闘を行った方が、スピネルさんは戦いやすいですよね。」


「そ、それは…そうですけど……。」


スピネルは少し、悩んだ素振りを見せる。

彼女も思っているはずだ。近接戦闘より、ある程度の距離を保って戦った方が戦いやすいと。さらに相手がこのアメジストなら、尚更だ。


僕が近接戦闘を行うことで、スピネルには余裕が生まれ本来の力が発揮出来るはず。正直僕は死にたくないし、痛い思いもしたくないのでやりたくない。

けどアズがこうした方が良いと言ったのだ。なら俺はアズをリーダーとして、友として、信じなければならない。やるったらやるのだ。


「うふふ、いいわねフォス君。そうよ、その通りよスピネル。あの魔法陣がいっぱい刻まれた仮面も、合羽も着ていないあなたじゃ、私に勝つことなんて無理よ。」


「ちっ……道具のせいにはして欲しくはないものですわね。」


「なら実力で私に、完敗したってこ?」


「うるさいですわね……。」


ギリっとスピネルは傘を強く握る。今にもアメジストに襲いかかるような様子だ。けれど冷静に、再び僕の方へと振り向く。


「フォス、あなたとアメジストじゃ、実力に天と地ほどの差がありますわよ。死んでも文句は言えない。それでも立ち向かうと言うのですか?」


その目は真剣そのものだ。

僕の覚悟を、真剣さを、勇気を、問いている。その心意気が無ければ戦うべきではないと、本当に死ぬと、そう言葉で、目で訴えてくる。

けれど僕の意思はもう曲がらない。


「そうです。けど死にたくないので、援護はお願いします。」


「……分かりましたわよ。アメジスト相手に、何とか耐えきって見せなさいですわ!」


スピネルは納得したようで、その場から真っ黒な翼で飛び立った。「帝国軍にもあんな顔する人が、いるんですわね……。」そう小さな声で、呟きながら。

その姿を見て、アズもその場を離れる。


すぐに僕とアメジストが対面するだけの、空間になった。一瞬現れる、静寂。

夜風の音だけが聞こえ、アメジストの長い髪を柔らかに凪いだ。


「ねえ、フォス君。私があなたにここまで執着するか、分かる?」


沈黙を破るように、アメジストはそう言うと剣を構えた。僕も剣を構え直し、魔力を体に満遍なく流動させる。


「残念ながら、分かりません。あなたに比べれば、僕は何倍もちっぽけな存在だと思います。殺そうと思えば殺せるくらい、弱い存在です。」


「ふふ、殺そうと思えば、殺せる?なら何で今まで、私はあなたを殺せてないのかしら?」


「それは……仲間が助けてくれてるから。」


「ふーん、自覚はしてるのね。確かにあなたは、強くはないかもしれないわ。けれど仲間がいる、そしてスピネルすらその渦に巻き込んでいる。面白いわね。」


「残念ながら、僕には何を言ってるのか……。」


「あら、そうよねごめんなさい。分からなくていいわよ、生きる才能って言うのかしらね……フォス君には何かがある…それだけよ。」


「はぁ……。」


「けどそれが、あなたに執着する理由じゃないのよ。私があなたに執着する一番の理由は……私のこと一人の女性として、見てくれてるから…よ。」


「へ!?」


思わず、そんな声が出た。一人の女性として見てるとは?そんなつもりは無かったのだが……。

冗談を言ってるのかとも思ったが、アメジストはそんな様子ではない。


「うふふ、フォス君って私を見るとき。まずこの胸から見るわよね。そして顔とか剣とか見てから、全体を見て俯瞰している。いきなり胸から見るなんて、フォス君は破廉恥ね。」


アメジストは胸を強調するような、姿勢をとる。

身長が高くて美人だからか、その様子は様になっているように見えた。色気があって、それでいて美しい。

あと胸が大きい。


「あっ、え〜と……すいません。」


とりあえず、素直に謝った。

もちろん胸を見る気など無かった。けど……うん、デカいのだ。目が向いちゃうのは……しょうがなくないですか?


万有引力と言ってこの世界の物質は、大きいものに引き寄せられると言うものがある。つまり僕が大きい胸に視線が吸い寄せられてしまうのも、自然現象なのだ。

ニュートンってすごい。


「いいいのよ、むしろ私のこと異性として意識してくれてるようで嬉しいわ。魔王軍ではデカ女だとか、死体女だとか……あ、何かムカついてきたわね。とにかく私を異性としてみてくれる人何て、そう居ないのよ。だからそういう視線は、新鮮。」


「……なるほど。」


「私のこと異性として見てくれるあなただからこそ……殺してあげたいのよね。私の手で正面から、叩き潰してあげたい。それが礼儀でしょ?」


「えっと……そういうものですかね?」


「ええ、そうよ。うふふ、さぁ、一緒に殺し合いましょう。」


いきなりアメジストの胸が大きく揺れた。

そして迫ってくる真っ黒な剣。刃は均一ではなくでこぼこ、だからこそ一層禍々しく見えた。


相変わらず、とてつもない魔力と気配だ……。

そう感じながら、剣を正面から捉える。


「雲に(かけはし)!」


アメジストの地面から天を貫くような、斬りあげる一撃。僕は後ろにジャンプしながら受けることで、その攻撃を防いだ。

数十メートルほど、空中を舞い着地する。


最初に戦ったときと全く同じ動き。

アメジストもその僕の行動を読んでいなかった訳では無いだろう。

素早く僕に接近しようと、足を踏み出す。

だが……彼女の眼前に見えたのは、真っ黒な光だった。


「闇時雨!」


叫び声とともに、放たれた漆黒の光線。

スピネルは僕の後方の空を飛び回りながら、傘先をアメジストに向けて構えていた。


大量の魔方陣が刻まれた傘が開き、大量の魔力を伴っている。これがスピネル本来の戦い方なのだろう。近距離ではなく適度に距離を取ってからの、魔法攻撃。


しっかし…かなりの威力の魔法だ。命中していたなら、魔力で守ろうとアメジストの体に風穴が空いていていたことだろう。

味方にも関わらず、その火力には冷や汗が出る。


ただ…考えてみればスピネルは、このアメジスト相手に近距離戦で時間稼ぎができるほどの実力者。その少女が得意な遠距離攻撃ができるとなれば、この威力も納得なのかもしれない。


「邪魔するなんて、頂けないわね。」


アメジストはその光線を躱しながら、僕に迫ろうとする。だが次に彼女を襲うのは、アズの弓矢。

剣で払うも、アメジストのスピードはかなり減少した。

彼女が接近してくるまでの時間稼ぎが成功する。


その余裕ある時間で、僕は深呼吸をして魔力感覚を繊細なものにした。


僕とアメジストでは実力的には、明確な差がある。だがどうであれ、僕が今の全力を出して立ち向かう以外に道はない。今ある、できる限りの全力……それをアメジストにぶつける。


剣を中心にして、何十もの魔法陣を一気に展開した。縦に並んだ魔法陣は、横だけでなく縦に強い連携を示し、まとまりのなかった魔法陣たちは1つの形へと繋がる。

魔法陣が回り、剣は魔法陣に包まれた。


そして……ありったけの魔力を注ぎ込む。すると魔法陣

は剣に吸収されるように、姿を消した。そして激しく発光する剣。ピリピリとした魔力の感触。


ただ光ったのは一瞬であった。剣の光は収まりそして、視界から消えた。いや光では無く、剣ごと消えたのだ。剣の刃は風を纏って姿を消し、手元だけが見える状態へと変化を遂げる。


風が剣を中心として吹き荒れる。まるで持っている剣が、風の中心になったようなそんな感覚。

時空までもが歪み、剣のあった場所は光の屈折が起こったように景色が歪む。

来た……剣の感覚がそう告げていた。


高度な魔法陣を組み上げることはまだ慣れていないこともあり、完璧にするには時間がかかってしまう。だが……アズとスピネルのおかげで、成立した。

戦場で落ち着けること、その余裕が僕の感覚を冴えたるものへと変化させたのだ。


「雲を突く!」


アメジストの剣が僕に迫ってきた。

僕もまた剣を振るう。全力の剣を……


バゴンっと雷が落ちたような轟音。剣と剣がぶつかり合い、再び視界が閃光に包まれる。

最初に戦ったときと同じ……だが明確に違うことがある。


それは俺の心が限りなく穏やかであること。


僕の体は、アメジストの剣の威力で数メートルほど後ろに後退した。地面を滑るように動いたため、靴が地面と擦れ砂埃があがる。

アメジストもまた僕の剣に押され、数メートル後退した。そう……僕と全く同じように……。


相殺したのだ。

僕の剣が、アメジストの剣を!


「驚いたわぁ、これはこれは……まさか私が退けられるなんてね。うふふ、興奮してくるわぁ。」


アメジストは驚くと共に、嬉しそうな表情を浮かべた。

魔王軍幹部の剣を僕が相殺させる。それはつまり僕の剣の威力が、アメジストのレベルにまで到達したことを意味する。


越えられてはいない。だが横に並ぶことができた。

そしてアメジストと僕は全く同じ姿勢をとる。剣が相殺されたことで、場面は降り出しと行ってもいい。


けどアメジストは1人だった。

仲間は既に、僕らが倒したから。

けど僕には仲間が居た。心強い二人の仲間が……だから初期条件なら僕の方が勝っている。


秋雨(あきさめ)!」


スピネルが上空から、魔弾の雨をアメジストを囲むように放った。真っ黒くそれでいて青と白が混ざったように不思議な色合いの魔弾。感じる魔力は激しく、着弾した地面は抉れて小さなクレーターができるほど。


更には僕に近づけないように、僕とアメジストの間を中心として魔法を放っている工夫をしている。最初の着弾がアメジストに向かない分避けやすくはなるが、そのせいで僕には近づけない。

高度な、それでいて戦況を的確に把握した攻撃。

その的確さに感心する。


アメジストは僕の周りを走るように、魔弾から逃れる。彼女もまた、隙が出来次第突っ込むと言う気迫ある行動。僕の得意分野はあくまで中距離、距離を開けて魔弾や土の槍で攻撃したいところだがそうさせてくれない。

もしかしてそこまで読んでの行動なのか?


けど再び時間的余裕が出来たのは、真実。この余裕を利用し、再び魔法陣を現界させる。

一々時間がかかってしまうのは難点だが、こればっかりは経験不足なのでどうしようもない。変に焦るより、諦めて魔法に集中した方が懸命だ。


剣が再び視界から消え、大量の魔力を伴う。

それと共にスピネルの攻撃に間が生まれ、アメジストが接近してきた。


「エクスカリバー!」


僕はそう叫んで剣を振るった。意味が無いとか、言霊だとかそんなことはどうでもいい。

これは気合いの叫びなのだ。覚悟の叫びなのだ。

僕の剣が空間を歪ませながら、アメジストに迫る。さっきに比べてアメジストには余裕が無かったこともあり、隙が見えた。


これでは彼女は、僕の剣を正面から受け止められない。

一撃が入る!そう思った。見えた。

けどそれは……見せられていたのかもしれない。


「雲に霞。」


アメジストは小さな、僕の耳に聞こえないほどの音量でそう呟くように言った。僕には口元が微かに動いた仕草だけが見える。


そのときアメジストの体が、一瞬だけ歪んだ。

いや……加速した。時空が歪んだ。アメジストの動きを捉えられなかった。


当たるはずの剣が、アメジストを捉えられず空振る。そして代わりに見えたのは迫ってくる剣だった。

コンマ数秒だけ、超加速したのか?そういう魔法?

そう視界が追いつく頃には、僕の体は宙を舞っていた。


遅れてくる衝撃。反射的に魔力で防げたようで、僕の体はまだ真っ二つになっていないようだ。

けど……奇跡だ。防げたのも、反応できたの奇跡と言っていい。


昔からクリスタに早い攻撃で痛めつけられていたので、その修行の成果が出たのかもしれない。あの経験が無ければ僕は今死んでいた。


空気を体が切る音だけが、妙に大きく聞こえる。

何とか受身を取ろうと、魔力を巡らせる。だが感じた感触は柔らかかった。


「フォス、まだ負けてないわよ!」


聞こえたのはアズの声、そして気付いた。僕はどうやらアズに受け止められていたらしい。

負けてない……か。もちろん負けた気はない。

諦めた訳じゃない。けど唖然としていた。

その差に……。


アメジストに追いついた気がした。

対等に並べたような気がした。


けど……そんなことは無かった。

強さとは剣の威力だけでは無い。魔法陣の綿密さも、一つ一つの仕草さえ。僕はまだ遠く及ばなかった。

それは当たり前で……当然で……錯覚してしまったことが恥ずかしいぐらい。


いつでも冷静に、慢心してはダメ。冒険者として当たり前なのに、そうなってしまうなんて……ホントに僕は愚かだ。


けどそれが人間なのかもしれない。


「遠いなぁ。」


実力差もわかってる。自分の弱さも愚かさも分かってる。勝てるのかも分からない。

けど僕の表情からは、自然と笑みが漏れていた。


読んで頂き感謝申し上げます。

昨日休んでごめんね。評価、ブックマーク登録してくれると嬉しいです。

感想、誤字報告、して下さると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ